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堕天転生戦記  作者: 里原 健
36/80

夜襲の褒美2

 拙作を覗いてくださりありがとうございます。

 珍奇な闖入者ちんにゅうしゃが入り込んできて驚く主人公。どうなることでしょうか?

 ご意見、ご感想をお待ちしております。

 よろしくお願いします。

「うわわっ!?」

「キャッ?!」

 二人共叫び声を上げてしまった。

 ガルバは後ろに下がり、ルは手で巨大バッタを払った。

「ギヂッ!!」

 それは叩かれると横の倒木にぶつかった。そのまま驚いたのか、ピョンピョン跳ねて二人から遠ざかった。

「ああ驚いた!何だ、ありゃ?」

 ガルバは尻もちついてバッタの行き先を見ていた。

「あれはアメバッタよ。知らないの?大きい脚が甘くて美味しいの。」

「ええ?あんなの食べるのか?気持ち悪いなぁ!」

 ガルバは心底不味そうに顔を歪めた。

 その表情をルは見ると面白そうに笑顔になった。

「アンタは貴族様?小さい頃は皆よく食べたものよ。」

「そうなんだ………。すっげーな。」

 そう言うとガルバはルの方に顔を向けた。するとルはこらえきれない様に、口を両手で抑えて笑い出した。

「プッ!ウフフフ!凄いビックリした顔!おかしい!『うわわっ!?』だって?!」

 彼女は心底可笑しそうに笑った。

 それを見るとガルバは馬鹿にされたように感じて少しムッとした。

「可笑しくなんかないぞ!あんなのが『いざっ』て時に来たら、誰だってビックリするわ!お前だって『キャッ?!』って言ってただろっ!」

「だからって、そんなに驚かなくてもいいじゃないの?ウフフ!それに、その顔!アハハハ!!」

 ガルバの少しいじけた表情も面白いらしく、今度は笑い過ぎて腹が痛むようで、蹲りながら両手で腹を抱えてルは笑い続けた。

 ガルバは不貞腐(ふてくさ)れて顔を逸したが、どうしようも無くて、ルの笑いが収まるまで待っていた。

 少しの間、ルは手足をバタつかせて笑い続けた。笑いが収まると目尻を指で拭ってから、座っているガルバに四つん這いで近づき、彼の太腿に優しく手を乗せた。

「はぁ、可笑しかった。ゴメンね、たくさん笑っちゃって。それで、どうする?続きをする?」

 ルはガルバの顔を上目で少し覗く様に寄り添ってきた。

「………、するよ!するけどさ、気が抜けちゃったよ、全く。」

 覗かれて少しドキッとしたガルバは、頭を掻きながら目線を外方に向けて答えた。

 するとルはガルバの顎に細い指を添えて顔の向きを変えると唇を重ねてきた。自然に彼女は舌を割り込ませて絡ませてきた。

 いきなりの濃厚な口づけにガルバは驚いたが、彼女に答えるように熱く唇を交わした。

 息遣いすらも許さない程の濃密な口づけが続き、どちらからともなく唇を離した。

「アンタのこと少し気に入っちゃったわ。来て………、ね?」

「あ、あぁ、ありがとう。」

 動悸が上がったガルバはルを優しく横たわらせた。本能のまま二人は絡み合い、自然の流れに身を任せて一つになった。

 ガルバは気持ちが欲するままにルを求め、彼女も彼を求めた。

 戦場の片隅で二人の時は激しくも静かに流れて行った。


 暫くして、体力を使い果たし満足した二人は、裸で抱き合いながら寝転んでいた。

 ガルバにとって女性を抱くのは、前世から含めても久しぶりだったので、まだ少し鼓動が早かった。

 ルは自分からは何も話さなかったが、ガルバは自分のことを話した。とは言っても、雷に打たれて頭を酷くやられて記憶を無くしたという設定だったから、雷を打たれて逃げた戦場のことや穴掘りの雑業とか仲間のことを話した。

