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堕天転生戦記  作者: 里原 健
33/80

夜襲4

 拙作を覗いてくださりありがとうございます。

 ご意見、ご感想をいただけると嬉しいです。

 よろしくお願いします。

(助かったー。死ぬほど疲れた。)

 ガルバはヘトヘトだった。荒い息が止まらない。寝転がりたい衝動に駆られたが、テントの奥から炎の熱が増してきていた。煙も充満してきた。

 スーッ!

 一息大きく吸い込むと立ち上がった。

 ガルバは抜き身の剣をしまおうとしたが、スペックスの頭に切りつけて歪みが生じたのか、鞘に収まらなかった。仕方ないので彼が使っていた剣を手にとった。ガルバに支給された剣とほぼ同じサイズだったので剣は鞘に収まった。地面に転がる槍を拾い、入口から外を覗くと、

「火が出たぞー!」

「こっちに来てくれ!」

 という声が聞こえてきた。

 敵兵に見られないように、ここから離れねばならない。慎重にテントの外へ出た。

 だが走る気力もなく、歩くことしかできなかった。

 不意にチクリと腹が痛んだ。

(少し刺されたか。致命傷にならなくて良かった。)

 そう思いながら腹を撫でた。そこには硬い木の板の感触があった。

 これはビーラーからの教えだった。夜の座学の時に、彼は言った。

『いいか、奴隷兵にとって戦場にある物は何でも活かせ。例えば、お前は今は鎧がない。だからといって、そのまま戦場へ出て行けば殺られるだろう。だから、現場にある手頃な板を服の中に入れろ。最低、腹は守られる。』

 そう、ガルバは服の中に腹部を覆う厚い一枚板を忍ばせていたのだ。

 そして相手の目線にも気をつけた。スペックスは単調に上から剣を斬りつけていたが、視線は時々腹部に向いていた。だから、最後は腹を狙ってくると踏んだ。

 そのことから、敢えて頭部と胸部のみを守ることにして、腹部の防御をわざと空けていたのだ。狙い通り腹を攻撃されたが、体には微かに刺される程度の傷で収められた。

 また、スペックスが突いてきた剣が板に刺さり、すぐに剣が抜けなかったことも運が良かった。

(しかし胸を狙われたら危なかったな。)

 そのことを思うとゾッとしたが、結果は生き残れた。

 ふらつきながら歩いていると、甲高い笛の音が聞こえた。

「ピリリリー!ピリリリー!ピリリリー!」

 撤退命令だった。ガルバは残った力を振り絞って、兵糧陣地の外の林へと走り出した。

 ゲレノア軍は侵入してくる敵に向けて警戒していた。だが、消火活動と混乱の鎮静に忙殺され、陣地から逃げる兵に追手を出すことまでは手が回らなかった。

 ガルバは走りながらビーラーから教わったことをもう一つ思い出していた。

『いいか、自分の装備の秘密は、誰にも話すな。』

『何で?』

『秘密は秘密のままにすることが重要だ。一人でも誰かに告げれば、もうそれは秘密ではなくなる。巡り巡っていつか敵に知られるからな。それにな………。』

 ビーラーは開かない右目を撫でながら呟いた。

『槍の穂先は前だけから来るとは限らないからな………。』

 ビーラーは過去に何かあったようであった。

 その教えもあって、ガルバは敵の軍装に着替える時も、腹の板を隠しながら着替えた。服を畳んだと誤魔化したが、お陰でスペックスに知られることなく、最後は勝って生き残ることができた。

(ありがとうな、ビーラー。お礼に飯を分けたら喜ぶかな?)

 暫く走っていると、林の中に入った。そこで、ガルバは腕に赤布を巻いたレノクッス軍の兵士や奴隷兵と接触することができた。チェーザとノバスコも生き残っていた。彼らは軽い手傷や小さい火傷を負った程度で済んでいた。

 再会を喜ぶ間もなく気配を消しながら、もと来た道を戻り、遂に本隊に無事に戻ることができた。

 本隊についた頃、明るい朝の日差しがガルバの目に入り、やけに眩しかった。


 ガルバ達が本隊に着くと、全員昨夜に集められたテントの前に移動した。そこには奇襲に出る前に集められた武器と防具がそれぞれ山積みされていた。

 率いていた兵士達は生存者数を確認した。あのスペックスを含めて十数人戻っていなかった。昨夜の奇襲は暗い中で行われたため、行方不明者の生死は不明だった。

 人数を確かめ終わると兵士の一人が大声をあげた。

「昨夜はよく頑張った。貴様らの働きで敵軍に大きな損害を与えることができた。我々兵士は戦果を報告しに行くが、奴隷兵は所属する部隊に戻れ!戻る前に各自の武装を忘れずに回収しろ。尚、配給した剣は各自の物としても良い。以上、解散!」

