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堕天転生戦記  作者: 里原 健
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パルコ川の戦い1

拙作を覗いてくださりありがとうございます。

戦いは静かに始まりました。

ご意見、ご感想をお待ちしております。

よろしくお願いします。

 ガンゾール平原を南北に走るパルコ川東岸、ゲレノア軍本隊。

 薄暗く朝靄のかかる夜明け前の中、ゲレノア軍先遣隊指揮官デュアル・トアユムは馬上にて朝日を待っていた。

 トアユムは静かに興奮していた。

(この侵攻は成功させてみせる!レノクッス軍を追い払ってやるのだ!)

 レノクッス軍を一刻も早く撃退したいと考えて、戦意が昂ぶっていた。しかし指揮官が浮つけば、全軍の冷静さが損なわれる。彼は湧き上がるその感情を必死に抑えていた。

 ふと朝日の赤光が背後から指してきた。赤い光は馬上の自分の影を長く前へと伸ばしていた。

 トアユムは視線を上げた。前方にはパルコ川、そしてレノクッス軍が掘った足止めの穴群、少し平野が広がったその先のレノクッス軍本隊を睨みつけた。

「トアユム様、号令を。」

 脇に控えていた副官が指示を仰いできた。黙って頷くと、手にした鞭を頭上に掲げてから前方へ振り下ろした。

 ピュンッ、と鞭が鳴った。

「進軍!!」

 トアユムが声を上げると、それを合図に進軍を示す角笛が吹き鳴らされた。

「ブオー、ブオー、ブオオオー!」

 短く3回角笛が鳴り響いた。トアユムは角笛の音を聞いて感動で打ち震えていた。

 ゲレノア軍特有の角笛はこれまで何度も聞いていた。

 一兵卒の頃、または昇進して部隊を任された時、いずれも勝利の前触れは戦いの角笛であった。

 この音を聞くと、ゲレノア国の軍人であることに誇りを覚え、ますます戦意が高まった。

 笛の指示が出て、前線の部隊から進軍が始まった。

 ゲレノア軍には歩兵部隊が3000。槍と小剣、盾と鎧兜を標準装備としていた。隊形として左翼、中央、右翼部隊に1000ずつ等分に分かれていた。そして各部隊とも500ずつに区切られて前衛と後衛を成していた。トアユムは中央部隊後衛にて指示を出していた。

 そして重装騎馬隊500が遊撃隊としてトアユムの後方にて控えていた。

 ゲレノア軍東岸の本隊陣地には守りに備えて歩兵500を控えとして残した。

 ゲレノア軍の作戦はシンプルだった。

 作戦目標は、パルコ川を越えて進軍し、対岸のレノクッス軍の陣を獲得すること。敵の拠点都市ジョヨーまでは攻め上らないで、後詰めのゲレノア軍25000の為の橋頭堡を築くことにある。

 攻め方としては、正面から攻めることとした。奇襲に悩まされてきたが、この平野で正面から攻めれば奇襲されることはまずない。

 侵攻経路はまずパルコ川を渡河すること。続いて、レノクッス軍が足止めのために掘り続けていた数百の穴群を避けて、パルコ川南の上流側に迂回して敵本隊を攻めていく段取りになっていた。下流域の方に多くの穴があり、そちらだと迂回する距離が長くなるので上流側を選んだのであった。

(まともに向き合って劣勢になることはあるまい。)

 トアユムは勝利への自信を持って前衛の進軍を見守っていた。すると前方で小さな喊声が上がった。

 早くもレノクッス軍と交戦しているようだった。すぐに前線からの伝達兵がトアユムの側に駆けてきた。

「伝令!パルコ川対岸に軽装の弓騎兵300が出現!渡河中の我が軍前衛に弓で攻撃しているとのこと!」

「ふむ、300騎か?」

 報告を受けトアユムは心の中で笑っていた。

殿しんがりらしく時間稼ぎか?その程度では我がゲレノア軍は止まらぬよ。)

