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堕天転生戦記  作者: 里原 健
60/80

毒撒き事件3

本作を覗いてくださりありがとうございます。

ジョヨーにテロが起きます。

ご意見、ご感想をお待ちしております。

よろしくお願いします。

 日も暮れかかり辺りに夕闇が広がる頃、ゲレノア軍の隠密部隊はジョヨーの貧民街、ゲッドー地区にあるアジトに集まっていた。彼らは独自に偵察した結果を報告しあっていた。

「良くできた地図だ。偵察や作戦行動に大きな問題はないが、細かい所に間違いがある。行き止まりの路地が開通していたり、逆にないはずの行き止まりもあったりした。多分4~5年前の地図だな。」

 青い布を頭に巻いた男がユーズルーに報告した。

 ユーズルー達は地図を記憶して担当の場所を偵察していたので、実際の路地の配置と図面を簡単に照らし合わせることができた。

「5はそう思うか………。6はどうだ?」

 ユーズルーは白いフードを被った人物に話しかけた。

 綺麗な白い肌を持ち、目鼻が整った彼女は少し考えてから答えた。

「我ら゛の目的゛は井戸ヲ゛潰ずこど。ぞれヲ゛達成ずるに゛は十分だと思ゔ。」

 見た目と裏腹な嗄れた声で話した。彼女は幼少期の虐待のせいで喉が潰れてしまっていた。その声はまるで飢えた虎が唸るような枯れた声だった。

「ふむ、少なくとも地図が我らの目的に適っていることには誰も異論はなさそうだな。我らが侵入できた『経緯』と『準備』を併せて考えても、この作戦全体に支障はなさそうだな。このまま作戦は続行する。」

 ユーズルーは暗にレノクッス国側の内通者がいることを示唆しつつ結論づけた。

「作戦は打ち合わせ通りに『退り』で進める。『退のこり役』はクジで決めるぞ。」

「俺が残る。」

 ユーズルーの言葉を聞いて即座に赤い布を頭に巻いた男が挙手した。

「どうした、3よ?」

「確信はないが、偵察中に嫌な感覚がした。誰かに見張られているような、()けられているような。尾行する者はいないはずだが、もしやの時を考えると俺が適任だ。」

「………、そうか。この役目はお前なら問題なく遂行できるだろう。」

「ありがとう、任せてくれて。みんな、派手に死んでやるぜ。」

 3と呼ばれた男は仲間を見渡して覚悟を決めた。

「これから1000を数えた後に行動開始する。我々は先行してお前の動きを待つ。作戦開始!」

 彼らは動き始める。

 部屋の人々が動いて、空気が静かに早くかき混ぜられていった。

「3゛、ぢょっど待゛っで。」

 6の彼女は3の彼に近づき、片手を3の頬に当てた。そうして二人は見つめ合うと深く口づけを交わした。

 他の者達は彼らの行動そのものがないかのように冷静に作戦準備を進めていた。

「あ゛の゛世゛で゛共゛に゛。」

「地獄で会おう。」

 二人は静かに別れを告げ合うと、それぞれの仕事を始めた。

 ユーズルー達、隠密部隊は後戻りのない作戦へ走り出して行った。


 同時刻、ゲッドー地区の路地を密かに数名の兵士達が隠れていた。目標は地区の奥にあるユーズルー達が立てこもる一軒の家であった。

 ジョヨー警備隊第三隊隊長べヌイ・カルドは、例の家を陰から観察できる街角で家を見張っていた。

「動きは変わらないな。」

 カルドが部下に話しかけた。

「1マール(時間)前迄に、男女五人があの家に入り込みました。それ以来、動きはありません。ですがカーテンを締め切っているので中の様子は分かりません。」

 答えを聞いたカルドは軽く舌打ちをした。

「日が出ているうちに突撃するぞ。人員はどうだ?」

「正面と裏面に人員がおります。」

 カルドがこの家を知ったのは、スレイ将軍の副官リードからの『極秘情報』を元にして囲んでいるのだった。この『極秘情報』は3を()けていたジェリコからヴィンデルを通してスレイに(もたら)された情報だった。スレイは直様(すぐさま)に秘書官のリードに対応を指示したのだった。

 カルド達は迅速に動いて目的の家屋を包囲した。

「突撃合図を出す。突っ込むぞ。」

「了解しました!」

 カルドは口に笛を差し入れて大きく鳴らした。

 ピーーー!ピーーー!ピーーー!

