毒撒き事件2
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ガルバ達は広場に置かれた木箱の上に立つ兵士の前に集まった。集まり終えると兵士が将校と入れ替わった。箱の上に立ったのはスレイ直属の奴隷兵の指揮官、リノール・ムステフであった。
「貴様ら!これから数日の間は貴様らは場内警備の任につく。兵士一人の下に三人がついて都市内を見回り治安を高める。不審人物や不穏な気配を感じたら兵士に連絡すること。割当は私の副官マローズと奴隷のまとめ役に任せる。以上!」
ムステフは面倒くさそうに説明をして箱から降りた。後は副官のマローズとジゾーの折衝で物事は進んでいった。
マローズは兵士を一列に並べ、兵士一人につきジゾーが奴隷兵を三人ずつ割り当てた。
ガルバはアイブという中年の兵士の下につき、タントという男とビーラーが一緒の組になった。タントは二十代中頃の白人系で背の高い男であった。
「よろしく頼むよ。」
ガルバはタントに笑顔で軽く挨拶をした。
「こっちもよろしくな!」
タントは割と人馴れしやすい性格らしくハキハキ話す男だった。
アイブは三人の前に立つと威勢よく命令を下した。
「ワシらの任務は担当地区の巡回と井戸場の警護だ。怪しい奴や不穏な奴を見かけたらワシに知らせろ。先ずは巡回だ。ついてこい。」
アイブはガルバ達を連れて歩き始めて、四人は通りや路地を見回った。
今は戦時のため商いは停滞していたが、通りに人々は多少見られた。行商人は数人確認できたし、荷台で物資を運ぶ人達の姿も見えた。袋を担いだ男や、桶や籠を下げた女性や子供を見かけた。
ガルバ達は暫くグルリと巡回していたが、井戸場に着くと他の組と交替して井戸場周りを警護した。そこにはガルバ達と別の組併せて二組8人が警護に当たっていた。
ジョヨーには大小合わせて15もの井戸があった。大量の水が必要な時は近隣のテニスン川やパルコ川から汲むが、生活用水にはテニスン川からの水道や井戸からの水量で賄えた。
井戸場はちょっとした集会もできるくらいの広さで、「井戸端会議」にあるように数人が集まって会話をしていた。
そんな人々を見張るガルバの目には不審な人物など見当たらなかった。
(楽だが退屈な任務だな。)
彼は槍に少し寄りかかりながら周囲を見回していた。
《静かに。わっしの声に反応しないでくだせえ。》
ガルバは急に後ろから話しかけられた。言われた通り何も動かずにいると、声の主は彼の隣にちょこんと座った。
ガルバが横目で隣下を見ると、白と黒の斑柄の犬がいた。
《貴方がガルバ様ですね。昨夜お会いしやした。わっしはドリュル様の子分で、三の区の北東地域をまとめるジェリコと申します。貴方にお伝えしたいことがあります》
「…何です?」
ガルバは目線を前に向けたままにし、声を潜めて尋ねた。
《昨夜ジョヨーに余所者の人間が入り込んだようです。数人が北半分をウロウロと動いています。》
「どうやって分かったんですか?」
《姿と形はこの都市の人間ですが、匂いが少し他の人間と違います。また歩く足音がよく訓練された兵士と似ています。》
「さすが犬が調べると違いますね。ヴィンデルには伝えましたか?」
《はい、我らの鳴き声の通信網で粗方は姐御に知らせました。スレイ様にも話は伝わっていると思いやす。》
「オレも何か行動しますか?」
《今の所は犬と人間で情報を集める段階です。連絡があるまで動かないで、今の任務を続けてくだせえ。わっしも今は追跡任務中です。》
「敵がいるんですか?」
《しっ!声を落として。左方の曲がり角。赤い布を頭に巻いた男が見えますか?》
ガルバは目だけをギュッと端に動かして見てみた。
