ジョヨー籠城戦二日前1
拙作を覗いて下さりありがとうございます。
今回は主人公は空気な感じです。
ご意見、ご感想をお待ちしております。
よろしくお願いします。
「カラーン、カラーン、カラーン。」
ジョヨーの三の区北東部分の奴隷の駐屯場に朝食の配給を知らせる手鐘がなった。男達が食糧を得るため、緩慢に立ち上がりながら列を作り出した。ガルバもその列に並び、配給されたパンを一つ受け取る。ガルバはいつもの仲間達の元に戻り黙ってパンを食べ始めた。
「どうやら敵軍はパルコ川を越えたらしいな。ジゾー、兵士様から何か聞いていないか?」
ノバスコがジゾーに話しかけた。
「確かな話しではないんだが、かなり急いで進軍しているそうだ。間もなくここに着くだろう。」
「籠城戦になっちまいそうだな。」
ドルトンがポツンと呟いた。ビーラーも唇を固く結んで黙って頷いた。話を聞いていたチェーザがジゾーに尋ねた。
「前の籠城戦は大変だったみたいだな。ジゾーは覚えているか?」
「ああ、半年も籠城して都市や人に大きな被害があった。俺とビーラーとドルトンは同じ部隊にいて互いに助け合ったもんだ。チェーザとノバスコとガルバは籠城戦の経験はあるか?」
「ここじゃないが、俺は何度かあったな。」
チェーザが答えた。
「俺はない。」
「オレもノバスコと同じで経験ないよ。」
ノバスコとガルバも答えた。それを聞いたジゾーは二人に説明を始めた。
「籠城戦は配置される場所にもよるが、多分俺らは城壁の上になるだろう。そこでは梯子やら移動式の櫓を使って登ってくる敵を殺すのと叩き落とすのが第一だ。その間、敵の飛び道具が間断なく飛んでくる。それを躱しながら戦うんだ。」
「難しそうだな。」
ガルバは本音を漏らした。
「必死に戦っていくうちに慣れていくさ。実戦では周りの味方の戦い方を見て学べ。」
その時、会話の輪の外側からジゾーに声が掛けられた。
「奴隷のまとめ役!話がある、こっちへ来い!」
兵士がジゾーを大きく手招きしていた。ジゾーは残っていたパンを腹に詰め込みながら立ち上がり、その兵士の元へ向かった。暫くの間兵士から指示を受けると、ジゾーは奴隷兵達に集合するように声を掛けた。総勢200人程の奴隷達はぞろぞろと一箇所に集まった。
ジゾーは彼らの前に立ち説明を始めた。
「皆、聞いてくれ。俺達はここから近くの北東の城壁を守護する任に着くことになった。今から持ち場へ移り、そこで日中は警備の仕事をする。現場では既に兵士様達も配属されて監視の業務に就かれている。実際の戦闘では俺からは勿論、近くにいる兵士様からの命令を受けることになるから、現場周囲の兵士様の顔を覚えておいてくれ。それじゃ俺の後に着いてきてくれ。」
ジゾーは説明を終えると奴隷達を促して現場へと向かった。奴隷達は各々の武器と盾をぶら下げながらジゾーに付いていった。
ガルバは向かう先々で多くの兵士や奴隷兵とすれ違ったが、彼らの多くが落ち着きなく不安そうだった。久々の籠城戦への不安や敵の大軍への恐れが兵達の精神状態をそうさせていた。
(こんな状態で戦えるのか?)
ガルバも周囲の空気に影響を受けて自分の士気が落ちているのを感じていた。
城壁に着くと壁に沿って作られた階段を登って城壁の上へ出た。城壁の上は大人が4〜5人が並んで歩くことができるくらいの広さがあった。そこでは既に兵士が警戒に当たっていた。奴隷達は等間隔で並ばされた。
ガルバは配置された場所から周囲を見回した。城壁の外の真下には水堀があり、正面には平野が広がり遥か先には森が見えた。左右を見るとそれぞれ少し離れたところに城壁に沿って塔が建てられていた。塔は城壁より軽く見上げるくらい高く造られており、頂上には大きな幌が掛けられていた。これらの塔はジョヨーを囲む城壁に等間隔に建てられていた。ここまで確認した所で、ガルバは近付いて来た兵士に声を掛けられた。
「おい!お前!」
ガルバが声の主を見ると、そこには体格の良い見覚えのある兵士が立っていた。井戸の警備で一緒の組になった兵士のアイブだった。アイブは眉間で繋がった太いゲジゲジ眉毛を笑顔で丸くさせながら近づいてきた。
「井戸にいた奴隷ではないか?覚えているか?名は何という?」
「はい、アイブ様ですよね。私の名はガルバです。アイブ様もここの担当なんですか?」
ガルバは他の奴隷がそうするように、両手を前に組んで頭を下げながら答えた。
「ああ、そうだ。奇遇だな。あの時はお前の意見を取り入れて井戸の防衛に成功した。そのお陰で手柄を立てることが出来たぞ。戦争が終われば褒美を頂戴出来ることになっている。ガハハハハ。」
アイブは背を仰け反らせながら上機嫌で笑った。
「それは良かったです。私は籠城戦が初めてなのですが、アイブ様がいらっしゃれば心強いです。」
「そうか、そうか。また手柄を立てさせてくれよな!ガハハハハ!」
アイブは明るく笑いながら太くて頑丈そうな足を大股に踏み出しながらノッシノッシと歩いて自分の配置に戻っていった。
(気持ちがタフな人だな………。)
そう思いながら、ふとガルバは塔の上にある幌のことが少し気になった。
(何で大きな布が掛けられているんだろう?あの下に何かあるんだろうか?)
