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3−7

※エミーリア視点

 

 

 「ライナーは家族の所に帰れてよかったわね。」

 

 彼等を見送ってぽつりとこぼしたら、私を再度毛布に包み直していたリーンも頷いた。

 

 「君は些か残念だったね。まさか、ライナーのいう『ママ』が祖母のことだったとは。」

 「ええ、まあ、そうね。母親を『お母さん』、祖母を『ママ』と呼んでるだなんて思いもしなかったわ・・・。」

 

 そう、ライナーの『ママ』の灰色の髪は、生まれつきじゃなかった。

 同じ髪色の人に会って何かしたかったわけではないけど、がっかりしたのは確かなことで。

 溺れた疲労もどっと戻ってきて、私は彼にされるがまま、大人しく毛布に包まれて馬車に積み込まれた。

 

 ■■

 

 

 「ミアと・・・フリッツ?!」

 

 車内には侍女のミアとフリッツがいた。

 リーンは私をミアの横に降ろすと、そのまま向かいに腰掛けた。

 私はすぐさま毛布をはねのけてフリッツの手をとった。

 

 「よかった!無事だったのね。」

 「それ、おれの台詞だろ?あんたの方が死にかけたんじゃないか。」

 「あんた、じゃなくて奥様とお呼びなさい!」

 「お、奥様・・・。」

 

 隣のミアから鋭い叱責がとび、フリッツが恐る恐る言い直す。

 向かいのリーンはその様子を見てくすりと笑った。

 

 「ミアがフリッツの教育係になるのもいいかもね。」

 「おれはこんな女に命令されるのは嫌だ!」

 「こら!旦那様に向かってそんな口の聞き方はしない!」

 「いひゃい!やめりょよ!」

 「どういうこと?」

 

 何の話をしているのかと私が首をひねると、フリッツの口を捻りあげていたミアがにっこりと笑って言った。

 

 「旦那様がフリッツをハーフェルト公爵家で雇うので色々教えてやってくれと。」

 

 私は思わず繋いだままのフリッツの手をぎゅうっと握りしめ、リーンを見上げた。

 

 「ええっ!いいの?!」

 「まあ、彼も被害者みたいなものだし、親もおらず、行く所もないと言うから、うちで働きつつ街の学校へ通って色々身につけたらいいかと思って。孤児院も考えたけど、近くにいたほうが君が安心するかなと。」

 「そうね!ありがとう、リーン!・・・でも、フリッツはそれでいいのかしら?」

 

 気になって尋ねると、彼は目を瞬かせた。

 

 「あんた、じゃない、奥様はおれに選択権があると思ってんの?奥様を突き落とした時点でそこのおっさん、じゃない、旦那様に斬られるか牢にぶち込まれるかの二択しかないと思ってたんだから、おれは喜んで雇われるぜ。」

 

 おっさん・・・?とリーンが呟く声がしたが、そこはスルーした。

 フリッツはいいと言うけれど、その選択の仕方は消去法でしかない。

 

 「フリッツ、私達は貴方が望めば他の選択肢も用意することが出来るわ。」

 

 フリッツの目を覗き込んで提案すれば、彼は盛大に首を振って拒否した。

 

 「嫌だ。おれは奥様の所がいい。あんなひどいことしたのに怒らないし、助けようとしてくれたのあんただけだもん。」

 「わ、私だって怒るときは怒るのよ?!」

 「彼女が本気で怒ると結構、怖い。」

 

 遠い目をしてぼそりと呟いたリーンをちらりと見て、ね?とフリッツに向かって胸を張る。怒らない聖人みたいな人に思われるのは心外だ。

 だが、彼は全く気にした様子がない。

 

 「いいよ、別に。奥様が怒ってもおれは怖くないし。それに奥様はおれを殴らないだろ?」

 

 それはしない、と頷くとフリッツは笑った。彼の笑顔は初めて見たわ。私もつられて笑顔になる。

 

 「ところで、いつまで手を繋いでるの?」

 

 リーンが不満そうな声を出すと、フリッツがぎゅっと私の手を握り返しながらミアへ告げた。

 

 「さっきから思ってたんだけど、奥様の手が凄く熱くなってきてる。貴族だから?」

 「そんなわけあるか!早く言えよ!」

 

