パルコ川の戦い2
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主人公達が交戦します。
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「ブオー、ブオー、ブオオオー!」
ゲレノア軍の角笛が鳴った。
ガルバは遠く離れたパルコ川に目を凝らす。細かい砂粒ほどの人の塊がこちらに進軍を始めた。
戦闘の開始である。
朝日を背にしてゲレノア軍が侵攻してきた。それを迎えるレノクッス軍のガルバは、夜明けの鋭い朝日がまともに入る形になり、敵軍の進行が見えにくかった。暫くして喊声が上がった。
(何が起こっているんだろ?)
目を細めて遠くを見つめていると、ジゾーがノバスコに話しかけた。
「ノバスコ、見えるか?」
「ああ、見える。パルコ川を渡っているゲレノア軍にウチの騎馬隊が矢を射掛けている。そこそこ射殺しているみたいだ。」
ノバスコは常人よりも視力や聴覚などの感覚機能が優れていた。彼にとっては、平野における遠目の敵勢観察はお手の物だった。
少し経ってからノバスコが報告した。
「ゲレノア軍の前衛は渡河したみたいだな。おっ?敵軍の騎馬隊が出てきたぞ。かなりの重装だな。チェーンメイルの上にプレートアーマー、武器はどいつも大きいものばかりだな。馬にも鎧を装備させている。ウチらの騎馬隊を追い払うつもりなんだろう。」
「装備が違うから、こっちの騎馬隊に追いつけなさそうだな。歩兵部隊の動きはどうだ?」
ジゾーが続けて問いかけた。
「ちょっと待て………。分かったぞ。ゲレノア軍は重装騎馬隊でウチらの騎馬隊を牽制させて、下流域から進軍するみたいだな。指揮官クラスが沢山行き交っている。あの動きからすると、どうやら当初の作戦から変更したみたいだな。」
暫くして、ガルバの目にも兵隊の塊が下流域の北側に移っているのが目に取れた。
ガルバ達はレノクッス軍の中央にいた。
レノクッス軍は中央に600、左翼、右翼共に500の歩兵が配置され、兵士と奴隷の混成軍であった。
ガルバ達から見て、ゲレノア軍は自分達レノクッス軍が掘った足止めの穴群を避けて左手に迂回して進行してきた。
整列して左翼中央右翼と分かれた人の群れが徐々に進んできた。リズムを取って進む様は、統制の取れた軍隊を示していた。
敵軍が進む度に砂粒の人がゴマ粒の大きさになってきた。兵士の数はゲレノア軍の方が多いのが分かってきた。
(もうすぐで戦闘だ。)
ガルバは戦闘前のパニックを乗り越えて、しっかり落ち着いていた。しかし、周囲を見渡すと、顔の青白い兵がいたり、歯をカタカタ鳴らす兵もいた。
(このまま敵に当たったらすぐに押し潰されてしまうんじゃないか?)
ガルバは不安を覚えた。
その時、整列した兵の間から一騎の武将が前に出た。
白馬に跨り常歩でゆっくりと進む武将は、フナガノ・スレイ将軍であった。赤い鎧に白い兜を頭に被り、手には槍とラウンドシールドを身に着け、背中にはブロードソード、鞍にはバスタードソードや弓矢の武器を携えていた。
スレイは軍頭にてゲレノア軍を眺めていたが、さっと馬首を翻してレノクッス軍と向き合った。
(何をするんだろ?)
ガルバを始め全ての兵の視線がスレイに集まった。
スレイは一つ息を吐くと、大きく空気を吸い込んでから演説を唄い始めた。
「この場に立つ強きレノクッス軍の兵士よ
我らはいつも心を一つにして、
攻め来る敵を何度も倒してきた
我らの暮らしを脅かす強大な敵を
時には数倍の軍にも遭遇してきた
その度に勝ち残り勝利の美酒を煽ってきたのだ
見よ!
目前に迫る敵軍は我らよりも多く勇ましい
この闘いは厳しいものになるだろう
だが今は我らの力を存分に発揮できる神からの機会なのだ
勝てる
我らは勝てるのだ」
(??何だ、これ!?)
