第零話「最終手段」
可能性は四つだ。
一つ、過去に戻る。
二つ、未来に飛ぶ。
三つ、過去の私を手に入れる。
そして四つ、未来の私を手に入れる……。
「この力には、頼りたくなかったのに……」
私は誰に対してでもなくそうつぶやいた。自らが虚原素顕現させた黒臨緋の柄を逆手にして握る。
そして、切腹の姿勢をとるかのようにして、刀の切先を自らの躰に向けた。しかし、その切先が向くのは腹部ではない。
私の胸だ。
正確には、心臓だ。
その心臓は肋骨によって守られているが、この刀ならば人骨程度、軽く貫通することができる。
本来切腹という行為は、主君に殉ずるために、部下が腹を切ってその不始末を取り、一族の名誉を守る行為だ。しかし、私には主君などいるはずがないし、守るべき一族の名誉もこの世界では関係がない。強いて言うなら、この行為の動機は復讐か?その意味ならば切腹よりも、指腹のほうが意味が近いのかもしれない。
震える手を一呼吸、深呼吸して落ち着かせると、私は決意を固めた。私の刀には火と風の虚原素が溜まっていく。その感触を確認すると目の前にいる標的を睨んだ。
注射するときも刺される瞬間を見なければ痛くないというし、多分これなら痛くない。
目の前にいる標的と目が合うと、私は尋ねた。自分に言い聞かせるかのように。
「あなたは、運がいいほうですか?」
そして次の瞬間、私は心臓に刀を突き刺し、命を絶った。
しかし、それだけでは足りない。全身の血が冷水に置き換えられてしまったかのような寒さを感じながら、私は最後の力を振り絞った。
そして、私の躰は跡形もなく消し飛んだ。
黒義院冷はその最後の希望を、自らの虚機友導であるボドに託し…………死亡した。