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堕天転生戦記  作者: 里原 健
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奴隷の区分け

この小説を覗いて下さりありがとうございます。

この世界での奴隷についての情報が載っています。

お楽しみください。

ご意見・ご感想をお待ちしております。

 陽が落ちる前、ガルバ達が駐屯する広場にハンドベルが鳴り響いた。

「カラーン!カラーン!カラーン!」

 鐘の音は兵糧食を配布する合図であった。奴隷が食べる兵糧食を積んだ荷馬車が到着した。腹を空かせた広場の奴隷達は立ち上がって兵糧食を貰うために列を作った。

 ガルバは鐘の音で目を覚まし小さく伸びをした。火事と毒撒き騒動の後片付けで徹夜した分の疲労は取れたようだった。隣で寝ていたビーラーも同様に起き上がり、空腹を抱えていたガルバと一緒に列に近づいた。すると他の現場で働いていたチェーザとドルトン、ノバスコと出くわした。ガルバはドルトンに話しかけた。

「やあ、ドルトン。今日はそっちはどうだった?」

「あぁ、こっちは大変だったよ。昨夜に教会から火が出てな。教会の火は消し止めたんだけど、放火した奴が近くの井戸に毒を投げ込みやがった。」

 ガルバは昼間に見た閉鎖された井戸場を思い出した。

「オレも似た現場を見かけたけど、被害は大きいのか?」

「ああ。当然井戸水は飲めなくなった上に、同じ水脈の井戸に毒が広がるのを防がなきゃならないからな。魔道士様や僧侶様や何やかやの作業員が必死に働いていたよ。俺らは周りで見守るくらいしかできなかった。」

 彼らは話しながら列に並び、兵糧食を受け取った。

「そっちはどうだった?ガルバ。凄い汚れているなぁ。」

 チェーザが話に加わってきた。彼はガルバが煤だらけで汚れているのをジロジロと見ながら質問した。

「近くの木材倉庫が一つ全焼して隣の木材倉庫も半焼したよ。体の汚れは火事場の後片付けで着いたんだ。井戸で体を洗ったけど全然落ちなかった。こっちが守っていた井戸は毒が撒かれるのを防げたんだが、運悪く毒を浴びちゃった男がいて、その場で死んだ。」

「即死か。死に(ざま)はどうだった?」

「目に入ったのがマズかったみたいだ。そこから毒が侵入して顔中に回って顔面は紫になっていた。目は爛れて口や耳や鼻から血を流していたよ。」

「うわ、関わりたくないぜ。」

「ちなみに、その死体を捨てに行ったのは、ビーラーとオレ。」

「おい?毒とか感染(うつ)っているんじゃねぇのかよ?」

 チェーザがギョッとした顔で驚いてガルバと少し距離を取った。

「毒のかかった場所は触らないように布越しで触って避けたし、後から手も多めに洗ったさ。」

 それを受けてドルトンが表情を歪めながらボヤいた。

「毒死なんて嫌な死に方だぜ。戦争で死ぬのも最悪だけどな………、ぁれ、僧侶様?!」

 ドルトンが急な大声を上げて目線を向けた方向には、後ろに数人の僧侶を連れた女がいた。背は高く身は細めで立ち姿から温和な雰囲気を出していた。柔和な表情で年の頃は30代程の壮年で白人系。緑色の僧衣は機能性を重視して無駄に華美なところはなかった。

 主神ユスフルを中心とした数々の神々を崇めるサトマユ教はレノクッス国で広く信仰されており、近隣の国々でも信仰する国は多かった。その信仰の指導には数多くの僧侶達が携わっており、彼らの中には法力を基にした数多くの奇跡である「法術」を扱える者達もいた。僧侶にはその人徳や経歴に合わせて(くらい)()けされており、頭に被る頭巾に色で示されていた。ドルトンが声を掛けた僧侶はちょうど中位(ちゅうい)の位を示す赤色の頭巾で、背後の僧侶達は下位の位を示す白色や黄色の頭巾を被っていた。その僧侶もドルトンの呼び掛けに気付き、歩みをドルトン達に向けてきた。