ガルバは演説が耳に入るにつれ、周りの男達から色様々な蒸気が立ち昇るのが見えた。蒸気の濃淡は陽炎のように空気を歪めてゆらめきが生じていた。見ると、ガルバも自分から薄く赤い蒸気が上がっていた。
スレイの演説は続き、彼は槍を高く掲げた。
「おお、立てよ戦士
戦乙女アキエイの祝福を聞け
聞こえるぞ歓喜の声が
闘いに打ち震える強き魂よ
我らの内なる力を導き出せ
肩を並べる我が兄弟よ
心を束ねろ
盾を高く掲げろ
手にした武器を強く握れ」
レノクッス軍の兵士は尽く蒸気が立ち昇り、皆が闘志を湧き上げていた。
「おい、ドルトン。これは何だ?」
ガルバは隣のドルトンに話しかけた。
「?これって何のことだ??」
体から緑の蒸気を上げながら目を血走らせたドルトンが不思議そうにガルバの顔を見た。ガルバは周りの兵士達を見た。チェーザは黄色、ドルトンは緑色、ジゾーは白、ビーラーは橙色、ノバスコは水色、そしてガルバは赤色だった。
誰もが前方の敵兵を凝視していた。どうやら、蒸気に気付いてキョロキョロしているのはガルバしかいないようだった。
そして、スレイは敵軍に向けて馬首を向け直し、腹からの大声で宣告した。
「勝って生きて喜びを分かち合おう、兄弟よ!」
この言葉を受けてレノクッス軍の意気が高まり、一人残らず全ての兵士の戦意が高まった。恐れをなす者はおらず、戦いへの高揚感に包まれた。
見ればスレイは一際輝く白色の蒸気を上げていた。
そして彼が槍の穂先をゲレノア軍に向けた。
「進むぞ、レノクッス軍!太鼓を鳴らせ!」
指示を受けて進軍の太鼓が鳴らされた。
「ドーン、ドーン、ドーン、ドーン、ドーン、ドーン。」
「全軍、進軍!声を上げろ!ゥオオオオオオーーー!」
スレイの雄叫びがレノクッス軍全体に響いた!
「「「ゥオオオオオオー!」」」
兵士一人一人が叫びを上げた。そして一歩一歩と足を踏み鳴らして勇ましく進軍が始まった。その進軍を援護するために200余りのレノクッス軍弓隊が斉射する。スレイは全軍の先頭に立ってゆっくりと進軍した。
ここでガルバ達兵士に起こった現象は、スレイによる『戦いへの祝福』が起こしたものだった。
彼は戦いの女神であるアキエイを崇拝していた。その信仰の深さは高位の僧侶級にまで及んでいた。
その彼が兵士たちのために、純真な『祝福』を行った。高位の僧侶が行う『祝福』は一種の聖なる魔術、法術である。この法術を受けた兵士達は、基本的な戦闘能力が嵩上げされ、更にそれぞれの中で眠る潜在能力に応じた力を増幅することができた。
この身体増強の法力がジゾーの言っていたスレイ将軍への信頼感の根元だった。
祝福を受けた兵士は、内からのエネルギーが漏れ出して一人一人が独特な蒸気の様なオーラを発するのであった。
チェーザのように筋力がある者は力を得て黄色のオーラを出し、ドルトンのように俊敏な者は素早さが増して緑色を出す。ジゾーは指揮能力が上がり白色を出していた。水色のノバスコは五感の力が増し、橙色のビーラーなら危険察知能力が高まった。
そしてガルバは赤色、『戦闘感覚』が鋭くなった。『戦闘感覚』が鋭くなると、戦闘能力が全体的に向上するのだ。【注:注釈を参照】
彼らは戦いへの高揚感と勝利への自信に包まれて行進を始めたのだった。
ガルバは中央の前線を歩いていた。赤いオーラが絶え間なく立ち昇る。仲間達も大きくオーラを上げながら意気高く進軍していた。
そして、両軍はレノクッス軍が掘った足止めの穴群を横に見ながら敵兵の顔が分かるところまで接近した。
するとゲレノア軍の角笛が激しく鳴り出した。
「ブオオオ!ブオオオ!ブオオオ!」
「前衛軍!突撃!」
ゲレノア軍指揮官が自らの武器を指し示した。それに合わせて歩兵達が盾と武器を翳して突撃を始めた。ゲレノア軍も500近い弓隊が歩兵のための援護射撃をした。
大勢の男達が殺気を立ち上らせてレノクッス軍に迫ってきた。
反して、前線のスレイは落ち着いて槍を空に向けて衝き上げる。途端に、レノクッス軍の太鼓の音が変わった。
「ドンドンドン!ドンドンドン!」
「攻撃!突っ込めー!」
スレイが大音声を上げた。
「ゥオオオオオオー!」
檻に閉じ込められた猛犬が解き放たれたように、レノクッス軍兵士も声を上げて駆け出した。
両軍の兵士は力の限りぶつかりあった。
ゴツンッ!ガツンッ!ザシュッ!
