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堕天転生戦記  作者: 里原 健
76/80

誉れ無き戦場1

拙作を覗いて下さりありがとうございます。

今回は主人公はカッコ悪いです。ダサイしヘタレです。

でも戦争というのは色々な戦い方があるものです。

ご意見、ご感想をお待ちしております。

よろしくお願いします。

 ゲレノア軍からの一斉投石攻撃が始まった。ジョヨーの城壁にいる戦闘員全員に警戒が発令された。

「全員!城壁に身を寄せて頭を伏せろー!」

 ジョヨーの北東城壁で兵士から指示が飛んだ。

 それを聞くと、兵士と奴隷兵の区別なく城壁の上の戦闘員は一斉に身を屈めた。そして城壁の外側にあるノコギリ刃状の矢狭間に体を密着させた。

「ヒュウウウウー…。」

 石弾が高空の風を突き破る音が聞こえてきて、風切り音が高くなっていって爆発音が響いた。

 ドカーーーン!

 石弾(いしだま)は城壁の水堀の手前の地面に着弾して高い土煙を上げた。

「何だッ?!」

 石弾の着弾音に驚いたガルバは着弾点を見てみた。砂埃が舞う中に土が大きくえぐれた穴が見えた。もしそこに人が立っていたら、その体の二分の一は派手に砕け散ったであろう。

(あんなに威力があるのかよ!)

 話で聞いていたよりも凄い威力にガルバは肝が縮んだ。しばらくの間、頭を抱えて座り込んで身を守っていると再び風切り音が聞こえてきた。

 ヒュウウウウー…。

(また来た!今度はどこから飛んでくるんだ!?)

 ガルバはゆっくりと首を伸ばして矢狭間から顔を覗かせようとした。その途端、後襟強く引っ張られた。

「馬鹿野郎!風切り音が聞こえているのに頭を出す馬鹿がいるか!(かが)め!」

 強く引き倒されたガルバは転ぶように城壁の上に倒れこんだ。

 次の瞬間、城壁手前の水堀に石弾が着弾した。激しい水飛沫(みずしぶき)が上がり大きな炸裂音がした。

「うわっ!」

 ガルバは身近に上がった大きな音にビックリて思わず背骨を玉子のように丸めた。

「こんなので驚いている場合か!貴様!」

 ガルバの後襟を引っ張った兵士は額がくっつくくらいに顔を寄せてガルバを叱りつけた。その迫力ある形相はいつぞやの警備で一緒だった兵士アイブだった。

「ア、アイブさん!ありがとうございま・・・、痛ぇっ!!」

 ガルバが礼を述べようとするとすぐさま拳骨がガツンとガルバの頭に叩きつけられた。

「『アイブさん』じゃない!『アイブ様』だ!身の程を弁えろ、奴隷兵のガルバ!」

 アイブはガルバの胸倉を掴み、顔を真っ赤にした怒りの形相でガルバに怒鳴った。分厚い一重瞼の三白眼には赤い血管が血走っていた。

「も、申し訳ありません!アイブ様…。」

「分かればいい。怪我しているか?」

 ガルバは自分の体を見渡して無事だと分かると首を横に振った。アイブはそれを確認するとガルバの胸から手を離してガルバの隣に座った。

「貴様は籠城戦が初めてだと言っていたな?投石機からの石弾が近付いてくる甲高い音が聞こえたら、必死に物陰に隠れろ!『必死に』、だ。まず覚えろ!」

「は、はい!」

 石弾の威力と同時にアイブの怒鳴り声に心底ビビったガルバは大声で返事をした。

「石弾の威力に恐れるのは仕方ない。しかし、ここ(ジョヨー)は大丈夫だ。この都市の城壁はあの程度の石弾にはびくともしない。」

「本当ですか?でも、あんなに地面が抉れたんですよ?どんだけ固い石を使っていても、何度も当てられたら城壁に穴だって開きますよ!」

 そうガルバが(わめ)くと二人の少し離れた右方で石弾が城壁に直撃した。

 バシャーーーン!

