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3−1

第三章スタートです。

今回は、ちょっとシリアス風味です。

※リーンハルト視点

 

 

 「エミィ、おはよう。」

 「んー・・・おはよう・・・。」

 

 僕が目を覚ますと、妻が隣で枕を抱えて座っている。これは毎朝のことで、彼女は朝に極端に弱いため、起床時刻の二時間前には起きてひたすらぼーっとしている。

 

 この起きているのか寝ているのか、曖昧な状態の彼女がたまらなく愛らしいため、自然と僕も早く起きて構ってしまう。

 

 今朝も彼女はベッドの上で正座し、抱きしめた枕に顔を埋めて半分微睡んでいる。その様子を下から眺めていたら、我慢できなくなった。

 

 「エミィ・・・。」

 

 起き上がって彼女の頬に手を添えたら、ばふっと顔面に枕を押し付けられた。

 酷い・・・まだ何もしてないのに。

 

 「キスくらい、いいでしょ?」

 

 覗きこんでねだったら、うっすら赤くなったエミーリアが枕を盾にしながら首を振った。

 

 「だめ。リーンってば、昨日もそう言って結局、その、キスだけじゃなかったじゃない!おかげで起きたの昼前で、貴方のお見送りは出来なかったし、午前中の仕事は午後にずれ込むしで大変だったんだから!絶対、だめ!」

 

 そんなこともあったっけね。でも思い出したら余計に止まらなくなったんだけど。

 

 「別にお見送りは必須じゃないし、仕事は僕も手伝うよ?君が可愛すぎるのが原因なんだから覚悟決めなよ。」

 「いーやっ!お見送りは私がしたいの!私は可愛くなんてないから覚悟なんて決めないっ・・・」

 「はいはい。じゃあ、僕が出掛ける時に起こせばいいのかな。」

 「・・・いや。朝食も一緒に食べたいもの。」

 「なるほど。分かったよ。」

 

 ここまで言われて、止められる人っているのかな?

 僕は彼女を枕ごと抱き寄せて、ゆるく一本に編まれた髪を解き、そこに顔を埋めた。彼女の匂いに包まれると安心する。

 そのままふわふわの灰色の髪を手で梳いて口づける。

 

 昨日と違うアプローチに、ふっとエミーリアが身体の力を抜いた。

 僕はすかさず彼女から枕を取り上げ、腰に当てた手を滑らせてベッドに寝かせる。

 急に九十度まわった視界に彼女の目が見開かれた。

 

 「リーン?!」

 「うん?分かってる。一緒に朝食を食べて、見送ってもらえるならいいんだよね。午後から行くことにしたから大丈夫だよ?」

 

 慌てふためく彼女の口を塞いでそのまま溶かしていく。

 毎朝、彼女を落とす難易度が上がっていく気がするけど、それもまた楽しい。

 明日はどうしようかなあ。

 

 ■■

 

 

 妻が複雑な顔をしている。

 強行突破した僕と、最後まで突っぱねられなかった自分への怒りで、どうしていいかわからなくなっているらしい。

 

 「エミィ、そんな顔しないで。せっかくの綺麗な顔が勿体ないよ?」

 「もう、何言ってるの!また昼前よ。明日こそ、いつもの時間に起きるんだから!」

 

 頬を膨らませた彼女を眺めて僕は笑う。

 彼女の母親や周囲の悪意ある噂で刷り込まれた『自分は美しくない』という、その思い込みはいつまで続くのだろう。

 

 彼女には自分が美しいということを知って欲しいと思っていたはずなのに、自覚しないままでいて欲しいという気持ちが最近、僕の中で膨らんできている。

 

 彼女が自分の美しさを自覚したら、僕は捨てられやしないだろうか。

 それが怖くて、僕は他の男達からの賞賛を彼女の耳に届かないように、彼女を囲い込んでいる。彼女に美しさと愛を囁くのは僕だけでいい。

 それでも日々綺麗になる彼女を抱いて、自分の腕の中にいることを確認しないではいられない。

 

