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2−5

※ほぼエミーリア視点


「・・・ねえ、私達は何を見ているのかしら?」

「溺愛公爵閣下の浮気現場・・・?」

「これってヤバくない?口封じに殺されるかも。」

「それより、王太子補佐様には幻滅だよ。奥様一筋だと思ってたのに、メイドと浮気だなんて!溺愛もフリだったんだわ。こうなると他にも手を出してそうだよね。」

「わざわざ臨時雇いのメイドと浮気するくらいだから、あちこちで後腐れない関係を結んでつまみ食いしまくってるとか。うわあ、すっごいネタだわ。」

「これ、広まったらどうなるかなあ。王太子補佐の評判ガタ落ちだよね。」

「それより傷つくのは奥様でしょ。まだお子様がおられないのが痛いわよね。離縁するのかなあ。」

「しないでしょ。所詮、浮気よ。あの地位をみすみす捨てるのは勿体ないわ。私ならしないわね!」

「ねえ、盛り上がってるところ悪いんだけど、冷静になって?」

円陣を組んで興奮していたメイド達は、口を閉じて発言者に注目する。

「王太子補佐様が本当に浮気しまくってたなら、すでに噂になってると思わない?だって相手はあの顔良し、身分良しのハーフェルト公爵閣下よ?女のほうが舞い上がって秘密と言いながら喋っちゃうでしょ。」

「そうかもー。」

「じゃあ、私達の目の前で行われているあれはどうなのよ?!」

「そこを、逆に考えてみるのよ。」

「逆に?」

「そう。元々、あのミリーとかいうメイドは怪しかった。その彼女に対して王太子補佐様はああいう行動にでた。王太子補佐様は奥様を溺愛なさっている。これらのことから導き出されることといえば?」

「まさか・・・。」

「あんたが言いたいことって、もしや・・・。」

「えっ、ミリーはハーフェルト公爵夫人なの?!」

「ああ、ウータが言っちゃった。」

「マジかー!」

「でも、それならしっくりくるわね。」

「あれ、公爵夫妻かー。あっま!溺愛公爵閣下の名に恥じない甘々っぷりね。」

「ミリーといるときの顔が終始穏やかで幸せそうだったもんね。浮気相手にする表情じゃないや。」

「あー、心配して損した。仕事しよ!」

三々五々、バラけて行くメイド達。

一人立ち尽くしているウータがポツリと呟く。

「じゃあ、私達はハーフェルト公爵夫人に窓拭きをさせて、使えないとこき下ろしたわけ・・・?」

「あっ!」「うっ!」「げっ?!」

■■

「ああ、そうだ。エミィ。」

「ん・・・なに?」

キスの途中でリーンが囁いてきた。

もう頭がぼんやりしていた私は拘束が緩んだことで座り込みそうになり、彼の腕にすくい上げられる。

「大丈夫?」

「誰のせいだと・・・!」

「僕のせいだね、ごめん。あのさ、僕は何があっても浮気なんてしないから、安心してね。これを言っておこうと思って。」

言葉だけの約束なんて、いつでも反故にできる軽いものだ。でも、彼は今までずっと口約束でも守ってくれた。だから信じていい。

「ええ。絶対にしないでね。すごく、心が痛かったから。」

正直にさっきの気持ちを告げて、私は彼の首にぎゅっとしがみついた。

もうあんな思いはしたくない。

「エミィが嬉しいことを言って、さらに自分から抱きついてきてくれるから、久々にアレが・・・!」

そう小さく叫んだリーンが、私から離れてその場に膝をついた。

どこから取り出したのか、早業で顔にタオルを当てている。

「本当に久しぶりね。三ヶ月ぶりくらい?」

隣にしゃがみこんで聞けば、タオルからくぐもった声が聞こえてきた。

「それくらい、かなぁ。前は何だったっけ。ああ、一ヶ月ぶりに会った夜か・・・。」

話している間にもタオルが真っ赤に染まっていく。

彼は私が好きすぎて、婚約した頃から会うと熱を出したり、鼻血を吹いたりしていた。それを隠したい彼に距離を置かれ、私の母の妨害もあり、私達は一時期目も合わさない関係だった。

