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堕天転生戦記  作者: 里原 健
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偽りの憩いの間1

 この作品を選んでいただきありがとうございます。

 ご感想やご質問がありましたら是非とも教えてください。

 宜しくお願いします。

 急に目の中に赤い光が差し込んできた。眩しい光を避けるため、自然と寝返りを打って顔の位置を変えた。しかし一旦強い光を浴びたせいか目が覚めてしまったようだ。

 イヤイヤながら、男はゆっくりと上半身を起こした。自宅マンションの居間にあるソファで寝そべっていたようで、頭はボンヤリとしたままだった。

 クーラーを付けてなかったからか、Tシャツの首元を湿らす寝汗の感覚は不快そのものだった。床に落ちていたエアコンのリモコンを拾い上げ冷房を入れる。

 ふと、喉にかすかな乾きを覚えた。ゆっくりソファから立って居間から続いている台所へと向かう。おもむろにに大アクビが出そうになるが、勝手知ったる1人暮らしの我が家において、このオジサン臭い仕草を止める人は誰もいない。

「ファーーー………。」

 最近丸くなってきた腹をかきながら、そのまま冷蔵庫を開けて350ml缶の発泡酒を取り出し、秒単位で蓋を引き起こす。そして、ゆったりと喉を潤していった。

(夜には少し早いけど、これくらいのフライングは誤差みたいなもんだ!ウシシ!)

 昼間っから飲んだくれるのも嫌いではないが、やはり夕方くらいから酒を始めると本格的に酒呑みのスイッチが入る。そのまま居間のソファに座り込む。テレビをつけて夕方の番組をザッピングしていく。

 チャンネルがプロ野球の生中継に合うとテレビのリモコンをソファの脇に置いて、もう一口缶を啜る。

 何をすることもない夏の休日夕暮れ。

 短パンTシャツの緩い格好をし、発泡酒を飲みながら居間でくつろぐ時は、堪らない幸福感で満たされる。

 少し首を巡らせて外に目をやると、四階建てマンションの三階にある我が家のベランダ越しには、赤く染まった夕焼けと平たい円形を保ったまま西の町並みにに落ちていく夕日が美しく映えた。

 耳はプロ野球中継で流れる応援歌に合わせながらも、ふと空をもっと見たくなり、男はベランダの窓ガラスを開けて外に出た。

「夕焼けが赤いなぁ。」

 ベランダの微かな風に吹かれながら、この瞬間の感動をつい口に出してしまっていた。

 ……「そもそも夕焼けは夕方に赤く染まった空を指すものです。頭痛が痛い、って言うのと同じくらい文法がおかしいですわ。」

 背中から可愛らしい声がツッコミを入れた。

「イヤイヤ、そうじゃないよ。」

 ベランダの手すりに寄りかかりながら、発泡酒を一口飲んだ男は軽く反論した。

「変な発言だとしても、喜びを大きく感じた時に発する感動の言葉には、大きな意味があると思うな、多分。」

 ……「まあ、呑気なこと!でもご本人がそう仰るならそれで構わないわ。」

「そう認めてくれるなら嬉しいよ、ウン。」

 ……「大して面白くもない感動の言葉ですし、どうでもいいことですわ。」

「アハハハ、それもそうだねェ。」

 夕焼けに目を向けたまま、ノンビリともう一口だけ缶を啜り、

(ハァ、幸せだなぁ…………。)

 と、自然に笑みがこほれていた。


 それからきっかり30秒後、とあることに気づきドキッとした。

(今、オレは【勝手知ったる1人暮らしの我が家】にいるんだよな?)

 すぐさま緊張のせいで身体が強張り、冷や汗がダラダラと溢れ出す。。

(えっ!?誰かそこにいるの?泥棒?)

 怖くて怖くてしょうがないが相手を確かめなければならない。ゆっくりと首を背後に向けると、手が届く距離に見知らぬ女性がいて大きく再度ドキッとした。

 その印象は「白」かった。

 身に纏う衣服は、生地に余裕がある緩くて白い洋風ドレスで腰を締める帯はきらびやかな金色に輝いていた。衣服から伸びる手足は長く細く白く、背中まで伸びているロングヘアは白みがかったブロンド色をしていた。

 左右2つに分けた前髪の間には、女性のにこやかな笑顔があった。肌の肌理が綺麗だ。顔形から北欧系の白人種を連想させ、鼻筋は真っ直ぐ通り、瞳の色は澄んだ蒼色-スカイブルー-に輝いていた。年の頃と雰囲気を見ると成年前の乙女と思われた。

「ふふふ、見つけました。ずいぶんと探しましたわ。」

 長い睫毛を瞬きながら、キラキラする瞳で見つめられると美しさのあまり顔に血が昇り、思わず動悸が上がってしまった。

 ふと、華奢にしか見えない彼女が自分を大きく見下ろしていることに気付いた。自分の背丈は平均男性より少し小柄だ。しかし、そんな自分よりも大きい体つきのようではなかった。

 違和感を感じてそっと下方へ視線を送ると、彼女の素足に履かれたサンダルは膝よりも上の高さにあった。つまり……

「えっ!?浮いてる??」

 初めて間近に見た超常現象に、大声で反応してしまった。

 男は驚き慌てて彼女から離れようとしたが、足をもつれさせて尻もちを突いてしまった。

「イタタタタタ………。」

 痛みを感じながら顔を上げると、両腕を軽く組みながらフワフワと乙女が浮いていた。そして彼女はヒョイッとベランダの手摺を越えてから、外の空中を軽く上昇して振り返り男と向き合った。

「ふふふ、浮いているのは当然ですわ。そして驚かれるのは仕方ないことですわね!ふふふ!」

 彼女は口を大きく開けて見上げる男の驚きの反応が可笑しくて堪らない様子だった。そして軽く天を仰ぐと、

「何故ならワタクシは!……」

 両手をバッと天に掲げ、空いっぱいに響く大声量で宣言した。

「我が名は、天使アイリス!貴方の魂をこの"煉獄"から"次世界へと掬い上げ"に参りました!!」

 言い終わるが早く、彼女の背中から一対の巨大な白い羽がバサリと広げられたのだった。

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