少し離れた街角の陰で、立って休んでいる風の男がいた。市民の装いをして壁に寄りかかっているが、頭の巻物は眉を隠すくらいまで下に巻かれていて、一見風貌は分かりにくかった。言われて観察すると、人が通る度に微妙に顔を背けていて、他人の印象に残らないようにしているようだった。
《今はこの距離が限界ですね。これ以上近寄ると怪しまれやす。体臭以外にも嫌な臭いもしてやすしね。》
「嫌な臭い?」
《嗅いだことのない良くない臭いです。………、動きました。ここで失礼しやす。》
ジェリコはガルバに匂い付けのために軽く体を擦り付けると、静かに歩き去った。ガルバが目線を向けると、例の男は姿を消していた。ジェリコは目視でなく嗅覚で跡を追うようだった。
(嫌な臭いか………。)
目の前の風景は戦を前にしているとは言え、水を汲んで隣人と情報交換する日常風景そのものである。ジェリコからの情報を得て、この風景の中に敵がいると思うとガルバは不安になった。彼は改めて警戒を強めていった。
その日の午後。
ジョヨーで最も日が当たらない三の城壁北側の近く。
ジョヨーの貧民街。人呼んで「ゲッドー地区」。
誰からも振り返られることもなく、誰が居なくなろうと気にかけられない。食料豊かで交易盛んな都市の影の部分が濃く表れている小さな地区だった。
その地区のとある空き家の居間に一人の男が地図を前にして地面に座っていた。
その男はカトケイン将軍が連れてきたゲレノア軍の特殊隠密部隊「黒蜘蛛隊」の第二部隊隊長、ディアトロ・ユーズルーである。
室内はカーテンを締め切って薄暗く空気が淀んでいたが、黒いフードの奥にある細長い目は鋭く地図を睨みつけていた。
「やはり守りが堅い都市だな。城壁だけでなく市民が自律して都市内の治安と防御を固めている。カトケイン将軍が本気を出すのも分かるな………。」
ユーズルーの属する部隊はゲレノア国内で人から迫害され、行き場のない者達が集う部隊だった。
部隊の隊員達はは死ぬ覚悟を既に決めていた。
彼らの数少ない家族には、彼らが死ぬことで作戦の成否を問わずに恩賞が施されることになっていた。
『同じ死を迎えるなら華々しく死んでやる。』
死兵の言葉である。
ユーズルーの部隊の合言葉は、敵であるレノクッス軍の兵士が聞けば身を震え上がらせるものだった。
部屋には彼の他に二人の男がいた。
「1よ。3と5と6はいつ戻る?」
部屋の隅で茶色の上着を着て床に屈み込んでいる男がユーズルーに話しかけた。
ユーズルーの部隊は各人を番号で呼び合っていた。これは本名を隠すと同時に、各人の人間性を殺して単なる手駒として認識し合うためであった。ユーズルーの名は1である。
「まだ時間はかかるだろう、2。ここは広い都市だ。地図があっても全てをすぐに周り切れるものではない。」
2と呼ばれた男は、ユーズルーの回答を聞きながら地面の地図に目を落とした。
彼らの前にある地図は侵入した家に用意されていたものだった。
ジョヨーにはゲレノア軍の内通者がいた。
彼ら六人はジョヨーの北の城壁を越えた後、約束されたアジトに忍びこんだ。そこの居間にはジョヨーの井戸や路地まで細かく記された地図が隠されてあったのだ。
「1。その地図の情報を信じても大丈夫か?これまで上手く行きすぎている。」
窓際で灰色の襟巻きをした男が発言した。男はカーテンの隙間から窓の外を見張っていて、目線を外に向けたままユーズルーに問いかけた。
「4。それは残りの者達が戻ってから決めよう。騙されているか否かを見定めるのも、偵察の役割だ。」
ユーズルーは地図に目を釘付けにしながら答えた。彼の頭にはジョヨーを混乱に陥れる計略が生まれつつあった。
「全ては今夜決まる。今夜だ。」
誰にともなく呟く声は、ゲッドー地区の最深に消えていった。
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