 ミアよりリーンの方が反応が早く、私の額に手を当てるなりフリッツから引き離し、目にも止まらぬ速さで毛布に包んだ。

 

 「エミィ!自分の不調に気づいて?!ミア、彼女、高熱が出てる!」

 「奥様〜。まあ、熱を出すだろうなと思ってましたけどね。旦那様、大丈夫ですよ、屋敷にお医者様呼んでますから。」

 

 

 ミアの言葉通り、屋敷についたらかかりつけの医者とロッテが玄関で待ち構えていて、私はあっという間にベッドに放り込まれた。

 

 ■■

 

 

 「こうなるのが予想できたのに、止めなかった僕のせいだ。ごめんね。」

 

 診察後、様子を見にきたリーンが悲しそうに謝ってきた。

 

 「そんなことない。私がわがまま言ったせいだから。いつも私の気持ちを優先させてくれてありがとう。」

 「本当に君はいつもそうやって僕を甘やかすんだから。・・・でも、今日のことは後悔してる。僕は君を守りきれなかった。」

 

 そう言って酷く落ち込んだ彼は、私の横に顔を伏せた。

 私は布団から手をだして彼の頭を撫でる。悄気げてる彼にはこれが効く。

 

 「いいえ、貴方は私をちゃんと守ってくれたわ。フリッツが私を突き落とすなんて、誰も想像できなかった。あれは防げなかったと思うの。」

 「それでも、僕は彼を怪しんでたのに!君と一緒にしておくという愚を犯してしまった・・・悔やんでも悔やみきれない。」

 

 ああ、やっぱり彼は、最初からそう思ってたんだ。私が一緒にママを探そうなんて言わなければ、こんなふうに落ち込ませることもなかったのに・・・。

 

 「そういえば、どうしてフリッツが怪しいと思ったの?」

 

 今後の参考に、気になっていたことを尋ねた。

 

 「明らかに貴族女性の君に弟が寄って行ったら、大体は即座に抱きかかえて逃げるもんだよ。」

 「そうなのね。」

 「貴族とは関わらないほうが安全だと思ってる人は多い。エルベも元々はそんな感じだったんだけどね。君が気軽に接するものだから変わっちゃったね。」

 「他の街に一人で行くなというのは、そういうことだったのね。」

 「君は目立つから狙われやすいし、人を疑わないから危ないんだ。」

 「今度から気をつけるわ。」

 「うん・・・君の性格だと難しいとは思うけどね。」

 

 私だってやればできるはずと思いつつも、頭がぼんやりしてきて、もう何も考えずにふわふわの彼の髪に触れている内に、ふっと口から溢れた。

 

 「私、生きててよかった。私が死んだら、こうやって貴方を慰める人がいなくなっちゃうものね。」

 「そうだよ。ねえ、エミィ。たとえ人質になっても自分から死のうなんて思わないでね。僕は何があっても君を助けに行く。だから、生きて待ってて。」

 「うん、わかった・・・」

 

 実際は助けにこれないことも、私を見捨てなければならないこともあるだろうけど、彼がそう言ってくれるだけで、私は嬉しかった。

 そっと顔を傾けて、こぼれそうになった涙を枕に吸い込ませた。

 

 その気配に顔を上げて私を見つめた彼は、自分の頭の上の私の手をとって口元に寄せ、顔をしかめた。

 

 「また熱上がってない?もう僕も出て行くからしっかり休んでね。」


 そう言って勢いよく立ち上がり、私の頭に軽く触れた彼は力強く宣言した。

 

 「よし、二度とこんなことにならないように、君を人質にして僕を操ろうなんて馬鹿げた考えをおこした奴を徹底的にぶっ潰してくる。それまで君は屋敷から出ないように!あ、チーズフォンデュは治ってから一緒に食べようね。」

 

 そのまま気合いを入れて部屋を出ていく彼を私は呆然と見送った。

 ・・・今、さらりと外出禁止って言わなかった?

 まあ、こんな体調では出掛けられないんだけど、ねえ、リーン、それっていつまで?!

 

 

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

意外な真実、というほどでもないか…。

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