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堕天転生戦記  作者: 里原 健
48/80

ジョヨー入城

拙作を覗いて下さりありがとうございます。


前回投稿した文章が長すぎて読みにくいと思ったので、急遽前後半に分けました。


もしかするとこの投稿の前の話(第47話)を読み飛ばしておられる読者様もおられるかもしれません。


気になる方々は、念の為に前回の話を確認していただけるとありがたいです。


ご不便かもしれませんが、読みやすさを考えた上での処置なので、よろしくご理解のほどお願い致します。

 パルコ川の戦いの翌朝、ガルバ達奴隷兵は夜通しの強行軍でジョヨーに辿り着いたのだが、都市内に収容されるのはだいぶ待たされた。

 ジョヨーは先に市民や農民、兵士を迎え入れており、パルコ川で戦った兵士達は先に入場するために順番待ちをしていた。その間、奴隷兵は皆疲れて地べたに座るか寝転ぶかして呼ばれるのを待った。

 ポッカリ大きな雲が一つ浮かぶ空の下、脛丈の草原を揺らす穏やかな風が吹いた。つられてガルバの黒髪が揺れた。何とも長閑な風景であった。

(本当にまた戦争なんか起きんのかな?)

 ガルバはそう思いながら、することもないので、ジョヨーを囲う城郭と巨大な東門を眺めていた。

 ガルバ自身は城の城郭について詳しくないが、堅牢かつ機能性が高そうなのが見て感じられた。

 この都市の城郭は非常に高く、長い梯子無しでは壁を乗り越えるなどできない。城郭の上には凸凹に作られた狭間が設置されていた。また城壁の所々に穴も空いてあり、それらは矢を射掛ける矢狭間であった。他にも多数の仕掛けが施されていた。

 城郭はジョヨーをグルリと囲んでおり、等間隔に城壁より少し高い尖塔が幾つか建てられていた。

 更に城郭の外側には幅広い水堀が掘られており、外敵の侵入を防いでいた。また水堀の外側と内側の水際には多数の逆茂木が埋め込まれており、容易く兵が近づけない工夫がなされていた。

 そして圧巻なのは巨大な門であった。高く積み上げられた石壁の塔の中に作られており、見上げるばかりの巨大な木材を使用し、金鋲や分厚い金属板で補強されていた。ガルバには数百人、数千人掛かりでも破られるようには思えなかった。

 その巨大な門は、今は開け放たれていて人々を迎えていた。

「なぁ、ジゾー。こんな所、攻め落とされるのかな?想像できないな。」

 ガルバは隣で寝転ぶジゾーに聞いてみた。ガルバには目の前の城郭都市が負けるところが想像できなかった。

 ジゾーはチラリと城壁を見ると目を瞑り直しながら答えた。

「表面の硬さだけなら確かにそうだな。かなり強固な城郭だ。ただな、城の攻め方なんていっくらでもあるぜ。道具を使って石玉や火玉や糞尿を城内に放り込む、穴を掘って地下から潜り込む、魔物を放って無差別に人を殺させる、スパイを送って放火したり水源に毒を流す、魔法で兵士を混乱させて仲違いさせる、果てには門番に賄賂を渡して開門させることもある。」

「ううっ、そんなにあるのか?」

「そうだ。破られない門や城はないってことだ。人が作った物は人が壊せるし、城の守りは破られなくとも、中の人間が降参してひざまずいたら終わりさ。」

「そうだな………。」

「戦争ってのは結局、『人と人の戦い』に尽きる。これが基本だよ、基本。」

 ジゾーは大きく溜め息を吐いてゴロリと寝相を横向きに変えた。

 ガルバは少し悟ったような気になった。

(戦争ってのは結局、『人と人の戦い』に尽きる、か。気をつけないとな。)

 ガルバはジゾーの言葉を聞いてゆっくり唇を噛み締めた。


「ムステフ隊の奴隷兵は入城せよ!」

 昼前になって兵士からの号令が出た。ガルバ達は待ちくたびれていたが、ゾロゾロと東門を潜った。

 城郭の中に入ると、幅広の見事な大通りに続いていた。

 少し城壁から歩いた道の両脇にはこじんまりとした平屋の民家が奥へ立ち並んでいた。民家の外壁には白い漆喰が施されていた。家の素材は材木もあり、石造りやレンガ造りの家もあった。

 兵士でない一般の人々が往来していたが、皆奴隷兵の集団を避けているようだった。

 ガルバが大通りの遙か先を見ると、低い壁が見えて奥に2階建て、3階建ての家が広がっていた。更にその奥、小高くなった地形の上には、尖塔が幾つか立ち並ぶ白く壮麗な建築物があった。都市の外からも少し見えていたが、近づくことでより詳しく見えた。

「あれは、何だ?」

 ガルバは側を歩いていたドルトンに指さしして聞いてみた。ドルトンは地理に詳しく、特に都市については色々詳しかった。

「あれはジョヨー城だ。この都市のお偉いさん達が集まって物事を決めたり、大きな事件を裁いたりする。城の脇に少し小振りの建物が見えるか?あれは中央大教会だ。あそこは貴族様か金持ちしか入れないがな。」

