夜襲3
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ゲレノア軍の兵糧陣地に騒ぎが起きた。
火炎瓶をぶつけられて燃える兵士の火の勢いは激しく、隣り合った2つのテントに轟々と燃え広がった。
「水を持ってこい!急げ!」
「兵糧に火が移る前に運び出せ!」
「誰が火の中に入るんだよ!?」
周囲の兵達は混乱していた。立哨の兵も配置から離れて消火を手伝った。
ガルバは立哨が去った場所にあった篝火から火種をもらい、火炎瓶の導火紐に火を点けた。
使ってみて初めて分かったのだが、導火の紐は火を点けてもすぐに引火するわけではなさそうだった。また、その火は暫く燃え続けた。お陰で松明を持たないので、怪しまれず動き回れた。
多くの兵の意識が燃えるテントに集まっていた。
ガルバは、そこから離れた別のテントの中に潜り込んだ。中には、兵糧が詰まった袋が積み上げられて満載していた。
ガルバは、大胆にも兵糧に直接火炎瓶をぶつけてみた。
引火性の高い油は燃え上がり、青白い炎を上げた。乾燥した食糧は燃えやすくなっていた。油の力も借りて兵糧はみるみる炎を上げた。
火の危険を感じたガルバは、慌ててテントの入口から外を覗き、周りに兵がいないのを確認してから外に出た。
そうして慌てふためくフリをして走り回った。
すると幌の付いた荷馬車の置き場に着いた。すぐ傍で柵に繋がれた馬たちが、騒ぎに気づいたのか皆起き出していた。時折、不安そうに嘶いていた。そんな馬達の手綱を兵士達が引いて落ち着かせようとしていた。
誰も荷馬車には意識が向いていなかった。ガルバはそれに気付くと、近くの篝火から火種を着けて荷馬車の荷台に叩きつけた。
すぐに荷馬車は燃え上がった。そんな様を見た馬達は暴れ出した。中には、宥める兵士を後ろ足で蹴り上げる馬もいた。
「ぐあっ!」
胸や頭に後ろ足の蹴りを食らった兵士は、その場にうずくまった。周りの敵兵が燃える荷馬車や暴れる馬の前で右往左往している中、ガルバは槍を片手に持ち、もう片方の手で剣を抜いた。そしてコッソリ柵に近付くと、剣で馬と柵を繋いでいた綱を次々に断ち切った。
「あっ、貴様!何をする!」
誰かがガルバに気づいたが、彼は剣で綱を切っては槍で馬の顔や体に突き刺した。
「ヒヒーン!!!」
周囲の騒ぎと突然の痛みで混乱した馬達は、縛っていた綱が切れて我先に逃げ出した。
もうガルバどころではない。走る馬に跳ねられる兵士や、馬から逃げ出す兵士で辺りはすぐに大混乱となった。
ガルバはどさくさに紛れて、そこから逃げ出せた。
走り回っていると、兵糧陣地の幾つかから火が上がりだした。
(仲間達が暴れ出したんだな。)
ガルバは置いて行かれなかったことに少し安堵した。
(まだ笛は鳴っていない。)
懐には火炎瓶が一つ残っていた。最後の一個を使い切ろうと思い、まだ燃えていないテントを探した。兵糧陣地の外側に手つかずのテントがあった。敵兵もいないようだったので、近くの篝火から火種を着けて、その入口から潜り込んだ。
そこにも兵糧は高く積み上げられていた。ガルバは中にある兵糧に火炎瓶を叩きつけようとした。すると、入口から漏れる篝火の光に影が出たことに気付いた。
怪しい影。体全体に鳥肌が立ち、咄嗟に体を捻ってその場から離れた。すぐ後に、さっきいたところに鋭い剣の一撃が空を切った。
(入ったところを敵に見られた?)
斬りかかった男を見てみると、腕に赤い布が巻かれていた。
(味方だ!)
