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溺愛されすぎ公爵夫人の日常。強力な権力とコネを使って人の役に立とうと思います!  作者: 橘ハルシ
第四章 公爵夫妻、欺く。

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43/98

4−13

※エミーリア視点

 

 

 ディルクの腕を掴んだまま、リーゼルが振り返った。目が、随分怒っている・・・。

 

 「ご、ごめんなさい。」

 

 マルゴット嬢を引き起こしつつ、謝った私にリーゼルは首を振った。

 

 「君が僕の名前を呼ぶまで手を出さないっていう約束だったのに、ごめんね。もう我慢の限界だよ。こいつの勝手な言い分を聞いていたらもう、腹が立って仕方なくって。」

 

 こいつの、と言った瞬間、ディルクを勢いよく床に引き倒して押さえつけていた。

 余程怒りが溜まっていたらしく、そのままぎりぎりと背中に回したディルクの腕を締め上げている。

 

 「いてて・・・。お前、話せないはずじゃ・・・。しかも、男の声じゃないかよ!騙したな?!」

 「そ、その声、まさか・・・?!」

 

 リーゼルの声を聞いた途端、ディルクとマルゴット嬢がそれぞれ声を上げた。

 

 特にマルゴット嬢は最近聞いたばかりだったので、その正体がリーンだとすぐに分かったのだろう、真っ青になっている。

 

 「ハ、ハーフェルト公爵様・・・。まさか、そんな。じゃあ、最初からずっと聞いておられたのですか?!」

 「うん。聞かせてもらった。マルゴット嬢、悪いけど私は公爵位は譲れても、エミーリアは譲れないし彼女しか愛さないから、結婚相手は他をあたってくれる?まあ、先にこの誘拐事件に加担した罪を、償って貰わないといけないんだけどね。」

 

 リーンの冷静な言葉に、マルゴット嬢は足元から崩れ落ちた。

 

 その会話を聞いて、床に押し付けられたままで必死に抵抗していたディルクの動きが止まった。

 恐る恐るといった体で首だけ曲げてリーンの顔を見る。

 

 「え?お前がリーンハルト?」

 「軽々しく私の名前を呼ぶなと、さっき私の妻に言われなかった?」

 

 にっこりと笑ったリーンが、ディルクをぎゅっと足で踏みつけ直し、自分の頭からカツラをとって放り投げ、さっと袖であざを擦った。

 

 淡いふわふわの金の髪が現れて、あざが消える。

 瞳の色はまだ焦げ茶のままだが、ほとんどいつもの彼になった。・・・首から上だけは。

 私はその下のお仕着せワンピースを視界に入れないように、そっと視線をずらした。

 

 

 「リーンハルト!おまえがこのゴミと婚約なんかするから、僕がこんな苦労をする羽目になったんだ。バカバカしい、何が四歳で惚れて婚約だよ、そんなの子供の気の迷いだし、今は哀れな女を助けたという自分に酔ってるだけだろ。」

 

 床にうつ伏せにされたまま、いきなり喚き出したディルクを、リーンはこないだの夜会のときと同じくらい冷たい目で見下ろした。

 

 周囲の温度が一気に下がった気がして私は一歩下がり、ぐずぐず泣いているマルゴット嬢の横に並んだ。

 

 「私の宝物の妻をゴミ呼ばわりとは、いい度胸だね。お前の方がゴミクズじゃないか。」

 「ぐえっ」

 

 リーンが足に力を込めたらしくディルクからうめき声が漏れた。

 

 「私はそんな薄っぺらい気持ちで、エミーリアと一緒にいるわけじゃないよ?それに彼女を哀れな女性だから助けたいと思ったことは一度もない。ただ一人の愛する女性だから、助けたいし護りたいと思っているだけだよ。」

 

 リーンは最後にもう一踏みしてから、ディルクを引き起こし、どこからか出した縄で縛り上げた。

 彼はマルゴット嬢にも縄を見せ、縛られたいか目だけで尋ねたが、彼女は大人しくするから縄は不要と訴え、横にいた私にしがみついてきた。

 本気で怒っているリーンを初めて見て、怖くなったらしい。

 

 怒らせたのは自分達じゃないの、とは思ったものの、私は彼女をそのまましがみつかせておくつもりだった。

 

 「私の大事な妻を騙そうとしたくせに、こんな時だけ頼らないでくれる?」

 

 だけど、それがリーンには気に入らなかったようで、直ぐにべりっと引き離された。

 

 さっきまで彼の妻になると息巻いていたくせに、今はその相手に完全に怯えきっているマルゴット嬢と目があった途端、私は彼の袖を掴んでいた。

 

 「あの、彼女はどうなるの?」

 「人身売買は重罪だから、それなりに。」

 

 それなりって何?!とにかく重い罰を受けるってことよね?