 ぶつかった瞬間、白い光が発せられたかと思うと、石同士がぶつかり合う鈍い音ではなくて陶器やガラスが割れた音のような炸裂音がした。

 ガルバがサッと顔を出して石がぶつかったと思われる地点を見ると、そこには凹みや傷もなく城壁は無事だった。急いで頭を引っ込めるとガルバは驚きをアイブに伝えた。

「凄いです!傷一つ無かったです。」

「そうだろ!9年前の籠城戦で投石車に苦戦した経験を活かして、我が都市は城壁を強化してきたのだ。ゲレノア国は武器や兵器作成が優秀だが、我が国は魔法や城の建築術で他国より抜きん出ている。噂によると強化には大きな魔法が使われたそうだ。そのお陰で奴らの石弾(いしたま)なんぞ弾き返してくれているのだ!」

 アイブは城壁の強度を自分の手柄のように自慢して胸を張った。

 手工業や製造業を得意としたゲレノア国は攻城兵器や兵士の携帯武器を強化して攻撃力が強いのが特色であった。対してレノクッス国は建築術と魔法技術を応用した都市防衛を得意としていた。

 特にジョヨーの城壁にはレノクッス国の強みを十二分に活かして、都市の構造的に守りの要所となる箇所には土魔法を応用した防御魔法が掛けられていた。膨大な時間と魔力を掛けて恒常的に城壁を強化できた。現段階では通常の城壁の2倍以上の強度があった。

「凄いじゃないですか!これならオレ達は負けないですよね!?」

「あ~、城壁なら、な・・・。」

「?え?それはどういうことですか?・・・。」

 ガルバが疑問を投げたところで左方に石弾(いしだま)の接近を告げる風切り音が聞こえた。サッと姿勢を低くしたガルバ達が振り向くと同時に石弾(いしだま)が城壁の上に着弾した。

 ドン!

 城壁の上の通路にぶつかり鈍い音を立てた石弾(いしだま)は二つに割れて大きく跳ね上がった。そのまま二つの欠片は勢いよく慣性の力で飛んでいって、それぞれが城壁近くにあった城内の家屋にぶち当たった。石弾(いしだま)がぶつかった家屋の屋根は大きく穴が開き、石弾の凶暴な運動エネルギーの威力で大きく内側から爆発した。

「ギャーーー!」

「助けてくれー!腕がつぶされた!」

 被害を受けた家屋一帯には人々の悲鳴と助けを求める叫び声が出た。

「つまり、石弾の直撃には人や城内は無力ってことだ!」

 アイブは殊更に笑顔を明るくガルバに告げた。

「それじゃ、オレ達も逃げなきゃ!下に逃げましょう!」

「馬鹿野郎!兵士が持ち場を離れてどうする?!ここを守るんだよ!」

 アイブは腰を上げかけたガルバのズボンを引っ張って逃がさなかった。

「離してください!オレらこのままじゃ死にますよ?!」

「それじゃ、誰がここを守る?みんな自分の持ち場で手一杯だ。代わってくれる聖人なんていやしねーぞ!」

「じゃあ、どうするんです?このままだと死にます!」

「一つ方法がある!」

 アイブはニタリと笑って太い腕でガルバの兜を引き寄せた。

「・・・、それは何ですか?」

「石が頭に落ちないように神に祈ることだ!大馬鹿野郎!!ガハハ!!」

「笑い事じゃないですよ!」

「笑え!笑え!笑え!笑って恐れを飲み込め!己の感情を無理矢理塗り替えろ!そらっ、また来るぞ!頭を抱えて下げろ!」

 石弾の風切り音がどんどん高くなってきた。風切り音が大きくなるにつれ周囲の男達から悲鳴が上がってきた。これらのことから着弾地点がガルバ達のすぐ近くであることを告げていた。

「うわーーー!」

 ガルバは情けなく悲鳴を上げながら地面に頭を伏せた。つい数刻先ほどまでのガルバの固い決意はどこへやったのか?彼はお化けに怖がる幼子のように怯えて縮こまった。

 バシャーーーン!

