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堕天転生戦記  作者: 里原 健
24/80

指の伝説

 拙作を選んでくださりありがとうございます。

 今回は六本目の指について明らかになります。

 お楽しみ下さい。

 スレイの本陣で軍議が始まった頃、ガルバは地面で雑魚寝から目を覚ました。ガルバ達の所属するムステフ隊の兵は、皆ムステフのテント近くで寝起きするように言われた。連絡や指示がすぐに伝わるようにするためだった。

 昨晩ガルバは、本隊に落ちていた毛布を拾って被って寝ていたが、起きてからすぐに飯場に行って朝食をとった。その後に用を足すことにした。

 本隊から少し離れた場所に簡易な公衆トイレがあった。幾つか深目の穴を掘り、それぞれの穴の上に足場となる頑丈な板を二枚渡しただけの構造であった。周囲には簡易な衝立が建てられていたが、屋根はなく強い風が吹くと倒れそうな脆い構造だった。

 戦場に公衆トイレがあるとは思っていなかったが、ジゾー曰く「人糞がそこらにあると病気になる。」という民間の教えが元らしい。ガルバは、この戦場に公衆衛生の初歩の概念があって安心した。

 また意外にそこだと、トイレ待ちの間の噂話を聞くことができた。

「なぁ、ゲレノア軍は撤退していないみたいだな。」

「ああ、戦はまだ続くな。早いとこ戻りたいな。」

「それよりも勝ち戦にならねぇかな。稼ぎが欲しいゼ。勝つかな?どう思う?」

「噂だと、アッチは2倍の軍勢らしいな。」

「2倍か〜!厳しいな、こりゃ。」

「でも、例の六本指がいるから何とかなるかもな。」

「そんな迷信を信じているのかよ?派手に負けるかもしれないんだゼ?あー、楽して勝ちてーなぁ。………、オイッ!長ぇーぞ!早くしろ!」

 ドンドンとガルバの後ろの衝立が叩かれた。慣れない場所で集中が難しかったが、出すものは出したので、拾っておいた葉っぱで拭くところを拭いてトイレから出た。

「空いたよ。」

 一声かけてから、意識的に手を隠しながらムステフ隊の陣地へ向かった。

 昨日の六本目の指を巡っての一悶着が、本隊の中で噂として広がっているようだった。

(六本指ってオレのことだよな?縁起が良いのか悪いのか、よく分かんないなー。)

