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堕天転生戦記  作者: 里原 健
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夜半の顔合わせ

拙作を覗いてくださりありがとうございます。

ヴィンデルとの逢引です。どうなることやら?

ご意見、ご感想をお待ちしております。

 《ガルバー!ワタシよー、ヴィンデルよー!アナタ起きているんでしょ、来なさいよー!》

 初めはガルバはヴィンデルからの呼び掛けに応えるか迷った。昼の労働で疲れ切っていたし、顔中をまた舐め回されるのは嫌だったからだ。

 しかしヴィンデルは尚もガルバに呼び掛けた。

 《スレイ君からの命令よー。来ないと言いつけるからね!》

 スレイ将軍の名前が出されてしまうと動かなければならない。渋々ガルバは体を起こした。トイレに行く素振りを見せながら鳴き声がする方向へと歩いていった。

 ヴィンデルは断続的に吠えて自分の場所を示していた。ガルバは少し歩いて細い路地から行き止まりの空き地に出た。そこに黒犬の大きな体躯が見えた。ヴィンデルは座りながらガルバを待っていた。その彼女の後ろには十数匹の犬が控えていた。

 《良く来たわね。…って、アナタ臭いわね。人のウ○チ臭いわ。》

「………、仕事でウ○チを汲んで外に捨てていた。」

 《何それ?!折角の素敵な体臭が台なし…、モゴモゴ、オホン。》

 ヴィンデルは語尾を誤魔化すと、キリッと顔を作って話しを続けた。

 《ま、それはいいわ。アナタに紹介したい犬がいるの。ドリュル、前へ。》

 すると、赤い犬がノシノシと歩いてきた。当然ヴィンデルよりも小さく見えるが、普通の犬より大柄な犬だった。

 《ジョヨーの野良犬をまとめているドリュルと申しやす。後ろに控える犬達は各地区の代表でございやす。姐御あねごとスレイ様の命により貴公の手助けを致しやす。それにしても、本当に我らと意思疎通できる人間なのですね。驚きやした。》

 ドリュルと丁寧に名乗った赤犬はスレイの前で座って挨拶した。

「どういうことなんだ?」

 ガルバはうまく理解できなくてヴィンデルに尋ねた。

 《スレイ君から犬と会話ができる人材は活かしたいとワタシに告げてきてね。未だ役割は決めてないけど、この街の顔役達に顔合わせしておこうということになったの。》

「そう言うことか、分かったよ。ドリュルさん、よろしくお願いします。」

 ガルバはドリュルに会釈した。人間に頭を下げられたドリュルは少し戸惑っていた。が、すぐにヴィンデルにチラチラと視線を向けた。

 《姐御あねご。紹介は済んだので、その、え~と、あれを。》

 小さく尾を振りながらヴィンデルに何かを懇願してきた。後ろの犬達も少し落ち着きがなくなってきた。

 《あのねガルバ。私達、犬類っていうのは物や人を覚えるのに必要なのは見た目だけじゃないのよ。五感が鋭いからね、全てを使うの。例えばそれは、匂いなのよね。顔合わせするということは、つまりそういうことなのよ。》

 ゾクッとガルバの背筋が凍った。

「それって、もしかして………。」

 ガルバは一歩足を引いた。

 《これもスレイ君からの命令なのよ。少し辛抱してね。ほらっ!みんな!行っちゃいなさい!》

 ドゥッと音がして犬達が飛び上がる。

 《《《ウ○チ臭いけど、いい匂い〜〜〜!》》》

 みな一斉にガルバに伸し掛かった。

「ふがーーー!」

 顔や首元にとどまらず、手足や胴体、股間に至るまでの体全体に犬達は鼻を押しつけて舐め回した。ガルバは叫び声を上げようにも口を犬の舌で塞がれてしまい何も声が出せなかった。もはや力なく為されるがままに横たわるしかできなかった。


 だいぶ時間が経ってガルバは舐め回しから解放された。ガルバはグッタリして地面に座っていた。

 《みんなご苦労さま。また連絡するわね。》

 どことなくスッキリした表情の犬達はヴィンデルに挨拶して帰って行った。

 空き地にはガルバとヴィンデルが残った。

 《これでアナタの匂いは顔役達についたわ。彼らの体を通してアナタの匂いはジョヨー中の犬達に伝わる。犬と話せる人間の匂いとしてね。これで意思疎通しやすくなったわ。よかったわね。》

 ヴィンデルはガルバの隣に座って話しかけてきた。体の大きなヴィンデルがガルバと座って並ぶと、カルバの方が軽く見上げるような形になった。

「ハー、何かもう無茶苦茶にされて何も言えない。オレの匂いって、こんなに凄く良いのか?」

 顔についた涎を手拭いで拭き取りながらガルバは尋ねた。

 《初対面の時もまぁまぁいい匂いだったわ。けど、スレイ君の邸では数倍に良くなったわ。まるで封印が解けたような、それか新しい力に目覚めたような。心当たりないの?》

「………、ないよ。」

 ガルバは守護天使のミュシャから能力を貰ったとは流石に言えずにとぼけた。

 《嘘よ!ワタシには人間の嘘はすぐに分かるのよ!でも深く追及はしないわ。人間は嘘つく生き物だしね。いつか理由を教えてね。》

 ヴィンデルは横目を流しながら話した。

「そうだな。オレはもうクタクタだよ。他に用がなければ寝床に帰らせてもらおう。」

 ガルバは立ち上がろうとして、地面に手を付けた。

 《その前に、少しだけ。お願い。》

 ヴィンデルはゆっくりとガルバの頬に鼻を近づけ口を触れさせた。

「今のは…、キス?」

 ガルバは少し戸惑ってヴィンデルに尋ねた。

 《バカっ!そんなんじゃないわ!少し嗅いだだけよ!勘違いしないでよね!人間のクセに!》

 畳み掛けるように言うだけ言うと、彼女は身軽に路地へと走り出し建物の影に消えていった。

 後にはガルバが一人、月明かりの中を座っていた。

「何だったんだ?一体。」

 ガルバはゆっくりと立ち上がると自分の寝床へ向かった。

 月光が静かに詩を歌っているような美しい時間だった。


 その同じ夜の遅く。

 二つの半月が中天を大きく過ぎ、地平線に沈む頃の真夜中。月光が弱まり暗闇が増してきた。

 ジョヨーの城壁の外に動く影があった。組織立って動くその影達はゆっくりとジョヨーに近づいて行った。

 ジョヨーには東西に城門があったが、北壁と南壁には門はなかった。その北壁と南壁、同時にそれぞれに六つの影が水堀に静かに潜り、城壁まで泳ぎ着いた。

 彼らは作戦通り手早く鈎爪のついた縄を城壁に投げる。手慣れた動きは一度で鈎爪を引っ掛け、彼らは縄を伝って素早く壁を登る。

「おいっ!怪しい人影が壁を登っているぞ!」

 しかし南壁側で彼らは見つかった。すぐに兵士達が集まり、人影に襲いかかった。矢に撃たれたり抵抗して斬られた影が水堀に沈み、城壁の上に倒れる。

 南壁の侵入騒動はジョヨーの他の地区の警護の目を向けるのに十分に大きかった。

 その騒ぎの中、北壁から侵入した影達は、見回りの警邏が少ない唯一と言っていい搦手からの侵入を成功させた。

 ゲレノア軍の特殊部隊六人がジョヨーに侵入した。彼らの作戦は第一段階を達成したのだった。

 ーーーーーー

作品を読んでいただきありがとうございました。

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