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6−10

※エミーリア視点

 

 

 「エミーリア、私は貴方の母親なのよ!今すぐ国外追放を取り消すように言いなさい!」

 

 私達の会話に何故か希望を見出して、国外追放を取り消せと騒ぐ前侯爵夫人に向き直った私は、静かに深呼吸をしてから口を開いた。

 

 「前ノルトライン侯爵夫人。確かに貴方は私を産んだ母親かもしれません。でも、私は貴方から親としての愛情を一度だって受け取ったことがないのです。そんな人を自分の母親だなんて思えません。だから、私には貴方を助ける理由なんてありません。」

 

 前侯爵夫人の表情が凍った。

 

 その顔をじっと見つめながら私は続けた。

 

 「それに、貴方は私に言うことを聞かせるためだけに、私の大事な人達を殺そうとしました。絶対に許せません!」

 

 私は一歩、踏み出して彼女に近付こうとした。その瞬間、直ぐに引き戻されてリーンの腕の中に閉じ込められる。

 

 そういえば、そんな約束してたっけ。

 

 抜け出そうと試みるも、ぎゅうっと抱きしめられていて、動かせない。

 

 ちらりとすぐ側のリーンの顔を見れば、しれっとして前を向いている。これは頼んでも離してくれそうにない。

 

 仕方ない、あまり格好良くない体勢だけど、このまま続けよう。

 結局、抱きしめられての会話になってしまった・・・うう、恥ずかしい。

 

 侯爵や周りの人達をそっと盗み見れば、皆こちらを見ないように目を逸らしてくれていたけれど、私は勝手に動いた自分の足を恨んだ。

 

 そして、この状況をさっさと終わらせるべく、呆然としている前侯爵夫人へ視線を戻す。

 

 「貴方は国外追放されたら、優しいフィーネお姉様の所へ迷惑をかけに行きますよね?だから、私は貴方が帝国にも入れないようにしたいと思います。それが嫌なら、一生孤島の修道院に入ってくれてもいいです。」

 

 前侯爵夫人の顔が真っ青になる。よく見れば震えているようにも見えた。

 

 「なるほどね。それは必要だ。」

 

 リーンが同意してくれ、腕を緩めたので急いで彼の腕から抜け出て、今度はその場に立ったまま社交用の綺麗な笑顔を作った。

 

 「今度こそ、お別れしましょう、前ノルトライン侯爵夫人。貴方のお嫌いなこの髪と目を二度と見に来ないでくださいね。」

 

 前侯爵夫人は口をぱくぱくするだけで言葉が出てこなかった。

 

 

 私は次に侯爵へと顔を向けた。

 彼は私と母親のやり取りを興味深げに見ていたが、目が合うとすっと無表情になった。

 

 「ノルトライン侯爵、一つお願いがあります。貴方には今後一切両親との縁を切って頂きたいのです。」

 

 私の台詞に侯爵は目を瞬いた。

 

 「なぜ、縁を切れと・・・?」

 「それは、このままだと国外に行っても前侯爵夫人は貴方に色々と頼ると思いませんか?それでは意味がないと思うのです。」

 「確かに・・・。しかし、私も牢などに幽閉でもすればいいだけでは?まあ、どちらにせよ、貴方がそう望むのなら私は喜んで縁を切りましょう。」

 

 その返事に軽く目礼をして、すぐ横にいる夫に小声で話し掛けた。

 

 「リーン、ノルトライン侯爵は爵位がなくなったらどうなるの?」

 「うん?王太子殿下が認めて、本人が希望すればこのまま一般官吏として仕事を続けられるんじゃないかな。辞めさせることもできるけど?」

 「いいえ。そこまでしなくてもいいと思うわ。」

 

 侯爵自身は契約違反をしていないし、この様子ならもうこれから先、私に関わろうとすることはないだろう。母親を止められなかったとして爵位を剥奪されるというだけで十分じゃないかしら。

 

 何より、侯爵の疲れ切った様子と、喜んで親との縁を切るという言葉から彼はこの四年、随分と苦しい思いをしてきたんじゃないかと思うから。

 

