宝探し
拙作を選んでくださりありがとうございます。
今回の主人公はなかなかエグい体験をします。血を見るのが苦手な人は気をつけて読んでください。
よろしくお願いします。
ある晴れた昼下り、パルコ川近くの平原。
ガルバは空を見上げていた。
空には雲ひとつなかった。晴天の光は過ごしやすい日差しだった。
(あぁ、いい天気だな………。)
空を見上げると気分が良くなる。
絶好の散歩日和だ。空には鳥がたくさん飛んでいた。散歩していたらきっと気分が良くなるのだが、今はそんな平和な気分じゃない。
何と言っても見下ろす視界には多くの死体が横たわっていた。死屍累々であった。持っていた手ぬぐいで鼻と口を覆っていたが、生臭い血と小便と大便からの悪臭で鼻と目が痛くなる。
「こらっ!貴様!手を休めるな!さっさと『宝』を掘り出せ!」
近くで兵士の声がしてズンズンと近寄ってきた。
「この!怠け者が!」
兵士は手にした鞭をガルバに振るった。
「痛ッ!」
無意識且つ反射的にガルバは頭と腹を守った。兵士は数度鞭を叩きつけると、ガルバを無理矢理立たせて作業をするように命令した。
ガルバは鞭の痛みに耐えながら作業を再開した。
そう、ガルバがしているのは死体漁りであった。上空を飛び交う鳥は死肉目当ての烏や大型の猛禽類だった。
「グワァー、グワァー。」
腹を空かしているのか荒い鳴き声を出していた。
ゲレノア軍がまだ川向うに滞陣しているうちに、昨夜の戦場の死体から武具やら貴重品を回収していたのだった。
これが『宝探し』だった。
話は食事を取った午後に遡る。ムステフ隊は本隊の出入口に集まり指揮系統を決めた。
レノクッス軍は兵士と奴隷の混成軍である。ムステフ隊の指揮官はリノール・ムステフ。
その元に兵士が約70人、その下に奴隷が約60人。
指揮系統は指揮官がトップで兵士に伝わる。奴隷には奴隷担当の兵士を経て、奴隷のまとめ役に伝わっていく。奴隷のまとめ役は己の器量で奴隷隊をまとめることになった。
ムステフ隊の奴隷部隊は3部隊が再集結したものである。ハース隊、モリデブ隊、シスラー隊のうち、奴隷の生き残りが一番多かったシスラー隊のまとめ役が新しいムステフ隊の奴隷のまとめ役になった。このまとめ役は人一倍大柄で声の大きい男だった。
名前はスペックス。他の奴隷兵を威嚇する傾向があり、舐められない為なのか何かと威張り散らす男だった。
指揮系統が決まった後に、奴隷部隊は昨夜の戦場まで連れて行かれた。その場所は先行部隊が敵と遭遇した戦場であり、大落雷が落ちた大樹の付近であった。河向こうの敵軍から大分離れていた。スペックスから命令が下る。
曰く「敵味方を問わず、死体から武器防具と貴重品を集めろ。」
ガルバはそれを聞いてゾッとしたが、その命令を周囲は易易と受け入れていることに驚いた。
(えっ!?マジっ?)
