事件の顛末2
拙作を覗いて下さりありがとうございます。
前話に続いてジョヨー中枢部の状況です。癖のある登場人物が出てきます。
ご意見やご感想をお待ちしております。
よろしくお願いします。
レノクッス国の都市ジョヨーの中心に位置するジョヨー城の大会議室では、ジョヨーを司る武官と文官の上層部が集まっていた。ここでの一番大きな議題は昨夜に発生した無差別攻撃についてであった。
武官のNo.2、防衛副将軍スティル・コモンが被害状況について報告していた。
彼の報告を纏めると以下のようになった。
●無差別攻撃の被害
一の区:襲撃なし
二の区:荷馬車への放火1件
井戸への毒撒き未遂1件
三の区:家屋への放火未遂1件
家屋・施設への放火4件
井戸への毒撒き未遂1件
井戸への毒撒き2件
市民の死者推定4人
奴隷兵の死者1人
その他負傷者多数
報告を聞き終わった高官達からはすぐに意見が飛び交った。
「井戸の毒は何なのですか?どれくらい危険なんですか?」
高官の一人が質問した。すぐにジョヨーの警備隊総隊長であるコルニエル・ノーマが立って応えた。
「目下、毒の成分調査と解毒法開発を急がせていますが、未だ不明です。毒はほんの少量で人を殺します。とても危険です。」
次いで土木の文官トップが答える。
「現在は井戸の使用を禁じ、現場には毒に詳しい薬師、井戸掘削の技師、水魔法と土魔法の魔道士、更に浄化に詳しい僧侶を派遣して毒の拡散防止と井戸の浄化に努めています。周囲の住民には井戸の使用禁止を徹底させております。」
別の高官から質問がでた。
「城の警備はどうなっている?」
続けてノーマが答えた。
「城や城壁の警護はもちろん都市内警護を厚くするように指示は既に出しております。これには民兵からの手助けも得ております。」
「あのゲッドー地区でもか?」
「当然です。」
「フン!聞けば全ての騒ぎはあそこから始まったではないか?とっくに潰して更地にでもしておけばよかったものを!」
「そうだ!」
会議の数人が同意の声を上げて、賛同の頷きを見せた。
更に文官No.2の行政副長官のナギー・イヨンも声を荒らげた。
「更に言えば警備隊の『女』隊長の目の前で毒を撒かれたという話も聞き及んでいる!そんな隊長など更迭してしまった方がよいのでは?!」
これに普段からジョヨー警備隊第四隊隊長セレーヌ・ルーイの能力や資質を疑っている者、又は妬んでいる者から声が上がった。
「この緊急時に『女』などに頼っているとは!情けなくないのかね!?」
「その通りだ!」
「まあまあ、ここで皆さんにご提案したいことがあります。」
場の雰囲気が荒れ始めた時に、一人の男が発言を求めてきた。文官トップ行政長官のムンジェイ・ジョーカスである。
「失策した女騎士などのことよりも、現実として恐ろしいのは内通者の存在でないかな?」
彼は余裕たっぷりに微笑みながら会議室にいる人々へ言い放った。
「内通者ですと?」
「ジョーカス卿!何か証拠を掴んでおられるのか?」
ジョーカスは片手を上げて意見を抑えると、更に発言を続けた。
「今回の襲撃は危惧すべき点が多い。深夜に城壁を乗り越えてアジトに潜み計画的に井戸を狙って来ています。この間、僅かに一昼夜。あまつさえ、我らの住まう二の区へも侵入していた。これは何らかの策略が動いていたと見るべきであると思います。」
ジョーカスは『我らの』という点を強調した。会議に参列する者たちは皆が二の区もしくは一の区に住居を構えている。これまでの大抵の戦争の被害は三の区に集中していた。高官達の胸中には、自分達の住まいにまで敵軍が侵略されたことへの恐怖が増してきた。
饒舌になってきたジョーカスは話を続けた。
「これはいっそのこと、全軍でジョヨー全家屋の一斉捜査などしてみては如何かな?まずは三の区から始めましょう。特にゲッドー地区から!怪しい人物などを捕らえて尋問にかけるのです。」
ジョーカスがここまで語り述べると彼を支持する声が上がった。
「おお!」
「大胆な意見です!是非やりましょう!」
声を上げたのは予めジョーカスが根回ししていた配下の者達だった。彼らは数こそ少ないが威勢と声は大きかった。そのまま会議を誘導しようと、ここぞとばかりに騒ぎ立てた。
「いや!それは非現実的だ!」
「市民が反抗して混乱が起きます!」
「どこから人と予算を出すんですかっ!?」
当然、反論が出た。
会議室は紛糾した。