 「リーン、これで私のわがままは終わりよ。聞いてくれてありがとう。」

 「これくらい、いつでも聞くよ。」

 

 「夫にわがままを言うなんて、とんでもない悪妻ね!さっさと嫌われるがいいわ!」

 

 リーンに礼を言って、これで終わりと思っていたのに、縛っていたものが切れたみたいに前侯爵夫人が叫んだ。

 

 それは今までよりぎらぎらした目で、なりふり構わず私ヘ怨みをぶつけるような声と視線だった。

 

 ほっとしていたところに叩き込まれたその負の感情に私の全身が竦んだけれど、負けたくなくて言い返す。

 

 「私は、リーンにわがままを言っても嫌われたりしないわ。」

 

 「そうだよ。嫌うどころか私は妻にわがままを言われることが大好きなんだ。彼女のそれは貴方が潰してきた彼女のささやかな願いだと思ってるから、私がそれを受け入れ、叶えられることが嬉しい。」

 

 リーンが楽しそうに続けて、大丈夫だよ、と私の背中に優しく手を添えた。

 

 「どうやら、前侯爵は貴方のわがままを聞けない程度の男だったんだね。私は妻のわがままを可愛いと思いこそすれ、悪いことだとは全く思わないから、貴方の非難は的外れだよ。」

 

 彼のその言葉で、全く気配も存在も聞こえてこない元父のことを思い出し、侯爵に尋ねてみた。

 

 「そういえば、前ノルトライン侯爵は今どうしているのですか?」

 

 侯爵は私を見て、続けて後ろのリーンへと視線を動かした。

 その顔には『どうします?』とリーンへ伺いをたてるような表情が浮かんでいた。

 

 「エミィ、前侯爵は数年前に他の女性と逃げた。」

 「ええっ?!」

 「バカおっしゃい!あの人は小娘に騙されただけよ!もうすぐ私の所に帰ってくるに決まってる。だから、私は領地の屋敷で待っていないといけないの。ねえ、エミーリア。夫を愛しているのなら、分かるでしょう?」

 

 いきなり双方から告げられた事実に頭が混乱する。

 いつの間に前侯爵は若い女性と駆け落ちなどしたのだろうか。

 

 前侯爵は日和見侯爵と呼ばれ、面倒なことからすぐ逃げる性格だったから、隠居して気の強い妻とずっと一緒にいる生活から逃げ出したかったのかしらね。

 

 そして、私にもこれだけは分かる。万が一にも前侯爵夫人の元へ夫が戻って来ることはないだろう。

 

 ・・・でも、なんかそれって凄くずるい気がする。

 

 「リーン、私やっぱりもう一つ、わがままを言うわ。前侯爵を探し出して前侯爵夫人と一緒に国外追放にしたいの。好き勝手した前侯爵だけ免れるなんて不公平だわ。」

 

 私の無理難題にリーンはにっこりと笑って頷いた。

 

 「もちろん、前侯爵にも等しく責任はとって貰おう。」

 「でも、見つかるかしら?」

 「うん?それは大丈夫。うちの騎士団で彼の所在は把握しているから。」

 「えっ?」

 

 思わず辺りにいるうちの騎士達を見回してしまった。彼等は一様に気まずい表情を浮かべて私と目が合わないようにしていた。

 

 前侯爵夫人も侯爵も驚いてリーンを見つめている。

 

 その場で一人、当然というような顔をしているリーンが不思議そうに彼等を見返した。

 

 「え、なんで驚くの?前ノルトライン侯爵もエミーリアに近付かせない対象だよ。駆け落ちしようが、逃げようが、必ず探し出して所在を把握しておかないといざという時困るでしょ?」

 

 実際、そのいざが来たしね。と言いながら彼は皮肉な笑みを浮かべ、前侯爵夫人へ告げた。

 

 「よかったですね、これで貴方の元へ夫が帰って来ますよ。二人仲良く、国外で新生活を送れますね。ああ、最後に一つ。次、妻の前に現れたら、命の保証はしませんからね。」

 

 これで、全て終わった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


ざまあ、こんな感じになりました・・・。

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