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4−15

※エミーリア視点

 

 

 お礼というわけでもないけれど、シャツのボタンを留めてあげているのに、リーンは頭や頬にキスを降らせて邪魔をしてくる。

 

 「かわいいエミィが一生懸命、ボタン留めてくれるのを間近で見てたら・・・ここが屋敷だったらよかったのに。」

 「もう!さっさと着替えてお城に行かなきゃいけないんでしょ?!」

 

 しかも、ここはオーデル伯爵邸だ。できるならとっとと退散したいのに。

 

 「んー。君をうちの屋敷に送り届けるのが優先。城へは夕食後に行く。」

 「そこまで過保護にしなくても、ちゃんと一人で帰れますからご心配なく。はい終わり。行きましょう?」

 

 包み込むように抱きつかれたけど、意地でボタンを留め終え、出来上がりの合図にぽんと彼の胸を叩き、その身体を押しやる。

 

 あれ、動かない。更に力を入れて押したら、両手を掴まれて深く口付けられた。

 両手も動かせず、逃げられない私は、最終手段として足を出した。

 

 「おっと。エミィ、やるね。」

 

 あっさり避けられて蹴った足が宙に浮き、よろめいたところをそのまますくい上げられ、いつものように抱きあげられてしまった。

 

 彼には蹴りも効かないらしい。

 とりあえず、キスは止めさせられることができたからよしとしよう。

 

 「じゃあ、公爵邸へ帰ろうか。」

 「えっ?まさか、この体勢のまま・・・?」

 「もちろん。」

 「や、やだ!オーデル邸の人達に見られるじゃない!」

 「でも、君はさっき泣いたからお化粧が大変なことになってるよ?」

 「え、あっ!どうしよう・・・。」

 「だからね、このまま顔を隠して行こう?」

 「いいえ。どっちみち、挨拶しなきゃいけないから、扇で顔を隠して自分で歩いていくわ。」

 

 そう決めて、降りようとしたのに、がっちりと抱えられていて動けない。

 抗議しようと彼を見れば、爽やかな笑顔を返された。

 

 「このまま、でいいよね?」

 「良くないわよ。」

 

 憤然と返したのに、無視されて運ばれて行く。

 

 このまま流されるものかと、彼が扉を開けるために片手になる瞬間を狙って、飛び降りようと身構える。なのに、彼が扉の前まで行くと勝手に開いた。

 

 そこに黒髪黒目の夫の側近を見つけて、私は大いにむくれた。

 

 「ヘンリック!そこに居たならリーンのボタンを留めてくれたらよかったのに!」

 「奥様。リーンハルト様は、いつも御自分でされておりますよ。」

 「リーン?!」

 

 明後日の方向を向いて素知らぬふりを決め込む彼に、抗議の視線を送る。

 

 ■■

 

 「・・・オーデル伯爵家の方に帰りの挨拶をしないと。」

 

 気を取り直した私の呟きに、ヘンリックが真面目くさって答えた。

 

 「挨拶は難しいですね。マルゴット様が城へ連行されたことで、現在、この屋敷は大混乱しておりますから。というわけで、後の処理は私が致します。お二人は速やかにお帰り下さい。」

 

 そういえばそうだった。それなら、この体勢でも問題ない・・・のかしら?

 

 何か、違うような気がするのだけど、と考えていたらあっという間に馬車に着いてしまった。

 

 そして私は、席に座ってから気がついた。

 

 「リーン!伯爵邸が騒ぎになってて挨拶をしなくていいなら、お化粧が崩れてても問題なかったんじゃない!」

 「うん?そうだったかもね。まあ、もうここまで来ちゃったわけだし、気にしなくていいじゃない。」

 「気にするわよ!私を歩かせてよ。」

 

 猛抗議したのに、彼は全く気にする様子がなく、にこにこ笑っている。

 

 「これでやっと君を自由に外出させてあげられる。長い間、我慢をさせてごめんね。」

 

 その言葉に、私は申し訳なくなって視線を落とした。

 

 「謝らないといけないのは、私の方だわ。結局、私の実家が原因だったわけだし、貴方には本当にいつも、迷惑ばかり掛けてしまって申し訳ないでは済まされないと思っているの。」

