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堕天転生戦記  作者: 里原 健
54/80

対面2

拙作を覗いてくださりありがとうございます。

主人公が歓待されます。

ご意見、ご感想をお待ちしております。

よろしくお願いします。

 ガルバを乗せた馬車は警備隊の庁舎から離れてスレイ将軍の邸宅へ向かっていた。

 馬車の中で進行方向に座るガルバは観察されていた。対面に座るラマル・リードによってである。彼はゆっくりと話しかけた。

「緊張しているかい?」

 ニコニコと笑顔を浮かべるが、眼が笑っていないのはガルバにすぐ分かった。ガルバの前世の経験でリードに似た人がいた。厳しい交渉を仕掛ける時の営業マンである。

「流石に緊張します。」

 ガルバも薄く笑い返しながら答える。そうしてリードの服装を観察する。

 白いシャツの上に赤いベストを着て、丈の長い赤羅紗の上着を身に着けていた。胸元には階級を示す階級章が着けられていた。

 組んだ足は白いズボンに膝まである黒いブーツを履いていた。腰に着けていた細めのソードをいつでも抜けるように控えていた。

「安心したまえ。君を傷つけることはないよ。」

 黒髪で彫りの深い褐色の顔を向けて話しかけてくる。

「はい。」

 ガルバは短く答えて座り直した。

 車内は沈黙が続きながら目的地に辿り着いた。

 馬車は門を潜り敷地を静かに走って邸の玄関に乗りつけた。

「さあ、降りよう。」

 リードは扉を開いて先に客車から降りた。ガルバも馬車を降りると邸を見上げた。

 スレイ将軍の邸宅は二階建てで白い漆喰が太陽の光を強く反射して、宝石のように輝いていた。

「ようこそいらっしゃいました。リード様。」

 声のする方へ見ると、黒と白を基調にした服を着た初老の男性が玄関で出迎えていた。彼の名はドルビー。スレイの邸の執事だった。左目に青色の片眼鏡をつけていて、その後ろには男女数人が控えめなデザインのお仕着せを着て控えていた。

「ドルビー、出迎えありがとう。スレイ将軍のお客様を連れてきた。書斎か応接間に案内するように指示を受けた。」

「それでしたら応接間がよろしいでしょう。これからご来客の予定はありませんから。」

「そうか。案内してくれ。」

「はい。では、こちらへ。」

 ドルビーはガルバ達を邸の中へ案内した。

 足を踏み入れるとすぐにホールに出た。内装は古い木材を主に使っており、上に続く階段が視界に入った。ガルバ達は階段を登らず一階の廊下を進み両開きのドアの前へ進んだ。扉が開けられるとガルバとリードは中へ入った。

 そこは広く天井の高い応接間だった。

 壁には肖像画や風景画、彫刻などの美術品が飾られており、書棚には綺麗な装丁がされた書物が並んでいた。

 窓は大きく陽の光を取り入れていた。部屋の中央の壁に暖炉があり、それを中心にソファやテーブルが整然と置かれていた。

「こちらへお掛けください。」

 ドルビーはガルバを暖炉前のソファへいざなった。

「ありがとうございます。」

 ガルバは言われるままにソファに浅く座った。

「ごゆっくりと。」

 ドルビーはそのまま部屋の中に残って入口の前に立った。

「主が戻るまでもう少し待っていてくれ。その間は色々と話しをしよう。」

 リードも従えてきた三人の兵士を脇に立たせて、ガルバに近いソファに座った。

「はい。」

 リードは如才なく何気ない話題を話しかけてきたが、目線はガルバを鋭く観察していた。三人の兵士達もガルバを見下ろしていた。

 ふとガルバは脇を見ると、入口にいたドルビーも何故か片眼鏡を外してガルバを凝視していた。左目が心なしか鈍く光って見えた。

(確かに得体のしれない奴隷が来たから警戒しているんだろうけど、全員オレのことを見過ぎ!早く開放してくれ!)