 兵士達は指示を出すと、戦果を報告しにスレイの本陣へ向かった。今はちょうど朝の軍議の時間であった。良い戦果を上げたのだろう、兵士達は皆達成感に満ちた表情をしていた。

 対して疲れ切った奴隷兵は昨夜外した武装を回収した。ガルバは夜襲で支給された片手剣と共に、戦場で得た槍を戦利品として獲得した。ムステフ隊で支給された槍より丈夫で使いやすく、穂先も大きく切れ味も鋭くかったからだ。残りの防具は間違わずに回収できたが、ニ〜三人が装備の取り合いをしていた。

 するとチェーザが笑顔で近寄ってきた。

「おい、見てくれよ。俺のガタイに合う鎧が余っていたんだ。なかなか、この大きさのは無いんだ。ついてたぜ。」

 彼の大型の体型に合う鎧が獲得できたようだ。恐らく同じ体格をしていたスペックスが着ていた鎧だろう。ガルバは少し複雑な気持ちになったが、チェーザには「良かったな。」と伝えておいた。

 その後、ガルバはチェーザとノバスコと別れた。腹の傷を診てもらうために医療テントへと向かうためだ。大して痛みはなかったのだが、時間に余裕がある時は体をできるだけ万全にしておきたかった。

 奴隷の溜まり場を抜け、医療テントを見つけると中に入った。中では先日見たときよりも治療を受けている者は少なかった。

 テントの中をキョロキョロしていると、後ろから声を掛けられた。

「アンタ!また会いに来たのかい?」

 振り返ると、以前右手を診て貰ったナイヤだった。

「会いに来た訳じゃなくて、腹を刺されたんだ。傷を診て欲しくって。」

 服を捲くってナイヤに傷を見せた。ナイヤは顔を腹に近づけると、すぐに鼻に皺を寄せて頭を引いた。

「少し深いけど内蔵には刃が届いていないみたいだね。手が空いているから、縫ってあげるよ。そこのベッドに寝て待っていな。」

 ガルバは寝台に乗せられて服を捲り上げた。少ししてナイヤは水桶と道具箱を持ってきた。傷を洗い、針と糸を取り出しガルバの腹を4針縫った。

「傷が塞がったら糸を抜いておくんだよ。」

 ナイヤは片付けながら指示を出した。

「はぁ。どうやって抜くんだい?」

「刃物で糸を切って引っ張るだけさ。簡単だよ。」

(いや、絶対痛いだろ?)

 心のなかで文句を言いながら、ガルバは起き上がった。傷口を見ると出血は止まっており、丁寧に縫われていた。ガルバはナイヤに礼を言って、その場を離れた。

(目が冴えて仕方ないな。)

 ガルバは奴隷の溜まり場に出たが、空いている場所に座り込んだ。体は疲れ切っていたが、胸の鼓動は力強く波たち瞳孔は開いていた。

 彼の前世の少ない医療知識から考えて、アドレナリンが出ていると思った。

(人を殺したな。しかも二人。そう言えば、これが初陣になるのか………。)

 命令されたとは言え、生き延びる為に残虐にも、槍で突き殺し、剣で叩きつけて刺し殺した。

 ガルバは俯いて地面を見つめた。

 前世の感覚で考えてみる。

 明らかに殺人であり、その法の下では極刑に課せられても不思議ではなかった。

 だが、今世で考えた。

 戦場での命の遣り取りは当たり前、寧ろ敵を殺して褒められることだった。

 敵陣地で自分を見つけた兵士は敵。後ろから斬りかかった裏切り者のスペックスも敵。

 ここでは敵の殺人で自分を罰する存在はいない。

 それは恐ろしいことだった。誰も罰さないということは、暴走し過ぎるまで自分で止められなくなる。自分で止まれなければ、この今世の倫理すら越えてしまうだろう。

 行き着く先は死だ。死が止めてくれる。自然死か他殺か自殺か。

 いずれにしても倫理を超えすぎた命の行き着く先は、かなり悲惨な死になるだろう。

 それは避けたい。ガルバの魂の芯にある、生存本能がそう強く主張してきた。

(これは、考えを改めなきゃならないな………。)

 たかだか二〜三日いるだけだが、前世から今世への切り替えを深く考えさせられた。

(どう生きるかは、未だ決められない。まずは周囲を観察し他人の感覚や考え方を覚えよう。それで周囲に溶け込もう。…生き延びるために!)

 ガルバは面を上げた。

 膝に手を当てて立ち上がり、その場から去って行く。

 目の前では雑多で沢山の人間がいた。貴賤の差に溢れ、富める人間も貧しき人間もいた。

 いつしかガルバの目つきは鋭くなり、視点は広く深くなった。

 晴れた朝の強い光が、ガルバの濃い影を地上に落としていった。

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