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堕天転生戦記  作者: 里原 健
40/80

激戦開始

拙作を覗いて下さりありがとうございます。

遂に40話に到達しました!

戦闘に向けて主人公が闘志を高めていきます。

ご意見、ご感想を頂けましたら幸いです。

ぜひお聞かせください。

 ガルバは焚き火の側で夜を迎えた。夜空には厚い雲がかかり星も月も見えなかった。

 ガルバは明日の戦闘の為に、自分の武器の手入れをしたかった。周囲を見渡すと多かれ少なかれ、武器の準備をする男たちがいた。

 彼はまず槍の穂先を布で汚れを拭き取る。穂先の刃は焚き火の明かりをギラリと反射した。次に砥石を刃に沿わせて研ぎ出す。

 元々は敵兵から奪った槍だが、刃は硬く長い。血抜きの溝があり、殺傷効果を期待できた。

 刃の後は槍全体を拭いた。槍の長さは自分の身長よりも頭一つ長いくらい。槍の柄も硬くちょっとのことで折れることはなさそうだった。

 次は腰に差したショートソードだ。裏切り者のスペックスから分捕ったソードだが、刃の厚みがしっかりあり、これにも血抜きの溝が彫られていて軽くて扱いやすい。相手のトドメを刺したり、槍を落とした時の予備として使えそうだった。これも砥石で刃を磨いた。

 次は防具である。

 頭を守るのは硬い革の兜だ。手に取って状態を見た。色は濃い赤で塗られている。頭部を深く守り鼻筋を守る突起があるのは前世でのローマ戦士やバイキング戦士を連想させる。それに加えて首筋を保護するひだが3層に渡って取り付けられていた。首筋が守られるのは有難い。

 盾の具合も確かめた。長方形で木の板に簡易な鉄板を渡した構造をしており、上半身はカバーできる大きさだ。足元への不意打ちには注意が必要みたいだ。

 残りの防具は両足の脚甲と、右手のみの手甲だった。もう使い慣れた装いだが紐が弛むと、そこから装備が綻ぶ。血の巡りが保てる様な強さで装着する。

 懐には前とは別の硬い一枚板を忍ばせる。念の為、腹の正面と横面、背面を覆う形にして複数の板を入れて拾った紐で固く結んで止めた。

 後、懐には手ぬぐいと、数個の石を忍ばせた。石は片手で扱える大きさと重さで選んだ。戦場にあるものは何でも武器になる。とは言え、探して拾っていると隙になるので前もって用意しておいた。

 そして、最後にルから貰った髪の毛があった。

 ガルバがルの髪の毛に触れると、それは柔らかった。そっと匂いを嗅ぐと女らしい甘い臭いがした。髪の毛は、絶対落とさないように気をつけて懐に入れた。

 こうして、装備の点検が完了した。

 後は体を休ませることだ。

 ガルバは三角座りしながら周囲を見た。多くが眠っていた。寝顔は十人十色で面白かった。ドルトンは歯軋りし、チェーザはにこやかな表情でイビキをかいていた。ノバスコは長身の体を小さく丸めて眠っていた。ビーラーは槍と盾を器用に抱えて寝ていた。ジゾーは半目を開けて寝ていた。半目を見ると、少しだけ気味悪いけど熟睡なのは違いなかった。

 ガルバもそろそろ眠りにつく頃だった。拾っておいた毛布を地面に敷いて寝転んだ。夜空を見上げれば厚い雲だけだった。焚き火が無ければ辺りはまるで見えなかった。

 思えば、誤って転落した後にこの世界に落ちてから五日が経っていた。その間、ガルバには危機の連続だった。

(戦いの素人がよく生き残れたものだ。)

 ガルバは、ふと右手を夜空にかざした。六本指の手は焚き火に当てられて炎の赤に染まっていた。

(六本目の指が勝利を掴みますように!)

 この指は、過去の武将チリョウ・ケイシンの故事に因んで、勝ち負けの二つを暗示していた。今のガルバにとっては、勝利への導きになると信じ祈った。

 ガルバは勝って生き残ることを願いつつ、体を横たわらせ、すっと眠りについた。


 日の出の方向の空が少し白み始めた頃、レノクッス軍の奴隷兵は兵士に起こされた。

「全員、起きろ!シャキッとしろ、ウスノロ奴隷が!立って集合だ!」

 まだ明かりがないと顔の判別もできないくらい薄暗かった。更に辺りは霧モヤも立っているようで視界が良いとは言えなかった。

 普段より早い時刻に起こされた兵士は、寝ぼけている男もいたが、大体の兵は今日何が起きるか分かっていた。だから、無駄口を叩くことなく粛々と装備を準備し始めた。腹を空かした兵は携帯食を頬張っていた。