 笛の合図と共にユーズルー達の根城へ正面と裏門の二方向から十数人の兵士が突撃をかける。

 扉は蹴倒されて、裏面の窓から兵士達が飛び込む。

 家を捜索し、兵士達が居間に踏み込んだ時には、部屋一面に火が燃え盛っていた。

 兵士達は突然の火事を見てそこでたじろいだ。

 その隙きを上手くついて部屋の隅から衣服が激しく火に燃えた男が兵士達に飛びかかった。

「ウルルフルゥオオオオオーーー!」

 その男はユーズルー隊の3であった。彼は両刃の短剣を目についた兵士の首筋に立てた。

 ガシュッ!

「グハッ!」

 決死の刃を避けきれなかった兵士が膝を崩す。周りの兵士達はかろうじて反応して襲いかかった男を刺して斬りつける。

「オォオオオウゥゥウーアーーー!」

 刺された痛みか、身を焼く炎の熱さか、男は叫び声を上げながら、血を吹き出して倒れ込んだ。火に焼かれた血液が鈍く沸騰して蒸発していく。

 そして男が動かなくなるのにあわせて、部屋の中も轟々と火が燃え広がった。

「引け!斬り込んできた男と刺された仲間は引きずり出せ!屋外にでろ!」

 カルドが必死に命令を出す。

 ゲッドー地区の貧相な家は見る間に火が周り全焼するかの勢いになった。

 ここの周辺は古い家屋が多く延焼しやすい材料でできていた。

「火を消せ!この地区の民兵を呼び出せ!他に燃え移るのを防ぐのだ!」

 カルドは声を枯らして部下を指示した。この火の勢いでは間者を追う前に、地区の大火事を防ぐことが優先になってしまった。外に運ばれ地面に横になっていた3は、その慌てぶりを耳にして満足した。もう手足も首も動かせない。しかし周囲の混乱は耳に聞こえる音と、走り回る人が踏みつけて震える地面から分かった。

「『退のこり』役目、成功。我れ、死せり。満足なり………。」

 誰に伝わることもない最期の作戦報告を呟きながら男は息を引き取った。

 ユーズルー達が取った作戦は『退り』というものである。都市や街でテロ行為を行うために、『退のこり』という役目の者が警備を一点に集めさせて、他の者達が活動しやすいようにするのだ。

 今回は家に火事を起こして、突入してくる兵士達を死ぬギリギリまで引き付ける。他の者達は家の地下にあった地下通路から逃げ延びた。

 この地下通路は、元々の根城の持ち主が警備隊の捜索から逃れるために作った秘密の通路であった。ユーズルー達五人は中腰に体を丸めながら狭い通路を抜け、脱出口の梯子を昇った。閉まっている蓋を開けて人がいないのを確かめてから五人は外に出た。そこはアジトから三軒程離れた行き止まりの路地に出た。

「3は上手くやったみたいだ。この後、我らは各自の才覚で事を成し遂げる。皆、死んで華に成れ。」

 ユーズルーが四人に声をかけると四人は黙って頷いた。四人とも昼間の偵察で自分が担当する地域での作戦を立てていた。後は実行に移すだけだ。

 ゲッドー地区が火事で騒ぎになっている中、ユーズルー達はジョヨーの街に侵入を始めた。


 三の区のとある井戸場の近くにある商店街の裏手で、ゴミが溜まっていた場所で火が起きた。

「火だ!火が出たぞ!」

 騒ぎと同時に人々が声を出し合う。そして急いで消火活動を始めた。

 そこに井戸場に駆け込んできた男がいた。

「水を汲ませてくれ!消火に水が足りない!」

 男は青い布を頭に巻き、手には空桶を持っていた。それに対して、井戸場の兵士は前に立ちふさがって止めてきた。

「待て!先ずはあそこにある汲み置き水を使え!それが決まりだ!」

「分かった!あっちに行くよ!」

 と、男は言われた通りに井戸場から背を向けた、ように見せた。

 兵士達の虚を突くようにクルリと回転して駆け出して彼らの間をすり抜けていく。

 そして、一気に井戸場へと距離を縮めた。

「?!待て、何をするのか?」

 青い布を巻いた男は走りながら懐に手を入れると、黒い瓶を取り出し、振りかぶって井戸の中へと瓶を投げつけた。

 パリンッ。

 井戸の内壁に容器はぶつかり、破裂音と共に容器の中の液体が井戸に注がれた。

「何をする!」

 井戸の周りの兵士達が飛びかかって男を抑えつけようとした。

「ハハハハハっ!『毒撒き』役目、成功!」

 男は短刀を取り出して兵士達に対抗した。初めは健闘したが数に押されて捕まりそうになると判断するや、己の首と心臓に短刀を刺した。

 兵士達が捕えた時には、既に助からない深手を負って血を流していた。

「しまった!やられた!」

 三の区の一つの井戸に毒が撒かれ、汚染された。

 毒撒き事件は夜を迎えたジョヨーに突如襲いかかった。

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