「ふーん、どれもでかくて綺麗だなー。」

「そうだな。まっ、俺ら奴隷には全くカンケーないがな。そもそも内側の地区に足すら入れられないからな。」

「内側の地区?」

「そうだ。高い所から見ると、ジョヨーには城を中心にして円い形の城壁が3つある。大昔ジョヨーができたばかりの頃の城壁『一の城壁』が一番内側にあるが、それに囲われた区域を通称『一の区』。街の規模が大きくなって、ちょっと昔にできたのが二番目の城壁、『ニの城壁』。通りのずっと先に見えるヤツがそれだ。『一の城壁』と『ニの城壁』に挟まれた区域を『二の区』。それで、最後にできたのがさっき門を通った『三の城壁』だ。」

「じゃあ、今オレ達がいるのが『三の区』になるのか?」

「その通りだ。」

「見てみるとさ、城に近ければ近いほど立派な建物や家があるな。」

「ああ、地位や財力に合わせて市民の住む所が決まっている。法律にはないが、『暗黙のルール』ってヤツだ。知っての通り、俺ら奴隷は一番外側の三の城壁の近くにヤサがある。城壁の陰にあるから日が当たらずジメジメしていていて嫌になるがな。もっといい所に住みたいぜ。」

「そうなるといいなぁ。」

「オォ!成り上がってみせるぜ!」

 ドルトンはグッと拳を握って小さく突き上げた。

 そのまま暫く歩いていると、ムステフ隊の奴隷兵は広場に誘導された。そこは普段は市場やイベント用に使われていた。ジョヨーには、このような広場が要所々々に幾つかあったが、今は戦時徴用して兵の駐屯地や軍馬の馬場などに変えられていた

 奴隷達は広場に入ると、直ぐに食料と水が配られた。食料は戦で配られた携帯食料と同じだった。ガルバ達は広場に腰を落ち着けて貪る様に食いついた。

 食べ終わり少しまったりしていると、赤い鎧を付けた兵士達が呼びかけた。

「おい!ジゾーという奴隷はいるか?」

「ここにおります!」

 ジゾーは手を上げてその声に応えた。

「用がある。こっちに来い!」

 先頭の兵士が手招きするとジゾーは素早く近寄った。そのまま兵士から何事か申し渡されると、彼は何回も頷き両手の指を胸の前で組み合わせて深く礼をした。

 そして広場の奴隷達に向き合うと、よく通る大声で話しかけた。

「みんな聞いてくれ!聞いてくれ!聞いてくれ!これまでムステフ隊の奴隷のまとめ役はノイズだったが、奴は先の戦いで行方が分からなくなった。俺達をまとめる者がいなくなったので、このジゾーが役目を引き継ぐことになった。とは言え、何も変わることはない。このジョヨーの防衛のため、明日の食い扶持のため、俺の指示に従ってくれ!」

 ジゾーが新しいムステフ隊の奴隷のまとめ役になった。

 彼はスペックスやノイズと違い、無駄に高圧的になることはなかった。しかし経験豊かさを感じさせる物腰と発声は奴隷達の意識を上手くまとめたようだった。誰もが好意的に頷きあっていた。

 それを確認したジゾーは奴隷達に指示を出した。

「これから俺達は籠城で投石に使う石を運ぶ。俺がこれから割り振るから、現場の城壁で働いてくれ!」

 そう言うとジゾーは奴隷達の中に入り、割り振りの指示を出した。

 ムステフ隊の奴隷は元々3部隊あった奴隷兵の寄せ集めである。しかしジゾーはその繋がりを活かして数箇所の城壁に人を割り当てた。ジゾーの指示は簡潔で分かりやすかったので、誰もが不平を言うことなく仕事場へ向かった。

「凄いなぁ、ジゾーは!」

 ガルバはジゾーの働きに驚き感心した。

 それを聞いたチェーザは笑いながら応えた。

「ジゾーはできる男だからな。人の心を解って差配するのは得意なんだ。アイツと話していると、どういう訳か素直になれる。凄い奴さ。」

 なるほどと思いつつ、ガルバは仲間達と仕事場へ向かった。

 そこでは事前に集めていた大きな石を城壁の上に運ぶ作業が待っていた。

 ガルバ達は石を担いで城壁の上まで運んだり、綱と滑車と袋を使ってまとめて運んだりした。単調な仕事だったが皆、黙って働いた。

 作業は日が暮れるまで続き、夕暮れには作業を止めて元の広場に戻った。

 夕飯にはまた携帯食が配られて、奴隷達はそれを食べた。


 日が落ちた後は広場にいた奴隷兵達は早々に誰からともなく眠っていった。連日の疲労がそうさせたのだ。

 ガルバも地面に横になった。少し風が吹く夜で星が瞬く静かな夜だった。ガルバは星を見上げているとルのことを思い出した。

(ルは無事にジョヨーに着いただろうか?今何をしているんだろう?)

 ふとガルバは服の中に入れてあるルの髪の毛をそっと取り出した。少し土と血で汚れたが、編まれた髪は綺麗に形が整っていた。

 まじまじと髪を眺める。

 そして手でしっかり握るとルの無事を祈った。

(どうかルが無事でいますように。そして再会して礼を伝えられますように。)

 ガルバは心の中で繰り返し祈った後、髪を懐に入れて目を瞑った。

 昨日の合戦と今日の労働の疲れから、ガルバは直ぐに眠りに落ちた。

 ガルバの意識は睡眠の海の底の底まで落ちていった。

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