部隊集合2
拙作を覗いて下さりありがとうございます!
仲間に会った途端に主人公が大変な目に遭います。
どうなることやら?
ご意見、ご感想を聞かせて下さい。
よろしくお願いします。
ガルバは片膝を突いて座りながら、上目で本陣をちらりと見上げていた。本陣の緑色のテント前にいた兵士達がサーッと左右に別れた。テントの入口からとても大きな黒犬を連れて、鎧を着た美丈夫が現れた。彫りが深い白人で立派な口髭を生やしていた。
銀色の鎖帷子を下地にして、補強する鉄プレートを胸や肩、腰回り、脚全体に装着していた。鎧には他の兵士よりも細かい華美な装飾が施されており、見るからに優れた意匠であった。白い布を頭に被っていた。
印象的なのは切れ長の鋭い目であった。その目を見たガルバは、あっと思い出した。
昨夜、青い兵士に殺されそうになった時に乗り込んできた騎馬隊の先頭にいた武将だった。青い兵士の首を剣の一閃で切り飛ばした武将。あの時は白い兜を被っていて細かい顔つきは見えなかったが、獲物を射貫くような眼光が同じだった。
武将はテント前に集まった兵士や奴隷を一通り睥睨すると澄んだ大声で語りだした。
「我は将軍のフナガノ・スレイである!昨夜の襲撃に参加した兵よ!よく生き残った!我らレノクッス国軍はあの嵐の中を駆け抜けて、パルコ川を越えてきたゲレノア国軍の陣を叩き壊滅の憂き目を負わせた。我が軍の勝利である!」
一息入れて演説をを続けた。
「しかし、我が軍はパルコ川を越えることはできず川向うの敵軍本陣は未だ健在だ。また、我々の軍も被害があった。特に貴様らの所属する3部隊は、原因不明の大落雷を浴び、多数が死亡や負傷で戦闘不能となった。今朝になっても敵が依然として川向うに滞陣しているからには、我らはここで敵軍と対峙しなければならない!その為にはバラバラの兵力を纏める必要がある!故に、貴様ら3部隊を一つに纏めて新しい部隊とする。配属は私の直轄。指揮官はリノール・ムステフとする。今後の名称は『ムステフ隊』とする。力を合わせて戦に励め!」
「「「ははっ!」」」
テント前の兵達は一斉に頭を下げて声を挙げた。ガルバも真似て頭を下げた。
そうしていると、突然ガルバの耳元に「ハッハッハッ」と吐息が聞こえた。ギョッとして少し頭を上げると、大きな黒犬の頭が目の前にいた。スレイ将軍の傍らにいた大型の黒犬だった。顔つきは狼そっくりで、口から覗かせる牙は大人の親指程もあった。近くで見ると人間の腰よりずっと体高が大きく、右目が赤色で左目が灰色だった。その黒犬は鋭い目つきでガルバの目を「ウ~〜〜。」と唸りながら睨んでいたが、すぐに彼の顔や首筋をペロペロと舐め始めた。
「わわっ?!」
ガルバはあまりにくすぐったくて顔を背けたが、黒犬は構わずのしかかって激しく舐め続けた。下になったガルバは引き離そうとしたり逃げようとしたりしたが、大きな黒犬はそのまま離れなかった。
「ヴィンデル!戻れ!」
スレイ将軍の鋭い命令が発せられた。ヴィンデルと呼ばれた黒犬は、名残惜しそうに「キュ~ン…。」と一鳴きして飼い主である将軍の元へ走り寄った。
スレイ将軍はガルバの方へと歩いて行った。後ろから彼の黒犬が着いて来る。彼からは大きな威厳の空気が放たれていた。一歩進むごとに人々が割かれて自然と道が出来る。ガルバが今まで出会ったどの人間よりも桁違いに大きい圧であった。彼の鋭い目はガルバを興味深く眺めていた。
「直答を許す。貴様、名は?」
「ガ、ガルバと申します。」
威厳に圧されて両手を前に投げ出して平服した。見る人が見れば分かるが、完璧な土下座スタイルであった。しかし、両手を広げたまま前に出したのは失敗だった。
途端に、スレイ将軍の脇にいた小太りの兵士から荒い声が出た。
「ムッ、此奴、指がおかしくないか?!六本ないか?!」
