働く奴隷
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「おいっ!しっかりしろ!」
ガルバは大声と共に頭へ飛んできた拳骨に頭を揺らされてぐらりと傾いた。
「痛っ!何するんですか?!」
「馬鹿野郎!俺の話を聞いているのか?!ぼんやりしていると岩に潰されるぞ!」
拳骨を飛ばしてきてのは兵士のアイブだった。彼は話しかけても反応しないガルバに頭にきて叱りつけた。考え事をしていたガルバは、頭を叩かれて我に返りすぐに頭を下げた。
「す、すいません・・・。」
「気合いを入れろ!全く、あと少ししたら伝令に出すからな!」
「はい、・・・了解しました。」
ガルバは頭をさすりながらアイブに返事した。
城壁の陰に隠れている二人は肩を並べて座っていた。昨日の籠城戦では大弩弓の活躍でゲレノア軍の投石機を退けたが、日が変わっても同様に投石の攻撃を仕掛けてきた。対してジョヨーの大弩弓を操作している兵士は連携して投石機を攻撃していた。
だが、ガルバ達を含めた他の城壁の上に配属された兵士達は、昨日と同じ様に隠れられるところに身を潜めて守備に当たっていた。危険な石弾が近づくたびに命が削られるような不快で窮屈な時間を過ごすことになった。
そしてガルバには別の恐れがあった。昨夜に見た夢についてだ。
夢というよりも明らかにハッキリした映像。殺されかける恐怖の感情。改めて思い出しても鳥肌が立ってきた。
(あの影の男は何者なんだ?)
ほとんど光源のない荒野でガルバの首を締め上げてきた男の人相は、黒くのっぺりとしていて誰だか判別できなかった。
(アイツはあの夜に死んだのか?それとも今でも敵軍の中に…。)
思考の最中で横手から上がった味方の歓声が上がった。頭を向けると大弩弓の大矢が投石機を一台に当たり大破したようだった。
「やった!また敵の投石機をやっつけた!やりましたね、アイブ様!」
ガルバは片手の拳を上げて喜んだ。
「まぁな。」
アイブは城外に目もやらずつまらなそうに答えただけだった。
「あれ?どうしたんですか?」
「フン、我らは一方的に攻められているんだぞ。それに、敵は戦い方を変えてきている。外をよく観ろ。」
ガルバはそう言われると飛んでくる岩弾を警戒して身を隠しながら矢狭間から外を覗いて見たが、濛々と土煙が立っている以外はよく分からなかった。
当惑するガルバを見たアイブは身を返して外を見ながら話し始めた。
「いいか。昨日の我が軍の反撃に比べると、今日の敵が受ける損害は少くなっている。奴らは台車を器用に動かして一つの場所に居座らなくなった。石弾をぶち込んで動いてすぐに離れやがる。一撃離脱ってヤツだ!」
ゲレノア軍は戦術を大きく変えて投石車を繰り出してきた。攻撃の対象をジョヨーの大弩弓に絞り、機動力を活かして一撃離脱戦法をとった。
つまり投石できる距離に近付いて石を放つ。すぐに後退して大弩弓からの大矢を回避していった。
弩弓は一度に一体しか攻撃できない。複数に囲まれながら動き回る投石車を相手にするのには手こずった。
「本当だ!」
「ゲレノアの奴らは憎いが、賢く手強い。やはり、この大陸有数の強国である。」
アイブはニヤリと口角を高く歪ませた。
「それじゃ、負けるじゃないですか?」
「お前はいちいち狼狽えるな!我が軍も既に対応している。敵の投石機の進む先を狙って大矢を放っている。だからさっきの投石機をぶち壊せた。やられてやり返しての一進一退ってところだな。」
ジョヨーの兵士達も敵の戦術の変化に対応した。投石車が近づいてくる地点を見計らって狙いをつける偏差射撃を開始したのだ。近づく投石車の進路は直線的であったので予測するのは簡単だった。
兵器の打ち合いは盤上遊戯のように相手の攻め手を見定めながら交戦することとなった。
昼を過ぎても戦況は両軍ともに決定打に欠けるため全体として膠着していたのだ。
「まぁ、ワシらのやれることなどない。ここで物陰に座っているしかないな。面白くない!」
不貞腐れたアイブは城壁に背中をピッタリつけて座り直した。
「無事に過ごせればそれで良いのでは……?」
「馬鹿野郎!大弩弓の兵士は大活躍ではないか!城壁溜まりの兵士は何もできん。仲間が何人怪我したやら死んだやらの報告を将兵様に報告するしかない。手柄無しなのだぞ!ここで死ぬような思いをしても割りに合わんぞ!」
アイブがそう言った時に五百歩ほど離れた城壁の上に石弾が直撃した。先ず大きな衝撃音がして二拍遅れて悲鳴が上がり兵士達の混乱が伝わってきた。
男達の多くの悲鳴を聞くと思わず身を縮こませてしまったガルバはアイブの隣にピッタリと座った。
「報告と言えば気づいたことがあって…、敵陣に変わったことがあります。」
「何っ?」
「ほら、投石機のもっと向こう側を見てもらえますか?」
