毒撒き事件1
拙作を覗いてくださりありがとうございます。
ジョヨーに新たな事件の雰囲気が漂い始めます。
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朝早く、ジョヨー南東の城壁近くの地面には6体の遺体が並べられていた。これらは昨夜南壁から都市内に侵入を試みて、返り討ちにあった不審人物達の遺体だった。
並んだそれらをジョヨーの兵士達が二人ずつ担当して調べていた。
兵士達の作業を一人の士官が見守っていた。
ジョヨー警備隊第三隊隊長、ベヌイ・カルドだ。彼は太い腕を組んで押し黙っていた。
すると、彼の元に馬に乗って新たな士官が到着した。その士官は馬を止めるとスルリと鞍から降りてカルドの元へと駆け寄った。
「すまない、ベヌイ。待たせたな。」
甲高い声で話しかけてきた。
「いや、全く問題ない。よく来てくれたな、セレーヌ。」
カルドは彼女、ジョヨー警備隊第四隊隊長セレーヌ・ルーイに謝意を述べた。
ルーイは女ながらも男の戦士に劣らぬ体格と素早い戦闘能力を持っており、頭の回転の速さも見こまれて警備隊隊長職を任されていた。
二人はジョヨーの一番外側の居住地である三の区、市民や奴隷が住む地区の治安を統括する職務に就いていた。広い地区の東半分をカルド、西半分をルーイが担当していた。二人は身分も職位も同じで、三の区を警備するために進んで協力しあう間柄であった。
「寄こしてくれた報せにあったが、あれが侵入者達の死体か?」
「あぁ。奴らが鉤縄を城壁に引っ掛けて登っているところを守備兵達が発見して対応してくれた。6体ある。城壁を越える前に3体を矢で射殺した。2体は城壁の上で槍と剣で殺した。残りの1体は捕えられる寸前で毒を飲んで自害したようだ。」
二人は遺体の側まで近寄って行った。見てみると、どれもが普通の市民の格好をしており敵兵とすぐに見破ることは難しそうだった。
「見てもらいたい物がある。」
カルドは部下に合図を送って幾つかの物品を持ってこさせた。
「奴らの各自の所持品だ。両刃のナイフと少々の貨幣、火付け石。それから、この二つの小さな瓶だ。」
カルドは栓のしてある白と黒の陶製の瓶をルーイへ差し出した。その各小瓶はそれぞれ片手で握れる程の大きさだった。
「白い瓶と黒い瓶共に液体が入っているな。中味は確かめたか?」
ルーイは眉間に皺を寄せながらカルドに尋ねた。
「まだだ。白の瓶の中味は一見すると油のようだった。黒の方は恐らく毒だ。自害した奴は、この中身を飲んで死んだそうだからな。二つの液体の成分は薬師と魔道士に至急調べさせているが、自害した奴の死に様が酷くてな。見てみろ。」
カルドは一つの死体を指さした。
その死体は身体中の皮膚が濃い紫に変色しており、強く体を引き攣らせて固まっていた。死に顔は苦悶に歪み、口や鼻や耳、目尻からは血が流れていた。
「自害用の毒にしては強力過ぎる。俺はこの毒はもっと別の使い道があったと考える。例えば、井戸に放り込むとかな。」
ルーイはそれを聞くと驚きの表情を見せた。
「何と!もし井戸に投入されていたら危なかったな!」
「いや、安心するな。俺は侵入者がこいつらだけでないと踏んでいる。お前に来てもらったのも、西半分での放火や井戸への警戒を高めて欲しくて現場を見せたかったのだ。」
険しく顔を固めてカルドはルーイに告げた。
ルーイはカルドの緊張感が伝わり気を引き締めた。
「確かに安心はできないな。よし、これから二人の連名で警備隊総隊長に警備の強化を強く提案しに行かないか?先んじて、私は独自に巡回や警戒を高めるように西半分に指示を出しておく。」
「協力してくれてありがとう。俺も既に東半分の警戒水準を高くするように指示した。」
「少し西半分まで付き合ってくれ。部下に指示を出しに戻る。その後総隊長へ連絡しに行こう。」
「分かった。一緒に行こう。」
カルドは用意しておいた自分の馬に乗った。ルーイも馬に跨がると、二人はジョヨーの通りを駆け出して行った。
この朝からジョヨー内の警戒度は一気に高まっていくのだった。
北壁近くにいるムステフ隊の奴隷兵は朝の食事を終えた後、午前中は武具と防具の配給を受けていた。
レノクッス軍は敵から鹵獲して増えた装備を再配給していた。これはガルバがスレイと対談した時に伝えた装備の不足情報に基づいて実施されたものだった。
そうとは知らないガルバも列に並んで鉄製プレートで補強された革の手甲を入手できた。これまでは右手のみの革製の手甲だったが両手を揃えることができた。へこみや傷は多数あったが、金属プレートが丁寧に加工されていて、二の腕まで覆う形だった。六本目の小指のために細工をして嵌めてみると、少し重かったが軽い刺突や斬りつけは防げそうだった。
仲間達も装備を更新していて、特にノバスコは彼の長身に合った革鎧を見つけ、ビーラーは片目でも視界が邪魔にならない兜を入手できていた。
「やっと鎧を着れた。今まで死ぬ思いしてきたからな。」
ノバスコはとても喜んでおり、
「………、フッ。」
ビーラーは静かに微笑んでいた。
その他、奴隷兵達は新しい装備を得て喜び合っていた。その輪から外れてジゾーが一人で周囲の様子に鋭く目を配っていた。ガルバは気になって彼に近づいた。
「どうした、ジゾー?何か起きたのか?」
「気のせいかもしれないが、警備に当たっている兵士達の様子が変だな。これまでよりもピリピリしている。昨夜、南の方で騒ぎがあったらしいが、それのせいかな?」
言われてガルバも周りを見回した。ガルバの目には分かりにくかったが、兵士達が駆け足で移動しているのは目についた。
「昨夜と言えば、お前夜に起きてどこへ行っていた?寝床を離れているのが長かったぞ。」
ジゾーはガルバに聞いてきた。
「あぁ、この新しい鎧の感触のせいで寝付けなかった。便所に行くついでに少し散歩していた。」
ガルバは鎧を拳で軽くコンコンと叩きながら答えた。
「そうか。余り変にうろついていると民兵や兵士様に怪しまれるぞ。気をつけろ。」
「分かった。すまなかった、気をつけるよ。」
ガルバはそれとなく答えた。『犬達に匂いを嗅ぎ回された』なんて言っても信じてもらえないので、尤もらしいことを言って説明した。寝付けなかったことは本当だったし、上手く誤魔化すことができた。
その時、ガルバ達の拠点となる広場に大きな声で周知が発せられた。
「ムステフ隊の奴隷兵は集合!新たな任務の説明を行う!」
赤い鎧を着た兵士が空の木箱に乗って鋭く命令を下した。
「おっと、集まらなきゃな。こいつは何かあるぞ。ガルバ、行くぞ。」
ジゾーはさっと身を翻して命令を出した兵士の方へと向かった。ガルバも只ならぬ雰囲気に警戒しながらジゾーに合わせてついていくのだった。
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