あちこちで槍と盾がぶつかり合い、戦闘が始まった。
近接戦闘が始まると弓隊は役割が終わり、各人弓矢から自分の得手の武器に持ち替えて戦いに加わった。
ガルバも前線でゲレノア軍にぶつかった。盾を持った重量感のある兵士と衝突して弾き飛ばされそうになった。
彼は腰を低くして相手の勢いを抑え込んで、盾の隙間から敵の脚へ槍を繰り出した。
ザシュッ!
一つ重い手応えを感じて槍を引き抜くと、ゲレノア軍の兵士は悲鳴を上げて怯んだ。
(イケる!負けてないぞ!)
自分の力が相手に通用していることが分かると、ガルバはますます槍を前に出した。
「オリャオリャオリャー!」
大きな怒声が近くで起こった。
チェーザが両手槍を片手で振り回して、刃の触れる先からゲレノア軍を払い除け、そして突き殺していた。巨漢の怪力であるチェーザの攻撃は誰も止められなかった。
彼を見て怯んだゲレノア軍に対して、レノクッス軍の兵士はその隙を突いて攻撃した。
ノバスコは兵士の狭い急所を突き、ジゾーは敵の足元に突きを繰り出して退けていた。ビーラーは盾で殴りつけて相手を気絶させトドメを刺す。ドルトンは軽快に槍を躱しカウンターで敵を刺した。
(オレも負けられない!)
ガルバも先程槍を刺した兵士とやりあっていた。青い兜を被った男は鉄製の鎧を身に纏い、戦闘に手慣れていたが、脚を刺されて動きが鈍った。
お互い小刻みに槍を突き合い、相手の隙を狙っていた。
ゲレノア軍の兵士が槍を突き刺してきた。ガルバは心臓を狙った一撃を咄嗟に左手の盾で防いだ。勢い余って相手の体が前方に流れた。同時に敵兵は半身を無防備にガルバに晒してしまった。
ガルバは思いっきり敵兵の首を目掛けて槍を突いた。
ズシュッ!
硬い筋肉を割いて槍の穂先は敵兵の首を突き抜いた。ガルバはすぐに槍を引き抜いた。
「あがららららら………。」
溢れ出る自らの血に溺れながら、敵兵は白目を剥いて倒れた。
その兵士を乗り越えて新たな敵兵が前に現れた。
この兵士はガルバの足元を突いてきた。
「ハッ!ハッ!」
鋭い突きにガルバは後退してしまった。ガルバが下がった分、前に出ようとした敵兵は脇にいたドルトンに腕を刺された。
「痛ッ!」
敵兵は視線をドルトンに向けたが、それはガルバに対して隙を見せることになった。
ガシュッ!
ガルバは他所見した兵の脇腹に渾身の槍を刺した。
「ぐうっ、おのれ!」
怒りの形相をガルバに見せるが、次の瞬間、ドルトンの槍が喉を突き刺した。
強張った表情のまま敵兵は倒れた。
「助かった!ドルトン!」
ガルバは友軍の兵に感謝の声を掛けた。
「ハッ!まだまだ敵兵は続くぜ!気をつけろ!ガルバ!」
ガルバ達の前には新たな兵士達が出てきた。
そのまま両軍は近接戦闘を以て押し合うことになった。
戦闘の優劣は未だはっきり判別していなかった。
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《著者注釈:「戦闘感覚」とは?》
「戦闘感覚」とは著者の造語です。戦闘に関する全体的な反射反応や動作、感受性を司るセンス(感覚)と定義しております。
例えるなら、スポーツで言うところの「運動神経」に近いです。
これが高まることで、攻撃や防衛、視野の広さ等が良くなります。ただ、一つの特性に特化しているわけではないので、戦闘能力が全体的に少しずつ向上するのみに留まります。
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