大声で怒鳴り合い、意見をぶつけ合い、果ては責任問題を擦り付け合う。議会の混乱の切っ掛けであったジョーカスはそれらを止めるようなことをせず、ニヤニヤと笑って座るだけだった。まるで目の前の不和を起こしたことを自分の手柄のように見ていた。
「皆、傾聴して欲しい!!」
その時、よく通る大声が会議室中に響き渡った。
それまで騒がしかった室内はピタリと静まり、一人の男に視線が集まった。
視線の先にはジョヨーの武官のトップ、ジョヨー防衛将軍のフナガノ・スレイがいた。
「諸君。意見の交換をしてもらってありがたく思う。今この場で話に出た各論の『意見の相違』は議事録に記録されておる。都市の防衛に関する事項は、一両日中には必ず分部会を用意して話し合ってもらい、積極的に『意見の相違』を解消するようにしたい。どの議題の分部会を立てるかは後ほど決めよう。」
スレイは一息で話し息をついた。
「さて、ジョーカス殿の提案にあった全家屋の一斉捜査だが、私自身良案と思っている。」
会議室が少しざわついた。
「今回の賊の活動については不明な点が多い。徹底追求が必要だろう。もし隠れた敵が見つかれば、この都市の安全は保たれる。だが、今は戦時である。皆が知るように限られた人的及び財的資源を効率良く活かそう。ここで我は提案したい。軍だけでなく遍く有能な人材を中心に集め、捜査範囲と対象を狙い定めて活動する方が最善策ではなかろうか?」
スレイは周りの一人一人の目線と合わせながら話を続け、ジョーカスに強い視線を送った。
「ジョーカス殿、貴方の部下を貸して頂けないだろうか?力を併せてジョヨーを危機から救おう!」
理路整然としたスレイの提案に多くの人間が納得して頷き合っていた。
「モチロンですとも。」
そんな場の空気を察知してジョーカスも笑顔で答えたが、目尻はピクついていた。
それから静かな話し合いが始まり、捜査人員として武門と文門から同数の十人ずつが選ばれた。予算も調整して、本日から敵軍の策謀及び内通者を捜索する組織が結成された。
そして会議は夕方に敵軍の情報を報告する会議を開催することと決めて散会となった。凍った笑顔を顔に貼り付けたジョーカスは、会議が終わっても椅子に座ったままだった。それを尻目に見ながらスレイは会議室を出た。彼は目で合図を送り、スレイの副官スティル・コモンと秘書武官のラマル・リードに着いてくるように指示した。彼らはそのままスレイの私室に戻り腰を落ち着かせると、先程の会議について話し合い出した。
「全家屋の一斉捜査など議題が通れば、都市が大混乱する事態になっていました。危なかったです。」
都市防衛準備にずっと携わってきたコモンがまず発言した。
「いや、これまでの現場の報告を見ると、昨夜の襲撃には内通者の存在が疑われる。ジョーカス殿の発案は大袈裟だが意外にも理には適っている。」
スレイは冷静に分析を述べた。
「ジョーカス様は将軍に真っ向から反対されると想定していたのでしょう。将軍の賛成の対応に表情が固まっていました。」
リードが話に加わった。
「全くの不意打ちだったろうな。ジョーカス殿の提案通りなら、危うく軍が一斉捜査するところだった。話し合いで規模を縮小して、ジョーカス殿の手足を捜索に引き抜けたのは良かった。あれで彼の動きは鈍る。ジョヨー防衛の為に余計なことはして欲しくないからな。」
スレイが含みのあるように告げた。
「…、将軍はジョーカス様のことは内通者として疑ってらっしゃるのですか?」
コモンが慎重にスレイに質問した。
「この戦争について彼の提案の多くが軍の活動を弱めるか阻害するものばかりだ。だが協力的でないことだけで捕えることはできないさ。」
「しかし、内通者が上層部にいたら捜索での証拠や証言を握りつぶされかねませんな。」
コモンが続いて危惧を述べた。
「肝心なものは侵入者達にとっくに破棄されているだろうよ。少ない足取りからの捜査は困難になる。リード、スマンな、忙しいのに捜索隊の一員に選んでしまって。」
リードは内通者捜索隊に加わることになっていた。スレイに話を向けられるとニッコリと笑って答えた。
「大丈夫です。将軍のお世話は部下達に任せられますので。目となり耳となり捜査の経過をお知らせします。ところで、『捕虜』の件は捜索隊には伝えなくてよろしいでしょうか?」
「あぁ、まだだ。知られれば内通者に暗殺されるだろうよ。これからは地味な作業になるが頼むぞ!」
「ハッ、了解しました。これから捜索隊会議に行って参ります!」