 

 ドレスの上からぎゅっと膝を掴んで思っていたことを伝えれば、隣に座っている彼から笑顔が消えた。

 

 「エミィ!さっきも言っただろ、君はあの家とは縁を切っているから関係ないんだ。君が僕に迷惑をかけただなんて思っちゃいけない。君は、バカなことを考えた奴らに攫われ売られかけた一番の被害者なんだ。分かった?」

 

 その剣幕に押されて頷いた私の頭を撫でて、彼は続けた。

 

 「だから、エミィ。ディルク達のことはもう考えなくていいからね。気になるだろうけど、色々決まったら僕がきちんと報告するからそれまでは忘れてて?」

 

 ね?ともの凄い圧とともに顔を覗きこまれたら、もう頷くしかなかった。

 

 ・・・考えないよう、努力はしよう。

 

 

 ■■

 おまけ〜ボタン抗争〜

 

 夕食後、居間で本を読んでいると、リーンが続き部屋の扉を開けてやってきた。

 

 そちらを見て私は直ぐに本へ視線を戻す。

 

 「リーン、シャツのボタンが全部開いてるわよ?」

 「エミィに留めて欲しいな?」

 「お断りよ、自分でできるんでしょ。」

 

 オーデル伯爵邸でまんまと騙されたことが蘇り、私はむっとして断った。

 ここで甘やかしたら習慣になりそうだし、なにより、近寄ったら捕食されそうな気がしてならない。

 

 私だってそういう気配くらい、感じ取れるのよ。危ない時は近寄らないに限る。

 大体、今から登城するために着替えているはずなのに、何を考えているのかしら。

 

 残念そうに自分でボタンを留めている彼を本の陰からちらりと見る。

 

 均整のとれたきれいな身体。どう見ても男の人なのに、女装するときちんと女の人に見えて驚いた。私が男装してもあそこまで上手くできる自信はない。

 

 そんなことを考えつつ、彼のきれいな指がボタンを留めていくのを眺めていたら、昼間に明るい場所で彼の素肌に触れたことを思い出し、顔が熱くなった。

 

 もう、リーンがこんな所で着替えるから変なこと思い出しちゃったじゃない。

 

 本に顔を伏せて熱を冷ましていたら、その本が消えた。

 

 「エミィ、ちらちら僕を見てどうしたの。君が見たいなら遠慮なく見てくれていいのに。」

 

 本を取り上げて笑顔で宣う彼に、冷めかけていた熱が顔に戻ってきて私は慌てた。

 

 「見たいわけじゃないわ!ちゃんと、そう、ボタンがちゃんと留められているか、確認してただけ!」

 

 自分でも、無茶な言い訳だと思う。子供じゃないんだから、ボタンをきちんと留めているかの確認などいるわけがない。

 

 ・・・はず、だったが。

 

 「リーン。ボタンを掛け違えているわよ?」

 

 見事に上半分がずれている。こんな格好で城へ行かせるわけにはいかない。

 

 仕方なくソファから立ち上がって、上からずれた所までボタンを外していく。

 

 「もう、なんでこんなにずれているのよ。王太子補佐がそんな子供みたいなことしちゃ駄目でしょ。」

 

 とりあえずやり直す部分を全部外し終わって、留め直し始めたところで、頭の上から含み笑いが聞こえた。

 

 「君は、本当に素直で優しくて可愛いよね。」

 「いきなり何?」

 

 顔を上げれば妖しい笑顔で見つめられて、はっと気がついた。

 

 今の状況って、もしかして、私が彼の服を脱がせているように見える?!

 

 「君に服を脱がせてもらうって最高にそそられるね。」

 「ぬ、脱がせてなんかない!ただ、ただボタンを留め直すだけで・・・」

 「うん、後でまた留め直してね。」

 「ちょ、ちょっと、今からお城に行くんじゃ・・・」

 「大丈夫、僕は二十四時間出入り自由だから。」

 「そんなわけには!」

 「だってもう、我慢の限界を超えてるんだ。昼間から煽られてたから。」

 「煽ってない・・・!」

 「無意識って最高だよね!」  

ここまでお読み下さり、ありがとうございました。

ボタンで一話になりました。

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