 「・・・リーン?起きましょ?」

 

 半身を起こして澄んだ灰色の目で見下ろしてきた彼女へ向けて腕を伸ばす。

 胸の中に閉じ込め直して尋ねる。

 

 「エミィ、僕のこと好き?」

 「好き。愛してるわ。」

 

 ぎゅっと彼女に抱きしめられて僕は安堵する。

 

 うーん、流石にもう一度は本気で怒られそうだな・・・。夜まで我慢しよ。

 

 

 ■■

 ※エミーリア視点

 

 

 「え、私が食べたい物?」

 

 不本意ながら、リーンと朝食兼昼食を食べている時、突然尋ねられて私は首を傾げた。

 料理長にはよく聞かれるけども、彼から聞かれるのは珍しい。

 もしかして、最近休みが取れない彼が気を使って、今度のデートに行きたいお店を聞いてくれてるのかな?

 

 「そうね、新しくできたワッフルのお店はどう?」

 

 何度か店舗の前を通って、いい匂いに惹かれていたのよね。

 そう返した私に、彼は首を振った。

 

 「残念ながら、街へ行くデートはまだ当分できそうもないんだ。ごめんね。だから、代わりといっては何だけど、僕が君に何か料理を作って食べてもらいたいと思って。」

 「え?!」

 

 給仕していた使用人達も、ちょうど最後の果物を挨拶がてら持ってきた料理長も、私の後ろにいたミアとロッテも、一斉にリーンへ顔を向けて固まった。

 

 今、この人なんて言った?公爵閣下本人が料理をして、妻に食べさせたいとか、言いました?

 私は思わず扉の前にいる料理長に向かって、

 「料理長、それはありなの?」

 と尋ねてしまった。

 

 「旦那様のご希望とあらば、いつでも可能といえば可能でございますが・・・。」

 

 料理長は模範的回答を返してくれたが、顔にはマジか?!とデカデカと書いてあった。そりゃそうよね・・・。

 

 そんな皆の視線に怯むことなく、リーンはにこにこしながら私を見つめている。

 

 「前に、君と一緒にクッキーを作る手伝いをしたでしょ。その時に僕が型を抜いたクッキーを嬉しそうに食べていた君を見て、いつか僕が全部作った料理で笑顔にさせたいなあと思ったんだよね。最近、忙しくて一日まるっと休みが取れないし、料理なら帰ってからでもできるかなって。」

 

 なるほど、と皆が頷いているけど、ちょっと待って?

 どう考えても、休みがないほどに忙しい夫が妻に料理を作るなんておかしいでしょ?

 それなら、私が彼に作ってあげるほうがいいんじゃないかな。

 そう思いついた私は、彼に言ってみた。

 

 「それなら、忙しい貴方に、私が料理を作ってあげるわ。そうしましょう?」

 「それはだめ。」

 

 いいと思った自分の提案をすぐさま却下されて、私はむくれた。なんでよ?

 すると彼は困ったような笑みを浮かべて私の手をとると、自分の口元に持っていった。

 

 「大事な君が刃物を持ったり、火を使うことを想像しただけで僕は心配でたまらないから、料理はだめ。分かってくれる?」

 

 わかりたくないけど、本気の目で見つめられて私は頷く他なかった。

 そんなこと言ってるから、世間で『溺愛公爵』なんてあだ名で呼ばれちゃうのよ・・・。

 私は彼の愛に溺れちゃわないようにしっかりしないと。

 

 「じゃあ、私は料理を作ってくれる貴方を見ていてもいいかしら?」

 

 私だってリーンが怪我しないか、心配なんですからね!という気持ちを込めて聞けば、彼は嬉しそうに頷き返してくれた。

 

 「いいよ。でも、安全な場所で見ててね。」

 

 なんだか、すっごく遠くからしか見させてもらえない予感・・・。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

今回から閑話も入れて、話数を通しにしました。

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