そんな関係が辛くて、婚約破棄に奔走したりもしたけれど、結局、私達はお互いが好きだということが確認できて、結婚した。

そして、随分頻度は減ったけれど、未だに彼は鼻血を吹く。

大変そうだな、と思いながらも私は彼が症状を出すたびに心の中で安堵する。

大丈夫、彼はまだ私を好きでいてくれている、と。

「リーン、治まった?」

ソファで休んでいる彼の顔を覗き込むようにして声を掛ける。

「ん・・・あれ、エミィ着替えちゃったの?髪も戻ってるし。」

「ええ、隣の部屋に換えのタオルを探しに行ったら、なぜか、私の着替えがあったので。ついでにタオルも借りて髪も戻させてもらったわ。」

とりあえず、着替えて濡らしたタオルで髪をゴシゴシ拭いて色を落としたのだ。

まだ湿っていて下ろしたままの私の髪に彼が手を伸ばして触れる。

「黒髪の君も綺麗だったけど、やっぱり灰色の髪のほうが君らしくて好きだよ。」

わあっ!そういうことをさらりというのやめて!反応に困るから。

夫なんだから、言われ慣れてると思うでしょうが、それは間違ってる!

こういうのはどれだけ言われても恥ずかしいものなの!

心の中でジタバタしていると、

「エミィが真っ赤だ。本当にいつまでも慣れないね。そこもかわいいんだけど。」

リーンが追い打ちをかけてきて、私は撃沈した。

「奥様、なんで私が行くまで待っていてくださらなかったんですか!力任せにゴシゴシ擦ったでしょう、髪が傷んじゃってますよ!」

「ごめんなさい。時間があったから先に一人でやったほうが効率的かなと思って・・・。」

あの後直ぐにやって来た侍女のミアによって私は怒られている。一人でできるからといって、髪までやったのは不味かったらしい。

帰ったらすぐお手入れしなきゃ、とミアがぶつぶつ言っている。

公爵夫人というものはいついかなるときでも美しさを保ち、機知に富んだ会話をし、冷静であらねばならないらしい。

まさかに、街で泥だらけになったり、メイドになって窓を拭いたりしてはいけないのだ。

私はそれを許してくれる夫で本当に良かったと心の底からそう思う。公爵夫人を真面目にやってたら気がおかしくなってしまう。

「ミア、エミーリアの髪はまとめられた?お説教の続きは帰ってからにしてもらっていいかな。」

にこやかに割って入ってきたリーンは、そう言いながら私の手をとって椅子から立ち上がらせてくれた。

そして、上から下までチェックすると満足げに頷いた。

「うん、いつもの僕の奥さんだ。ありがとう、ミア。髪を下ろした君も素敵だけど、他の人には見せたくないからね。」

リーンといると、いつも顔が赤い気がするわ・・・。

帰邸のために馬車に乗る時、ウータの言ったことを思いだして見える窓を探してみたけれど、彼女を見つけることはできなかった。

また会いたいな、と未練がましく馬車の窓から探していたら、体が宙に浮いた。

「なに?!」

「さて、屋敷に着くまで恋文について話をしようか、奥さん。」

にこにこ笑っているけれど、目が真剣な夫の膝にのせられた私は激しく動揺した。

「恋文・・・?えっ、なんで知ってるの?!」

「なんで僕に隠してたの?」

「・・・だって、リーンに言ったらデニス達に預けろって言われると思って。リリーの気持ちが詰まった大事な手紙だから、自分で持って行きたかったの。」

大きく息をついた彼が、私の胸に顔を埋めるようにして抱きしめてきた。

ちなみに私の胸のサイズは普通だと思います。

「止めないから、次は事前に教えて。義姉上が君が自身の恋文を渡しに行ったように言うから、僕の寿命が縮んだよ。」

「まあ、アルベルタお姉様に聞いたのね。悪かったわ、次は私から言うわね。」

「約束だよ?じゃあさ、減った寿命を戻すために僕に恋文を書いて渡して?君からのが欲しい。」

「私が貴方に恋文を書くの?!」

「楽しみにしてるね!」

えええ、そんなもの書いたことないわよ!とんだとばっちりだわ。


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