オレの名は1
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二人の男達は助かるために、肩を貸し合いながら嵐の中を歩いた。そのうちに雨も止み、空も白んできた。だが強い風は未だ吹き荒れ、泥のぬかるみに何度も足を取られて転んだ。
「痛ぇててて!兄弟、しっかり歩こうゼ………。」
「いや、今のはアンタが転んだのが先だろ。ほら、よっこらしょ!」
青の兵士の襲撃から命からがら助かった男は、途中で拾った男の赤い衣服を掴んで無理やり立たせた。
「すまねえナ、白い雷の爆発で身体中が痺れたままなんだヨ。お前はよく平気だな?」
そう尋ねられても男は答えようがなかった。ついさっきまで天使と転生しようとしていたら、階段から落っこちてナンヤカンヤで暴風雨の中に放り出されて殺させれそうになって助かった、とか言ったところで話が通じるはずもない。
「………、身体は平気なんだが、その、頭がおかしくなったらしい。ここが何処なのか自分が誰なのかサッパリ分からないんだ………。」
男は自分でも少し強引だとは思ったが、咄嗟に記憶喪失を装って答えを濁した。。
「なに?サッパリ分からない?………頭を強く打ったのか?まぁ、あの白い雷は凄かったから、戦場ならそうなってもおかしくないか………。オレの名はジゾー、お前の名は………、あっ、本隊が見えたゾ!もうすぐだ!ホラ!」
ジゾーと名乗った男は痺れて震える手をぷるぷると挙げて指差した。夜明けの明るさで見ると、指差す方向には何百人もの人影が小さく見えてきた。
「どうやら勝ち戦だったみたいダナ!助かった!置いて行かれる前に本隊に着かねえと!」
そう言うとジゾーは歩みを少し早めた。男は事情が分かるまではジゾーという男にとにかく着いて行こうと決め、その歩みに合わせて足の回転を急がせたのだった。
本隊を見つけてから二人は必死に歩いた。そのうちジゾーも肩を貸されなくとも歩けるようになった。嵐の風も止み、陽が登って朝を迎えた頃にようやく本隊へ辿り着いた。
本隊と言われた集団の外側には簡易な木の柵が立てられていた。中は数多くの男や赤色の鎧を着た兵士が忙しく行き交っていた。幾つかテントが建てられており、誰も彼も疲れた顔をしていたが、歩く者達はキビキビと動いていた。
ジゾーは本隊に着いてから直ぐに近くの赤色の衣服を着た男に声をかけた。
「すまねえ、奴隷兵の『溜まり場』は何処だい?」
話しかけられた男は二人を上から下までジロジロと眺めたが、親指を立てて集団の一角を指した。
「あっちだよ。アンタら、ひでー格好だな。早く行きな。」
指された方向を見ると、赤色の衣服を着た集団があった。
「へへへ、ありがとうヨ。ホラ行くぜ。」
ジゾーは男と共にその集団へと足を向けた。
二人が暫く歩くと、『溜まり場』には自分達と同じように泥だらけで貧相な衣服を纏った男達が溜まっていた。数十人はいるだろうか。立っていたり座っていたりして各人思い思いに過ごしていた。青白い顔をした人間が多く、生気をあまり感じなかった。
ジゾーは勝手を知っているようでズガズカと分け行った。男はジゾーに着いて行くと、溜まり場の中央にある白いテントの中へ入って行った。そのテントは頭上しか覆ってなかった。
中では血と生傷だらけの男達が沢山いた。皆「ウーン、ウーン。」と呻いており、地面にしゃがんでいたり寝転んでいた。そんな男達の中を数人の男女が傷を診たり、包帯を巻いたりしていた。どうやら、ここは治療用のテントらしかった。
「ホラ、お前もこっちに来いよ。腕を診てもらいな。」
その時になって男は利き腕である右手に傷を受けていたのを思い出した。幸い流血は止まっていたが、生肉が割かれて鈍く痛めていた。