 ジロジロ見られる居心地の悪さが頂点に達した頃に、玄関の方から声が上がった。

「ご主人様のお帰りです!」

「私がお迎えに伺う。ドルビー、君はそのままで。」

 リードは短く言うと立ち上がって玄関へと向かった。

 馬車が近づき止まる音がした。玄関の方が少し騒がしくなったが、別の部屋へと入っていく音がした。

 ドルビーと兵士達、ガルバは静かに応接間で待っていると邸のどこかで戸が開き、数人が廊下を歩き近づいて来る気配がした。ガルバはソファに座りながら待ち構えた。

 そして扉が勢いよく開けられた。

「ワウ!」《すっげーいい匂い!》

 大きな黒い影が走り込んできた。

「えっ?」

 ガルバはソファに座ったまま反応できずにいたが、黒い影は彼の体にのしかかってきた。そして床に押し倒す。

「ワン!ワワン!」《やっべぇ、いい匂い!クンカクンカしたいっすわー!》

 大きな鼻と舌がガルバの首や顔をまさぐり舐め回す。

「うぐっ!何だコレ?」

「ワフワフ!ワッフワッフワッフーン!」《この匂いは最高!ワタシ乙女なのに快感すぎるゥ、ダメェ、イッチャウわぁ!》

 ガルバはベロベロと舐められて濃い涎が鼻に詰まり息ができなくなってきた。ガルバは堪らずに声を上げた。

「やめてくれ!乙女が快感とかイッチャウわとか、はしたないぞ!!」

 ピタリと舌が止まった。

「ウー?ワウー!」《ワタシの言葉が分かるの?それにアナタの言葉も分かるわ!》

「分かったならどいてくれ!息ができない!」

「ワン!ワン!?」《嘘でしょ!アナタ何者!?》

 ガルバの上にいた獣は体をサッと引いた。それはスレイの愛犬、ヴィンデルであった。

 ヴィンデルがどいた後、ガルバは顔についた涎を手拭いで拭いた。

「ハー、ハー。何だよ!いきなり舐めるにしても、ほどがあるだろっ!」

「ワフー。ワウ?」《そんなに怒らないでよ。何でワタシの言葉が分かるの?》

「何でって………。あっ、もしかして?」

 ガルバは一つのことに気付いた。

(もしかして、ミュシャさんがくれた祝福ってこれか?)

 その通りだった。天使ミュシャが授けた祝福は犬類と会話ができる能力だった。

(ええっ?これが祝福か〜。あんまり嬉しくないな〜。)

 ガルバは一人で得心し、床に両手をついて悄気げていたが、周囲は驚いていた。

「ヴィンデルが、こんなに素直に引き下がるとは…。貴様、犬の言葉が分かるのだな?」

 応接間に入ってきた男が呻いた。それはフナガノ・スレイだった。

 茶色の総髪を後ろになでつけ、リードのとよく似た軍服には金色の肩章があしらわれていた。彼には秘密の能力が幾つかあったが、その一つがヴィンデルと魔法を使った特別な契約を結び彼女と会話ができることであった。