「ソアラ僧侶様!この前は法術で助けてくださり、ありがとうございます!僧侶様のお陰で足の傷は治り、皆の足手まといにならず働けております!」

 ドルトンはソアラの前で両膝を着き、両指を組んで深く頭を下げた。ジョヨーにおける最敬礼であった。

「おお、あのパルコ川の戦場で倒れていた(かた)でしたね。神への祈りがあなたを救うことになり嬉しく思います。」

「いや、僧侶様のお陰です。主神ユスフルに栄光あれ!」

「主神ユスフルに栄光あれ。………、ところでお隣の方は?」

 彼女はドルトンの隣にいたガルバに目を合わせた。黒味がかった青い瞳で彼女がジッと見つめてきた。その視線にはガルバの外面だけでなく心のうちを見透かそうとする意思が感じられて、見られているうちに彼は少し不安になってきた。

「こいつはガルバです。俺を戦場で担いで運んでくれた男で、俺の命の恩人です!」

 ドルトンはガルバの肩を抱きながらハキハキと答えた。

「そうですか。他の方々とは『見え方』が違うので、つい見入ってしまいました。失礼しました。」

 ソアラがゆっくり頭を下げるのを見てガルバは恐縮してしまった。振る舞いや(たたず)まいが高貴で常人と違う雰囲気がある女性だった。

「いえ、その、お気になさらずに。」

 ガルバも釣られて頭を下げた。

「それでは、皆様。ご機嫌よう。」

 ソアラは軽く会釈して立ち去って行った。

 ガルバ達は彼女の後ろ姿を見送っていた。

「いやー、イイ女だぜ。」

 見惚れていたドルトンはガルバから体を離して二、三歩前に踏み出しながら声を漏らした。

「だよなー、嫁にしたいぜ。」

 細身が好きなチェーザもドルトンの隣に並びながら同意した。

「俺が先だぜ、チェーザ。俺は今の『私有奴隷』から自由になって『一般市民』になるからよ。」

「そうだな。先ず俺は『公有奴隷』から抜け出さないとな…。」

「ま、俺もお前も今回の戦争で手柄を立てれば上手くいくさ!それよりもメシ食おうぜ!」

 ドルトンは仲間が座れる手頃な空き地を見つけて先導した。皆は車座になって兵糧食を食べ始めた。今夜の兵糧食も肉片や野菜片が練り込まれたいつものパンだった。

 ガルバはパンに噛みつきながら、さっきの何気ない会話が気になっていた。

(さっきの僧侶、さり気なくオレのことを『見え方』が違うって言ってたな。何だ、それ?)

 彼はパンを咀嚼しながら疑問に思った。

(それから『私有奴隷』?『公有奴隷』?これも知らないな。後で誰かに聞いてみるか。そう言えばジゾーは何処だ?)

 昨日から何も食べていない空きっ腹が満たされるのを感じながら、ガルバはこの場にいない奴隷のまとめ役を目で探していた。


 ジョヨーの夕刻頃。

 そこはジョヨーの三の区にある警備隊の詰め所であった。ジョヨーの防衛を担う将軍スレイはその応接間に座って書類を読み(ふけ)っていた。大判の紙に書かれた内容を何度も読み直していた。脇には彼の私邸で働くドルビーも立って控えていた。