 昨夜の奇襲も話題になったが、スペックスのことは漏らさなかった。誤って兵士達にバレれば重罰を受けることになるからだった。

「へえー。昨夜の奇襲はアナタが切り込んだのね。凄いじゃない?」

 ルは率直に褒めてくれた。

「運が良かったのさ。実際、十人くらいは戻れなかったしな。」

「そんなことないよ。ワタシなんか一日中料理を拵えて兵に配るだけだもん。そうして、たまに持ち主のムステフに呼ばれて抱かれるだけ。そんな毎日を、もう何年も続けているわ。」

 ガルバは少し暗い気持ちになった。言葉の響きからして、楽しみのない日々が伝わったからだ。

「そうか………。」

 同情するような響きがガルバの声に出たのだろう。ルはすぐに訂正した。

「でも奴隷女達の仲は良い方だし、食べ物に困ったことはないわ。ジョヨーが豊かで良かったのよ。噂だと、食糧が不足がちな都市じゃ奴隷の食事なんて一日に一回とか、二日に一回とか聞くしね。」

 ルが飄々と話す様子を見て、奴隷は搾取されるものであり弱い存在だと言うことがよく分かった。

 人権がどうとか言えば、相手に理解されないか頭のおかしい奴に見られるだろう。そんな立場にあってガルバは、自分のこれからの生き方を真剣に模索せねばならないことを痛感した。

「あら怖い顔。嫌なことを思い出させちゃった?」

「あぁ、いいや。何でもない。考え事してた。」

「アナタねぇ、抱いた女を前にして別のこと考えるなんて失礼よ。」

 ルは軽く拗ねた素振りを見せながら、ガルバの左頬の傷跡を指でなぞった。

「………、ねえガルバ、もっと何かお話して?」

 ルは話を甘えるようにせがんできた。その愛らしい様にガルバはコロッと動かされた。

(我ながらチョロいなぁ。)

 どんな話をしようか?と考えていると、目の前に広がる星空が見えた。大きな2本の天の川の無数の星の瞬きは、本当に星が川のように流れているようだった。

「ええと、これはボンヤリ思い出した過去の記憶の話しなんだけど、天には天帝という偉い神様がいた。ホラ、あの天の川(おまのがわ)の近くさ。」

 ガルバは夜空を指差した。

「あまのがわって、何?」

「夜空を星が幾つも集まった筋が2本見えるか?まるで川が流れているようだろ?あの川のほとりに住む神様にはオリヒメという美しい娘がいた。それでね、………。」

 ガルバは前世で昔聞いた七夕のお伽話を話した。

 機織りのオリヒメは自分を顧みずに働いていた。働き過ぎる娘を不憫に思った天帝は、牛の世話と畑を耕して暮らす働き者のヒコボシを引き合わせた。二人は出会って恋に落ちて結婚した。だが愛し合う余りに、二人共仕事を何度も怠ける様になった。天帝は幾度も注意したが、二人は聞き入れなかった。

 怒った天帝は二人を引き離した。天の川の西にオリヒメを、東にヒコボシを住まわせた。姿を見ることも出来なくなると、引き離された二人は悲嘆にくれた。オリヒメは泣き暮らし、ヒコボシは家に引き篭もった。どちらも働くことが全く出来なくなってしまった。

 それを見て困った天帝は、こう伝えた。

「以前のように真面目に毎日働くのなら、一年に一度だけ二人が会うのを許そう。」

 それを聞いた二人はそれぞれ心を入れ替えて以前のように働き出した。前よりも良い仕事をするようになった二人を見た天帝は、オリヒメとヒコボシを天の川を越えて会わせるようになった。

 こうして二人は一年に一度の逢引きのために良く働いた。そして一年に一度の日は出会えた喜びを分かち合った。

 しかし、逢引きの日に雨が降ると天の川は水嵩が増えて渡れなくなった。その時には、カササギという鳥の群れがやってきて翼を連ねて橋となり、二人を会わせてくれるのだった。

