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3−11

※カール視点

 

 

 奥様は菓子の食べ方をフリッツに教えたり、茶葉との組み合わせについてミアと話したりしながら、幸せそうな顔で菓子を口に運んでいる。

 オレも一緒によばれながら、その様子を眺めていたら、奥様の後ろに見慣れた人が忍び寄るのを見つけた。

 

 黙ってて、と声に出さずに指示されたオレは知らんふりをしつつそっと見守る。

 フリッツも気がつき、同じく知らないふりをしているものの、態度がわざとらしすぎてすぐにバレそうだ。

 

 ミアと話に夢中になっていた奥様がカップを戻したタイミングで、真後ろまで来ていた旦那様が目隠しをした。

 

 「だーれだ!」

 「うひゃああっ?!」

 

 超古典的な触れ合いに奥様は文字通り、飛び上がった。

 公爵夫人がうひゃあ、って・・・。

 

 

 「この声は、リーンね?!」

 「当たり!ただいま、エミィ。」

 

 当然一発で当てて振り返った奥様を、後ろから椅子ごと抱きしめる旦那様。

 おーい、オレ達の前で堂々といちゃつかないでくださいよ。

 特にフリッツには教育上悪くないか?

 

 オレが固まっているの放って、ミアとフリッツはお茶会を終了としたようで、さっさと席を立って片付け始めた。

 

 それならオレも帰ろうと席を立ちかけたら、旦那様からストップが掛かった。

 

 「やあ、カール、久しぶり。君、この後時間ある?今日は早く帰れたから、チーズフォンデュを作って皆で食べようと思うんだ。君も一緒に食べて帰りなよ。」

 「作って?皆で?チーズフォンデュって北の方の郷土料理のアレですか?」

 「お、流石元帝国人。食べたことある?」

 「一度だけ、どこかの夜会にお供で行った時に食べたことがあります。」

 「そりゃ助かる。僕は食べたことがなくてね。レシピはあるけど、聞いただけで作るのは難しいなと思ってたんだ。カール、手伝って!」

 

 旦那様が嬉しそうにやってきて、オレの腕を掴んだ。

 あ、逃げられなくなった。

 

 

 そしてなぜか、公爵家料理人主導のもと、公爵夫妻と使用人達で大量のチーズフォンデュ作りが始まった。

 外出できずに鬱々としている奥様のために、侯爵家の皆でパーティーをしようということになったらしい。

 最初は旦那様が作るつもりだったらしいのだが、流石に数十人分を作ることは不可能ということで、総出での作業となった。

 旦那様は端の方で奥様と自分の分を楽しそうに作っている。

 その横で奥様が椅子に座って簡単な作業を手伝い、時々フリッツが邪魔をしに行っている。

 オレは料理長の横で、昔の記憶を引っ張り出しつつ、チーズフォンデュについて説明した。

 

 ■■

 

 

 周りのテンションが高い。

 ・・・そりゃそうか。普段は掃除したり、給仕したりするだけの場所で今日は食事をしているんだ。

 きらびやかな光と、真っ白なテーブルクロスの上の初めて見る料理。興奮しないほうがおかしい。

 というわけで、オレの周りの使用人達が最初は恐る恐る、慣れてきたら大胆に、チーズフォンデュを楽しんでいる。

 

 太っ腹にも大食堂を皆に開放してくれた旦那様は、上座の方で奥様と一緒に食べている・・・というより、奥様に食べさせている。

 とりあえずそれは見なかったことにして、隣でタンパク質ばっかり食べているデニスに尋ねる。

 

 「なあ、こういうのよくあるのか?」

 「いや、初めてだ。奥様とは時々昼食やお茶をご一緒させていただくが、こんな皆で旦那様も一緒にというのは今までなかった。よほど奥様に外出を我慢させていることを心苦しく思っていなさるのだろう。」

 「なるほど。」

 

 旦那様自身も結構楽しんでいるようではあるけれど、奥様に気晴らしをさせたいと思っているのは間違いない。

 

 「私達は、こんな場所でご馳走を食べさせてもらえて、一生の思い出になったわ。他のお屋敷の子に自慢したいけど、言っちゃだめなんだよねー。」

 