 石弾はガルバ達の下の城壁にぶつかり破裂していった。ぶつかった振動はビリビリと城壁を震わせて細かくガルバの身体全体に伝わった。しかし石弾は砕けて城壁は無傷だった。自分の無事を知ったガルバは恐怖の強張りから開放されて安心の弛緩を味わった。

「た、助かったァ・・・。」

 胸いっぱいの息を吐き出してガルバは自分が助かったことを喜んだ。死の緊張からの解放は生き物にとって安心の極致と言えた。アイブはガルバの一喜一憂を見ながら身体を揺らしてゲラゲラと愉快そうに笑った。

「ガハハハ、まだまだ来るぞ!今日一日はこれが続く。精一杯逃げ方を覚えろ!それから、お前には伝令の命令を出すからな!」

 それを聞いたガルバは驚いてアイブに体ごと勢いよく振り返った。

「で、でで、伝令?この石弾の降ってくる中を走って行くんですか?そんなバカでイカレた仕事は他の人に命令してくださいっ!オレは死にたくないですっ!」

「もう遅い!俺はお前を気に入った。お前は俺に手柄を立てさせた。お前は幸運の奴隷だ。お前には見所がある。お前は真面目で気が小さい。だからお前は俺の命令に背かない。だからお前は使いやすい。だからだからだから精々俺に尽くせ!ガハハハ!」

「何なんですか?!理不尽ですよ!そんな命令は聞けませんよ!」

 ガルバは四つん這いでアイブから逃げ出そうとした。それを見たアイブはガルバを逃がさないように飛び上がってガルバの背中に抱きついてきた。全力でしがみつかれたガルバは呼吸するのが苦しくなった。アイブは両腕の力を緩めずにガルバの耳元で怒鳴りたてた。

「お前はこの戦争から逃げ出すのか?お前に勝ち取りたいものはないのか?守りたいものはないのか?お前の股には二つの玉はないのか?皆が勝って、勝って生き延びるんだ。その為にお前ができることを考えろ!一人で逃げるならそうしろ!だがな、逃げた先は一人だけだぞ。誰もいない。何故ならここで逃げ出すようなフニャチンはお前だけだ。一人で生きていけるのか?」

 アイブはガルバを逃がさないようにますます力を込めながらガルバに言い聞かした。

「戦争は頭の数で決まるんだ。テメーらの股の息子の数で決まるんだ!俺達にはお前が必要なんだ!一度でも背中を預けて戦った兄弟の後頭部を蹴飛ばすような真似はするな!ここでお前は男になるんだ!」

 ガルバには守りたいものがあった。

 背中どころか命を預けあった奴隷兵の仲間。嵐の中で肩を貸しあったジゾー。愉快なチョーザ。野心家のドルトン。食いしん坊のノバスコ。鬼教官のビーラー。そしてもう一人。赤髪でいつも(しか)め面で翠玉色(エメラルドグリーン)の瞳が綺麗な女。

 そして孤独への恐怖。あの雪の夜、胸や腹を刺されて死んでいった記憶が一気に蘇った。繋がっていた人々と強制的に離される苦しみと全てを失う喪失感。お金や友情とかだけでなく知識や経験、人格や存在そのものをも手放して失ってしまう感覚を思い出した。

 『あの時の、孤立の感覚を味わいたくはない』という生命の本能がガルバの思考や身体反応を支配した。それらが強制的に思考や信念を一気に変えたと言えた。

 ガルバは抵抗していた力を抜いて観念した。アイブはそれを感じ取ると静かにガルバから身体を離した。

「どうだ?落ち着いたようだな。」

 アイブはガルバと向き合うとガルバの表情を見て安心した。ガルバの表情には怯えはあったが混乱で取り乱す兆候が見えなかったからだった。むしろ空虚な落ち着きを感じて驚いていたところだった。