ガルバは指先を指してアイブの視線を城外へ向けた。だが、投石機の動きで生まれる土煙で視界は不良だった。
「何処だ?」
「土煙の向こう側。何か大きな建造物が建っていませんか?」
アイブが目を凝らすと投石機の向こう側には確かに人間の大きさをゆうに超える柱が数本建っているのが見えた。
「あれが何だ?」
「よく分かりません。」
「はぁ~??」
「でも、あれらは北側にしかないのです。私は伝令であちこちの城壁を通りますが、他の方面にはありませんでした。この情報の報告でも手柄になりませんか?報告しましょう!」
ガルバはアイブからの伝令を将兵に伝えていたが、安全な経路を取るために遠回りすることが多くあった。
その任務の途中で城の外を多く見てきたが、敵軍の奇妙な建造物を見るのは北側だけであった。
しかし、ガルバの話を聞いたアイブは、急にゴツい鷲鼻に深い皺を寄せて不機嫌に表情を曇らせた。そしてガルバの兜から伸びた黒い長髪を強く掴んで地面に向けて引っ張った。
「痛テテテテ〜〜!?」
髪の毛を引っ掴まれ痛みのあまり背中を丸めたガルバは、訳も分からず涙目でアイブを見上げた。
「お前な〜!生意気なんだよ!今は戦時だから『地面に膝を着けろ、手を着けろ』とは言わんがな、ワシよりノッポのその頭を下げるくらいしろっ!」
アイブはガルバの髪を更に下に押し付けた。
「お前はワシらが同等の立場の上司と部下みたいに勘違いしているがな、奴隷が口を出す時は平然とするな!馬鹿野郎!」
「は、はひ…。」
言いたいことを怒鳴ったアイブは髪から手を話して自分の胸の上で手を組んだ。ガルバは頭皮に残る痛みに顔を歪めたままだったが、アイブの言わんとしていることは理解できた。必死に戦働きをしていると自分が奴隷なのを忘れてしまう。つい前世の動き方や考え方をしがちだった。
奴隷は市民に比べると人格や尊厳はとても軽く扱われる。特に戦時では食糧と引き換えに市民の下に仕えて奉仕する存在だからだ。家畜より少し便利で重宝する動物として見られているとも言えた。ガルバ自身もここまで兵士達からの雑役に扱き使われていた。
(腰を低くしているつもりなんだけどなぁ…。ここでの身分はキツイなぁ。そう言えば、ジゾーも兵士と話す時は頭を下げっぱなしだったな…。)
奴隷兵の纏め役である仲間を思い出しながらガルバは心の中で愚痴を零した。
「それとお前の話はナシだ。あんなボンヤリしか見えん物を上に報告しても大したことにならんし、もう他の誰かがとっくに伝えているだろうな。」
アイブはつまらなそうにガルバに答えた。
(そりゃそうだな。自分達でもよく分かんない物を報告しても上も困るだけか。せめてもっと良く見えれば違うだろうけど…。あっ、そうだ!)
「アイブ様!一つ案があります。」
ガルバは一つのアイデアが閃いた。
「私の奴隷仲間で恐ろしく目が良い者がいます。そいつならあの建造物の様子が分かる筈です。」
「何ィ?本当か?」
「ノバスコという名前なんですが、昼間でも星が見えると嘯いている奴です。今敵軍の投石機を動かしている兵士の装備や顔の表情くらいはハッキリ見えます。そいつは私のような伝令をしていないので、上には報告してないかもしれません。そいつを呼んできて、その目を借りてみましょう。」
ガルバの提案を受けたアイブは、目を細めて外の投石機までの距離を見て少し考えた。しかし、また不機嫌な顔つきになってきて片手を前に伸ばしてきた。
「あっ!やべっ!」
ガルバはハッとして即時に頭を低く下げてアイブに礼をした。アイブは髪の毛を掴んで、またガルバの頭を下げさせようとしたのだ。
「そうだ。言えばできるじゃないか。お前の言いたいことは分かった。だがそいつを呼びに行くな。」
「えっ、そんな…。」
「馬鹿野郎、残念そうな顔をするな。その奴隷は他の兵士の下で働いているだろうから、そいつを使うなら上役の許可が要る。ワシが直々に話をつけてやる。ガルバ、案内しろっ。」
「はいっ。こっちです。」
ガルバとアイブは敵の攻撃を警戒して姿勢を低くしながら、ノバスコが配属されている場所まで移動し始めた。
アイブはガルバの後ろを歩きながら、シゲシゲと彼の背中を眺めていた。
(奴隷が仕事をするのは当たり前だが、仕事を作る奴隷は初めて見た。言い方が気に食わない時はあっても話の中身は使える。しかもかなり大人しく従順。何と便利な奴だ。コイツを目一杯働かせてワシの出世の糧になって貰うか!)
未来の褒美を思い浮かべてニヤリと笑ったアイブは、石弾の風切り音を遠くに聞きながら北の城壁を進んで行った。
ジョヨーを照らす太陽は傾いていき、風が少しずつ強くなってきた。北の城壁の上を歩く二人の影は少しずつ長く伸びていくのだった。
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