と思い顔を見ると、何とムステフ隊の奴隷のまとめ役、スペックスだった。
「何するんだ、味方だぞ!」
こちらも腕に巻いた赤布を見せながら、怒りを込めて声を発すると、
「悪いな。敵かと思ったよ。」
と、悪びれもなく笑って言った。その笑い方がワザとらしく怪しかった。
(こいつ!油断するな。)
ガルバはスペックスを強く睨んだ。
「そんな怖い顔をするなよ。ホラ、手に持った火炎瓶をぶつけろよ。」
言われたガルバは、目線を外さずにテントの奥へと瓶を放り投げた。。
パリンッ。
割れる音と共に火が燃え上がった。しかしスペックスは剣を収めることもなく、動こうとしなかった。寧ろガルバの隙を窺っているようだった。
テントの中では槍を扱いにくい。
ガルバは用心しながら槍を持ち替えて、利き腕で剣を抜いた。そして槍をゆっくりと手放し、声を低くして話した。
「………、外に出るぞ。先に行け。」
スペックスはそれを聞くと、頭を振りながら一歩前に出た。
「いやー、そう言う訳には行かねーんだ〜。フンッ!」
スペックスは上から剣を叩きつけてきた。ガルバは後ろに下がりながら、手にした剣を合わせて剣撃を払った。
「オラっ!」
続けてスペックスは再度上から剣を下ろしてきた。体格はスペックスが上である。身長とリーチの差を活かした危険な攻撃だった。
それにもガルバは対応して払うことができた。生命の危険を感じて、集中力が異常に高まった。
二人は何合か打ち合うが、剣の技量には差があった。ガルバは槍の訓練を応用しながら、攻撃を何とか躱している状態だった。だが積み上げられた兵糧が邪魔で、回避を制限していた。
更に、テントの奥では先程火を着けた穀物が激しく燃え上がり出した。テントの屋内は炎の熱がこもり、体から汗が吹き出る。
(早く外に出なければ!)
そんな時、ガルバはビーラーの教えを思い出した。
『戦闘の基本は相手の目を見ろ。己の弱点を守り、姿勢を低く保て。同時に相手の弱点を見つけて攻撃しろ!』
(相手の弱点を見つけろ!見つけろ!見つけろ!)
スペックスは明らかにガルバをいたぶっていた。しかも、それを楽しんでいた。ガルバの経験不足を突いてきて、ガルバは肩や手首を浅く切りつけられてしまった。
そして遂に、ガルバは背後に火が迫るところまで追い詰められた。スペックスは憔悴したガルバを見て、口元に歪んだ笑みを浮かべた。
「貴様の指を持ち帰ると、褒美が待っているんでな。それ!」
スペックスは剣を振り下ろした。ガルバはそれを受け止めたが、スペックスはスルリと剣を動かし、腹に突きを繰り出した。
今までの上からの攻撃を布石にした必殺の突き。剣の切っ先はまっすぐガルバの腹部へと滑り込んだ。
しかし、
ガツッ!
「何っ!」
スペックスの手には柔らかい腹部を刺す手応えはなく、硬い物にぶち当たったような感触だった。
スペックスが一瞬戸惑ったところをガルバは見逃さなかった。
ガルバはスペックスの剣を握った腕に、自らの剣を斬りつけた。
ザシュッ!
スペックスは肘関節の内側が深く割かれて、筋肉と筋は断ち切られた。彼は痛みの余り剣を手離した。
「ウグッ!くそ!」
咄嗟に痛む箇所をもう片方の手で抑えて屈み込むが、それが致命的だった。
がら空きの頭部に向けて、ガルバは剣を叩きつけた。兜を付けていないスペックスに渾身の剣撃が襲う。
バリッ!
頭蓋骨が叩き割られて剣がスペックスの頭部に深くめり込んだ。
「あがっ………。」
スペックスはそのまま横倒しにドウっと倒れ込んだ。ガルバの腹に刺さった剣がずり落ちる。
カランカラン。
乾いた金属音を立てて剣が転がった。
スペックスはまだ息をしていたようだった。ガルバはスペックスの頭から剣を抜くと、スペックスの上にのしかかり、心臓への止めの一刺しを相手の胸に見舞った。
「カハー………。」
スペックスは死んだ。細く高い声を上げながら絶命した。
ガルバは一つ大きな深呼吸をすると、スペックスから離れて地面に座り込んだ。
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死闘を経て主人公は生き残れました。夜襲はまだ続きます。
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