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君臨少女   作者:
第一章 魔術学園都市ユミナ編
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第十話「決意表明」

「おねえちゃんおかえりー」



 私が家のドアを開くと、シヴィが元気よく迎えてくれた。



「ただいまシヴィ。メルヴィさんはいる?今日はお姉ちゃんの友達を家に泊めたいんだけど、いいかな?」



「おねえちゃんのともだち?そっこう、おかあさんにいいかどうかきいてくるね!」



 シヴィは目を輝かせると、台所の方へ一直線に駆けていった。



「今のは、ここの家の娘さんだよね?」



 私の後ろで待っているアルシャが私に聞いてくる。



「はい。彼女はシヴィ・ノアナです」



「かわいい」



 珍しくリゼスが微笑みを浮かべている。どうやら彼女はかわいいものには素直に反応するようだ。



「そういえば、二人もこの世界の住人の家にお世話になっているんですよね」



「うん。ボクの家は魔法道具店をやっててー、転拡者をサポートするアイテムを売ってるんだ。」



 アルシャが何やらジェスチャーで『こんな形のやつとかー』『こんな動きするやつとかー』と言いながらそのサポートアイテムとやらを説明しようとしているが、私には全く理解できない。



「リゼスの家はなにをやってるんですか?」



 ジェスチャーをするアルシャを横目に、私は質問した。



「私の家は料理屋。だから、私も一応料理できる」



 これは意外だ。まさか、リゼスが料理できるなんて………

 いつかリゼスの手料理を食べてみたい、と思っていると、シヴィが戻ってきた。



「おかあさんが泊ってもいいってー。でも、三人とも汚れているだろうから、さきにお風呂にはいれっていってたー」



「わかった。じゃあ、二人ともお風呂場まで案内しますね」



 私は振り向いて二人にそう言うと、風呂場まで二人を案内した。



「「お邪魔します」」





 一回の廊下を進むと、扉を開け脱衣所についた。



「では、二人ともこの部屋で服を脱いでお風呂に入りましょう」



 意図せずして起きたこのイベントに、私は外面では冷静を装いながらも、内心わくわく、心臓もバクバクしていた。元の世界では、同学年の子と一緒にお風呂に入ることなんて一度もなかったし、なんだかパジャマパーティー、一歩手前みたいだ。


 三人とも服を脱ぎ終わり、虚機友導から意識を外すと浴室へと入る。


 風呂場はつるつると磨かれた石でできた四角い形の浴槽に、床はざらざらとした石でできている。この世界でもしっかりとお湯が出てくれてよかった。日本人の私としては入浴のない生活なんて考えられない。


 しかし、私は浴室に入ってあることに気が付いた。そう、この浴槽は三人で入れるほど広くない。


(私としたことが………ほかの女子とお風呂に入れることに夢中になりすぎて気が付かなかった………)


 しかし、二人は既に服を脱ぎ終わってしまっている。今更『順番でお願いします』とは言えないし………



「わあ、浴槽があるんだ。ボクのうちなんて、お湯をかけるだけなのに」



「わたしのうちもそう」



 二人は、浴槽があることに目を輝かせており、その浴槽に三人が入りきれないことになど、気づいていないようだった。



「じゃあ、一緒に浸かろっか」



「え?でも、この大きさじゃあ三人では入れないと思うんですが………」



「やってみればわかる」



 そういうと二人は私の手を引いて、私を中心にして押し込むように強引に湯船へと浸かった。






「かなり窮屈だけど意外といけましたね………」



 今、私たち三人は、浴槽の中で同じ方向を向きながら、体育座りのような体制で湯船につかっている。



「はあー、やっぱりお風呂に浸かれるのは最高だなあー」



 私の左で、アルシャが首までお湯につかりながら、そんな言葉を溢した。



「あれ、そういえば、どうしてお湯が出るんでしょうか?」



 この世界は家のつくりや、そのほかの技術を見ても、私の世界での中世というよりも近世に近いレベルの技術力しかもっていないように思っていた私は、今更ながらこの疑問に気が付いた。



「あーそれはね。町の中央にある魔法学園から、放射線状に水路が伸びてたでしょ?あの水路を利用して各地区に水が供給されてるんだけど、その途中で大賢者ガヴァニウムが開発した魔法が使われてるんだって。詳しいことはボクも分からないけど、先生たちはそう言ってたよー」


(なるほど大賢者ガヴァニウムがこの町のインフラを整備したってことね。やるじゃない大賢者。このシチュエーションを生み出せたのはあなたのおかげよ。ほめて遣わすわ!!)