リードは椅子から立ち上がると、踵を鳴らして足を揃え、姿勢良く両手を組んで軍式の敬礼をした。そして彼は部屋から出ていった。リードの退室を見送った後、肘掛けに頬付をついたスレイは不満げに愚痴を漏らした。
「しかし、今回はゲレノア軍にやられたな。フン。」
「そうですな。ゲレノア軍に井戸を2つ潰され、放火も5件。死傷者が多数出ました。」
コモンも深く頷いた。
「それに、本来なら敵軍のパルコ川の渡河妨害や奇襲を兼ねた威力偵察【※後書きを参照】を展開したい時なのに、我らの動きを尽く妨げられた。おまけに正体不明の工作員が、都市内にまだいる可能性も残した。そのせいで我ら味方の中に疑心を植え付けおった!」
「真に。敵の打ち手は鋭いですな。」
コモンはスレイの怒気を和らげるようにゆっくりと答えた。
「ジョヨーには見えない毒がまだ撒かれている。口惜しいが認めざるを得ない。」
スレイは怒りと悲しみが混ざった暗い表情で呟いた。
「如何致しますか?」
「侵入者や内通者についてはリード達に任せるとして、防衛軍では士気を高め情報収集に努めよう。コモン、これからの段取りについて話し合おう。」
「ハッ。了解しました。」
この後、部屋に残ったスレイとコモンはジョヨー周辺の地図を広げて、諸将を集めた都市防衛についての作戦会議や部隊編成の原案について話し合った。
籠城戦に向けて残された時間は少なかった。自然と二人の議論は密度の濃いものになって行った。
一方で、凍った笑顔のままだったジョーカスはたっぷり時間をおいて、ようやく立ち上がりジョヨー城内にある私室の書斎へ戻った。
彼はそこで体を豪奢な椅子に預けると、一気に不満顔に変わった。顔は真っ赤に染まり眉間には深く皺が刻まれ、引きつる口元の奥からは奥歯の歯ぎしりが低く響いていた。
「クソッ!軍の一斉捜査で都市を混乱させて、スレイの求心力を削ごうとしたのに!」
彼は思い通りにならなかったことで怒り心頭となり、肘掛けに乗せた拳を振り上げて机に叩きつけた。
「そもそも金や食い物をチョロッと出せば、バカな軍人などさっさと国に帰るに決まっているのだ。何が『力を併せてジョヨーを危機から救おう!』だ!貴様ら軍人など戦争で死ね!死ね!みんな死んでしまえ!!」
ジョーカスはゲレノア国からの『提案』に乗り気でいた。賠償金を支払って平和的に敵軍を追い払うことができれば、外交的成果として自分の手柄にするつもりだった。だから戦争を避けるという名分があれば、自分が傷つかない形で都市の資産を敵国に明け渡してしまえと考えていた。しかし彼の目論見はジョヨー内の抗戦派と王都にいる王族の反対で叶わなかった。
ジョーカスは自分の望んだ成果を阻んだ軍人達など命や存在すら消してしまいたかった。
彼は苛つく自身の気持ちのままに、脇に置いてあった酒の瓶を引ったくり、酒を器に注いで一気にあおった。
「しかも捜索隊などを作りおって!使える部下がほとんど取られてしまった!」
捜査を提案した彼が人材を惜しむ訳にはいかず、内通者の捜索隊に有能な者達を選出せざるを得なかった。今部屋にたった一人でいるのも、部下達が捜査の打ち合わせに出ているからだった。何よりもジョーカスは嫌いな軍人ごときに自分の提案を切り換えされ、更に意表を突かれたのが屈辱的に腹立たしかった。
「クソッ!スレイめ、忌々しい男だ!必ず失脚させて滅ぼしてやる!」
彼は更に酒を注いで呑みだした。陽の光は室内を明るく照らすが、彼の目の色は酒を飲む度に暗澹と変わっていった。
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《著者注釈:「威力偵察」とは?》
軍事作戦における偵察の手段の一つ。
「敵方の勢力や装備などを把握するために、実際に敵と交戦してみる事」
「敵の位置がわからない場合に、怪しい場所に制圧射撃を加えてみる事」
「開戦前の段階での政治的恫喝を意図して偵察機が姿を見せる事」
などがある。
いずれにしても、敵の撃破は主な目的ではなく、素早く撤退して情報を持ち帰る事が優先される。
こうした任務は機動力に優れた部隊によるヒットアンドアウェイが要求される。
(「航空軍事用語辞典++」より引用)
・リンク先
http://mmsdf.sakura.ne.jp/public/glossary/pukiwiki.php?FrontPage
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