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3−2

※ほぼエミーリア視点

 

 

 「・・・というわけで、今メニューを考えているのだけど、何がいいと思う?アレクシア。」

 「エミーリア、それは私が考えちゃだめなやつでは?貴方が食べたいものをリーンハルト様は作りたいわけでしょ?」

 「そうなんだけど、いざそう言われたら何をリクエストしていいかわからなくなって。」

 「悩みまくって私のところに持ち込んできたと・・・。」

 「・・・ごめんなさい。」

 

 しょぼくれた私を眺めて、学園時代からの唯一の友人であるヴェーザー伯爵夫人アレクシアが苦笑した。

 

 「それにしても相変わらずねえ、貴方の夫は。社交界でもすっかり溺愛公爵閣下の通り名が定着してしまっているものね。溺愛されまくる気分はいかが?」

 「うーん、そう言われても比較対象がないからわからないのよ。アレクシアのところはどうなの?」

 

 比較対象、と呟いたアレクシアは私に目の前のお菓子を食べるように勧めてから、自分も一つ口に入れた。

 しばらく二人で味わってから、同時にお茶を飲む。

 

 「うちは忙しい夫が私のために料理を作るといい出したり、四六時中私を構ったりはしないわよ?」

 「うちだって、四六時中は構われないわよ?!お仕事あるし。」

 「屋敷にいる時はずっと構われてるんでしょ?」

 「ずっとじゃないわよ・・・来客もあるし。」

 「何もない時はべったりいるんでしょ?」

 「べったりってわけでもないわ。じゃあ、貴方の夫のヴェーザー伯爵様は何もない時はどうしてるの?」

 「色々。子供の相手をしたり、邸内を見回ったり、趣味の乗馬にでかけたり、読書したり。」

 「アレクシアは一緒にしないの?」

 「したりしなかったりね。そう聞くということは、貴方達は全部一緒にするのね。ほら、屋敷にいる時は四六時中一緒じゃない。」

 

 カップを置くとともに言われた台詞に私は反論したが、全て打ち返された。

 

 確かにリーンは邸内の見回りは散歩と称して私と行くし、乗馬ももちろん私を乗せていくし、読書は・・・私の膝枕や、私を自分の膝に乗せてしていることが多い・・・。

 あれ?これは普通じゃないの?

 

 恐る恐るアレクシアに尋ねると、

 「予想以上の愛されぶりで素晴らしいわね。」

 と返されてしまった。

 えええ、皆同じじゃなかったの?

 絶句した私にアレクシアがにこにこと宣う。

 

 「いいのよ、貴方達はそのままで。誰かに迷惑をかけているわけでもないし。」

 

 そういう問題じゃないと思うんだけど。私はもう少し他の夫婦のことを調査しようと決めた。

 

 ■■


 「帰る前にイザベルに会っていく?こないだ歩いたのよ。」

 「え、もう?!すごいわね!」

 「一歳過ぎたしそんなものよ。」

 

 そう言いながらもアレクシアは嬉しそうだった。それに彼女は子供の話をする時には優しい母親の顔になっている。

 それが私には羨ましくてたまらなかった。

 

 私には、なかなか子供が出来ないし、たとえできたとしても母親になれる自信がちっともないから。

 子供が出来たとき、自分がどうなるか想像がつかなくて怖くて、出来なければいいのにと思ってしまうことがある。

 これはリーンにも言えない。

 言ったら嫌われるような気がして、子供の話が出そうになると話をそらして逃げてしまう。彼のことだから多分、気がついているだろう。いつかちゃんと話し合わなければならないと思ってはいる。

 

 

 アレクシアとギュンター様の子供は、両親のいいところをもらって生まれてきた、かわいい女の子だった。

 父親似の薄茶の髪に母親似の大きな青い目。

 アレクシアを見つけて、両手を目一杯伸ばして抱っこしてと訴えている。

 

 「かわいいわねえ。」

 

 うっとりとそう呟くと、アレクシアが明るく笑って、抱き上げた娘を私に渡そうとしてきた。

 思わず後退る。

 だって、小さな子供なんて抱っこしたことないし、落としたら怖い。

 

 「エミーリア、イザベルは随分大きくなったし、大丈夫よ。それでも心配なら、座って抱っこしてみたら?それなら落とす心配はないわよ。」

 

 産まれた時にも抱っこする?と聞かれたが、まだ小さ過ぎてぐんにゃりしていて、恐ろしくて出来なかった。

 今日は大きくなってるし、座ってなら出来る、だろうか・・・?

 

 恐る恐るソファに深く腰を下ろしてからイザベルを受け取って膝に乗せる。

 

 温かくて重いわ!その柔らかさに感動していたら、イザベルの不思議そうな青い目と目があった。

 途端、彼女の顔が歪んで口が大きく開いて、耳がつんざけそうな泣き声が響き渡った。

 

 んぎゃあああああああ!