その声が響くと少し周囲がざわついた。ガルバは慌てて手を握って隠したが間に合わなかった。
「やはり六本あったぞ!不吉な!指を切ってやる。奴隷共よ!此奴を押さえつけろ!我が切り落としてくれるわ!」
その兵士は嬉々として前に乗り出し、奴隷達に命令を下した。
ガルバの周りは元モリデブ隊の奴隷達だったが、一瞬間を置いてから仕方なくガルバの体を拘束した。
「えぇっ?何だよ?何なんだよ?」
ガルバは地に伏せさせられ、動けなくなって困惑した。
「だから偉い人に指を見せるなって言ったのに!」
シゾーが耳元で鋭く囁いた。
そして、刀が抜かれる音がした。小太りの兵士は笑みを浮かべ、刀を構えながらガルバの前に踏み出してきた。
「その手を開け!さもなくば腕ごと切り落とすゾ!!」
ガルバは複数の男に取り押さえられて混乱していた。体は若くとも数人掛かりを跳ね返すことなどできなかった。
観念して恐る恐る右手を開こうとした時に鋭い一声が割り込んだ。
「やめぃ!ムステフ!」
スレイ将軍であった。彼は指を切り落とそうとした兵士を片手で制した。
「今は一人でも戦士が必要だ。無駄な血を流すのは許さん!」
「しかし、『敗将ケイシン』の言い伝えからすれば不吉かと………。」
スレイに諭されるムステフと呼ばれた男は刀を下げるが尚、言いすがった。
「『名将ケイシン』の伝説は我も知っておる。寧ろ我は吉兆かと思うぞ?」
「なっ、何を仰る?」
「我がレノクッス軍は今だに敵より劣勢。この状況を変えるには、あのケイシン将軍の加護も欲しいというもの。そもそも、此奴は我が、フナガノ・スレイ直属の奴隷。指揮官と言えども、明確な罪もなく傷つけるのは許さん!」
ここまで上役に断言されるとムステフも渋々引き下がるしかなかった。ムステフは顎を軽く振った。それに従い奴隷達はガルバを開放した。
ガルバは余りの展開の急変に呆然としてしゃがんでいると、更にスレイ将軍がガルバに近付きこう言った。
「それに用心深く慎重な我が犬、ヴィンデルがこんなに他者に懐くのは珍しいことだ。それだけでも犬より無害な男だろうよ。良かったなガルバよ、貴様は犬に救われたぞ!アッハッハッハッハッハッ!!」
スレイ将軍は大きく肩で笑うと、周囲からもドッと笑いが起きた。そうして彼は本陣前に戻るとサッと振り返り、ムステフの指示に従うようにと皆に伝えて黒犬と共にテントの中に下がって行った。
ムステフは苦い表情をしていたが、全員に飯場で食事を取るように言い、午後に命令を下すので本隊出入口に集合することを命じた。
三々五々に人が散って皆が飯場に向かう中、ガルバは座ったままだった。少しお漏らしをしたかもしれない。それくらい恐ろしかった。
そんなガルバの肩を叩く音がした。ジゾーである。
「良かったな〜、助かって!!」
目線を向けると元モリデブ隊の仲間達が立っていた。チェーザ、ドルトン、ビーラー、ノバスコ、そしてジゾー。皆、さっきまでガルバを取り押さえていたのに、それがなかったように親しげであった。
「悪く思うなって!奴隷は兵士様の命令が絶対だし。ホラ、立てよ。少しメシを分けてやるから。」
ジゾーは少しバツが悪そうな顔でそう言って、手を差し伸べてきた。ガルバは驚き過ぎて怒りの感情を忘れていた。確かに沸々と怒りの感情が湧いてきたが、それよりも助かって安堵した気持ちが強く、寧ろ落ち着いていた。
「あぁ、そうだな。」
ジゾーの手を握ると立ち上がり体の埃を払った。するとグーッと腹の虫が鳴いた。とにかく何か食いたい。食って嫌なことを忘れたくなった。
「それじゃ、メシを食いに行こうか?」
大柄なチェーザが後ろからガルバの肩に手を回して声を掛けてきた。
仲間の笑顔に釣られてガルバも笑うと、皆で肩を叩き合いながら飯場へと向かうのだった。
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