無実の連行
拙作を覗いてくださりありがとうございます。
主人公がどこかへ連れて行かれます。そこは・・・・・・。
ご意見、ご感想を教えてください。
よろしくお願いします。
レノクッス国の城塞都市、ジョヨーに中天の日光が照らされる。都市にいる誰もが暑い日差しを浴びて濃い影を地面に映した。
ジョヨーの北壁の上にガルバはいた。
ミュシャとの『面会』の後の翌朝、彼は起きてすぐに都市防衛の仕事に回されていた。城壁を登ってくる敵にぶつける岩を城壁の上に移していた。
そうして今は昼休み。奴隷や兵士達は朝からの労働の疲労を癒やすために腰を下ろし、または寝転んでいた。
ガルバは違った。落ちていた長い棒っ切れを使って槍の素振りをしていた。本当は自分の槍を振りたかったが、城壁の上は足場が狭い上、切っ先のある槍は仲間に怪我をさせてしまいそうだった。なので棒を使って突きを中心に振るっていた。
彼は戦闘の怖さを知った。己を鍛えなければ次の戦闘で生き残れると思えなかった。
ガルバは素振りの良し悪しを見てもらうために、ビーラーに稽古を頼んだ。休憩中なのでガルバは断られると思っていたが、意外とすんなりと引き受けてくれた。そして彼の前で敵を想定して力いっぱい槍を振るった。
「よし。そこでやめろ。」
ビーラーはガルバの素振りを見てから止めた。
「実戦を経て動きがよくなったな。やっとまともな兵士になった。だがな、これからは更に覚えることがある。」
「ハッ、ハッ、ハッ、どんなこと?」
激しい運動で息を切らせながらガルバは質問した。
「これからこの都市は敵に攻められる。広い原っぱで武器を振り回すのとは違ってくる。高い城壁の上、敵味方が密集した門の前、入り組んだ路地。どれもが狭く限られた場所で攻めてきた敵を追い返す闘いになる。」
「………、それって凄く不利な状況だよな。」
戦い難さを想像してガルバは声を漏らした。
「籠城戦を大きく見ればそうなる。だが見方を変えてみろ。『自分の領域に敵を誘い込む』と考えると状況は変わる。敵はよく知らない不安定な場所に足を踏み入れるし、俺達はよく知った場所で迎え撃つ。足を取られる窪み、身を隠せる建物の陰、行き止まりの道路。全ては守る側がよく知っていることだ。」
ビーラーは手を振って大きく周囲を見回した。
「だから、これからは自分の持ち場所をよく観察しろ。例えば今は狭い城壁の上にいる。相手にぶつける岩が何処にあるか、身を隠せる場所はあるか、敵を城壁から突き落としやすい場所とかを見つけることだ。これは下に降りても同じだ。自分が有利になれる方法を前もって知るのは、とても大きな利点だ。だから、お前のように大軍を目にしてビビり上がるより、積み立てられる有利を探せ。これは皆やっていることだぞ。」
「オレはビビらない!」
ガルバは小さく反論した。
「威勢がいいなぁ。それは戦の時に聞かせてくれ。さぁ、後もう少し素振りをしよう。もっと細かいところを見てやる。」
「分かった。」
ビーラーに言われてガルバは棒を持ち直して練習を始めた。
その時、城壁の下から声が上がった。
「おーい、ガルバはいるか?」
ジゾーが呼んでいた。ガルバは素振りを止めて城壁の下を覗き込んだ。
「ここにいるぞー!」
返答して見ると、下にはジゾーの周りに鎧を着た兵士が四〜五人ほど立っていた。
「用があるから降りて来い!」
(何だろう?少し嫌な予感がするなぁ。)
不安に思いながら自分の槍と盾を持って城壁を降りる階段に向かった。
ジョヨーの城壁には一定間隔に尖塔があり、そこに壁に沿った下への階段があった。
ガルバは地面に降りるとジゾーの元へ小走りに近寄った。
「どうした?何かあったか?」
ガルバはジゾーに問いかけるが、脇にいた筋骨逞しい兵士が口を挟んで尋問してきた。
「貴様がガルバか?」
見るとその兵士は普段見かける他の兵士より綺麗で上等な格好をしていた。鎧は全て金属製。纏うマントも染み一つないまっさらな生地だった。