「ヴィンデルよ。此奴は敵か?」

 スレイは飼い犬に問いかけた。

「ウー。ウー?ワン。ワン!」《敵意は臭わないわ。あれ?、この人と前にも会っているわ。そう、六本指の人よ!》

「ムッ、確かにそうだ。思い出したぞ。名はガルバだったな?何と貴様が槍投げの勇士か!面白い!さぁソファに座ってくれ!」

 スレイは床に座り込んだガルバに手を貸した。ガルバは差し出された手を取って体を起こし改めてソファに座った。

「はぁ、ありがとうございます。」

 色々ありすぎてガルバは目を回していたが、スレイは興奮してガルバの前に座った。

「あの槍投げをしたのが貴様とは!しかもヴィンデルの言葉も解るとは!驚きは絶えぬぞ!ドルビー、上等の酒を持ってこい。歓待の準備をしろ!」

 心が踊るままにスレイは配下に命令した。

 ガルバはスレイのもてなしを受けた。

 二人の話題はパルコ川の戦いと敵武将への槍の投擲に始まった。

 スレイはその時のガルバの状態について質問してきた。ガルバはあの時は本当に夢我夢中で、自分の実力以上の力が湧いてきたのを思い出しできる限り詳しく説明した。

「何と、この細い体で一撃で当てるとは?!」

 スレイは驚いていた。

 それから話題は戦場で懐の板のおかげで命が助かったことや、普段の奴隷兵の作業、ガルバの生い立ちについて移った。

 パルコ川の戦いや作業については話せたが、自分の生い立ちについては、いつも通りに『雷で記憶を失った』と答えた。

 また犬との会話についても、たった今分かるようになったとしか言えなかった。馬車を引く馬の言葉は分からなかったから、犬しか意思疎通ができないようだと伝えた。

 半分くらいは正しいし、残り半分は情報量を減らして誤魔化した。ガルバは矛盾点を突かれると心配したがスレイは納得したようで、深くは触れなかった。

 日が暮れて夕方近くになると、ドルビーら家人が応接間にテーブルと椅子を設置した。ガルバとスレイ、リードの三人はそちらへと移り、出された夕食を食べながら会話を続けた。ガルバは奴隷の食事とは異なる美味なる料理に心が溶かされていくようであった。

 ガルバからは嵐の夜襲で初めてスレイに会ったことについて触れた。ガルバがスレイにあの夜に命を救われたことを伝えると、

「大したことではないよ。」

 とスレイは答えた。ガルバはスレイの活躍を褒め称えて深く礼を述べると、スレイは微笑みながら口髭をいじった。

 次にスレイはガルバの持ち物の中でルの髪の毛に興味を見せた。

「カルド隊長によると凄く大事なお守りがあるらしいな?」

「はい………。これです。」

 ガルバは懐からルのお守りを取り出した。

「これは魔道士様の鑑定で無害であると確認されています。」

 少し汚れているが茶色の髪が丁寧に編み込まれていた。

 ガルバはお守りを懐に戻すと話しを続けた。

「将軍には正直に申し上げます。これは女の髪の毛を編んだもので、女の名はルと申します。ムステフ様の奴隷でして、本隊で賄いをしておりました。飯場にて知り合い仲良くなりました。私が殿しんがり軍に残ると分かった時に、私の身を案じて彼女は自分の毛を編んだお守りを渡してくれました。私もお返しにと自分の髪を一房渡しました。」

「恋愛物語のような話だな。お守りはどれだけ役に立ったか?」

「戦う前、恐れに負けてパニックになった時に握りしめて気が鎭まりました。落ち着いて戦うことができました。」

「そうか。………その女に再会したか?」

「いいえ。しかし!会って礼を述べたいです。ただ、相手はムステフ様の奴隷ですので簡単に会えません。」

「そうだな、今は特に戦時中だから尚のこと難しい。ゆっくり会えるのはゲレノア軍を追い払ってからになるな。」

「はい。」

 ガルバが予想できた答えであったが、落ち着いて受け止めた。

(この戦が終わるまで生き延びてルに会おう。手柄も立てれば何か贈り物を渡せるかもしれない。)

 次にスレイは奴隷兵の日常やガルバの仲間達にも興味を示した。ガルバは仲間達の長所を丁寧に説明していった。

「そうか。ジゾーと言う男は中々の人物なのだな。」

 スレイはガルバの話に感嘆した。

「ええ。あんなに心強い人はいません。まるで何も役に立たない私を生き残れるようにしてくれましたから。それに適材適所に人を割り当てますので、彼に不満を抱く者は少ないです。奴隷のまとめ役以上の逸材です。また、お話ししたように、他の仲間達にも優れた人材がいます。」

 辺りは暗くなり夜になっていた。

 食後のデザートのプリンまで食べたガルバは幸福感に浸っていた。少しのアルコールもそれを手伝っていた。

 会話は長く続き、一つ落ち着いたところでスレイが会の終了を告げた。

「暗くなったな。今夜はここに泊まれ。朝に元の配置に送ろう。」

「はい。ありがとうございます。私ごときに手厚い歓待をしていただき感謝しております。」

 ガルバは指を組んで深く感謝の礼を示した。

「うむ。ドルビー、寝室に案内しろ。」

 ガルバはドルビーに連れられて2階にある一つの部屋に案内された。来客用のベッドがある部屋だったが、奴隷のガルバにとっては夢のように安らかな寝場所であった。

 彼は部屋に入って戸を閉めるとすぐに靴を脱いでベッドに横になった。

(あぁ、幸せだな。こんな気持ち、この世界に墜ちてから今までなかったよ。接待されるって最高だ。)

 そして穏やかな寝息を立てて眠った。

 ドルビーは戸の外でガルバの寝息を確かめると応接間へと戻った。そこにはスレイとリードが椅子に座って待っていた。

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