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9話:宮廷魔導士

法王は、俺に向かって歩みを進めた。まさかこの場で殺すつもりか!?


身構えた俺の肩を法王はがっしりとつかんで声を上げた。


「素晴らしい!!」


「ハイ?」


一瞬、言っている意味が解らなかった。


「実に素晴らしいよ君!停滞させながら対象物を焼き尽くすLv5の火属性魔法『スタグナント・ファイヤーボール』、対象物だけを切り刻むことができるLv5の風属性魔法『チョップ・オンリー・ザ・オブジェクト』!これを無詠唱で扱える強力な魔導士はこの国始まって以来ただ一人、初代法王様しかいなかった!!」


「つまり・・・。」


「ハロルド・レオン・マホウスキー、法王エルグランド・グリフ・マーゴニアの名において宮廷魔導士の職に就くことを命ずる!」


「あ、ありがたき幸せ!!」


それと同時に後ろから割れんばかりの拍手が沸き起こった。


「おめでとうございます!ハロルド様!」


「フレー。」


「やはり私の考えは間違ってはおりませんでしたわ!」


「ティアナ王女様。」


各貴族からも「おめでとう」や「無魔人なんて言って悪かった。」などと、賞賛や今まで罵倒してきたことへの謝罪の言葉が飛び交っていた。


だが、俺の元弟は面白くないらしく、異論を唱えてきた。


「お待ちください。法王猊下。」


「なんだね。」


法王は、先ほどとは打って変わって冷酷な視線を元弟に向けた。


「ハロルドは生まれつき魔法が使えない無魔人として生まれました。」


「知っておるわ。それがどうした?」


「ですので、魔法を重んじる我が国としては、無魔人のハロルドに宮廷魔導士はふさわしくないかと・・・。」


「問題ない。」


「ハイ?」


「魔法と見間違うほどの特殊スキルであるが故に何も問題ないと言ったのだ。」


「ご、ご冗談を!無魔人のハロルドを宮廷魔導士に指名すれば、この国の国是である魔法第一主義から背を向けることになります。そうすれば、マーゴニア法国は国是を守らない信用に値しない国家とみなされます。」


「・・・・・。」


「どうか、考え直してください!法王猊下!!」


辺りはしんと静まり返り、元両親の拍手の音だけが響いた。


だが、その音はある人物の叫び声でぴたりと鳴りやんだ。


「この愚か者が!!!」


法王猊下だった。


「余の娘が、そしてこの余が、価値を見出したものを貶すなど言語道断!」


「げ、猊下・・・。」


「マホウスキー家の次男ダージリン・ドラゴニア・マホウスキー!もう一つの国是を忘れたのか?」


元弟は少し考えた後、顔を青ざめた。


「忘れていたな?ならば教えてやる。もう一つの国是は、年長者や位の高い人物を敬いその人物の言うことに従うことだ。」


「そ、それは・・・その・・・。」


「猊下、少しよろしいでしょうか?」


「フレーか。発言を許可する。」


「ありがとうございます。ダージリン・ドラゴニア・マホウスキーは、実の兄を丸太に縛り付けて魔法の練習台にしていたのです。」


「フレー!貴様ー!!」


元弟は顔を真っ赤にして怒った。


「何?!それは本当か!?」


俺は静かに頷いた。ティアナ王女様は口に両手を当てて驚愕していた。


「ハイ。さらに、領主が猊下に収めるべき税金は収入の半分であるにも関わらず、マホウスキー男爵家当主バーモント・ボア・マホウスキーは、帳簿を誤魔化して収入の4分の1程しか納めていませんでした!」


「この野郎、僕だけじゃなく父上までも!!」「もう、我慢できぬ!フレー、貴様をこの場で殺してやるー!!」


自棄ヤケになった二人は、剣と魔法でフレーを殺そうとした。すかさず俺は右手を突き出し、つむじ風を起こして二人を吹き飛ばした。


「うわあああ!」「まただ!またこの風がああああ!!」


「ダージリン!あなた!!」


二人は背中を強く打った。悶絶する二人に、冷めた表情のフレーが近寄った。


「ぐふ、フレー・・・なぜ、貴様裏切った?」


「なぜ?答えは単純よ。私は法王様の命であなたの領地に送られたスパイだからよ。」


「いてて・・・間抜けなことを、領地に送られたスパイだとばらしやがったな。ここにいるほかの貴族たちが黙っていないぞ!」


「マホウスキー男爵、我々はフレーが法国のスパイであることは百も承知なのだよ。貴様だけが知らなかっただけのことよ。」


「なん・・・だと。」


「百数十年前、私は先々代の猊下とお忍びであなたの領地に入ってその惨状を目の当たりにしたわ。」


「・・・・!」


「戦争が起きていないにも関わらず、そこら中に失業者や餓死者があふれ、道路は整備されておらずめちゃくちゃ、領民が経営するレストランでは黒く硬いパンと具のないスープしか出なかった。それが今になっても変わらなかった。」


「それは、領民が愚か者しかいなかっただけだ!」


「ではなぜ、領地には最低でも3つ設置が義務付けられている教育機関が1つもないわけ?」


「うっ!そ、それは・・・その・・・。」


「フレー、もう下がってよい。この者の達の処遇は決まった。」


「ハイ。」


「ここにいる貴族たちに知らせる!たった今から宮廷魔導士ハロルド・レオン・マホウスキーは、男爵家の当主になることを宣言する!!」


「な!我々はどうなるのです!?」


「マホウスキー家はハロルドを除いて全員国外追放とする!」


それと同時に、謁見の間の入り口から衛兵が数人ほどやってきて元家族を取り押さえた。


この国は、何もない荒野と厳しい寒さが一年中続く山岳地帯が広がる場所の近くにある。


ゆえに、国外追放は大体そこへ着の身着のまま放り出されることを意味する。あいつら、終わったな。


「そんな!待ってください法王猊下!!」


「連れていけ。」


「なあ、兄上様!頼みますよ。僕だけでも助けてください・・・。」


「はあ、この期に及んでようやく俺を兄上呼ばわりか・・・。しかも、自分だけ助かろうとしやがって・・・。」


俺は、心底呆れた気持ちで拘束連行される元弟に歩み寄った。


「お前が俺に言ったことをそっくりそのまま返すよ。」


「は?」


「こんなみじめでクズな弟を持った俺は不幸ものだよ。俺の見えないところで凍え死んでしまえ!」


「この腐れ外道ガー!絶対に、絶対にいつか必ず!!復讐してやるー!!」


元弟は捨て台詞を吐きながら、生気を失った元両親とともに衛兵に連行されていった。

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