 コン、コン、コン

 部屋の戸が軽く3回叩かれた。

「何用だ?」

「奴隷のまとめ役を連れて参りました。」

「よし。入れ。」

 スレイがサイドテーブルの引き出しに書類をしまいながら応えると、両開きの戸が開けられて少数の兵に連れられたジゾーが入室してきた。

 スレイは椅子から立ち上がりジゾーを迎えた。

「よく来たな。ジョヨーの軍を束ねるフナガノ・スレイだ。」

「ムステフ隊の奴隷兵のまとめ役ジゾーであります。」

 ジゾーは両手を組み両膝を着いて最敬礼した。

「ウム。この度貴様を呼んだのは、籠城戦が始まる前に我が直轄の奴隷兵の士気を確かめたかったからだ。それを奴隷兵の纏め役から聞きたい。話をする故にそこの椅子に座れ。」

「恐れ多いことです。私めのような奴隷が座れば椅子が汚れてしまいます。どうか、ご容赦を。」

 ジゾーは敬礼した体を縮こませて返答した。

「そのままだと話し辛い。構わない。その椅子に座れ。」

 スレイはジゾーの椅子を指し示し、自分の席に着いた。

 ジゾーは暫く躊躇していたが、酷く恐縮しながらスレイと向き合う椅子に座った。

「さて、貴様にも伝わっているだろうが、この都市は籠城戦を迎えることになる。奴隷兵の様子はどうだ?」

「はい。まだ敵軍を目にしていないからか、奴隷兵は平静を保っています。食糧の配布も滞りがないので、戦争中にしては不平は少ないようであります。」

「ウム、それは嬉しい報告だな。だが、実際に交戦した時は逃げ出す者はいそうか?」

「残念ながら、劣勢になれば私の見る限り十数人はいるかと思われます。」

「率直だな。最後まで戦い抜くには何が必要か?」

「奴隷の私めが申し上げるのも(はばか)れます。」

 ジゾーは辞を低くして回答を躊躇った。

「構わぬ。答えよ。」

「恐れながら、信賞を明らかにし必罰を徹底することが一つ。次に規律や治安に関する決まりは厳守させること。また、将軍御自(おんみずか)ら戦地を見回れて、重ねて兵士達に激励をされることかと。これらを実施されれば、より多くの兵士の士気が上がり、脱走しようと考える輩もより少なくなるであります。」

 この回答を聞いたスレイは口髭をいじりながら満足気に頷いた。

「明晰な答えである。貴様の経歴通り、優れた案だな。」

「私めの経歴でありますか?」

「ああ、貴様の雇い主に問い合わせて経歴書を送ってもらった。北方の都市ハカトー出身。ハカトーでの公有奴隷7年とジョヨーの近隣都市ダイトーでの公有奴隷8年を経てから、ジョヨーの軍人キショール・モリデブの私有奴隷を11年。ダイトーとモリデブ家で奴隷のまとめ役をこなし、戦争にも多く出ているようだな。素晴らしい。」

「恐れ多いことでございます。」

「負傷して戦線を離れたモリデブ卿も、貴様を高く評価していた。できるなら戦争の労役には出したくなかった、とな。」

「有り難いことでございます。」

 ジゾーは深く頭を垂れ、感謝の意を示した。

 ここでジョヨーにいる奴隷の大まかな区分けを述べたい。大きく公有奴隷と私有奴隷の二つに分けられていている。公有奴隷は都市や街の予算で保有している奴隷を指し、私有奴隷は個人の資産として保有している奴隷である。それぞれの奴隷は作業員や賄い人、雑用係、兵士などとして働く。

 2つの奴隷の間に大きな身分の差はない。しかし私有奴隷は所有者の位や財力が高ければ待遇が良くなる。また、私有奴隷は所有者が許せば家族を持てるし、更に私財を貯めて自分の奴隷の身分を買い取って一般市民になることができた。ジゾーはジョヨーの裕福層にあるモリデブ家の私有奴隷であった。更に彼が有能だったので、並の奴隷よりも優遇で働いていた。