 誰かに六本指のことを聞こうと決め、右手を握りながら本隊の中を歩いていた。

 すると前方をニ台の荷馬車が走って行くところに遭遇した。荷台には傷だらけの男達が満載していた。荷馬車が通れるように脇に寄って見送った。男達は皆辛そうな様子だった。

 ガルバは少し可哀想な気持ちになって立っていると、後ろから人がぶつかってきた。

「あら、ゴメンよ。」

「いえいえ、大丈夫ですか?って………あれ?」

 ぶつかったのは昨日、医療テントで右手を治療してくれた女だった。両手にそれぞれ水桶を持って歩いていた。

 ふと二人は目線が合った。

「やぁ、昨日はどうも、ありがとう。」

「昨日?………、あぁ、頭がおかしくなった男かい。何か思い出した?」

「いえ、残念ながらまだなんだ。でも右手を診てくれて助かったよ。」

 ガルバは包帯を巻かれた右手を見せて感謝を述べた。

「アタシは仕事だから気にしなくていいよ。ところで、アンタは例のアレだろ?六本指の?」

 女はそう言うとチラリと右手を見た。

「気付いていたのか?」

「そりゃ気付くよ。まぁ内緒にしておいたけどね。」

 ガルバは改めて右手を眺めた。

「一体何の因果なのか?よく分からないんだよな。」

 それを聞いた女は、驚き半分と呆れ半分でガルバを見上げた。

「アンタ、そんな事まで覚えてないのかい?相当、酷くヤラれたんだねー。」

 ついでに憐れみも込められた。

「そう言われても………。なぁ、六本指のことを教えてくれないか?」

「はぁ?何でアタシが?」

「いや、仲間に訊くと、知らないって事で馬鹿にされそうだ。貴女ならそういうことはしないだろう?その水桶を運ぶのを手伝うから、頼むよ。」

 苦笑いで頭を下げて女に頼んだ。女は面倒臭そうな表情をしたが、溜め息を一つ吐いて桶をガルバに差し出した。

「ホラ、歩きながら教えてあげるよ。」

 仕事柄、他人の世話を焼く性分のようだった。ガルバは桶を受け取ったが、途端に水桶を落としそうになる。肩が抜けそうな重さだったが、踏ん張って持ち上げた。

「いいかい?色々伝説がある話だから、正確なことまでは知らないよ?爺さんの爺さんの爺さんが小さい子供だった頃の話さ。」

 女はガルバの横を歩きながら、とある男の伝説を教えてくれた。


 大昔の200年以上前、レノクッス国もゲレノア国も生まれて間もないか、生まれてもいない頃。大陸に一つの強国があった。国名はガーランド。その国では農作物は豊かに実り、戦をすれば連勝を重ね、国民は皆健やかに暮らしていた。

 その軍事的強さを支えた一人の有名な武将がいた。名はチリョウ・ケイシン。勇猛で策略に長けて、良い人材を見出し、2〜4倍の兵力差は何度も簡単に覆す男だった。その活躍でガーランド国は領土を拡げてきた。名将と言われるのは、その用兵と戦闘の強さからだが、負けっぷりが酷かった。

 ある戦で友好国を救ったが、その友好国に裏切られて敗走した。その時に遠征した軍は、100人に1人くらいしか帰国できず、本人も大きく負傷してしまった。それ以降のケイシンは短い期間国を支えるが、傷が元で没してしまった。その後ガーランド国は急速に衰退し、小国に分裂して滅亡してしまった。

 そのケイシンの指が六本あったとも七本あったとも言われた。

 名将としての面と敗将としての面があった。大きく負けた故事が伝わっていることから、今でも軍人の中には六本以上の指を忌避して部下の指を切り落とす者がいた。逆に武功の験担ぎで、その指を御守りとして欲しがる軍人もいた。噂話では切り取った指を干してから砕き、煎じて飲む異常な者もいるという。


「うげっ、煎じて飲むなんて、気持ち悪いな。」

 ガルバは顔を顰めた。

「本当にそこまでするかは知らないけどね。でも験が良くても悪くても、どっちにしたって指をチョン切られたからね。」

「………、見たことあるのか?」

「あぁ、一人見たことあるよ。問答無用だったみたいで、大の男が切られてピーピー泣いていたよ。」

 女は大したことではない様に答えた。ガルバは思わず無言になった。そう言えば、ムステフと言う武将も何処か喜んで切りたがっている風に見えた。思い出して怖気が湧いてきた。

「まぁウチの大将が、そこまでバカじゃなくて良かったよ。有り難く思うんだね。………、っと、水桶はここまででいいよ。」

 見れば医療テントの近くまで来ていた。ガルバは水桶を渡して女に礼を言った。

「どうもありがとう。教えてくれて助かったよ。オレの名はガルバ。貴女は?」

「アタシの名はナイヤ・ゲール。ナイヤでいいよ。」

「ナイヤさんか。それじゃ、また。」

 それを聞いたナイヤは可笑しそうに笑った。

「ハハハッ。また会う時はアンタが怪我した時になるね。気を付けな!」

「………、あぁ気を付けるよ。ハハハ………。」

 ガルバは弱々しく笑いながら言葉を返して、ムステフ隊の陣地へ向かった。ナイヤから面白い話を聞けて六本指のことは理解したが、頭のおかしな軍人が自分の指を切りにくる不安も出てきた。

(なるべく目立たないようにしよう!)

 変に目を付けられない為には、ビーラーが言ったように隙を見せない行動が必要になってくる。小さい決意を抱いているとムステフ隊の陣地に辿り着いた。

 見ると奴隷兵が列を成していた。何だろうと思っていると、列の真ん中辺にジゾー達がいた。ガルバは駆け寄って話しかけた。

「どうしたんだい、この列は?」

「武器と防具を常時携帯しろだとよ。列の後ろに並んで武器防具の配給を受けろよ。」

 と、ジゾーは親指で後方を指した。かなりズラッと並んでいたが、ガルバは最後尾に向かって走り出した。

 戦闘の緊張が本隊に高まっているのだった。

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