深夜の座学
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今回は主人公の修行編です。
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ガルバはムステフ隊のテントから離れた場所にいた。テントから男の大声が聞こえたが、何が起きたかよく分からなかった。
「何だか騒がしいな。何だろう?」
ガルバは不安気に首を伸ばした。
それを見たチェーザは半笑いで声を掛けた。
「ハハッ、さあな。俺らには関係ないことだろうよ。命令されるまでは気にするな。」
チェーザは焚き火に当たりながら周囲の闇に目を向けた。
今夜は寝ずの番だった。ガルバは今夜の係に選ばれ、チェーザとビーラーも一緒だった。
ガルバ達の役割は、ムステフ隊の陣地の外側に立ち、周囲の異変を見つけることだった。仮に異変が起きた時には、他の部隊に連絡する仲介的立場でもあった。
体が冷えないように焚き火をするのを許されていた。このまま朝まで過ごすのである。
周囲は寝ている者が多かったので、大声で話すことははばかれた。自然小声で話すことになった。
ガルバも闇に目を向けて立っていたが、ついウトウトしてしまう。槍に寄りかかって眠らないようにしていたところを、気配を消したビーラーが隣に立ってきた。
ビーラーには朝方しごかれたので、隣に立たれてガルバはビクッと震えたが、彼ははゆったりと話しかけた。
「そんなにビクビクするな。今から槍を振るわない。それよりも、槍と盾の使い方と人の弱点を口で教えてやる。」
「………、何でこんなに教えてくれるんだ?」
ガルバはビーラーの指導を、半分ありがた迷惑に感じていたが、何故教えてくれるのか分からなかった。
するとビーラーは言った。
「見るだけでお前は人一倍弱いのが分かる。どういう訳か、槍すらまともに持ったことがないくらいにな。戦場に立った時にそんなだと、周りがとても困ることになる。ジゾーからも、お前の面倒を見るように言われていてな。俺は奴には恩義がある。だから教える。逃さないからな、ガルバ。」
唯一開いている左目を大きく開けて肩を組んできた。
「アハハハ………。」
自分の弱さを見抜かれて小さく笑った。確かにガルバは槍を振るったことはない。ましてや人を傷つけたり殺すことなどない。むしろ前世では人を傷つけないように育てられていたのだ。このまま戦場に立てば、瞬殺されてしまうだろう。
「分かった、ビーラー。教えてくれ。何でも覚えて身につけるよ。」
腹を決めてビーラーに頼んだ。ビーラーは組んだ肩を離して説明を始めた。
「よし、まずは槍の使い方だ。槍はどう使う?」
「突いて刺す、かな?」
「それが一番だな。穂先の逆側にある石突での突きも使えるぞ。あとは払うことと、叩きつけることができる。払うってのは、敵の突きを弾いたり、敵の足元を掬い上げることだ。叩きつけるってのは穂先だろうが何だろうが槍を上から素早く叩くことだ。実際に教えてやる。先ずは敵の突きの払い方だ。」
と言うとビーラーは焚き火用の細い枝を二本取り出した。片手で持てるくらいの大きさである。一本をガルバに渡した。
「ホラ、これを持て。敵が突いてきたら………。」
ビーラーが片手で枝をゆっくり突きだすと、バシッとガルバは払った。
「木の枝での練習だから、もっとゆっくり丁寧に。今は突きを払うことより、突きを払う形を意識しろ。」
そうしてビーラーはゆっくりと突いてきて、ガルバは払った。払い方の形は一回ずつビーラーの指導が入った。それを数十回繰り返した。
「そうだ。だがもう少し動作は小さく効率的にだ。周りの味方にぶつかるからな。次の足を払うってのは難しい。何故なら相手に届くように一歩以上前に出るからだ。これは相手の隙を見て判断しろ。次は叩きつけることだ。何処を狙う?」
「………、頭かな?」
「それが正解だが、なかなか当たらん。手首、前腕、もしくは肩を叩くのも有効だ。大振りにならず、槍のしなりを活用するのが一番効果がある。頭部を本命にして色々当て方を変えると相手を惑わせられる。これは明日から実際振ることで覚えろ。次はこれだ。」
そこまで言ってビーラーは地面に座った。手にした枝で地面に図を描き出した。それは人体図で、正面からのと背面からの図であった。
「これを見ろ。この図を見て、人間の弱点を指し示せ。」
ガルバは知っている限りの弱点を指してみた。
頭部。顔面。首筋。正中線上にある喉、鳩尾、金的等。心臓。肝臓。手首の動脈血管。脇の下。後頭部、向こう脛、等々。それを見るとビーラーは納得したように大きく一つ頷いた。
「知識はあるようだな。だが下半身が抜けている。大抵足を怪我すると、途端に敵の動きは悪くなるな。それと股や太腿の内側には太い血の管が通っている。そこを切れば、短時間で人は血を出し過ぎて死ぬ。膝を貫けば一撃で敵は動けなくなる。踵のすぐ上の太い筋も狙い目だ。更に手足の先を狙うのも一つだ。」
「指とかか?」
「指はいいな。狙っても当たり難いが、当たると先ず鋭い痛みが走る。切断したり筋を傷つければ手は武器を握れなくなるし、足の指も傷つけば体の平衡を保てなくなったり踏ん張りが利かなくなる。手の甲や足の甲もお薦めだ。そこにも切れると困る筋が走っているからな。解るか?」
「何となくだけど、そんな気がする。」
「槍で戦う場合、それらを突き刺したり叩くことができれば良いが、当然敵も防具や防御で守ろうとする。」
「それじゃ、どうするんだ?」
「答えは経験と訓練と実戦だ。訓練は間に合わないかもしれないが、経験は知識で補うことができる。お前には時間がないから、これから説明することを一晩で覚えろ。そうすれば実戦で鍛えられるし、実戦で生き延びられる。分かったか?」
「うん。」
ガルバは素直に頷いた。
ビーラーは小声ではあるものの、熱を込めて枝を振るいながら解説を始めた。槍の使い方や躱し方、盾の構え方と武器としての使い方、弱点への攻撃の仕方、戦場での応用編等。始めはガルバにとって不明な点が多かったが、普段は無口なビーラーが熱を込めて話す内容は分かりやすく理に適っていた。
そしてガルバも質問を繰り返す。
いつしか二人は戦闘について語り合い、ガルバはビーラーの知識をグングン吸い込んでいった。
そうして槍についての座学は議論は深まり、夜が明けていったのだった。
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