「はい。」
「先のパルコ川での戦闘で敵武将に投げ槍をして射止めた者か?」
「………、そうです。」
「やっと見つけた。軍令である!貴様の身を預かる。槍と盾、腰の剣をこちらに預けて来てもらおう。」
兵士がそれを告げると、周りにいた他の兵士がガルバに近寄り手を差し出した。すっかり周りを固められて抵抗はできない。ガルバは言われる通りに槍と盾と剣を渡した。
「よし、着いてこい。」
尋問してきた兵士が告げると、ガルバは両脇を兵士達に捕まれて城壁から離されて行った。
「………。」
ジゾーは終始無言のままガルバを見送った。
暫くの間、半ば足が浮いたままガルバは連行されると、簡素な馬車へ連れられた。それは二頭立ての、幾つか窓のある箱馬車であった。ガルバはされるがままにその中へ押し込められた。そして、誰何してきた兵士も部下に指示を伝えてから同じ馬車に乗り込んできた。
兵士が部屋の壁を三回叩くと、それを合図に馬車は走り出した。箱馬車の中は進行方向を向いた席と相対する席の二つがあった。ガルバは進行方向の席につき、兵士は向かい合う形で座っていた。
ガルバは不安のあまり前の兵士に尋ねた。
「どこに連れて行くんですか?」
「そのうちに分かる。」
(何だよ。オレ悪いことをしたのか?)
ガルバは自分の状況に理解が追いつかず困り果てた。
座り心地の良い客車の中は無言が続き、馬車は迷うことなくスルスルと街を駆けていった。
すると馬車のスピードが遅くなり止まった。目的地かと思いガルバは窓から外を覗いたが、馬車はゆっくりと進み始めた。見れば大きな門を潜ろうとしていた。
(あれ?これって内側の城壁じゃないか?)
ドルトンが言っていた、奴隷では決して越えられない壁である二の城壁。そこにガルバはいた。
馬車は門を潜り大通りを駆けていく。
通りの両側にニ、三階建ての街並みが続く。ジョヨーの中でも裕福な市民が住む区域であった。幾つか角を曲がって行くと、再び走りが緩やかになった。
今度こそ目的地に着いたかと思って窓を覗くと、また大きな門を潜っていた。ジョヨーに3つある城壁の最も内側、一の城壁を潜ろうとしていた。
「おいおい、これってまさか………。」
ガルバは思わず口をついて声が出た。
「そうだ。貴様はジョヨーにいる最上位のお方に呼ばれたのだ。観念しろよ。」
灰色の口髭を蓄えた口元を釣り上げてニタリと兵士は笑いながらガルバの疑問に答えた。
(勘弁してくれよ!何なんだよォー!)
ガルバは心の中で絶叫するが、馬車は何事もないようにジョヨーの最奥の領域、一の区へと進んで行くのであった。
所変わってジョヨー城の中。
ジョヨー城の豪奢な会議室の中には、ジョヨーの中心人物達が大きなテーブルを囲んで会議をしていた。議題はゲレノア軍の侵攻報告と今後の方針についての確認であった。
「現時点ではゲレノア軍はパルコ川の東岸にて渡河をしているところです。その行軍は遅く、渡河の完了には一〜二日はかかる模様です。」
武門の副官スティル・コモンが会議全体に状況を報告していた。今彼は赤を基調とした軍服を纒っていた。
「更にダイトーとナンヨーからそれぞれ1000の援軍が来ます。先触れによると今日中には到着する模様です!」
「おおっ!」
議場からは喜びの声が上がった。ここにいる皆は籠城戦を覚悟していたので、援軍が来ることに喜んでいた。
「しかし、言いにくいことですが、首都からの援軍は遅れる模様です。北方でドルースカ国との国境で不穏な様子があり、そちらにも対応する必要が出てきた模様です。」
それが発表されるとすぐに議場は静かになった。
ゲレノア国の大軍を追い払うには、首都からの援軍を期待していたところが大きかった。
「スレイ将軍、都市防衛に問題はありませんか?」
議場の不安を代理して一人の男がスレイに質問を投げかけた。
