対面1
拙作を覗いてくださりありがとうございます。
主人公が送られた先は、都市の中枢部分でした。
どうなるのでしょうか?
ご意見やご感想をお待ちしております。
カラカラカラ!
軽やかに車輪を鳴らしながら街を走る馬車の中にガルバはいた。
窓から覗くと、後ろに流れていく景色は高い塀で囲われ、広い庭を持つ二〜三階建ての豪華な建物。ジョヨーで最も裕福且つ権力がある人々の住まいであった。
決して奴隷では越えられない城壁を二つも越えてきた。そこにいるガルバは何が起きるか分からない不安の中にいた。
そもそも、馬車の中で向いの席に座る兵士が不気味だった。
彼は大きな体格を縮めて姿勢良く座っていた。その大きな眼で油断なくガルバを見つめていた。
「何処に向かっているんですか?」
「そのうちに分かる、と言った。」
(まったく、何だよ。)
ガルバは会話しても埒が明かないと判断して黙ることにした。
すると、馬車は速度を落としてゆっくり角を曲がった。そして大きな建物の門を潜った。敷地の中を進み、建物の裏手に馬車が止まった。
「着いたぞ。降りろ。」
そう言ってガルバの前にいた兵士は客車の扉を開けて先に降りた。ガルバは恐る恐る馬車から降りて足を地面に着けた。
ガルバの前には無骨なレンガ造りのどっしりとした風格のある建物があった。4階建てであり、先に降りた兵士によく似た武装をした兵士が数多くいた。
「着いてこい。」
先導の兵士は建物の裏手にある扉から中へ入っていく。ガルバの左右にはいつの間にかいかつい兵士が一人ずつ並び、前へ歩くように促してきた。
ガルバは抵抗することなく歩き出した。
建物の中に入ると長い廊下を歩き、大きな階段を登った。
そして三階まで登るとまた廊下を歩き、一つの扉まで辿り着いた。兵士は鍵を取り出し鍵を開けた。
「中に入れ。お前達も中に入り、扉にて待機。」
「ハイッ!」
兵士はガルバと部下の二人の兵士に中に入る様に促した。
その部屋はガルバを連れてきた兵士の執務室であった。窓際に事務机と椅子があり、机の前にはソファとローテーブルが設置されていた。部屋の壁には風景画と幾つか本棚が置かれており、書籍や書類が整然と並べられていた。
「楽にしろ。」
部屋の主である兵士は兜を脱いで、ガルバにソファへ座るように勧めた。
兵士は兜を机の上に置いて椅子に座った。
「私はジョヨー警備隊第三隊隊長のべヌイ・カルドだ。ここはジョヨー警備隊の中央詰め所で、私の私室だ。先日のパルコ川の戦いで、敵の武将を槍投げの投擲で殺したという勇士を探すように命令を受けた。あくまで内々の指令であるため、説明なしに来てもらった。不安だっただろう。水はいるか?」
それまでの居丈高な雰囲気と変わり、理知的な対応にガルバは驚いた。
「もし貰えるなら………。」
「よし。」
そう言うとカルドは扉の前の兵士に合図を送った。それを受けて兵士は部屋の外に出て、すぐに水の入ったポットとコップを持ってきた。
水を運んできた兵士は、トクトクと水をコップに注いでガルバに渡した。
「ありがとうございます。」
コップを受け取ったガルバは兵士に礼を言うと水を飲んだ。土の味がしない澄んだ美味しい水だった。
水を飲んで一息ついたガルバにカルドは話を始めた。
「これから君にはジョヨーでの高位の人と会ってもらう。その前に身体検査をする。そのお方の安全のために協力してほしい。」
そうして扉の前の兵士に目線で合図すると、二人はツカツカとガルバに近寄った。ガルバは椅子から立つように言われて、頭から足元まで手を差し入れられた。
兵士はすぐにガルバの懐から三つの品を探し当てた。手拭いと腹を覆う木の板、繊細に編み込まれたルの髪の毛であった。
「これらは何だ?」
カルドは三つの品を机に並べてガルバに尋ねた。