じっと塔の上を見ていると、城壁の下が騒がしくなった。
「注目!!!スレイ将軍がこの地域の視察に参られた!全員口を閉ざして姿勢を正せ!」
先触れの兵士が告知すると付近にいた全ての兵士達が起立して直立不動となった。彼らを見たガルバも慌てて背筋を真っ直ぐに立てて姿勢を正した。
その後すぐに赤い鎧と白い兜を纏ったスレイが颯爽と歩いてきた。彼は兵の配置を確認しながら、余裕を感じさせる柔らかい表情で兵士一人一人の様子を見ていた。見られた兵士は一瞬恐縮したが、直後に不思議と安心していく感覚を覚えていた。
スレイは地上の兵の配置を見て回ると城壁の上へ階段を登った。城壁の上に着くと地上と同じように進んで行った。ガルバの方に近寄ってきたが、ガルバはスレイの姿に圧倒されていた。
厚めの板金を施した鎧は複雑な文様が施されており、その上に赤い顔料で上塗りされていた。兜は鉱物を原料とした白い顔料と滑らかな白布を組み合わせた意匠であり、ジョヨーの大将であるスレイ将軍の威容を一際輝かせていた。彼が前に進めば大きな船が自然と水面を分けていくように、人々は左右に弾かれて辞を低くして彼の進む道を広げていった。
(やっぱり凄い人だ。兵を率いる将軍に相応しい雰囲気を感じる。)
スレイのオーラは前世で偶々見かけた有名な女優を思い出させた。その時の女性も周囲の注目を集めながら、近寄りがたい畏怖させるオーラを出していたのだ。そのスレイがガルバの側を通る時に二人の視線がチラッと合った。その時スレイが軽く微笑みかけたのにガルバは気付いた。
(オレのことを覚えてくれていたんだ!何か嬉しいなぁ。)
自分とは人徳や格がずっと上の人物から好意的に認識されたことに喜んだ。
そのままスレイは一通り城壁の上を歩くと、つと立ち止まり全ての兵達の視線を集めながら、彼らに向けて大声で演説を始めた。
「ジョヨーの兵達よ!貴様らの忠勤を有り難く思う。皆も知っているように、これからジョヨーは籠城戦を迎えることになる。ゲレノア軍は大軍であり一人一人が精強なのは既に知っているだろう!間違いなく奴らは強い!」
惑いのない澄んだ声がその場を支配していった。
「しかし!不利と考えることはない!我らが負けることはない!何故なら貴様らは固い意志と強い肉体を持つ兵だからだ!一度迷いなく戦えば敵を追い払うことはできる!」
一息吐いてスレイは演説を続けた。
「更に、首都の王太子殿下から直々に援軍を送って下さると約束を頂けた!我らは孤立無援ではない!」
そしてスレイは拳をきつく握りしめて見守る兵達に向けて鋭く突き出した。
「各人が己の持ち場を固く守り、隣り合う互いを助け合い、意識を奮い立たせて戦うのだ!そしていずれ必ず来る援軍と力を合わせてゲレノア軍を打ち払うのだ!勝利を信じろ!名誉と栄冠を我らの手で勝ち取れ!」
ここまでスレイの演説を聞いた兵達は興奮と感動を感じていた。目には強い意志の光が宿り、胸には熱い闘志が生まれた。
スレイは剣を素早く抜いて剣先を頭上高く天へ指して更に大きく叫んだ。
「『勝って生きて喜びを分かち合おう、兄弟よ』!!」
この時、感極まった一人の兵士が叫んだ。
「ジョヨーに勝利を!我らに栄光を!」
それを聞いた途端に全ての兵士が雄叫びを上げた。
「「「ウォーーーーーーーーー!!!」」」
大きな歓声は空気を揺らし、人々の耳をつんざき、城壁をビリビリと震わせて兵達の魂を熱く沸かした。
ガルバも我知らずに大声で叫んでいた。彼の目には兵の一人一人からオーラが立ち昇っているのが見えた。そのオーラは多色を極めて兵たちが占める頭上の空間を埋め尽くし、極彩色の虹の闘気が充満していった。
スレイの演説は兵達を鼓舞し、そして『祝福』の法術を行い、皆の潜在能力を高めていたのだ。彼は兵達の士気が十分高まったのを確認すると、地上へと階段を降りて行った。そして次の激励地へと足早に去って行った。
スレイが去り歓声は収まったが、兵達は活き活きと動き始めた。奴隷達も例外なく働き、先程までの気怠いやる気の無さは消えていた。
こうしてスレイがジョヨーを隈無く巡回していくに連れて、都市の士気は強固で頑健な闘志へと変わっていくのだった。
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