使役の文様
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今日も今日とて主人公は労働についてます。
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太陽が中天を大きく超えて夕方になる頃、ムステフ隊の奴隷は土木作業に駆り出された。装備とスコップを持って移動した。
行き先は本隊とパルコ川の中間地点の平原だった。そこに着くと奴隷のまとめ役、スペックスから指示が出された。
「お前ら、二人一組で等間隔に広がれ!その場で膝辺りくらいの深さの穴を掘れ!迫りくる敵軍の進軍を妨げろ!」
川向うの敵軍が渡河して本隊に進む時に通ると思われる地面を、穴掘りでボコボコにして、侵攻を遅らせる為だった。ついでに目視で敵軍を観察する目的もあった。急な渡河が起きた時には急いで本隊に戻ることになっていた。
ガルバはノバスコと組んだ。穴の形や大きさは各組に任されていた。彼は手の震えが治ったいたので、サクサクと地面に穴を掘っていった。二人は淡々と掘り始めた。
「なぁ。この穴、役に立つのかな?向こうの敵に丸見えだ。」
ガルバはポツリとこぼした。
「さぁな。少なくとも全速力で走って来られるのは防げるだろうよ。」
ノバスコは視線を下に向けながら掘った。
ふとガルバはパルコ川の対岸にいる敵軍に目を向けた。
「いつ襲われるか分からないのに、穴なんか掘って大丈夫かな?」
ノバスコも頭を上げてチラリと眺めた。
「今は平気だろうよ。あっちの兵士や奴隷も退屈そうに座り込んでノンビリしている。今、指揮官らしい兵士がアクビしているな。」
「えっ?よく見えたな!」
ガルバの目には人々が小さい点のようにしか見えなかった。表情なんて分からなかった。
「オレは目や耳がよく利くんだ。雲のない晴れた日なら、昼でも星が見える。」
「ハハハッ、冗談だろ?」
ガルバは笑ってしまったが、ノバスコは無表情だった。
「本当なんだ………。笑って済まない。」
「まぁ、信じられないのも無理ない。フーっ、暑いな。」
暑さを和らげる為に、鎧を着ていないノバスコは上着を脱いだ。
そこでガルバはノバスコの胸に赤い円形の紋様があるのが見えた。その紋様は親指と人差し指で作った輪くらいの大きさだった。
紋様は胸骨と腹の境目、鳩尾の上辺りにあった。赤い円の周りには植物の蔦を象った黒い模様もあった。
ガルバは服を摘んで自分の胸元を見下ろすと、服の間から似たような赤い円形の紋様と炎を象った模様が見えた。
(これ、何だ?いつから付いている?)
禍々しい炎の模様は、少し不気味だった。
「なぁ、ノバスコ。この胸の炎の紋様が何か教えてくれないか?見回りの兵士様はいないし、暇つぶしで話してみないか?」
ガルバは衣服を捲って紋様をノバスコに見せた。
ノバスコは知らないのか?と言いたげな目を向けたが、作業を始めながら話した。
「作業を続けろ!サボって兵士からとばっちり食うのは嫌だぞ。」
教えてくれないのか、と残念に思いながら作業に戻った。
だが、黙々と作業しているとボツボツとノバスコが話しだした。
「聞きながら手を休めるなよ。その紋様は『使役の紋様』だとか『奴隷の紋様』とも言われている。兵士が奴隷を抑える魔法術だよ。この紋様を持つ奴隷は『使役の石』の首飾りを持つ兵士に反抗できない。その手で攻撃しようとすると強制的に魔法が発動する。発動の型は奴隷それぞれでな。俺のは蔦が体に絡んだように動けなくなる。お前のは炎の紋様だから胸が焼かれるように熱くなるな。」
「ずっと苦しむのか?」
「いや、暫くすると魔法の効力は消える。それに『使役の石』を持つ人間が魔力を流せばいつでも止められる。あと、当然だが石が砕ければ効力は消える。」
「でも戦闘中にその石を敵に奪われたら?奴隷は攻撃できないんだろう。」
「その時は奴隷でなく兵士が対処するしかないな。そうならないように、『使役の石』は厳守しなくてはならない。ただ、『使役の石』の効力も60日間くらいしか続かない。効力が切れれば、それは普通の石と変わらなくなる。改めて魔術と魔力を込める必要が出てくるんだ。」
ノバスコは土をかき出しながら教えてくれた。
石と言われて、宝探しの時に兵士から見つけた首飾りを思い出した。担当の兵士に手渡した時にすごく喜ばれた。
「教えてくれてありがとう、ノバスコ。兵士様には気を付けるよ。」
「そうすることだな。………、うん?」
ノバスコは少し手を止めて敵軍のいる方向を見上げた。目を細めて凝視しだした。視力の良い目を更に凝らしていた。
ガルバは不審に思ってノバスコに声をかけた。
「どうしたノバスコ?休んでいると兵士様に怒られるぞ。」
「シッ………。」
どうやら目だけでなく耳も澄ましていた。
「敵軍の遥か遠くの空が少し霞んでいる。鳥も何処か慌てているみたいだ。」
ノバスコは低く独り言を呟いた。
「ノバスコ?」
ガルバは気になって声を掛けた。するとノバスコは緊張した表情で答えた。
「何かが来る。大きい何かだ。気を引き締めろよ、ガルバ。」
ノバスコは恐ろしいことを言ってのけた。ガルバも同じ方向を見つめたが、彼の目には何も映らなかった。
しかし、ノバスコの緊張した表情と声は底知れない不安を呼んでいた。
その日は敵軍から攻められることもなく日が暮れた。
穴掘りから戻ってきて、スペックスから寝ずの番が決められた。奴隷兵を4つに分けて、その一つを夜の見回りに充てられた。ガルバはチェーザとビーラーと一緒の組になった。早速今夜から夜の見回りとなった。
その前に晩御飯を食べることにした。一日につき朝と夕にしか食事は出ないので、皆腹を空かして夕食を取った。ガルバはジゾー達と一緒に座って食べた。皆、思い思いのことを話しながら食べていたが、ノバスコはずっと無口だった。
ガルバはその理由を何となく分かっていたので、そっとしておいた。ふとジゾーを見ると彼も横目でノバスコの様子を伺っていた。
そんな中、ムステフ隊のテントが少し慌ただしくなった。
(何だろう?)
ふと疑問に思ったが、奴隷には別に何も指示はなかった。だが、上層部にはとんでもない情報が飛び込んでいたのだった。
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奴隷を働かせて反乱を起こさせない仕組みを書きました。
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