「イル・マッショーカリ。ワイ・ボクスシーディー・ワチウ・テレルレ。」

【謙遜するな。我れが雇いたいくらいだ。】

 唐突にスレイは北方国の言葉で話しかけた。

「イラーイ、イライスプヤワ。ワライ・フン・ケコイトウ・アキ・ヤマレーズ。」

【いえ、とんでもないです。私は今の働き口で十分です。】

 ジゾーも滞りなく回答した。

「なんと!多国語を話すと聞いたが、ここまで流暢とは!素晴らしい。」

「お褒めいただき有り難く存じます。差し出がましいことでした。」

「ハハハ、そんなに畏まらんでいい。ドルビー、酒を出せ。一杯飲みたくなった。」

 指示を受けたドルビーは酒瓶とグラス2つを用意して酌をした。

 スレイとジゾーは酒を酌み交わしながら話した。主に奴隷兵の日常や今後の籠城戦について話題に登った。ジゾーと終始楽しげに会話したスレイは半マール(時間)ほどしてから彼を持ち場へ返した。

 ジゾーが部屋から出て扉が閉まった。

 スレイは片手のグラスを軽く揺らしながらドルビーに話しかけた。

「どうだった、ドルビー。何か見えたか?」

 ドルビーはスレイとジゾーの会談の間、ずっと外していた片眼鏡をかけ直しながら答えた。ドルビーの左目は戦闘に関する素質を体から発するオーラの色で見抜く力を持っていて、左目の片眼鏡を外して裸眼で見ることで確認できた。

「戦闘に関するオーラの色は白。典型的な指揮能力の高い人物ですな。礼節も奴隷としての身分を逸脱しない適切ものでした。」

「渡された経歴書通りの人材だったな。」

 スレイは先程引き出しにしまった書類を取り出してドルビーに見せた。それはジゾーが入室する前までに読んでいた大判の書類だったが、そこにはジゾーの出身から経歴、特技や功績について仔細に隈なく書き込まれていた。

 ドルビーは一読して数回頷いた。

「正式な教育を受けてなくとも、字の読み書きができるのですか!モリデブ卿のお墨付きもあります。確かにこんな者は奴隷の身分で滅多におりません。良き人材と思います。ここまでは……。」

「ん?何か不審な点でもあったか?」

(ごく)小さい一点だけです。少し確認してからご報告します。」

「そうか。では、これにも目を通してくれ。」

 スレイは懐から二つ折りにされた小さな紙片を取り出してドルビーに渡した。

 ドルビーが開いた紙には簡潔にこう書かれていた。


 ・名前:ガルバ

 ・特徴:肌は黄色、黒髪、左頬に大きな傷跡、左耳朶(みみたぶ)欠損、右手の指六本、文盲

 ・経歴:西方出身。5年前のハポネス国との戦争で捕まる。以来ジョヨーの公有奴隷。

 ・性格:怠け者、臆病者、無教養

 ・年齢:不詳

 ・特技:なし

 ・功労:なし


 ドルビーは渡された紙を上下に(かざ)しながら()めつ(すが)めつつ眺めていた。

「これだけ、ですか?」

「ああ、それだけだ。」

「これは何とも。館に招いたあの奴隷の印象と履歴が食い違っていますな。」

 ドルビーは苦笑しながら紙片をスレイに返した。

「そうだ。今、ジョヨーで内通者の存在が疑われる中、ガルバは怪しい人物だと言える。どうしたものかな?」

「捕縛しますか?」

「いや、そこまではしなくていい。だが定期的に様子を確認したいな。」

「奴隷一人に監視とは厄介ですな。」

 スレイはフーッとため息を吐いた。

「厄介だが、面倒事は少しずつ解決していきたい。それに奴は我が犬ヴィンデルや他の犬達と言葉を交わせられるからな。人材として上手く使いたい。」

「おっしゃる通りです。」

「明日からは事態が変わってくる。そっちに集中もしたい。」

 スレイはグラスの中の酒を口に含めながら、先刻入ってきた新情報を思い出していた。

『ゲレノア軍、パルコ川の渡河完了。』

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