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5−2

 ※リーンハルト視点

 

 

 「エミーリア様はどのような味がお好きですか?」

 

 作る物をどんな効能にするかとか、安くするにはなどと話し合っている中で、ゾフィーがエミーリアに質問した。

 

 問われた彼女は顎に軽く手を当てて、首を傾げて考えている。

 

 「毎日飲むものだから、飽きないのが良いわよね。私は爽やかな感じが好きだけれど、たまに甘い感じも欲しくなるのよね・・・。」

 「じゃ、二種類作るというのはどう?」

 

 決めきれなくて悩む彼女に、つい口を挟んでしまった。

 エミーリアは目を瞬き、ゾフィーは僕を甘いなあという目で見ているのがわかる。

 

 そうだよ、僕はエミーリアに激甘だよ!

 

 

 結局、エミーリア用も一般用も二種類の味を作るということで決着した。

 

 後の細かいことはまた、ゾフィーが知人達と詰めてきてくれるそうだ。

 

 

 帰るゾフィーを玄関まで見送るために廊下を歩いている時、エミーリアが思いついたとばかりに手を打った。

 

 「ゾフィー先生、試作品が出来たら私に飲ませてね。」

 「はい、是非。忌憚のないご意見を伺いたいので、よろしくお願いいたします。」

 「ええっ?!それは、ちょっと・・・。」

 

 慌てて止めようとする僕に、ゾフィーが冷たい目を向けた。

 

 「公爵閣下。私はエミーリア様のための物を作るのですよ。ご本人に試して頂くのが一番です。まさか、私が奥様に害になる物を作るとでも?」

 「・・・いや、思ってないけど。」

 「けど、なんですか?!」

 「でも、僕が先に飲んで試してからにして。」

 「・・・・・・かしこまりました。」

 

 ゾフィーの迫力にあっさり白旗を揚げつつも、希望は通す。これは僕にとって譲れない一線なんだ。

 エミーリアもなにか言いたそうだったが、彼女は僕の迫力に負けたようで、黙って我々のやり取りを見守っていた。

 

 「では、お二人とも今まで通り、よく食べて運動して健康に気を配ってくださいね。」

 

 そう言い置いてゾフィーは帰って行った。

 

 

 彼女を乗せた馬車が見えなくなるまで見送って、エミーリアが僕へ向き直る。

 

 「リーンもこのまま仕事に戻るわよね?」

 

 笑顔で追い出しにかかってきた。酷い。ちょっとだけお茶していかない?とか言ってはくれないの?

 

 「僕はエミィと離れるのが寂しいんだけど。」

 

 目を覗き込んで訴えれば、彼女がぱっと俯いた。両手を握り締めてもじもじしている。どうしたの?

 

 「わ、私だって寂しいけど、リーンは戻らないといけないから我慢しているのに、なんでそういうこというの?夕食を一緒に食べるのでしょ?早く行かないと帰れないわよ。」

 

 正論で窘められた。でも、自分から寂しいと言ってくれるようになって嬉しい。

 素直な気持ちを言うだけで、耳まで真っ赤になっている彼女がとても愛しい。

 

 「じゃ、僕も我慢して行って来るから、キスしてもいい?」

 

  拒否されると分かっていても、つい口に出してしまった。

 いつもお見送りは手を振るだけなんだよね。

 

 ところが、今日は予想に反して彼女は迷うような気配の後、僕の服をそっと握って言った。

 

 「キスは無理だけど、ぎゅっとするだけなら・・・」

 

 ぎゅっならいいの?!僕はすかさず彼女を抱き寄せた。

 

 

 「・・・リーン、長い。」

 

 彼女を腕の中に囲い込んで、抱きしめていいと言われた嬉しさをじっと噛み締めていたら、文句を言われてしまった。

 

 もう少し抱きしめていたかった分と、さっと頬にキスをして逃げるように外へ出る。

 振り返ればますます赤くなった妻がもう、とか、それは良いって言ってない!と憤慨して叫んでいた。

 