 横のメイドが残念そうに言うも、その顔は笑顔だ。嬉しくてたまらないらしい。

 

 「ここ、昔もそこそこ人気の職場だったけど、結構厳しくてさ。辛くて辞める人が年数人はいたらしいんだけど、今はいないもんね。」

 「そりゃそうよー。だって奥様が来てから雰囲気ががらっと変わったもの。旦那様だけの時はまだ結構ピリピリしてたもんね。」

 「仕事内容も厳しさも変わったわけじゃないんだけど、なんかこう、奥様に気遣ってもらえたり?」

 「あたし、だいぶ前に奥様に、使用人専用通路の使い心地について聞かれて驚いた。」

 「あーそれね。一昨日執事さんと奥様が一緒に通路を歩いて点検してたよ。で、奥様が階段でコケてた。」

 「じゃ、通路とか直して貰えそうだね。」

 「うん、今日業者が見積もりに来てた。」

 「旦那様、許可出すの早っ!」

 「だねー。旦那様はまだ時々怖いけど、以前より随分穏やかになったし?何よりお二人一緒のところを見るのが楽しみ過ぎて!ほんと、ミアが羨ましー。」

 

 オレを置いてお喋りが炸裂しているメイド達。

 メイド達の間では、旦那様より奥様の方が人気があるようだ。

 なるほどねー。奥様ってばやるじゃん。

 

 ■■

 

 

 「あ、音楽だ。」

 

 食事もそろそろ終盤かと思われる頃、誰かのつぶやきとともに隣の大広間から音楽が聴こえてきた。

 

 旦那様が立ち上がって奥様にダンスを申し込んでいる。

 奥様も輝くような笑顔でそれを受け、二人で部屋を移動した。

 え、もしやこれはダンスパーティーなのか?!

 

 二人が踊るところを見たくてついていったら、他の人達もぞろぞろついてきた。

 

 

 最近巷で話題の、音楽を勝手に奏でてくれる箱から流れる曲に合わせて踊っている二人は、普段着でも堂に入っており優雅だった。

 広間の中央の二人を見ていると、今ここで夜会が開かれているようにすら思えてくる。

 

 息を呑んで見守る周囲とともに、オレも最後まで目が離せなかった。

 帝国にいた時に、気軽な夜会にパートナーという飾りとして何度か連れて行かれたことがあるが、こんな綺麗に踊る人は初めて見た。

 何より、二人の表情が幸せそうで見ているこちらまで穏やかな気持ちになる。

 

 あんなに仲が良い夫婦なのに、

 「なんで子供がいないんだろーなー?」

 思わず声に出してしまったその言葉に周りがギョッとしたようにオレの方を向いた。

 隣にいたメイドが慌ててオレの口を塞いで、首を振った。

 

 「仕方ないわよ。ハーフェルト公爵家だもの。」

 「それはどういう・・・?」

 「あ、音楽が変わった!」

 「これってさ、街の祭りの時の曲!私達も踊っていいってこと?!」

 「じゃない?!奥様が手招きしてるもの。」

 

 本当だ。先程までとは打って変わって軽快なテンポの曲になり、奥様と旦那様が腕を組んで元気なステップを踏み踏み、回っている。

 それにつられて、さっきまで見ていただけの使用人や騎士達も踊りに参加し始めた。

 

 流石、夫婦揃って街に馴染んでいるだけあって、こんな踊りまでできるんだな。

 

 オレとしては先程のメイドの気になる発言を深く突っ込んで聞きたかったが、その相手に引っ張られて踊りに強制参加させられてしまった。

 オレはまだ祭りに行ったことがないから踊れないんだが・・・。

 仕方なく見様見真似でステップを踏む。

 まあ、単純で覚えやすいからなんとかなった。

 

 向こうではロッテと料理長、ミアとフリッツ、デニス達もそれぞれメイド達と踊っている。

 皆、とても楽しそうだ。

 

 どさくさに紛れて奥様が旦那様に抱きついているのが見えた。

 

 へえ、奥様から行くこともあるんだ。旦那様の嬉しそうな顔!いいねえ!

 

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

段々公爵家は堅苦しさがなくなっていく・・・。

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