 それにしても、こうやって密着していると、普段目が届かないところまで目が届いてしまう。アルシャなんて、最初に会ったときは性別もよくわからなかったのに、こうして近くで見ると整った顔に、まつげは長く、きめ細やかな純白の肌で、女の私でも思わず心にぐっとくるものがある。そして、目をゆっくりと下に落とすと私よりはないと思っていたものが、そこにはあった。


(……私より、ある!?ま、まあ女の価値はそこでは決まりませんから。そ、それに私はまだ成長途中だし………………あ、それはアルシャも同じか)



 少し自分のものに落胆しながら、右に目を向けるとそこには絶対に敵わないであろう物量が二つ存在していた。お風呂のお湯が、その二つの山の谷間へと吸い込まれるような流れを生み出していた。


(………………うそでしょ。普段あれだけ動いてるし、制服の上からではよくわからなかったけど、ここまでだったとは………………)


 リゼスは、『どうした?』といった顔で私の顔を至近距離で見つめてくるが、私は人生で初めて敵わないと思った相手にどんな顔をすればいいのかわからなかった。



「完敗です………」



「ん?」



 私は黒義院冷、敗北は潔く認める女だ。しかし私には彼女の胸よりも気になるものがあった。



「あ、あの、リゼス。ちょっとお腹触ってみてもいいですか?」



「いいよ」



私は恐る恐る、体育座りをしている彼女の太ももとお腹の間に左腕を滑り込ませた。そして…………


(わっ、すごいやこれ)





 お風呂から上がった私たち三人は、メルヴィさんが昔着ていたという古着を着ながら、彼女の暖かい料理を囲んでいた。



「今日もシストルさんは研究ですか?」



「そうなのよ。大学の先生は忙しいみたいでね」



 この家の主人であるシストルさんは、大学で研究を行っており、その研究が忙しいのか帰ってくることが朝になるということがしばしばあった。



「メルヴィさん、ボク、こんなにおいしい料理は初めてです!」



「悔しいけど、私の負け」



 アルシャとリゼスの手はノンストップで、メルヴィさんの料理を口へと運んでいた。


(このままじゃ、私の食べる分がなくなるわね………でもまあいっか)


 そんなことを思いながらゆっくりと食事をしていると、シヴィが何やらお皿に料理を集めてくれている。



「おねえちゃんの分は、シヴィが集めておいたよ」



 シヴィは満面の笑みで料理を集めた皿を、私のほうに向かって『よいしょ』と押しだした。

 一か月ほど前の私であったら、『ありがとうシヴィ。あなたはなんて天使のような子なの』と言っていたところだが、今の私は違う。

 今日までの生活で個体名シヴィという可愛いらしい生物の生態を、私は熟知していた。

 そう、このシヴィの一見なんの裏もない親切心からくる行動は彼女の“罠”なのだ。『こんなに小さい子に親切にされたら断れないよね、おねえちゃん』というメッセージをこの行動から読み取ることが、今ならできる。



「ありがとう。シヴィ」



「どういたしまして!」



 私が少し警戒しながら、お皿を受け取ると、彼女は満面の笑みで返事をしてくれた。


(くっ、罠だとわかっていてもこの満面の笑みを向けられてしまっては………さすがの私でも、抗うことができないというの!?)


 私が心のなかでシヴィの可愛さと格闘を繰り広げていると、彼女は何もわかっていない不思議そうな顔で首をかしげていた。



 食事が終わると三人は私の部屋で、円を描くように床に座っていた。え?シヴィの読み聞かせはないのかって?もちろん、彼女の読み聞かせは既に終わった後だ。今日は聴衆が三人もいるということで、シヴィの中でも一押しの英雄譚を語ってくれた。張り切りすぎたのか今は、あぐらをかくリゼスの膝の上で寝てしまっている。



「では、明日の特訓の後に説明すると言った作戦についてですが、ちょうどいいので今伝えておきます」



 小さな声でそう言うと、私は先ほどデマルクスと話し合った作戦について二人に説明する。まだ彼から詳細な生徒のデータをもらっていないので、おおざっぱなものになるが大体のシナリオはこんな感じだ。



 1,なるべく早いうちに一番人気のパーティーと対戦して負ける


 これはどういうことかというと、デマルクスの利益を最大限まで引き上げるための作戦だ。そもそも、初期の段階で一番強いパーティーである【正統なる冠掠】に正面から戦って勝てるとは思っていない。だからこそ初めのうちに戦って負けておくのだ。こうすれば、自分たちがどのくらいのレベルまで、この一年間でレベルアップすればいいのかも確認できるし、私たちのオッズもさらに上がってデマルクスの報酬も増えるしでいいこと尽くめだ。


 でも、どうやって一番強いパーティーと対戦するのかって?確かに私たちのパーティーは人気こそないが、私のおかげで知名度だけは急上昇中のはずだ。そして、人間ならば不確定要素が入り込んだのならば、すぐにその要素を確認したくなるものだろう。では、その不確定要素が強いのか?弱いのか?どうやって見極める?

