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堕天転生戦記  作者: 里原 健
18/80

己の境遇

 この作品を選んでいただきありがとうございます。

 今回は、己の頭の中をスッキリまとめる話です。でも、まとめたところでねぇ………。

 ご意見やご感想がありましたら是非とも教えてください。

 宜しくお願いします。

「ふぅ~〜〜。」

 ガルバは思わず深いため息を漏らしつつ、石の上に座り込んだ。夜通し嵐の中を歩いてきたのだから、疲れは溜まって当然だった。

 体を休めながらガルバは己の境遇について考え直すことにした。思えば全くおかしいと言うか、とても奇妙な身の上だった。

 ほんの半日前までは天使アイリスと"次なる世界"へ進もうとしていた。5人家族の飼い犬になるところまで決まっていたはずだった。順調に転生の場の階段を登っていたのに、大きな声が聞こえた。

 確か、こうだった。

【タスケテ!オネガイ!!】と。

 鼓膜を破るかのような音量。一人とも多人数とも受け取れて、男とも女とも判断できる中性的な声質。その余りの大きな声に気を取られて階段の外に出てしまったのだ。

 あの声は何だったのだろうか?階段から下方を覗き込んだ途端に大声で聞こえてきたのは何故か?

 分からない。

 しかし、あの声には強く切迫した様子を訴える響きがあった。だが誰の声だったのか?転生の場にはガルバと天使アイリスしかいなかったはず。誰の声か?

 声のことはどう考えても答えが出なかった。そこで一旦後回しにして転落してからの事を考えることにした。

 足を踏み外してからは下へと落ちた。落ちながら魂が削れるような奇妙な感触を強く味わった。

 永遠に落下が続くかと思ったが、一つの巨大な光球にぶつかった。

 階段の下には、何があったか?

 天使アイリスが曰く、若くて雑然とした世界が無数にあると。

 ガルバは新たな肉体を持って目覚めた事から、それらの世界の一つに吸い込まれたと推測した。つまり下の世界に人間として転生したと考えるのが妥当だろう。

 そして、嵐の夜中に放り出された。

 吹き荒れる風雨に晒されながら、青い兵士に殺されそうになった。死にそうな思いをしたが、運良く騎馬隊が割り込んで先頭の武将が青い兵士の首を撥ねた。あれがなければガルバは青い兵士の槍で刺し殺されていただろう。

 助かって安堵する間もなく、ジゾーに手を貸しながら夜通し歩いて本隊とやらに落ち着いた。そして傷を診てもらい今に至る。

 痛みや苦しさから開放され、生きている実感が湧いていた。不思議な感覚だが、これまでは「生きていることだけ」で嬉しいと思ったことがなかった。前世での苦しく孤独な死の記憶を思い出すと、今の自分がどれだけ救われているかよく分かった。

 気持ちが落ち着くことができて、この世界の文明水準を考えてみた。少なくとも電子機器などはない。戦場の様子を見ても槍や剣が多数のようであり、本隊の中を覗いても銃器は見られなかった。前世で学んだりテレビや映画で見た日本や世界の歴史から考えてみる限り、ここの文明水準は高く見ても鉄砲が発達する前の15〜16世紀位かと推測した。約五〜六百年後の生活水準から転生した自分にしては、なかなか不便そうな状況である。

 そして不思議なことだが、この世界の言語を理解して意思疎通出来ていた。

 実はガルバが聞こえる会話は前世で聞いたことのない音の連続だった。強いて言うならば、前世のテレビで見たことのあるアラビア語に近い雰囲気を感じた。そしてガルバも日本語とは違う発音、言葉を口から発していた。聞いたり話したことのない言語だが、ジゾーは元より先程傷を診てくれた女とも会話が成立していた。

 これも理由が分からなかった。分からないことが多すぎる。

 しかも、今のガルバはどうやら奴隷という身分らしい。ジゾーが言うところでは『奴隷兵』だそうだ。

 奴隷。前世の日本で無理に当てはめれば『社畜』という言葉が近いかもしれない。しかし物として扱われて何の権利もなく、文字通りの生殺与奪権を他者に預けざるを得ない存在など、遠い異国のこととしか思えなかった。

 ここでガルバは考えた。

(分からないことが多過ぎて一度に解決出来ないな。今はこの奴隷の身分を理解して生き延びることに集中しよう。)

 考えを纏めると、ガルバは先ず自分の身の回りに使える物がないか確認してみた。

 分厚く丈夫な布地だが、裾が破れて継ぎ接ぎがある衣服と、脛まであるくたびれた革靴。服にはボタンはなく、靴と同様に紐で締められていた。雨の中を歩いたので、衣服は濡れ少し肌寒かった。靴の中は水が溜まっていて気持ち悪かった。何とか靴を脱いで中の水を絞り出すと、思っていたよりも多く水が出てきてびっくりした。

 靴を履き直してから服の中を探ると、汚れた手ぬぐいが一本だけあった。

 身体はどうだろうか。

 左頬を横に走る傷跡。欠けた左耳たぶ。六本目の指がある右手。あちこちに打ち傷や切り傷がある痩せた身体。背丈は平均より頭半分から一つ高く、身体の動きに問題はなかった。さっき桶の水面で見る限りはまだ年若く、歯は幸い欠けることなく親知らずまで全部あるみたいだった。

 これだけだった。

 裸一貫。聞こえは良いが、赤ん坊で生まれ落ちるのとほぼ同じだった。全く知識のない世界で生きるには、ほとんど何も持っていない。それに気付くと急に不安になってきた。

(今の状況で分からないことばかりだから不安になるんだ。こうなったらジゾーから色々と聞き出して情報を集めよう。)

 ふと隣を見るといつの間にかジゾーが戻っていて、視線を遠くに合わせて何やら考えているようだった。

「あ、あのさ、ジゾー。少し教えて………。」

 教えてくれないか?と言い終わる前に、離れたところから別の男の大音声が聞こえた。

「昨夜の襲撃で先行したハース隊!モリデブ隊!シスラー隊の奴隷共!本陣前に集まれィッ!!」

 槍と剣を携えた赤い兵士が声を挙げながら溜まり場を歩いて周っていた。

 その声を聞いたジゾーは尻をはたきながら立ち上がると、ガルバの方を見てこう言った。

「やれやれ、漸く命令がきた。ガルバ、本陣に行くぞ。」

 前方を歩き出したジゾーの足取りは軽かった。置いていかれまいとしてガルバは急いで後を追いかけた。

 ーーーーーー

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