 ガルバも槍と盾を脇に置いて携帯食を食べていた。懐に入れていて人肌の温かさだったが、自分が緊張しているからなのか、味は全く感じなかった。

 ガルバは食べ終わると、奴隷兵が集まっている場所へ足を向けた。

 昨日に集まった広場では木箱の両側に篝火が立てられ、その箱の上に司令官のムステフが立っていた。

 ガルバが遠目でムステフの顔を見ると、顔中の皺を寄せて嫌そうにしているのが分かった。箱の側には大きな太鼓が置かれていた。そして彼は大声で演説を始めた。

「ここに集まった兵士よ。敵軍はパルコ川を越えようと準備をしている。恐らく夜明けとともに渡河してくるであろう。昨日のうちに物資と人員は動いたが、我らが拠点ジョヨーには未だ着いてはいないだろう。渡河する敵に、これらを攻撃させることは避けねばならん!よって我らはこの地に於いて、殿しんがりを受け持つこととなった。」

 ムステフは大きく息を吸って続けた。

「戦闘中の主な指示は3つ!太鼓の音に合わせて動け!まずは『進め』!」

 ドーン、ドーンと単発の音だった。

「そして『退却』!」

 ドンドーン、ドンドーンと2発の音だった。

「最後に『攻撃』!」

 ドンドンドン、ドンドンドンと3発の音だった。

「細かい指示や命令はスレイ将軍から出され、我を通して兵士に伝わる。奴隷兵どもは太鼓の音で動けば十分だ。決死の活躍を期待している!今から陣形を立てる。マローズ、後は任せる。」

 ムステフは自分の副官に声をかけると、木箱から降りて行った。

 ムステフは最初から最後まで不満顔を緩めることはなかった。

 名指しされたマローズは、数名の兵士と奴隷のまとめ役を呼び出して支持を下した。

 ムステフ隊の奴隷のまとめ役はノイズである。

「よーし、奴隷兵。俺の後に着いてこい!」

 ノイズがそう言うと、奴隷兵達はパルコ川の方へと向かった。普通、軍隊なら整列して行進するのだが、奴隷兵にはそこまで求められてはおらず、バラバラと歩いて行った。暫く歩いて昨日建て替えた柵の『外側』に並んで立たされた。兵士達は、奴隷の指示役兼監視役が数名付くのみで、残りは柵の『内側』に立った。

(体のいい人間の盾か人間の壁だな。こりゃ。)

 ガルバは呆れ半分、諦め半分といった感傷を覚えた。

 周囲を見ると、ジゾーを中心とした面々が揃っていた。ジゾーの右隣りにはノバスコ、チェーザ。左側にはビーラー、ドルトンそしてガルバがいた。

 誰も一言も声を出さない。まるで静けさが彼らの口を塞いでいるようだった。しかし、その力は心の中の動揺までは押さえつけなかった。

 ガルバは高まる緊張と心拍数の上昇のせいで頭はボンヤリしてきた。体全体がドクンドクンと拍動し、息は吸っても吸っても空気が足りなかった。視界も狭まりこめかみが痛くなってきた。

(苦しくなってきた。真っ直ぐ立つのも辛い。ヤバいぞ!)

 咄嗟に槍を小脇に挟み、槍を持っていた手をそっと懐深くに伸ばした。

(あった!ルの髪の毛があった〜。)

 自分のものでない優しい手触り。触れるだけで混乱した気持ちが治まっていった。

(そうだ。ここを敵軍に押し通られると、ルに危険が及ぶ。オレがここで守らないと!)

『お前一人でどうこうできるものでない。』

 戦場から離れていれば、自分にこう指摘するところだが、ルの髪の毛の力を借りて戦意が高揚していたのだ。

 否、見方を変えれば、これこそがガルバの存在、あるいは魂の一面を表した強い意志なのだと言えた。

 誰か大切な人を守ろうとする意志。死への恐れに打ち勝つ闘志。これがガルバが強く生きる原動力なのだ。

 だが今のガルバには、未だそんなことには気づいていない。

 目下、恐怖と緊張に勝つためにも、戦意を高める事に意識を集中していた。

 そして闘いの夜明けは緩やかに近づいて来た。

 暗い朝から夜が明ける。赤い日差しが戦場を駆けていき、徐々に視界が広がって行った。

 朝日の光の足跡を追うように、遠くから角笛が鳴った。

「ブオー、ブオー、ブオオオー!」

 パルコ川を越える命令である。ゲレノア軍の兵士が歩き始めた。

 激戦が開始されたのだった。

 ーーーーーー


《著者注釈:血抜きの溝について》

 剣の中には血抜き溝(日本刀でいうところの樋)が施されているものがある。

 理由として

①刀身に沿って溝が穿たれ、軽量化に役立った。

②相手を刺した際に武器が抜けなくなることを予防するため。

③芸術的装飾のため

が挙げられる。


 特に②においては、ヒトを含む動物は突起物が刺さると周囲の筋肉が収縮してしまい、差したナイフや剣が抜けにくくなる場合があるとのこと。

 血を抜き圧力を下げる一方で、引き抜く際に切断面と剣との隙間に空気が入ることで武器を抜きやすくする機能を持つ。この様な構造を持つ物は槍や斧等にも見られる。



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