「手拭いは戦場で拾いました。布切れは何かと役に立つので。板は私の鎧みたいなものです。私には体を守る鎧が配給されませんでした。そこで、少なくとも腹を守る為に木の板を忍ばせておりました。」
ガルバは斬りつけられた時に裂けた服の箇所を見せながら答えた。
「そうか。良い工夫だな。では、この髪の毛は何だ?」
「それは、お守りです。」
「お守りだと?」
「それは、私の知り合いからもらった大事なお守りです。」
「知り合い?誰からだ?」
カルドは目線を鋭くして尋ねた。
「それは、言えません。言えばその人を苦しい立場に置きかねません!」
ガルバは体を強張らせて答えた。カルドはガルバの様子を見ていたが、直ぐに力を抜いて椅子に座り直した。
「心意気はよく分かった。我々が知りたいのは誰の髪の毛かと言うよりも、これが無害なものかどうかである。預からせてくれ。呪物の類いでないと分かれば君に返そう。おい、下にいる魔道士に調べてもらうんだ。」
カルドはそう言うと品物を二人の部下の片割れに渡して、外に持って行かせた。
「座って待っていてくれ。長くは待たせない。」
カルドはそう言ってガルバをソファに座らせて、使いが来るまでガルバを応対した。彼はガルバの生い立ちや普段の生活を尋ねたが、ガルバは雷のせいで記憶を無くしたと伝えた。
それを聞いたカルドは一瞬眼光鋭くガルバを見つめたが、会話を続けた。二人の話はパルコ川の戦いの様子やジョヨーまでの撤退について話題になった。
ガルバは知っているだけの戦の状況を話した。カルドはガルバの説明に幾つか質問をしたが、特に投擲に大きな関心を寄せていた。
「………そして、投げたら上手く敵の胸に当たりました。当たって良かったなと思います。」
「事も無げに言うが、君の槍投げは凄いことだぞ?フフフ。」
カルドが含み笑いをしたところで扉にノックの音がした。
扉の兵士が開けると、先程魔道士に使いに出た兵士がそこにいた。
「奴隷の私物について鑑定が終わりました。何も問題ないとのことでした。」
「分かった。彼に返すように。」
カルドがそう指示すると兵士はガルバに手拭いと板と髪の毛を返した。
「本当にありがとうございます。」
ガルバはルの髪の毛が返ってきて心から感謝した。
「相当に大事なものなのだな?」
カルドは興味深くガルバを見ながら微笑んで話しかけた。
「ええ、それはもう!」
ガルバが返答したところで、扉に数回ノックがされた。
「スレイ将軍の秘書武官であるリードだ。例の人物を引き取りにきた。」
「ハイッ。今そちらに向かいます。」
カルドはすぐに部屋の外へと出て扉を閉めた。そして部屋の中のガルバに聞こえない声量でリードに何事か報告していた。
少し時間が経ってから、再度扉が開けられてリードが部屋に入ってきた。
ガルバは彼の服装や雰囲気を見て位の高い人と判断した。そこで、普通の奴隷がするように両手の指を組んで前に出し、深々と頭を下げて彼に拝礼をした。
「君がガルバか?」
「はい。」
「私はリード。早速だが我らに着いてくるように。」
軍服を着た黒髪のリードが指示を出してきた。扉の外にはリードと三人の兵士が立っていた。
ガルバは言われるままに部屋を出て、リードに着いていった。
リードとガルバは建物の裏手に出て、さっきとは別の大きな箱馬車に乗り込んだ。
「出してくれ。」
リードが小さく合図を出すと馬車は走り出した。
(ああ、また運ばれるのか………。)
ガルバは自分の行き先について知るのを諦めて馬車に運ばれるままに身を任せた。
彼らを乗せた馬車はスレイ将軍の邸宅まで一直線に駆け抜けて行った。
ーーーーーー
この作品が面白いと思われた方々はブックマークや下の評価の★をクリックしていただけると嬉しいです。
よろしくお願いします。