奴隷達は均等に分散して死体から戦利品を集めることになった。槍や剣などの武器、鎧兜などの防具は荷馬車に詰め込む。回収した貴重品は担当の兵士に直接渡すことになっていた。貴重品では、上位の兵士が首にかけている『使役の石』と呼ばれる赤い石の首飾りは特に見つけるように命令された。
生まれて初めてとなる死体漁りはガルバにはきつかった。人形のように固まって横たわる死体の感触はとても冷たく、白目の死に顔は苦しげで恨み辛みが籠もっていた。また死体の中には体内の体液や便を放出しだす死体もあり、死臭と大小便の臭いが混じった空気は酷かった。堪らず懐の手ぬぐいで鼻と口をを覆う。あちこち触っているうちに気付くと、両手がベットリと血で濡れた。
滴り落ちる大量の血を見て、吐き気を催して一回吐き出すことになる。
吐き終わって落ち着いてから死体漁りを再開するが、損壊した死体は腕が千切れたり内蔵が飛び出ていた。恐る恐る目をつぶりながら手をまさぐると、運悪く死体の腸を手で掻き出すことになった。
そこで二回目を吐き出す。
そんなことを繰り返して吐くものが無くなっても胃液を出し続けた。怠けているつもりはないが、とにかく気持ちが悪すぎてしばしば手が止まってしまった。それを見咎めた兵士に鞭で叩かれた。その繰り返しだった。
フラフラになりながらも敵味方から共に武器は回収できた。防具や盾も不慣れながら剥ぎ取ることができた。
さて兵士の貴重品である。青い鎧を着た敵軍から奪うのはともかく、味方とされる赤い兵士や奴隷から奪うのは、非常に申し訳なく思いながらも一つ一つ回収した。手指に嵌めた腕輪や指輪。懐に忍ばせた硬貨と思しき金属片。
『使役の石』は一つ見つけた。親指の爪位の大きさの不透明な赤い石を嵌め込んだ首飾りだった。これは偶然だが、あの夜に肩を貸したが後ろから頭を刺された赤い兵士から見つけた。まだまだ若かった兵士は口を大きく開けながら絶命していた。
赤い石の首飾りを兵士に渡すと「よくやった!」と凄く褒められた。
そのまま暫く死体漁りを続けていると、兵士から鋭い命令が届いた。
「今日はここまで!本隊に急いで戻れ!」
命令が下ると奴隷達はそそくさと本隊に向けて駆け出した。ガルバも死体を踏まないように気をつけて本隊に帰った。
本隊に戻り夜になった。
「ジゾー!ジゾー!そこにいたのか!」
「何だガルバ?必死だな?どうした?」
「いや、何でもない………。」
ガルバはジゾーを探し出すことが出来てホッとした。暫くは彼の傍らにいることに決めた。ここ数日の戦闘の経緯は把握できたが、一人でいるのはとにかく不安だった。ジゾーはこの世界に転生してから初めて頼りになる男だった。また人望もあり、チェーザ達元モリデブ隊の奴隷もジゾーの側に集まっていた。
晩飯も昼と同じように飯場で配られた。同じ粥で同じ味付けだったが、吐き過ぎて空腹なガルバはムシャムシャと食いついた。
そんな我武者羅な食べっぷりを見てチェーザが軽口を叩いた。
「そんなにがっつくと腹を壊して、また吐いちまうぞ!ワハハハッ!」
「うぐっ、もう大丈夫だ………。」
ガルバは昼の凄惨な光景を思い出して気持ち悪くなったが、無理矢理飲み込んで腹に収めた。
「でも、貴重品を取るのは少し気が咎めた。」
ガルバが正直な感想を述べると、場の空気が止まった。失笑する者もいた。やはり皆死体から盗むような作業には、何処か後ろめたいところがあったらしい。一瞬皆が押し黙ったが、無口な片目のビーラーが声を挙げた。
「そんなことを言って敵に奪われたら、奴らを有利にする。兵士も奴隷も皆、死んだら奪われることは承知の上だ。奪われない為には隙を見せずに闘い、とにかく生き残って勝ち馬に乗ること。それが鉄則だ。覚えておけ、小僧。」
開いている左目を大きく見開きガルバを諭した。実戦を生き残った男の言葉は説得力が強かった。
「…、済まない。俺が甘かった。これからは頑張って生き残る。」
ビーラーに向けて頭を下げると、ドルトンが笑い出した。
「ハハハッ!簡単に頭を下げるなよ。それも隙になるかならな。」
「エッ?じゃあどうしたらいいんだ?」
ガルバは困惑して弱気な声を出した。
「お前は素直過ぎる。頭を下げながら上目で見上げて、懐に刃物を忍ばせるような強かさでいりゃいいんだ!俺はそれで2回は助かっているぞ!」
ドルトンは自慢気に胸を張った。
「へ〜、それは知らなかったな、ドルトン。いつそんな目に遭った?」
チェーザがおどけてドルトンに声を掛けた。
「何?知らなかったか?あれは五〜六年前、よその国で兵士をしていた頃だ。あれは大変だったんだゾ。左手の火傷もその時のものでな。あの時は………。」
これが切っ掛けとなりドルトンの武勇伝が始まった。
自慢話はとかく大袈裟になりがちだ。話の内容を疑う周りからのツッコミを躱しつつ、身振り手振りを交えたドルトンの独演会は夜更けまで続き奴隷仲間を楽しませたのであった。
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