職場に女性がやってきた!!
天の声が聞こえた。
これからは男女平等だーっ!!
翌日から一斉に世界は男女平等になった。
ねぇママ、女の人も働きに行くの?
そうよ、人権なのよ。
お父さんも今日から女の人と働くの?
ま、まぁな。
ん!?どうして困っているの??
いやあ、どうしたものかと。
あー!パパ顔が赤いぞ!
あら、あなた、そんなつもりじゃないでしょうね?
そ、そんなつもり全く無いよ!!
パパやっぱり顔が赤いー!
もう、よせったら。
今日はあちこちの家から男女が平等に出てくる。
共に出勤しているのだ。
バスも電車も更に満員である。
太郎の会社にも女性がやってきた。
太郎は胃が痛くなった。
廊下で女性とすれ違う時は通路の端の端までよらなければならない。
女性とあまりに近い距離ですれ違ったり、目が合うとセクハラになるのだ。
仕事が始まった。
女性が困っていた。自分が何に困っているかわかっていない感じで右往左往していた。
太郎は遠巻きに観ていた。
他の男子社員たちも遠巻きに見守っていた。
女性が困っているときに勝手に手助けするとセクハラになるのだ。
女性達は自分の仕事を自分で解決するまで試行錯誤する権利があるのだ。
その間業務の進行は停止したままだ。
しかし人権には代えられない。
女性がヘルプを自主的に求めてくるまではじっと待たななければならないのだ。
かといって待ちすぎて放置と思われてしまうと、これも厄介だ。
男社会が示し合わせて自分を無視していると思われてしまうと、これはパワセクハラになってしまう。
太郎は女性の動きを目の端で追った。
まっすぐに正面から追うとパワセクハラかつモラハラになってしまうのだ。
そこでオフィスをあちこち移動し、男子社員と打ち合わせをするふりをしながら、方向転換するときにさっと女性に目をやってその進行状況を見守った。
女性はしばらくは激しく動き回っていたが疲れてしまったようで別の仕事を始めた、かと思えば、また何か女性ならではのアイデアを閃いたようで廊下へ走っていった。
太郎は深呼吸した。
女性が戻ってきた時に理解しやすいように必要な書類をさりげなく揃えておいた。
これもあからさまにデスクの上に置いたりしたら警察に突き出されてしまう。
そこで慎重に女性の動きをシミュレーションして棚の上、床の上、書類と書類の間に、あたかも誰かが忘れたかのように設置した。
女性が明るい顔で戻ってきた。彼氏とのアプリ通信を楽しんだようだ。
仕事中でもプライベートの充実を忘れない、それが女性スタイルなのだ。
太郎は疲れた。休憩室に入ろうとすると女性がいた。
他には人が居ない。太郎は女性から遠くにある対角線上の席に座ろうとした。
女性がチラッと目を上げて、また目を伏せた。
太郎は慌てて退散した。
校舎裏ならぬオフィス裏でコーヒーをすすった。
深呼吸して資材ルームへと向かった。
資材置き場に女性が居た。資材を探しているようだ。
声をかけることはできない。資材を探すのは女性の大事な仕事だからだ。
これを邪魔することは女性の人格の充実を阻害することになる。
太郎は置き場から出た。
そしてぐるっと辺りを一周した。戻ってみるとまだ女性が探していた。
太郎が目指す資材はその女性が探している棚のすぐ隣の棚にあった。
これが男子社員なら「ごめんよ!」と言いながら脇の下から手を伸ばして掴んでこれる。
やむを得ずもう一度辺りをぐるっと回って戻ってみると、女性はまだ選んでいた。
資材を並べて、どれが最も最適なのか思案しているようだ。
じっくりと選んで、これだ!というものを心から納得して選択することで女性の人格は磨かれるのだ。
太郎は今日は資材をあきらめることにした。
オフィスルームに戻ると男子社員たちが少々厳しい目で太郎を見た。
「どこ行ってたんすか!?資材取ってくるだけなのに。」
若手の声に棘がある。
太郎はうつむきながら言った。
「実は女性がいて……」
皆の顔が柔くなった。
「それはしょうがない」
精鋭チームを選抜することになった。
実績から選ぶとみんな男になってしまった。
これでは男女不平等だ。
女性を同じ数だけ揃えることにした。
仕事が勢いに乗ってきた。
よーし、ガンガン行くぞー!!
女性のペースがみるみる落ちてきた。体力が尽きてきたのだ。
同じことをするとどうしても男女では体力差がある。
女性たちのペースに合わせているうちに男たちの顔にも疲労がにじみ始めた。
息を詰めて走り抜く時に歩くと余計に疲れてしまうのは仕事も同じだ。
(男だけだったらこんなに疲れることはないのに)
男たちはそう思ったが、これは女性蔑視になると思ったので首を振って霧散させた。
太郎はパワード・スーツを人数分用意した。
中堅が太郎の腕を引いて廊下へ連れ出した。
「チーフ、これ人数分あるけど……」
「女性たちの分だよ。これを来て作業してもらったらいいと思って」
「ダメですよ!!」
「どうして!?」
「女性だけにパワードスーツを来て仕事しろなんて差別じゃないですか!!」
女性たちが騒ぎ始めた。
「どうして女性だけが着なきゃいけないんですか!?」
「差別ですよこれ!」
「女性は男性より劣った存在だから、とでも言うんですか!?」
「女性だけがパワードスーツを着て楽をしろ、なんて前時代的ですよ!」
「私、フェミ○スト団体にアプリ通信する!すぐに来てくれるし、デモもしてくれる!」
女性たちは女性ならではの団結力を発揮し一斉に叫び始めた
「さーべーつ!さーべーつ!」
「じーんけんっ!じーんけんっ!」
男社員たちがそれを聞いてさっと青ざめた。
フェ○ニスト団体!?
誰もが恐怖に顔をひきつらせた。
中堅が太郎の元に駆け寄ってささやいた。
「まずいですよこれ。明日には、いやもう今夜にもでも『ゴーゴーちゃんねる』にスレが立ちます。全国のネットイナゴどものターゲットにされて『電凸攻撃』を食らわされます。業務が麻痺してしまう。取引先にも嫌がらせが及ぶしま○めサイトにまとめられて、ハイエナみたいに民放各局も群がってきます!!」
その顔は青ざめ、唇は震えていた。
(わかっているよ)
(わかってないですよ!)
そんな問答の最中にも女性たちの険しい目は揺らぐこと無く一斉に太郎に注がれ続けていた。
太郎は言った。
「いやいや、これは人権を尊重したレディファーストだよ。男たちの分もちゃんとある」
やがて男女公平に同じ数のパワードスーツが配布された。
太郎は言った
「必要な人は必要な分だけメモリをひねってパワーに助けてもらってください。いらない人はそのままでいいから。それが個性の尊重であり、多様性だからね!」
女性たちは満足げにうなずくと全員がメモリを最大レベルにまでひねっていた。
太郎は男たちにウインクした。
男たちもそれぞれにパワーをひねると仕事にかかった。
中堅が太郎に「うまくやりましたね」と小声で囁いたのはパワー仕様になっているのは女性たちのスーツだけだったからだ。