 

 「イザベル?!どうしたんだ!何があった・・・!」

 

 すかさず開かれた扉から飛び込んできたのは、城にいるはずのヴェーザー伯爵その人だった。

 え、父親になったら愛娘の泣き声で瞬間移動出来るようになるものなの?

 イザベルが落ちないように手で支えているアレクシアも目を丸くして、突然現れた夫を見つめている。

 

 「あっ・・・ハーフェルト公爵夫人・・・お久しぶりです。」

 

 イザベルを膝に乗せて驚く私と目があったヴェーザー伯爵は動揺した。

 大事な娘を泣かせたのが私だと知って、どう反応していいのかわからないらしい。

 

 「お久しぶりです、ヴェーザー伯爵様。あの、お邪魔しております・・・。イザベルを泣かせてしまって申し訳ありません。」

 

 私は慌ててイザベルをアレクシアに戻す。イザベルはあっという間に泣き止むとご機嫌になった。

 そんなに私が嫌だったの?!私はひどくショックを受けた。

 

 「多分、人見知りなだけだから気にしないでね、エミーリア。色んな人に抱っこされてるから大丈夫だと思ったんだけど、初めての人は難しいみたい。」

 

 まさか、イザベルがここまで嫌がるとは思っていなかったのだろう、アレクシアはひどく申し訳なさそうに慰めてくれた。

 

 ありがとう、アレクシア。でもあんなに泣かれるなんて、直ぐには立ち直れないわ・・・。

 

 なんとか笑おうと顔をひきつらせていたら、ここに居てはいけない人の声が聞こえてきた。

 

 「エミィ、そんなにショックうけないで。仕方ないよ、これくらいの子は人見知りするもんだよ。ね、ヴェーザー伯爵夫人。お久しぶり、お邪魔してるよ。」

 

 隣から、げ、出た!という声が聞こえたような気がしたけど、アレクシアは笑顔だし、気のせいよね?

 

 「リーンハルト様、ご無沙汰しておりますわ。エミーリアのお迎えですか?そんな、わざわざ来ていただかなくても、ちゃんと時間に送り出しますのに。」

 「仕事が早く片付いたから妻と一緒に帰ろうと思って、ギュンター殿に頼んで一緒に乗せて来てもらっちゃった。イザベルもお父様が早く帰ってきて嬉しいよねー?」

 

 アレクシアの腕の中から不審気な視線を向けてくるイザベルに、指を握らせて微笑みかけるリーン。

 傍目にはとてもいい光景に見えるのだけど、アレクシアは胡散臭いものを見るような目を彼に向けている。

 あら、この二人は仲が悪かったかしら?そんなはずはないのだけど。

 

 何だか冷気が漂うアレクシアとリーンの会話に、ウェーザー伯爵もおろおろしている。

 せっかく早くに帰宅されたというのにお気の毒だわ。私がさっさとリーンを連れて帰って、親子の時間を作ってあげないと。

 

 「アレクシア、今日はありがとう。リーンが迎えに来てくれたことだし、私達はこれでお暇するわ。今度は泣かれずに抱っこ出来るように練習してくるわね!」

 「私はもう少し貴方と話したかったのに。またお話しましょうね、エミーリア。リーンハルト様、次は迎えに来ないでくださいね。」

 

 同級生の気安さで身分を気にせずバッサリ言うアレクシアに、ヴェーザー伯爵が青くなったが、リーンは全く気にせず、約束はできないなと笑って返していた。

 

 

 ■■

 

 「もう!私のエミーリアが連れて行かれちゃったじゃない!ギュンター様、連日お帰りが遅かったのに、今日に限ってどうなさったのよ?!」

 「すまない。昼過ぎに王太子補佐殿がやってきて一緒に屋敷に連れて帰って欲しいと言われて、そのまま俺の仕事が終わるまで後ろに座って待っておられるものだから。もう死にものぐるいで必死に片付けたんだ・・・。」

 「それは酷いわね・・・。心労お察しするわ。はい、イザベルで癒やされて頂戴。」

 「ありがとう。ああ、イザベル、お父様はあの方の圧でちょっとハゲそうだったよ・・・。お母様はあの冷気に負けず、堂々と言いたいことが言えてかっこいいよな。」

 「まあ、かっこいいだなんて。私はあの二人とは学生時代からの付き合いで気兼ねがないだけです。リーンハルト様も別に気楽に接していいと言ってくださっているので、ついエミーリアを取り合ってしまうのよね。」

 「それでもあれだけ言える君を尊敬するよ・・・。」


 

ここまでお読みいただきありがとうございます。

久々のアレクシアの登場でした。お子さんは武芸に秀でた娘になると思われます。

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