死後の事績2
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スクリーンが切り替わり、壁一面には彼女の笑顔がたくさん映された。
(やっぱり笑顔がカワイイよなー。俺にはもったいないくらいだ。)
男は久しぶりに見た彼女の動画に見とれていた。だが、何だかおかしなことに気付いてきた。
(あ、あれー?何か見たことのない人と腕を組んで歩いているなぁ?仲良さげなのは気のせいかなぁ?)
彼女と見知らぬ男性が一緒にいる様は、まるで恋人同士のようにじゃれ合っていた。その様子を見て男には嫌な予感が走った。
アイリスは男が困惑する様子を見て取ると少し言いにくそうに説明を始めた。
「貴方とお付き合いしていた彼女は、概ね善良な女性でしたが、一点だけ残念なことがありまして。………、つまり、複数の異性と交際するのを好んでいたのです。」
「それって、浮気していたってこと?」
「ええ、まぁ、仰る通りですね。」
「そんなぁ?嘘だろ?」
彼女の笑顔の映像を見て喜んだ気持ちは一気に萎えてしまった。
「正確には、貴方を含めて4人の男性と並行して交際していました。」
(4人もかよっ?!)
男が絶句すると、彼女を中心とした相関図が壁に示された。
「先ずは交際5年のホスト、かなりの美形でして、遊びの付き合いで逢瀬を重ねていました。時々彼女はホストの店で貢いでました。それから交際4年の年下の駆け出し実力派お笑い芸人は、お笑いライブの打ち上げがキッカケで、彼女の笑いのツボにハマるということで付き合い始めました。交際3年の一部上場企業勤務管理職バツイチの年上男性とは仕事の取引で出会いました。経験豊富で包容力のある男性で、人生相談を理由にして会って慰めてもらってました。最後に交際1年とちょっとの貴方になります。」
次々と明かされる浮気相手の写真と経歴。その中で男のそれは一際地味だった。
「オレとは、その、どこが良かったのでしょうか?」
「『何だか一緒だと落ち着くペットみたい』だったそうです。」
(男として見られてなかったのか〜?!)
男は地の底へ真っ逆さまに落とされたように落ち込んでしまった。うなだれてしまい、マトモに彼女の映像が見れなくなってしまった。
そんな暗い空気の中、アイリスは淡々と説明を始めた。
「このまま彼女の運命を予測すると、不貞行為を重ねて数年後にはドロッドロッの不倫関係にはまり、不倫相手の妻に刺し殺されてしまうことになります。ですが、その前に貴方の死を知るのです。」
「俺の死?」
男は少し目線を上げた。
「そうです。一番平凡で何となく付き合っていた貴方が、身を挺して少年を守り死にました。外見の良さや話術の面白さ、社会的地位など関係なく、最も勇敢で名誉ある生き方をしました。その様を見て彼女は自分の嘘まみれの生き方に嫌気がさしました。そして全ての男性との関係を切って、嘘をつかないで正しく生きようと決めます。その後、紆余曲折はしますが、彼女はアパレル業界で独立して会社を立ち上げて成功しました。更に慈善家としても社会に貢献し、幸運にも生涯の伴侶と結ばれました。」
男は自分の死が起点となって、彼女の人生がそこまで変わるとは思わなかった。何やかんやあっても彼女が成功して幸福になったと聞くと少し嬉しかった。
「彼女と結ばれた男は幸せですね………。」
ポツリと呟くと、アイリスは更に言いにくそうに話した。
「ええと、彼女は、生涯の伴侶と結ばれました。女性と…………。」
「え?」
「貴方と付き合っていた当時は意識してなかったのですが、彼女の心の底はレズビアンだったのです。その本当の気持ちにも向き合うことができたのです。」
スクリーンは『二人の花嫁』が手を取り合って周囲から祝福されている様子を映した。片方の花嫁は、少し年齢を重ねているがエクボの印象的な、美しい彼女の笑顔そのものだった。
「えぇっ?」
男はただただ驚かされて、呆気に取られて目を丸くするだけだった。
「あー、オホン。」
しばらくしてアイリスが軽く咳払いするまで、男は放心して固まったままだった。
ハッとして男が辺りを見回すとスクリーンは消えていた。机の向かいの椅子にはアイリスが先程のように指を組みながら姿勢よく座っていた。
「ご気分はいかがですか?意識は戻りましたか?」
「ええ、何とか………。」
男はそう言うだけしかできなかった。
「以上、3つの事績を紹介しました。細かい点を挙げれば未だ数例の事績があります。しかし、この3例で十分でしょう。バタフライエフェクトよりもずっと大きくて有意義な影響!人生を動かす正の転換起因点として認められたのです!!」
アイリスはまたもや前のめり気味になって笑顔で告げてきた。
「ハァ、そうですか………。」
男は己の死が多くの魂を救い、社会に大きく貢献したという長々な説明を聞いた。確かに虐待されていた少年が助かったのは良かったけど、残り半分くらいは自分が大きく損したようなものだった。
アイリスは男の反応が鈍いのを見て、眉間に小さな皺を寄せたが、続けて語りかけた。
「実感がないでしょうけど、貴方の魂はとても貴重なのです!そして尊い!そんな貴方には一つの道が示されました。"次なる世界"への移行なのです。」
アイリスの説明に熱が帯びてきた。どうやら、ここからが核心の話になるようだった。
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