パルコ川の戦い5
拙作をご覧いただきありがとうございます。
新たな援軍が出現しました。
ご意見、ご感想をお待ちしております。
レノクッス軍の軽装騎馬隊はゲレノアの中央後衛に攻撃をしかけてきた。
まずはゲレノア軍中央に矢を乱射する。
「グアッ!」「ウグッ!」
まだ迎え撃つ隊形も取れていない兵士が射抜かれて怪我を負う。
持っていた矢を射尽くすと、次は突撃である。各々の得手の武器を掴んだ。
「ここを先途と戦うぞ!行くぞ、レノクッス軍騎馬隊よ!!」
「オオオオオッ!」
騎馬隊を先頭で指揮するのはスレイ将軍の秘書官ラマル・リード。彼の掛け声を聞いて総勢300の騎馬隊は大声で応えて彼に着いてきた。
並の人間より大きく重量感のある騎馬の衝突は、前に立った人間を簡単に弾き飛ばし大怪我を負わせる。騎馬の走る勢いに乗った武器の一撃は簡単に兵士の鎧を裂き兜を砕いた。矢の攻撃と突撃によりゲレノア軍の隊列は見るも無残に崩れていった。
レノクッス軍の騎馬隊は、練度の高い隊列を維持しながら突撃してきた。
そうして、突撃しては距離を取り、別の部隊に突撃しては距離を取る繰り返しの突撃戦法を繰り出してきた。
ゲレノア軍には混乱がまた起こり、悲鳴が多く上がり、遂には恐怖が発生してしまった。
それを見て取ったレノクッス軍は総掛かりで攻めた。打ち鳴らされる太鼓の連打は止まることなくレノクッス軍を勢いづかせた。
ガルバも戦いの流れが大きく変わったのを肌で感じた。
まず、前線に立つゲレノア軍兵に迷いが生まれた。最初の魔道兵部隊の奇襲を受けた混乱が落ち着き始めたところで、自分の後ろから悲鳴が再度聞こえてくる。ゲレノア兵は何が起きているのか不安になっていた。
そこへ、未確認の情報が飛び交い出す。
「また奇襲か?どーなってんだ?」
「今度は馬で本隊を狙われたらしい!」
「援軍は来るんだろ!?」
「うるせー!俺に聞かれても分からん!」
あっという間にゲレノア軍の士気が下がってきた。
ゲレノア軍の混乱が、騎馬隊の突撃を受けた指揮官のいる中央から生じたのも大きかった。混乱の余りに正しい命令が下りなくなったのだ。末端の兵士は何をしたら良いのか判断できなくなった。
組織的な戦闘もできず、兵士一人一人の戦意が落ちていく。
そんな敵兵にガルバを初め、レノクッス軍の兵は遅れを取ることはない。
ブウン!
チェーザが槍を振り回すと、ゲレノア兵の2〜3人が薙ぎ倒された。
ビーラーは二人を相手していたが、ノバスコが片方を後ろから刺し、残った一人にビーラーが襲いかかる。
ジゾーは戦いながらも周りに目をむけて、仲間達が隙をつかれないように声を掛けていた。
「ガルバ左だ!」
ジゾーの声に反応してガルバが反射的に後ろへ飛ぶと、元いた場所に剣を振り下ろした男がいた。ガルバは難なく背後を取り後ろから首を刺し殺した。
「ありがとう、ジゾー!」
「礼なら戦の後にいくらでも寄越してくれ。」
レノクッス軍兵士には、冷静に敵の弱点を突いては倒す落ち着きが生まれた。
形勢が変わった。
遂にゲレノア軍は包囲殲滅の憂き目の様相を呈してきた。
そのゲレノア軍の中心にてトアユムは必死に戦っていた。しかし指示を下そうにも伝令は数少なく、生き残った伝令も指示を伝える前に殺されていった。レノクッス軍の進撃の太鼓も近くに聞こえてきた。
(この戦は負けだ。しかし何としても一矢報いねば死にきれん!)
トアユムはそう考えながら剣を振り払っていた。
と、その時ゲレノア軍の左後方から、またもや喊声が沸き起こった。トアユムは懸命にその正体を見ようと目を凝らすと、馬鎧を外して駆けるゲレノア軍の重装騎馬隊がいた。
その騎馬隊は戦場に着いたものの、突撃はできなかった。敵味方混じった乱戦模様になったので、下手に突撃しては自軍の兵士も傷つけてしまうからである。大きな武器を振り回して何とか兵士を掻き分けてトアユムまで辿り着こうとした。
しかし乱戦で動きの鈍い姿が悪目立ちしてしまっていた。
ガルバの側にもそういう兵士が近づいたので、隙を突いて馬の脇腹を思いっきり刺した。
「ビヒルルルン!」
馬は傷の痛みで後ろ立ちになり、馬上の騎士を振り落とした。それを見たレノクッス軍兵士は一斉に落とされた兵士に襲い掛かった。すぐさまゲレノア軍騎士の首が落とされた。
馬の方はその場をバタバタ動き回ったが、槍が刺さったまま何処かへ逃げて行った。
(また槍を見つけないと!)