「………ということで、めでたしめでたし。どう?面白かったか?」

 ガルバはルに聞いてみた。ルは少し眉を寄せて黙っていたが、ガルバの胸の上に預けた頭を少し上げた。

「二人が会えるようになったのは良いことだけど、最初から働いていればこんなことにならなかったんじゃない?」

「いや、まあ、そうなんだけどね。」

「それに散々働いても、夫婦が一年に一度しか会えないなんて少なすぎるわ。まるで奴隷みたい。」

 ルはギュッとガルバの体を抱きしめて顔を擦り寄せた。

(そうだよな。めでたくはない、か。)

 ふとガルバがそう思った時、少し身震いした。寒くはない夜だが、裸のままでは少し冷えた。

「なぁ、少し寒くなったな?服を着ようか?」

「うん。」

 ルは頷くと倒木に掛けた服を取りに背を向けて立ち上がった。彼女の白いお尻がフルリと揺れていた。

 ガルバも地面に敷いた服を体に通した。少し湿気を含んでヒヤッと感じた。ルも服を着るとガルバに近寄った。

「そろそろ本隊に戻りましょ。今なら皆眠っているから、私達のことは気づかれないわ。」

 夜空はまだ白けておらず、暗いままだった。

「そうしよう。」

 ガルバは彼女の言葉に賛成すると、ルの手をとって先導するように歩き始めた。林の中は暗く、シンと静まっていた。

「なぁ、ル?また、こんな風に会えないかな?」

 唐突にガルバはそっとルに尋ねてみた。

 ルはすっと立ち止まった。ガルバは彼女の顔を見ると、暗がりの中、眉を顰めた困った表情をしていた。

「無理よ。奴隷には働くことと、ご飯を食べること、寝ることくらいしか許されていないから。デートなんて許されないわ。その上、所有者が異なるとややこしくなるのよ。基本として、他人の所有物に手を付けるのは禁じられているの。ワタシはムステフの物。アナタはスレイ将軍の物。どっちの奴隷が先に手を出したか?とかでモメることになるわ、きっと。」

「そうだな。言う通りだな。」

 ガルバは軽く俯いて口をつぐんだ。そして、また林の中を歩き始めた。ルも黙って手を引かれながらついてきた。

 林を抜けて外を見ると、本隊が見えてきた。誰もが深く眠っており、虫の音と火が燃える音以外は何も聞こえなかった。

 本隊に向かっていると、ガルバはふと立ち止まって振り返り、思いついたことを話しだした。

「でもさ、ル?また手柄を立てれば、今度と同じ様にルに会えるかもしれないだろ?ヒコボシみたいに。」

 ルはそれを聞くと驚いたように目を開いた。そして目を細め、表情を軟らかくして答えた。

「そうね。会えるかもね。あのヒコボシみたいに頑張ってみたら、会えるかもね。」

 二人は互いに心なしか繋いだ手に力が入っていた。

「待っててくれよ、オリヒメ様。きっと会いに行くぞ。」

 静かにガルバは宣言すると、ルはクスッと笑った。

「また怖い顔してるわよ。期待しないで待っているわ、ヒコボシの坊や?」

「子供扱いするなよ。オレはオリヒメには、また会いたい。」

 ガルバは小馬鹿にされたみたいに感じて、真面目に迫った。

「だってガルバは子供みたいに素直で正直なんだもの。こう思うのは仕方ないんじゃない?それにワタシはオリヒメなんかじゃないわ。本当の名はルルゥ・ルルトオール。『ル』の音が多すぎて皆から『ル』としか呼ばれなくなったの。今では『ル』の方が馴染みあるけどね。」

 本名を告げたルは笑顔になった。それを見たガルバは何度目か分からない胸の熱い鼓動を感じた。

「それじゃ、ここらで別れようか?ル?」

「そうね、また朝の配膳で会いましょ。ガルバ。」

 二人はゆっくりとギリギリまで指を触れ合わせながら手を離した。

 ガルバとルは二人とも本隊に入るまではチラリチラリと振り返っていたが、中に入るとそれぞれ自分の寝床を探して、拾った毛布を被って寝転んだ。

 夜が明けるまで、疲れを取るために眠るのだ。互いに染みついた相手の残り香が、睡眠に安らぎを与えていった。

 そして朝を迎える。この朝から戦場の大局は変わり始めるのだった。

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