 ガルバは一息ついてゆっくり答えた。

「分かりません。まだ落ちてくる石弾が怖いですし、そもそもかすり傷でも怪我するのは嫌ですし、死ぬのはもっと怖いです。でも自分がすることが分かりました。味方と一緒に敵と戦うことです。」

 ガルバは落ち着いてきた気持ちを淡々と伝えた。

「馬鹿野郎!!」

 アイブがまたもガツンと兜を叩いてきた。

(いて)ぇ!もう頭は()めて下さい!」

 ガルバは両手で頭と腹を守りながら懇願した。

「『味方』なんて言い方はやめろ。『兄弟』だ、馬鹿野郎!血を分かつことはなくとも、怪我して血が混じったら兄弟だ。これから色々忙しくなるぞ、奴隷兵!」

「あっ!!はい、分かりました!」

 戦場の中において兵士達がお互いに持つ認識を理解したガルバは大きな声で返事した。単なる同僚である味方と考えるよりも『兄弟』の方がお互いを守りやすくなるといことを実感していたからだ。ガルバの中には戦場で這いずり回ってでも生き延びようとする力が少しずつ生まれつつあった。

 しかし、事態はそんな『少しずつ』を待ってくれるほど悠長な暇を許すことはなかった。ゲレノア軍は次々と石弾を装填してジョヨーを攻めた。ジョヨーの多くの場所に石弾がぶつかり兵士たちの悲鳴が聞こえてきた。

「まずは頭を伏せろ!石弾が来るぞ!ガルバ、着弾して安全を確認しながら、すぐに下の将兵様に着弾数の報告を頼む!」

「はいっ!何発と報告すればいいですか?」

「馬鹿野郎!お前が数えるんだ!行けっ、下の将兵様に『石弾が来た』と伝えるんだ。あとはお前の判断で将兵様に情報を報告しろ!そして将兵様のお言葉を一言一句覚えて、戻って来て俺に正確に伝えろ!いいな?!」

 石弾が迫る風切り音が聞こえてきたところでガルバとアイブの会話は終わった。

 すぐ外側の城壁に石弾がぶつかり、魔法防御による閃光と爆発の重爆音が迸った。

(な、何だ~!?)

 ガルバの視界が光と音で遮られて混乱した。途端に眩暈がして視界がグラグラと揺れた。石弾の衝撃に頭と身体が拒絶反応を起こしたのだ。強烈な吐き気を催して、ガルバは朝にとった食糧を吐き出した。気を抜けば意識が動転してしまいそうな状態であったが、アイブの命令を思い出して気を張った。

「これから下の将兵様に『石弾が来ました。石弾は城内に届き、我らは徹底防御をします』と伝えます。」

「そう、それでいい!そら、頭は低くしろよ!何とかなるだろ!?赤い毛の飾りを兜に付けた将兵様へ行けっ!!」

 アイブの投げやり気味の適当な指示を受けながらガルバは槍と盾を手にして駆け出した。下へ降りる階段までの城壁の上では早くも負傷した兵士や奴隷兵が数人いた。しかし、大半の男たちは身を守って石弾の攻撃に耐えていた。

 途中で風切り音が聞こえたら身を屈めて、少しでも安全だと感じたら全力で駆け出した。

 走っている間も兵士たちの悲鳴や怒声が起きていたが、ガルバはその様子も耳に入れながら頭の中で報告内容をまとめていた。アイブは恐怖を笑いで塗り替えたが、ガルバは任務実行という義務感で無理やり忘れさせていた。

(目の前のことに集中しよう!何かに夢中の内は恐れなんて忘れられる。)

 ガルバは自分に言いきかせながら報告対象である将兵を探した。

 ジョヨーに当たる朝日はようやく軽く見上げるくらいの高さまでにしか上がっていなかった。太陽が中点を越えて日没に至るまで先は長かった。

 ジョヨーの籠城戦は始まったばかりだった。

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