戦い終えて日が暮れて夜が明けて
拙作を選んでいただきありがとうございます。
激しい戦の余韻を味わう間もなく奴隷には仕事です。
ご意見、ご感想をお待ちしております。
よろしくお願いします。
※前回投稿した文章が長すぎて読みにくいと思ったので、急遽前後半に分けました。
今回は後半部分です。
もしかすると既に重複して読まれる方々もいらっしゃると思います。
ご不快に思われたかもしれませんが、読みやすさを考えた上での処置なので、よろしくご理解のほどお願い致します。
敗走するゲレノア軍は悪夢を見た。
戦いの前にゲレノア軍の兵の数が上回っているのは末端の兵士まで知っていた。奇襲に会わず正面から行けば負けない。敵はすぐに撤退して陣地を確保する。勝利への確信を半ば以上持って戦に臨んだ。
しかし現実は非情だった。
レノクッス軍の策略に全て嵌り、パルコ川西岸まで追い込められた。命からがら生き延びたのは兵士600足らず。パルコ川の戦いに参加した10人に8〜9人が死ぬか戦闘不能或いは行方不明になった。
パルコ川東岸の兵は決死の覚悟で陣地を守った。
パルコ川を挟んで小さい戦闘はあったが、レノクッス軍は静かに引いた。ゲレノア軍に大きな後詰めの部隊があったのを知っていたので、無理にパルコ川東岸を占拠する意味がなかったのだ。
代わりにレノクッス軍は死んだゲレノア軍の武器や防具、馬や物資を根こそぎ鹵獲していった。特に奴隷兵を支配する『使役の石』は多く回収した。ガルバも『宝探し』で幾つか見つけた。レノクッス軍の『使役の石』は赤色だったが、ゲレノア軍のそれは青い石の首飾りであった。
『使役の石』は奴隷兵の反乱を防ぐための魔法がかけられた魔石で、呪いをかけられた奴隷兵は石の持ち主に攻撃ができない。つまりゲレノア軍の奴隷兵は、簡単にレノクッス軍兵士を攻撃できなくなったことを意味した。
石の効力は30日間ほどで切れるが、これはゲレノア軍にとって痛手であった。
いつものように奴隷兵を戦争に運用できなくなるからだ。
勝ちを収めたレノクッス軍は、鹵獲した物資を荷台に山積みしてパルコ川から去っていった。
ガルバ達奴隷兵は疲労の中、体を引きずって荷物を運んでいた。
勝ったことは嬉しい。しかし、その後の『宝探し』や鹵獲した物資の荷台への運び上げは大半は奴隷兵が行った。朝から全力で戦さ働きしてからの午後の重労働はキツかった。
しかし奴隷兵の誰もが黙々と働いた。
そうかと思うと、脇を見れば勝利の美酒を上げている兵士がいた。美味そうに酒を呑む様子は腹を立たせるのに十分な絵面だった。
(くっそー、何でこんなに差があるんだよ?不公平の極みじゃねーか?)
ガルバは働きながら、心で悪態をついた。懐にある石をぶつけてやろうかと思うくらい怒っていた。同じ戦場で同じ働きをしても待遇に大差があった。今更ながら奴隷という身分は身に沁みて辛かった。
周りを見ると、ジゾーをはじめ他の仲間達もフラフラになりながら働いていた。
「ああ腹減った。メシくれ、メシ。」
ノバスコが足をふらつかせながら荷物を運んだ。
「メシ、メシ言うな!こっちも腹が減るぞ!」
チェーザが怒鳴り上げた。
「ドルトンは無事か?誰か知らないか?」
ジゾーは周りに問いかける。
「………、死んだかもな………?」
無口なビーラーもあまりにも適当なことを言って働く。
そうこうしているうちに日が暮れていった。
しかし、これから全軍はジョヨーへの移動を行うとのことだった。
レノクッス軍はゲレノア軍の後詰めが近付いてきている情報が届いていたので、できるだけ早くにジョヨーへ撤収したかったのだ。
暗がりの中、松明を炊いて長い列ができる。ガルバは疲れ過ぎていた。内容の濃い一日を過ごし、死闘を経て生き延びた。最早、自律的に思考する能力もなく、前の人間の後ろに着いて行くことしかできなかった。
ジョヨーへの道程は緩い上り坂と下り坂を繰り返していた。
そうして夜半を過ぎて深く深く夜が更けて朝を迎える頃にジョヨーへ辿り着いた。
レノクッス国、都市ジョヨー。
レノクッス国とゲレノア国の国境沿いの都市、大陸有数の農業地帯の大都市にして、人と物流の活発な都市。
東西にある大きな城門の東門に着くと、奴隷兵は後回しにされて先に兵士が入っていった。奴隷兵達は城門の外で待たされた。
彼らは皆疲れ切って腰を下ろしていた。
ガルバも両膝の間に頭を埋めて三角座りしていた。
暫くそうしていると、こちらに向けて誰か近寄ってきた。
「おい!ジゾー!ガルバ!いるのか?」
(オレのことを探しているのか?)
何ごとかと思って顔を上げると、太腿を負傷したはずのドルトンがガルバの目の前にいた。
「おお!ガルバか?生き残っていたんだな?良かった良かった良かった!」
喜びのあまりドルトンはガルバに抱きついてきた。
「うゎっ、ぷっ?」
疲れている時に、男の力いっぱいの抱擁はあまり嬉しくない。無理矢理引き剥がして、仲間の傷の具合を聴いた。
「お前、脚はどうした?歩けるのか?」
ガルバが問いかけるとドルトンは太腿を見せて笑った。
「あの後、僧侶様に法術で癒やしてもらった。七〜八割くらい治ったぜ。これでみんなと一緒に働ける!」
見れば、ドルトンの太腿の傷は塞がっているようで、元気に立ってはしゃいでいた。それにガルバは驚いた。
「何でそんな治療を受けれたんだ?」
ガルバが問うと、ドルトンは笑って言った。
「ガルバ、お前が俺を早くに柵の内側に運んでくれたからだ。傷のせいで戦場に座り込んでいた俺を優しい僧侶様が見つけてくれて、法術をかけてくれたんだよ。」
「そりゃ、凄いな!」
ドルトンが掛けられた法術は『治癒』の力を発揮した。魔法のようなものだとしても、あまりにも早い回復にガルバは驚いた。
側で二人を見ていたジゾーが立ち上がりドルトンの肩を掴んだ。
「んまぁ、仲間が戻ってきたのは嬉しいことだな。」
ドルトンはお返しにジゾーの肩を掴み、互いの再会を喜んだ。
そしてドルトンはチェーザやノバスコ、ビーラーとも喜びを分かち合った。
皆が皆、疲れ切っているがとても明るい笑顔だった。彼らにとっては、この瞬間が戦の終わりを告げる喜ばしい時だった。
すると、東の空から朝日が昇った。
眩しい光を目に受けたガルバは細く目をつぶった。
戦いに勝ち、仲間と再会した。他には何にもない。金も宝も名誉もない。奴隷としての小さな喜びを祝福する朝日を体に浴びて、ガルバは疲れを忘れて幸せを感じていた。
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