 その横で執事達が笑いを堪えているのも見える。

 

 うちは平和だなあ。

 

 

 ■■

 ※エミーリア視点

 

 

 結局、リーンは抱きしめるのもキスも両方して城へ逃げて行った。

 

 今度は何も無しにしてやるんだから!と息巻いたものの、自分に残る彼の感触にやっぱり触れてもらうのは嬉しいと思い、慌てて首を振る。

 いやいや、そんな恥ずかしいこと、思ってないんだから。

 ・・・でも、リーンがまたしたいというなら、ちょっとだけなら私もして欲しいかも・・・。

 

 そんなことを思う自分に顔が熱くなって、両手で顔を覆う。最近の私はかなり彼に抱きしめられたり、キスされることに慣れて羞恥が薄れてきている気がする。

 

 しかも時々、たまらなくリーンに触れたくなるのだ。

 ・・・私、大丈夫かなあ。

 

 

 「奥様、そろそろお部屋へお戻りになられては?」

 

 ロッテの声に飛び上がる。

 そうだ、ここ、玄関だった!

 

 振り向けば、先日戻ってきたミアも笑顔で頷いている。

 

 「そ、そうね!まだまだやることはあるものね。」

 

 目を合わせないように超早足で、二人の前を通り過ぎて階段を上った。

 

 後ろから笑いを堪えた二人が付いて来るのが感じられ、顔がますます熱くなっていた。

 

 やっぱりリーンの見送りは、手を振るだけが一番いいわ!


 

 午前中の続きを片付けて、ついでに溜まっている書類に目を通す。

 どれも街へ行かないと終わらないものばかりだ。まとめてやろうと思って除けていたら、こんなに溜まっていたのね。

 

 うーん、今からだと帰りが遅くなっちゃうかしら。でも、明日も用事があって出掛けられないし、と悩んでいたらそれがぼーっとしているように見えたらしい。

 

 「奥様、大丈夫ですか?少しお休みになられては?」

 

 ロッテに心配されて、このままではいけないと立ち上がった。

 

 決断って大事よ!

 

 「これから街へ行きます!今日中にこの書類を片付けるわ。」

 

 どんと目の前に積んだ紙束を見たミアが、ひょえっと小さく叫び声を上げた。

 

 ■■

 

 あの事件のおかげで、自由に外出ができるということのありがたさが身に沁みた。

 

 だから、街に来る度に今やれることを今やっておかねばという気持ちになる。

 私はミアを連れて書類を片手に次々と用事を済ませていった。

 

 「・・・で、ここが最後なんだけど、ちょっと疲れたから座って休んでからにしましょう。」

 

 私は疲れ切った表情のミアに声を掛けて、街の中心の広場のベンチに腰を下ろした。

 

 休憩と聞いた途端、ミアが勢いづいた。

 

 「奥様、何か飲み物を買って来ましょうか?」

 「そうね、皆で飲みましょう。好きなもの買って来て。私は柑橘系がいいわ。」

 「わかりました!」

 

 元気よく返事をしたミアは、荷物持ちにスヴェンを連れて足どり軽く店へ向かって行った。

 

 私はもう一人の護衛のデニスと一緒に待ちながら、目の前の広場をぼんやりと眺めていた。

 

 もう日が暮れ始める時間なので、道行く人達も心なしか急ぎ足だ。

 小さな子供の手を引くお母さんの姿も混ざっていて、羨ましく見つめてしまう。

 

 ダメダメ、そんなに子供のことばかりに気を取られていては、落ち込んで皆を心配させてしまうわ。

 

 小さく頬を叩いて自分を叱咤する。

 

 いついかなる時も、私は優しくてしっかりした公爵夫人でいなくては。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

ゾフィー医師は、エミーリアの為にわざわざリーンがスカウトしてきた女性のお医者様ということを本文中に書けなかったので、ここにメモします・・・。

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