 彼女は親のエゴでこんなに追い詰められたんだから、軽くならないのかしら。

 

 その私の考えはリーンにも伝わったらしく、彼は渋い顔になった。

 

 「彼女達のせいで君は危ない目にあって、長い間自由に外出も出来なかった。流石に僕は、彼女に同情する余地はないと思う。」

 

 そこをなんとか、と願いかけて、ふと思い出した。

 

 「そういえば、先程キスなさってましたが、マルゴット様はディルクとはどのような関係ですか?」

 

 足元を見下ろせば、涙でぐちゃぐちゃになったマルゴット嬢が私を見つめていた。

 

 「プラチド、いえ、ディルクとは、愛人関係なのです。・・・彼は結婚しているので。」

 「あ、愛人?!恋人同士ではなく?!そして、ディルクが結婚?!」

 

 多分、私の目は限界まで開いている。前にいるリーンの目も丸くなっているもの・・・。

 

 「何を驚いてんの?そうだよ、僕はボーヴェ商会に婿入りしたんだ。だって、フィーネ姉上はお金を持ってるくせに僕に遣わせてくれないから、帝都でも大きい方の商会の娘に声を掛けたら、あっさりいけた。おかげで女と金には困らない。顔が良いとこういう時、便利だよな?」

 

 縛られたまま、得意そうに話すディルクの頭の中を解体してみたいと心底思った。

 帝国では、他国人が街で声を掛けて即婿入りってできるもんなんだ。

 だけど、結婚して直ぐに愛人って、私だったら離婚案件だわ・・・。

 

 ディルクに同意を要求されたリーンは、もの凄く嫌そうな顔で首を左右に振った。

 

 「お前に同類と思われたくないんだけど。ほら、妻がお前を青虫を見た時と同じ顔で見てる。彼女にあそこまで嫌われたら私は生きていけないな。」

 

 それを聞いて、私は慌てて顔を横に向けた。

 私が青虫を見てる時って、どんな表情になってるの?!

 

 両手で自分の顔を触って確認していたら、リーンがぽんと手を打って明るく断言した。

 

 「そうか、ということは、ディルクはマルゴット嬢を私と結婚させて愛人関係を続け、自分の子供をハーフェルト公爵にして、うちの資産を自由にするつもりだったんだ。祖父なら引っ掛かったかもね。」

 

 なに?そのリーンを馬鹿にした話は。

 

 「そんなつもりは!」

 「そうだよ。」

 

 否定しようとしたマルゴット嬢に被せて、ディルクはあっさり肯定した。

 もちろん、それを聞いた私は激怒した。

 

 「なんですって?!よくも、そんな酷い計画を立てられたわね!こっちは子供ができなくて悩んでいるのに、それにつけこむような人でなしの考えね!」

 

 リーンが自分の子だと信じて、マルゴット嬢とディルクの子供を嬉しそうに腕に抱く姿を想像したら、ぼろぼろ涙が溢れてきた。

 

 「そんなこと絶対許せない!もう、何がなんでも私がリーンの子供を産んでみせるんだから!貴方達なんて、一生牢から出てこなくていいわ!」

 

 泣きながら叫べば、リーンが私を抱き寄せながら深く頷いた。

 

 「分かった。君がそう希望するなら僕の全力でこいつらを一生牢送りにするから、安心して。」

 「バカなこと言うな!何で僕が一生牢にいなきゃいけないんだよ?!」

 「妻が望むことなら、何でも叶えるのが夫の役目だからね。」

 「なんだ、そのとんでもない思考回路・・・。」

 

 直ぐさま反論してきたディルクへ、リーンは当然という顔で返し、それを耳にしたディルクは固まった。

ここまでお読み下さり、ありがとうございました。

・・・まあ、リーゼルの正体なんてバレッバレでしたよね。

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