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3−12

※エミーリア視点

 

 

 「今日はすっごく楽しかった!ありがとう、リーン!」

 

 ベッドに入っても私はまだ興奮が収まらず、遅れて部屋に入ってきた彼に飛びついて礼を言った。

 いきなり吹っ飛んで行った私を受け止めた彼は、苦笑しながら布団の中へ戻す。

 

 「はいはい、風邪を引くよ。そこまで喜んでもらえたら、やったかいがあったよ。少しは気晴らしになった?」

 「ええ、とっても!」

 

 私に掛けた布団の端を、ぽんぽんと叩くリーンを見上げて笑顔で応える。

 彼もつられるように笑顔を返してくれたけど、その表情はどこか固い。

 どうしたのかしら?

 

 様子を窺っていても、彼はベッドの上に正座したまま、何かを言い淀んでいるふうに見えた。

 

 「リーン?どうしたの?言いたい事があるなら、何でも聞くわよ。」

 

 私もベッドの上に座り、彼と向かい合う。

 

 それでも俯いて言い出しかねている彼の顔を下から覗き込んで見る。

 弱りきった彼と目があったので、変顔を作ってみた。

 

 「ちょ、これから真面目な話をしようと思ってるのに、笑わせないで?!」

 

 必死で笑いを堪えるリーン。

 

 そんなに言い難い真面目な話って何かしらね?

 浮気の告白?・・・うーん、彼に限って考えられない。

 仕方ないので、さらに変顔を進化させて追撃した。

 

 「そこまで言ったなら、さっさと言いなさいよ。」

 

 ついに崩れ落ち、お腹を抱えて痙攣する彼の口から思いがけない単語が飛び出した。

 

 「もう、本当にここでそんなに笑わせられるとは思わなかった。笑うのを我慢し過ぎてお腹痛い・・・。エミィ、こないだ話しそびれた子供についての話があるんだ。」

 

 子供。そういえば、川に落ちた日に本当なら聞く予定だったのよね。

 思い出した途端、今度は私の顔が強張った。

 

 えーっと、何の話なんだろう。

 

 子供が出来ないから、離婚?もしかして第二夫人を迎えたいとか?

 

 この話、最近お茶会でよく話題になるのよね。

 『ハーフェルト公爵夫人、まだご懐妊なさらないのね。ここはやはり、貴方から公爵閣下に第二夫人をお勧めされては?』

 『三年過ぎて子供がいなければ、離婚されても文句は言えないのよ。そろそろ覚悟をお決めになっておいたほうがよろしくてよ!』

 

 その話の内容があまりに衝撃的だったので、噂話を収集しているヘンリックに報告がてらそれとなく聞いて見たところ、あからさまに返事を濁された。

 だから、子供が出来ないから第二夫人とか、離婚とかあり得る話なんだと思う。

 

 でも、私はどっちも嫌!


 私は気合を入れて、起き上がってきた夫を真正面から見据えた。

 

 「よし、覚悟は決めたわ!さあ、離婚でも第二夫人でもどっちでも言いなさいよ!私は反対するからね!」

 「はあっ?!一体何の話だよ?!」

 

 リーンが驚きのあまり後ろに仰け反って、直ぐに今度は前のめりになって抱きついてきた。

 

 「エミィ!離婚なんて恐ろしいことを言わないでくれる?!」

 「じゃあ、第二夫人なの?誰?」

 「いや、それも絶対ないから。君は何か大きな勘違いをしてるよ。僕はね、子供が出来にくい体質かもしれないって言いたかったんだ。」

 「え、誰が子供が出来にくいの?」

 

 私は彼の腕の中で首を捻った。視線を上に向ければ、申し訳なさそうな薄青の目にぶつかった。

 

 「僕。ずっと言う機会を窺ってたんだけど、君が子供については話したくなさそうだったから。」

 

 私は黙り込んだ。確かに子供については、今も手放しで欲しいとは言えない。

 私が無言でいることで、焦った彼が話を続ける。

 

 「でもね、絶対出来ないじゃないんだよ?なんというか、この家って代々子供が少なくてね。君も知ってるとおり、母は一人娘だったし、先代のお爺様も一人息子だったんだって。呪われてるとかいう人もいるくらいなんだけど、それでもなんとか続いてきてるから。」

 

 なるほど。それで彼は子供が出来にくいかもしれないと思ったわけね。

 

 「だから、それを理由に僕から離れるなんて言わないで。第二夫人なんていらない、子供が出来なくても君だけがいればいいんだ。それに、僕に原因があるんだから、誰に何を言われても気にしなくていいんだからね。」

 

 ああ。多分、彼が本当に私に言いたかったことはこれなんだろう。

 

 そろそろ結婚して三年がたつ。周りが色々言ってくる頃だから、私が気に病まないように気を遣ってくれたのね。

 でもね、リーン。私だっていつまでも貴方に庇われてばかりじゃいけないと思うのよね!

