重い目覚め
拙作を覗いて下さりありがとうございます。
今回は主人公は精神的にやられます。
ご意見、ご感想をお待ちしております。
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ガルバは暗闇を走り回っていた。
その手足は泥水の中を掻き分けるように重く、どれだけ足をかき上げ両腕を振っても前にはちっとも進めなかった。荒れ狂って吹き荒れる大きな風は痩せた体を大きく揺らして、肌に叩きつける雨は聴覚と嗅覚を狂わせた。突然に視界が白く染まった。
そのすぐ後に空の上から耳を劈く轟音が響いた。大きな雷が落ちて数瞬だけ辺りの有様を照らし出した。
ここは夜の戦場だった。
何処とも知れない平野の上を、殺意と生存の本能に突き動かされてあらゆる場所で男同士がぶつかり合い傷つけあっていた。すでに多くの人間が傷ついて死んでいき、土の泥に混じって崩れ落ちていた。
瞬間の稲妻が静まり元の暗闇に戻った。その淀んだ空気をガルバは逃げ回っていた。息をする暇があれば足を掻き回し、少しでも怪しい影があれば頭を咄嗟に下げて身を屈めた。
彼の逃げ回る動作全てはあらかじめ決まっていたかのようにガルバの意思と別に動いていた。まるで他人が体を動かしているところを視界のみ覗いているようだった。
(これは何だ?!これはオレがしていることじゃない!?)
ガルバの視界は気分を混乱させていた。さらに自分のものではない恐れと不安の感情に支配されていた。
『とにかく逃げ回って生き残って助かりたい。他人なんて知るか!クソ喰らえ!』
頭のてっぺんを別人が拡声器でがなり立てるように誰かのの意識が奔流となって流れ込んできた。自分の意思に足枷を填められるような気持ち悪さが込み上げてきた。
そうしてガルバの体は大きな木の麓に隠れるために腰を下ろした。針のように叩きつけてくる雨粒から顔を隠しながら一息をついて気を抜いたところに、またもや大きな雷が落ちた。その勢いの強さに驚いて咄嗟に身を縮こませた時に、首の真後ろを鋭い速さの何かが掠めた。
(??!!)
それは鈍い音を立てて木の幹に刺さった。振り返ると視界の隅には槍の穂先が深く木肌をえぐる様に刺さっているのが見えた。反射的に頭を下げたことで襲いかかる槍を偶々躱せたのだ。
(敵か?何処にいる?)
驚きのあまり立ち上がりかけた時に、後ろから誰かが抱き着いてきた。
「ふぐっ!?」
小さく呻くと急いで襲撃者に対して抵抗を始めた。抱きつかれた体を引き離そうと両手を突っ張った。膝を引き寄せて相手との間に足を差し入れて突き放そうともした。
できる限りの抵抗をしたが襲撃者は巧みに彼の腹の上に馬乗りになってきた。背中には大雨の嵐に濡れた泥のヌルリとした感触が伝わってきた。
襲撃者は素早く両手を彼の首に伸ばした。そのまま大きな手で締め付けてきた。強力な握力で彼の気道を閉じようとする。ガルバは手足をばたつかせて抵抗するが段々と意識が遠くなってきた。
喉を締められていく息苦しさの中をせめて自分を殺してくる男の顔かたちを確かめようとしたが、その顔面は夜の闇の中で深い黒色に窪んで見えた。
(お前は、…誰だ?!)
相手の顔に手を伸ばして抵抗しようとした時に、全く別に体を揺さ振る感触が起きた。
「おい、ガルバ!しっかりしろ!」
両肩を振り動かされながら彼は覚醒していった。目の焦点は徐々に合っていって目の前で自分を起こす人間が誰だか分かっていった。
「どうした?目を覚ませ!」
ドルトンがガルバの顔の前に迫ってきていた。心配している彼の顔は夜明けの近い淡く青い光に照らされていた。
「はぁ、はぁ、はぁ、ここは?今は?」
「ここは俺達の駐屯場だっ。今は開戦を終えた次の朝だっ。悪い夢でも見たのか?」
「そうだ!殺されそうになるところだったよ!」
「そうか、そりゃ災難だったな。ほら体を起こせるか?」
膝立ちになっていたドルトンはガルバを落ち着かせるために彼の上半身を両手で起こしてやった。ガルバは荒れていた呼吸の息苦しさを感じながら少し高くなった視界で周囲を見回した。
そこはガルバ達がジョヨーに入ってから起居していた駐屯場であった。周囲はまだ暗く、東の方向に朝焼けの赤味が空を照らし始めていた。起きているのは自分とドルトンだけだった。他の男達は昨日の疲れを取るべく熟睡していた。
「隣で魘されていたもんだから目が覚めちまった。」
「すまない、ドルトン。でも助かったよ。夢の中で、あと少しで殺されるところだった。」
「そいつはもう気にするな。お前は生き延びているんだ。まだ起床命令まで時間があるから横になっていろ。俺も休む。」
ドルトンはガルバの背中を数回擦ってから横になった。
ガルバは暫く呆然と座っていたが、ドルトンに倣って地面に寝転んだ。
そのまま何気なく首筋に指を添えたときに、ゾッとする事を思い出した。
『こりゃ酷い痣だ。強く締められたみたいだよ。よく縊り殺されなかったねぇ。』
この世界に堕ちてすぐに放り込まれた、あの嵐の戦場から逃げ帰った後で看護師のナイヤ・ゲールに体を診てもらった時の言葉だ。
激しい嵐の戦場と首を絞められたことを示す大きな痣。それが意味することに思い至った時に背筋が寒くなった。
(あれは夢じゃない!?過去の記憶なのか?オレはあの嵐の夜に殺されるところだったのか!?)
そう気付いたところで頭の奥に鋭い頭痛が走った。
思わず無言で頭を抱えた。その痛みはジンジンと脈動を繰り返していたが、少しずつ弱まっていって次第に収まっていた。しかし、ガルバは安心することができなかった。
(アイツは、…誰だ?)
影にしか見えなかった相手を思い出そうとすると、得体のしれない不気味さが彼の体の全てを冷やしていった。悪寒を抑えるように彼は両手で自分を抱きしめたが、兵士達が奴隷兵を起こす頃合いまで止められなかった。
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