 そして指示を下した。

「前線はそのまま押し通れ。前線の渡河ができ次第、弓隊は応戦せよ。後に遊軍の騎馬隊を送る。騎馬隊隊長に伝令。渡河準備をせよ、うるさいハエを追い払え、深追いはするな、と。」

 トアユムが簡単な指示を出すと、伝令達が素早く走り去って行った。

(進軍は始まったばかり。急ぐ必要もない。)

 ゲレノア軍の指揮官トアユムは、逸る気持ちを感じながら馬の手綱をキツく握りしめるのだった。


 レノクッス軍軽装騎馬隊による矢での攻撃は、ゲレノア軍前衛が川の中頃に着いたタイミングで始まった。ゲレノア軍の前衛の兵は、パルコ川を渡りながら盾で矢を防ぎ、慎重に歩を進めていた。

 川は先日の嵐の影響はなくなり、水深は膝くらいまでで川の流速も穏やかだった。よって歩兵が渡河するには問題ない状態だった。しかし、軍隊が隊列を維持して川を渡り切るにはどうしても時間がかかる

 盾で矢を躱せなかった兵達が射られ、短い悲鳴を上げて倒れる。

 だが、前衛の各部隊はほとんど慌てることなく上陸を果たした。そして盾を押し並べて渡河の足掛かりとなる簡易な陣地を構築した。その陣地から弓隊が応戦した。

 また、その陣地に向けて遊軍の重装騎馬隊が進出した。

 ゲレノア軍の重装騎馬隊の装備は鎖帷子チェーンメイルの上にプレートアーマーを補強していた。武器は槍、ランス、ブロードソード、モーニングスター等、一撃当たれば即死し得る凶器であった。

 馬にも鎧を装着させており、守備力と攻撃力は突出していた。その騎馬隊が渡河を行った。

 先に渡った歩兵が陣地を作ったお陰で、ゲレノア軍騎馬隊は弓矢に悩まされることなく渡河を完了した。そのまま隊形を整えると、レノクッス軍の騎馬隊を追い払うべく駆け出した。

 重装騎馬隊の長所はその高い防御力と恐るべき突撃力である。短所は、装備の重さの余りに機動力が落ちることである。単純に追いかけてはレノクッス軍の軽装騎馬隊には追いつかない。

 しかし、ゲレノア軍騎馬隊の役目は、深追いせずにレノクッス軍騎馬隊を追い払うことにあった。

 ゲレノア軍の騎馬隊がレノクッス軍の騎馬隊に近づくと、レノクッス軍は蜘蛛の子を散らすようにパルコ川の上流域に引いて行った。

 その様を見てトアユムの副官が進言してきた。

「トアユム様。敵の騎馬隊は上流域に逃げました。しかし、時を置いて我らの後背を攻めてくるやもしれません。このまま上流に軍を展開しますか?」

「ふむ。代案でもあるのか?」

「第二案として準備していた下流域からの侵攻に変えるのはいかがでしょうか?そして我が軍の騎馬隊を後衛の盾にするのです。そうすれば、敵は自らの掘った穴が邪魔になり、あの騎馬隊が我が軍の背を攻めることは難しくなります。」

 トアユムはそれを聞くと、口角を下げて短く考えた。

(確かに、今の状況ならば下流側から進軍すればレノクッス軍が掘った足止めの穴を左翼の盾代わりにできる。そうすれば、奇襲の心配はなさそうだな。)

 ここまで考えを纏めると部下に回答した。

「確かに後ろから攻められるのは嫌なものだな。他に敵軍の遊撃隊はなさそうだ。よろしい、全ての部隊長に伝達。上流域を避けて下流域から回り込もう。我が軍騎馬隊には、レノクッス軍の騎馬隊が来ぬように、背部から牽制するよう指示を出せ。」

 トアユムが指示を出すと、すぐさま前線にまで連絡が届いた。

 ゲレノア軍は進軍経路を大きく変えてガンゾール平原を突き進んで行った。向かう先はレノクッス軍の本隊。

 足止めの穴を避けてゲレノア国の大軍が歩を進める。レノクッス軍本隊は静かにゲレノア軍を待ち構えていた。

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