第一話
お嬢様。
そう呼びかける声が聞こえる。
遠くて近い、近くて遠いそんな声。
私は体をころんと転がした。
ふかふかのお布団が私につられ動き出す。
暖かいお布団。
とても幸せ。
「お嬢様!」
その声にびくっと起き上がる。
目の前にはメイド服に身を包んだ可愛らしい女の子がいた。
ほほをふくらませて腰に手を当ていかにも怒ってるよというポーズだ。
わざとらしくてそうは見えないが。
「おはよう。ベル。」
私は目を擦りながら挨拶をする。
「おはようございます。ナターシャお嬢様。」
ベルはにこやかに笑う。
朝からベルは元気だな。それに比べて私は……。
私は思わずあくびが出てしまった。
まだ眠い。
ベルは溜息をつきながらも私の髪をとかしていく。
腰近くまであるブロンドの髪は私の自慢の一つだ。
とにかく長いので手入れはとても気を使うのだけど。
母譲りの髪の毛はベルをはじめとして使用人たちのアドバイスとサポートで最高の品質を保っている。
テーブルの上にある鏡に目線を移す。
父譲りのややキツめの目。
さらに母譲りのぱっちりした目。
その二つのせいでややキツめの印象を与える私の顔。
どちらも容姿端麗故に自己判断でも私の顔は綺麗な方だ。
もちろんそれ以上の美女はいくらでもいるだろうが劣ってるとも思わない。
話した通りキツめの印象を与える上に学校での振る舞いもあって殿方には政略結婚相手くらいとしか思われてないが。
「はい。終わりましたよ。」
ベルの声にハッとする。
綺麗に整えられた髪の毛は少し光って見える。
「お嬢様の髪の毛はやはり綺麗ですね。」
「ありがとう。私も大好きよ。」
そういう私にベルは頬を赤く染めた。
どうしたのだろうか?
「お嬢様。殿方には安易に言わないようにお願いしますね。」
私は首をかしげた。
朝食も取り終え、学校への支度をする。
といっても荷物のほどんどは使用人たちが用意し終えてるので私のすることは制服を着るくらいなのだけど。
着替えを終え、廊下に出ると父とすれ違う。
「お父様おはようございます。行ってまいります。」
そう軽く挨拶すると父は軽く手を挙げて返してくる。
いつもはお返事くださるのに……。忙しいのかな。
と推察をしながら私は玄関に向かう。
玄関先でベルからカバンを受け取って私は玄関を出た。
空は青々しく高くて風は春の匂いを連れて舞う。
高校生として二年目の春。
この良い天気なら今日は幸先良いスタートを切れるだろう。
その時私はそう思っていた。