ガルバはショートソードを抜いて前後左右に気を配りながら、次の槍を探しだした。
このように、兵士に囲まれたゲレノア騎士があちらこちらでレノクッス軍の餌食にされて命を落とした。
騎馬隊がトアユムの近くに着く頃には、皆気力と体力共にボロボロの状態だった。
「!遅すぎるぞ!今まで何をしていた!!」
「申し訳ありません!敵の騎馬隊を何度も追い払ってましたが、馬の体力が落ちてしまい、このざまです。言い訳のしようもありません!」
ここでもレノクッス軍の策が成功した。
レノクッス軍の軽装騎馬隊の役目は三つあった。
一つ目は渡河中のゲレノア軍に弓矢で攻撃して奇襲部隊であることを印象づけること。
二つ目は魔道兵部隊の奇襲が始まったら、敵の本隊に突撃敢行すること。
最後の三つ目はゲレノア軍の重装騎馬隊の馬の体力を奪い、機動力を殺すことだった。
レノクッス軍の軽装騎馬隊は、敵軍が渡河を完了した後、何度もゲレノア軍の重装騎馬隊に弓矢で攻撃した。
戦闘の初めこそは、ゲレノア軍騎馬隊は難なくレノクッス軍を追い払ってきた。レノクッス軍は恐れを成して、隊列を乱してバラバラに逃げ出す。逃げるその様は余りに情けなくてゲレノア軍騎馬隊の失笑を買っていた。
が、レノクッス軍を追い払う回数が増えるにつれ、みるみるゲレノア軍の馬の体力が落ちてきた。その重装の重さの負担は全て騎乗している馬にかかっていく。そうなると騎馬隊の活動能力は目に見えて落ちるようになった。
ゲレノア軍の騎馬隊隊長は痺れを切らし、何度かレノクッス軍を不利な地形へ追い込んで突撃をかけた。
追い着くと思った矢先にレノクッス軍は部隊をバラバラに散開して駆け出した。ゲレノア軍の騎馬隊の狙いを外す回避行動を取り、まんまと逃げおおせてしまう。そしてまた距離を取った弓矢の一撃離脱の戦法を仕掛けてくるのであった。
レノクッス軍の魔道兵部隊が攻撃を始めた時点で、ゲレノア軍の騎馬隊は馬も人も疲れ切っていた。細かい攻撃であちこち軽傷を負い気持ちも疲弊していた。馬は言うに及ばず、矢を受けて驚いて騎士を振り落としたり、疲れ過ぎて言うことを聞かなくなってきた。
それを尻目に休みをこまめに取っていたレノクッス軍騎馬隊は、突撃を喜ぶくらい余裕があった。
騎馬隊隊長のラマル・リードは指示を出した。
「レノクッス軍騎馬隊よ!三列縦隊!目標は敵軍中央後衛の指揮官討伐!俺に遅れを取るなよ?!」
「オオオオオッ!」
レノクッス軍騎馬隊が戦場へと走り去って行った。一糸乱れぬ騎馬の隊列はとてつもなく練度が高い騎馬隊の実力を示していた。
それに追い着くこともできずに見送ったゲレノア軍騎馬隊の隊長は、悔しさを噛み締めながら次の指示を出した。
「重りになる馬鎧を外せ!できるだけ軽くして、あの敵軍騎馬隊を追いかける!」
部下たちは目を丸くして驚いた。重装騎馬隊が戦場で装備を解くなど聞いたことがないし、装備を外すのにも手間と時間がかかるからだ。
「隊長!それはいけません!このまま出発しましょう!」
「それは最もだがな、このまま疲れ切った馬を走らせても戦場に着けるか?仮に着いても、鈍足で戦っては陣地に戻ることができなくなる。我らは新たな任務につく。つまりトアユム様の救助と生還の手助けだ!分かったら装備を外せ!革の紐や結び目は剣で切り離せ!急ぐぞ!」
上官の命令は絶対であった。ゲレノア軍騎馬隊500は指示どおり馬鎧を外していった。ナイフや剣を使って剥ぎ取るといった言葉が適切だろう。防具や馬具を繋げる紐を切っていく。
そして隊長は再び馬に跨り号令をかけた。
「準備はいいか?全速力で駆ける!着いてこい!」
隊長の号令のもと騎馬隊は出発した。疲労で走らない馬を鞭でせっつかせて、どうにか戦場に辿り着いたのが敗色濃厚なゲレノア軍本隊であった。
たどり着く前に馬の体力が切れて倒れてしまい、20数騎が脱落した。更に戦場を分け進むときも、レノクッス軍の槍で命を落とす者もいた。
その結果、元々500騎あった騎馬隊は、トアユムの元には300騎ほど集まっていた。
「トアユム様!ここで退きましょう。川向うに戻れば、再起を図れます。」
返り血を浴びた副官が提案を出した。
「ぬぅん!それは悔しいぞ!何とか一矢報いて戻りたい。」
トアユムは拳を強く握り怒りを顕にした。それを見て騎馬隊隊長は反論した。
「今となってはそれも難しいでしょう。退却命令を!我ら騎馬隊が殿につきます。後詰めの部隊と合流しましょう。」
トアユムは瞑目して考えを纏めた。耳には兵士の悲鳴が届く。そして、その距離は刻一刻と近付いてきた。部下たちの説得と合理的な判断力からトアユムは撤退を心に決めた。
「………、分かった。撤退の角笛を鳴らせ!」
すぐに角笛が鳴らされた。
「ブオーン!ブオブオブオ!ブオーン!」
角笛が鳴った。
それは、ゲレノア軍にとっては屈辱の調べ、レノクッス軍にとっては勝利へのフィナーレであった。
ーーーーーー
作品・続きにご興味をお持ちいただけたのでしたら下の★をクリックしていただけると嬉しいです。
よろしくお願いします。