 それは簡単だ。現時点での最強をその不確定要素にぶつければいい。もしその不確定要素が最強よりもさらに強かったらそれはそれで観客としては面白いだろうし、弱かったとしても今まで通りでいいと安心することができる。


 しかし、この作戦にもデメリットは存在する。それは、確実に一回負けることになるということだ。残りの二戦は何としてでも勝たなければならない。そのうちの一戦、リベンジマッチで、再び【正統なる冠掠】と戦って勝たなければ、私たちの異世界生活は無事終了となる。つまり、一回戦目と三回戦目の相手は【正統なる冠掠】であることは確定事項であり、三回戦目は絶対に勝たなけれればならない。




 2,確実に三回対戦ができるようデマルクスに手回しをさせる


 そもそも一番人気のない私たちのパーティーは、三回対戦ができるかどうかもわからない。最初の対戦で【正統なる冠掠】に敗北すれば、二戦目を行うのはさらに厳しくなってしまうだろう。この点に関しては、デマルクスが任せておけと言っていたが、彼に一任するのはあまりにもリスクが大きすぎる。これに関しては、私たちも何か対策を練る必要があるだろう。





 3,二戦目の対戦はどのパーティーにするかを見極める


 一戦目と三戦目の間の一戦。この二回戦目の対戦パーティーは強すぎても弱すぎてもだめだ。この一戦は確実に勝たなければいけないが、相手が弱すぎると三回戦目の【正統なる冠掠】につなげることができないし、かといって強すぎるのもリスクが高い。この一戦を勝つことができなければその時点でゲームオーバーだ。できれば三番人気くらいのパーティーが望ましいだろう。




 ランプの光が部屋の中を優しく照らす中、私は二人に淡々と説明をした。



「でも、それって、最終的には結局、ボクたちは【正統なる冠掠】よりも強くならなきゃいけないってことだよね?」



 アルシャは苦い思い出を思い出すかのような顔で、聞いてきた。



「はい。そうです」



「正直、あのパーティーに勝てるイメージが湧かないんだよね。別にやる気がないってわけじゃないんだけど、一年生の時に戦って、完膚なきまでに叩きのめされてるから………」



「【正統なる冠掠】は強い。わたしの槍でも歯が立たなかった」



 二人の頭には、過去の経験から、【正統なる冠掠】に対して絶対に勝てないというイメージがこびりついているようだ。でもそれは、ただの幻想だ。この世に絶対なんてものは良い意味でも悪い意味でも存在しない。それに今は、三人目としてこの黒義院冷がいる。



「『やってみればわかる』ですよね」



「「え?」」



「さっきお風呂場で言ったじゃないですか。やってみればわかるって。私だって【正統なる冠掠】に勝てることを確信してるわけじゃありません。でも………ここまできて何もせずに終わるのは嫌なんです。今日までの一か月間、二人は私と一緒に一生懸命特訓してきましたよね。その特訓を、見えない壁のせいで無駄にしてもいいんですか」



「レイ………」



「レイがやるなら、わたしもやるよ。本気で」



 目に涙を浮かべたアルシャが、私の名前を呼ぶと『我慢できない』といった顔で抱き着いてきた。リゼスもそうしたかったようだが、彼女の膝の上にいるシヴィに配慮したようだ。



「やってやりましょう。このパーティーで!この三人で!この学園での成り上がりを!」



「「うん」」



 私が手を前に出すと、二人は私の手を包み込み、決意表明をしてくれた。


(こういう時はそれっぽい演出が大事よね)



「そういえば、私たちのパーティー名って………」



「まだ決めてないよ。リゼスと一緒に、三人目が来たら申請しようって決めてたんだ」



「うん。そして、パーティー名は三人目の子に決めてもらうことにしてた」



 来るかどうかもわからない私のために、大事なパーティー名を決めずに残してくれていたことを知り、胸に暖かいものが込みあがってくるのを感じた。



「レイ、決めてよ。今のボクたちにぴったりのパーティー名を!」



「レイ、頼んだ」



 胸の暖かさがさらに熱くなるのを感じながら、私は今まさに頭に浮かんできたパーティー名を採用した。



「私たちのパーティー名は……………【君臨少女】です!!」



 自信満々な表情で私は宣言する。なかなかカッコいい名前じゃないかこれは。



「それってなんか……狙い過ぎじゃない?」



 アルシャが私の隣で訝しげな顔をしているが、観客からしたらこれくらいのケレン味は必要だろう。底辺のチームが大それた目標を掲げ成り上がっていく。なんだかんだ人間は成り上がりものが好きだからね。



「私はいいと思う。なんかかっこいい」



 ランプの灯る、少女三人と幼女一人には少々狭い部屋の真ん中で、私たち君臨少女の学園最強パーティーを懸けた戦いが始まった………


 私たちはお互いの虚機友導を手のひらに浮かべると、その鈍く光る瞳を重ねるようにして近づけ、カチンというか細い音が部屋に響いた。



「うーん………、おねえちゃん、うるさーい」










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