彼はムンジェイ・ジョーカス。ジョヨーの文官のトップであった。都市で流行っている白地の豪華な上着を着ていた。
ジョヨーはレノクッス国の都市の中でも特異な統治システムを持っていた。
都市を守る武官、そして内政を司る文官。それぞれの長が協議しながら都市を統治する仕組みだった。
平時では文官に発言力がある会議だが、敵国から侵攻される事態においては武官の発言力が高くなっていた。
しかし文官達の不安を代理してジョーカスは発言したのであった。テーブルを挟んで対面に座っていた軍服姿のスレイはそれを聞くと穏やかに返答した。
「都市防衛に問題はありませんが、大きな苦難が予測されます。実際、都市の民兵には大きな協力が必要とされます。」
ここで言う民兵とは、ジョヨーの市民である成人男性が中心となる自警団であった。
ジョヨーでは都市が攻められた時に人々が果たす役割が大きく分けられていた。敵からの侵略を防ぎ追い返すのは兵士と奴隷兵。都市が被る被害、火災や都市に侵入した敵兵を防ぐのは民兵と分けられていた。
「それほど大変な苦労が必要ならば、ゲレノア国の要求を再検討してみても良いのでは?」
ジョーカスが尊大にスレイに問いかけた。
スレイは苦笑してジョーカスに答えた。
「それは既に話し尽くされたことではありませんか?敵の要求する兵糧と金など渡しても、結局、攻め寄せる敵を大きく有利にするだけ。敵が我らを攻めることには変わりませんよ。首都の方針も抗戦を指示しています。首都の指示に反するおつもりですか?」
すると議場にいる人々の大半がジョーカスに白い目を向けた。
「そんなつもりはありません。皆の意志を確かめただけです。」
ジョーカスは悠然とスレイを見返して答えた。
実は、ゲレノア国はジョヨーを攻める前に物的要求をしてきた。
ニ万人の兵士一年分の兵糧とレノクッス国の金貨1万枚の賠償金。これらを贈れば兵を出さないと通達してきた。
この要求は豊かなジョヨーで払えないことはなかった。実際、当初のジョヨー上層部では要求に応える動きがあった。それを地道に説き伏せたのがスレイであった。彼は首都の王族からの言質も集めながら、要求に応えた後を考慮するようにジョヨー上層部に働きかけた。
『ゲレノア国の要求通りにしたところで兵を引く保証はない。むしろもっと兵を出してジョヨーを攻める筈だ。』
この説得に皆が納得してゲレノア軍と戦うこととなった。
しかし、実際に軍勢が近づき恐怖する者も出てきた。それらの意見を纏めてジョーカスは発言したのだった。
会議はその後、来たる援軍の配置と兵糧の配給、そして民兵の防御訓練の実施について話し合われて散会となった。
三々五々と人々が会議室を出て行く中、ジョーカスは不敵な笑みを浮かべながら部屋を出た。彼の後ろには4、5人の取り巻きが続いて行った。
「ジョーカス殿は敵国の要求に未だに屈したいようですな」
スレイの副官、コモンがスレイに囁いた。
「あの発言だと敵国に渡りをつけるかもしれんな。身内にああいう御仁がいると本当に困る。」
スレイは虎のように鋭い目線をジョーカスが去った方へ向けながら小さな声で応えた。
コモンが離れた後、すぐにスレイの秘書武官であるラマル・リードが近寄った。
「例の、槍を投擲した兵士が見つかったようです。」
聞いた途端にスレイは目を輝かせた。
「そうか!すぐに会おう!」
「どこで会われますか?」
「自宅がいい。書斎か応接間に通せ。」
「畏まりました。私は一足先に面通しをしておきます。」
「分かった。丁重に扱えよ。楽しみだな?フフフ。」
スレイは口髭を弄りながらリードに指示を出した。彼はこの後、民兵を指示する武官との打ち合わせや配下の将校からの報告を聞く予定があった。
大事だが退屈な用事とは思いながらも、槍投げの勇士に会う楽しみが勝り人知れず心は踊っていた。
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