招かれるままに地面に座ると、ジゾーが治療する男女に声をかけた。ちょっと待ってから、頭に白い布を巻いたアジア系で黒髪の女が近寄ってきた。粗末な茶色いズボンを履き、上からくたびれた白い中袖ワンピースを着ていた。彼女は体の前面を覆う白いエプロンを纏っていた。エプロンは所々血の跡が見られていた。看護師と思われる女は男の傷を診始めた。
「少し筋をやられたみたいだねぇ。縫う時間がないから、傷口を洗って布を巻くことにするよ。手を出しな。」
女は乾いた声で喋りながら、持ってきた桶の水で男の傷を洗い出した。水はすでに男がギョッとするくらい赤黒く濁っており、どうやら使い回しの水のようだった。男は一度は手を引っ込めたが、女は構わず男の手を無理やり引き寄せて洗った。
ある程度血が洗われると、赤茶色の布でぐるぐる巻かれた。よく見るとこれも使い回しの布らしく元々は白かったようだが、赤茶色なのは他人の血で汚れているためだった。
(傷は縫わなくて大丈夫なのか?この包帯から変な病気が伝染らないかな?気持ち悪いなぁ。)
そんなことを考えていると、側にいたジゾーが男の肩を叩きながら話しかけてきた。
「俺たちはついているぜ。勝ち戦だったんだからな。」
そうして先程まで男の傷を洗っていた桶から両手で水を掬い、戸惑うこともなく顔を洗った。一連の滑らかな動きを見ると、どうやら身体の痺れは取れているようだ。それにしても使い回しの桶の水に抵抗感がないところから見ると、これくらい濁った水で顔を洗うのはここでは当たり前のようだった。
ジゾーは顔を洗うと泥が流されて、その顔つきが分かるようになった。顔の見た目は三十代頃の西欧系かと思われる。肌はやや白く大きな黒色の目と大きな口をしており、頬から口にかけて特徴的な濃い髭を生やしていた。表情は生き残った嬉しさから満面の笑顔であった。
「ホラ、お前も顔を洗いな!」
と言って、例の赤黒い液体の入った桶を差し出した。
男は瞬間、生理的な嫌悪感が一気に高まった。だが、確かに身体中が泥だらけで粘ついていて気持ち悪かったのも確かだった。恐る恐る桶の中を覗き込むと、水面には見たこともない痩せこけた顔が浮かんでいた。
顔つきは16〜18歳程の若いアジア系の青年だった。黒髪はボサボサで胸辺りまで伸び放題。目の周りは窪んでおり、左頬には横向きに太い一条の傷跡があった。
自然と左手で傷をなぞると、耳まで傷跡が続き、どうやら左耳たぶが欠けているようだった。
(ゲェ、何だ?こりゃ?)
男は驚いて後ろに仰け反った。自分の顔が変わったのもあるが、前の人生では人相が変わるような怪我をしたことがなかった。せいぜい子供の頃に転倒して手の骨にヒビが入ったくらいだ。
「おい兄弟、何をビクビクしているんだ?さっさと顔を洗いな。」
男の様子を見たジゾーは顔を洗うことを再度勧めてきた。
(落ち着け、落ち着け、落ち着け。先ずは顔を洗って落ち着こう。)
そう決めて両手を桶の中に差し入れようとしたが、その時右手の違和感に気づいた。見れば、右手の指が六本ある。右手の小指の隣に更に小さい指が一本くっついていた。
「こりゃ、大変なことになったな………。」
思わず独り言が出てしまった。右の掌を握ったり開いたりしながらマジマジと見ているとジゾーが声をかけてきた。
「ブツブツ言わずに早く顔を洗えって!ついでに頭も診てもらえよ。その次は兵士様に報告しに行くんだからな。さっさと急げよ、ガルバ。」
『ガルバ』。この世界での男の名が、今ようやく判明したのだった。
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やっと主人公の転生先の名前が判明しました。
ストーリーはこれから続きまます。
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