 

 「・・・いえ、とても気にするわ。」

 「えっ?!」

 「貴方だって同じようなことを言われて嫌な思いしてるんでしょう?」

 「いや、そんなことは。」

 「じゃあ、綺麗なご令嬢や未亡人方に、『私を第二夫人にしてくださいな。』とか言われて喜んでるってことね?」

 「そんなわけないだろ?!嫌に決まって・・・あっ?!」

 「ほら、やっぱり!」

 

 私は彼から離れて、しまったという顔をしている彼の目をじっと見つめた。

 それから、両手でぎゅっと握りこぶしを作り、胸の前に揃えて宣言する。

 

 「だから!子供が出来るように頑張るわよ!」

 「えっ、エミィがそんなに積極的なことを言ってくれるとは思わなかった。」

 

 彼は、ぽかんと口をあけて私を見つめ返してきた。

 

 「出来ないと言われたら逆に、挑戦してみたくなるでしょ?!」 

 

 そう力んだ私を、急に笑顔になったリーンががばっと抱きしめる。

 

 「そうだね、挑戦するって大事だよね!」

 

 私は頷きつつ、彼の腕を押しのけ顔の前で人差し指を立てた。

 

 「でね、先ずは体力づくりだと思うの!だから、明日から早起きして庭を走ろうと思ってるのよ。よかったら一緒にやらない?」

 「え?」

 「そうそう、妊娠しやすい身体になる薬とかおまじないもあるんですって。それからね、こういう体操も効くらしいわよ。」

 

 私はそれを実演して見せるため、ベッドから降りようと彼に背を向けた。

 

 「ちょーっと待った。その話は何処で仕入れてきたの。」

 

 あっという間にお腹に手を回され、ぐいっと引き戻された私は、彼の膝にすとんと座らされることになった。

 私は首を上に傾けてリーンの顔を仰ぐ。

 すぐさま額に唇が触れてきたので、慌てて両手で隠す。そうすれば、次はその手に。

 ヤバい。リーンてば、何かスイッチ入ってない?

 

 「あの、離して。体操の実演を・・・。」

 「それはまたの機会に。で、誰から聞いたの?」

 

 懇願すれば、あっさり却下された。さらに追求してくるリーンの声は真剣だ。

 仕方なく私は渋々、答えた。

 

 「お茶会や夜会で皆が色々教えてくれて。今までは興味がなかったから聞き流してたんだけど最近気になってきて・・・。」

 「なるほど。エミィ、聞いてきたことを全部紙に書いてロッテに渡してくれる?それで実行するのは医者に確認してもらってからにして。怪しい薬とか絶対に勝手に試しちゃ駄目だよ?」

 「分かったわ。」

 

 確かに彼の言う通りだと納得した私は素直に頷いた。

 するといきなり首筋に口付けられ、私は飛び上がった。

 な、何なの急に!

 逃げようとするも、後ろからがっちり抱え込まれて身動きがとれない。

 パニックを起こしていたら、彼の声が耳元で聞こえた。

 

 「ねえ、エミィ。子供ってどうすれば出来るんだっけ?」

 「ええっ?!」

 「そりゃ体力も必要だろうし、体操もいいかもね。でも、絶対やらなきゃいけないことがあるよね?」

 「いや、それは、その。」

 

 耳元で話されるだけでもいっぱいいっぱいなのに、内容がっ!!

 私は頭の中まで羞恥で真っ赤になった。

 

 「君、体調崩してたし、子供の話をしてからじゃないとって、僕は一週間以上我慢してたんだけど。僕達二人で頑張って子供を作るんだよね?そう言ったよね?」

 「・・・はい。」

 

 確かに言いました。でも、そういう意味で言ったつもりはなくって!ああ、でも彼の言うことは間違ってない・・・。

 

 「じゃあ、いいよね?」

 

 何が?と聞き返す勇気は今の私にはなかった。恥ずかしさで気が遠くなりながら、私は少しだけ首を前に傾けた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

第三章の本編はここで終了です。明日から閑話になります。

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