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堕天転生戦記  作者: 里原 健
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嵐の戦場2

 この作品を選んでいただきありがとうございます。

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 宜しくお願いします。

 吹き荒れる嵐の中、男は座り込みながら青い兵士と向き合っていた。

 赤い兵士を突き殺した青い兵士は、槍先を男に向けて油断なく構えていた。燃え盛る大樹の炎と間断なく落ちる稲妻が二人を照らしていた。

 男は突然に接した殺人に恐れをなして動けなかった。すぐ隣では赤い兵士が絶命してピクピクと痙攣していた。

(怖ェよ!何なんだよ!)

 折角助けた兵士があっと言う間に死に、今は自分が狙われているようだ。青い兵士の兜の奥から光る眼は男に据えられて動かなかった。

「………貴様は奴隷のようだが、その服の赤い色からレノクッス軍の『物』だな?我がゲレノア軍の敵である以上、見逃すことはできない。覚悟しろッ………!」

 おもむろに青い兵士が語り出した。腹から出た声は風雨を通してよく響き、明らかに殺気がこもっていた。青い兵士が一歩踏み出して槍を突いてきた。

「ぅわわッ!?」

 胸にめがけた穂先を男は身体を捻ってかわそうとしたが、肩に痛みが走った。直撃ではなく掠っただけだった。だが、その瞬間男の感覚は不思議と鋭くなった。

 槍の攻撃は一撃で終わらない。青い兵士の攻撃は熟練した経験に基づいていた。男の動く先を見越して突いてくる。しかし男は鋭くなった全身の感覚で攻撃を寸前で見切ることができた。

「ぬぅッ!貴様、奴隷の癖に小癪な!!」

 青い兵士は男の動きに翻弄されながらも攻撃を続けた。突き、叩きつけてくる。その都度、男は目一杯よけた。

「ハァッ!ハァッ!」

 技術も経験もない。泥塗れになりながらも、身体全体の肌の感覚を信じて動いた。男はついに手に触れた棒を構えて槍を弾いた。

 バシンッ!!

 男が手にしたのは槍だった。槍はおろか包丁より大きな刃物は持ったことのなかった男だが、生き残る為に手元の槍を青い兵士に突き返した。

 しかし、的確に槍で攻撃するのは鍛錬した技量が必要だった。男の突きは兵士の鼻先で避けられて、強力な逆払いで弾き返された。衝撃のあまり手は痺れてしまい、槍を手から落としてしまった。男は拾い直そうと利き腕を伸ばしたが、兵士はその隙を見逃さず男の手を槍で刺した。

「ッ痛!」

 刺された途端に手を引っ込め、腕を抱えて蹲った。

「フンッ、覚悟しろつ!!」

 兵士は気合いを込めて槍を振りかざし、止めの一撃を刺そうとした。

 その時、兵士の横合いから暴風雨とは全く異なる大きな音がした。

 ドガガッ!ドガガッ!ドガガッ!

 数十頭もの馬が暗闇から突然現れて出たのだ。二人は戦闘に集中していた余り、嵐に紛れた騎馬の接近にどちらも気づかなかったのだ。

 大樹の炎に照らさられて、先頭の白馬には白い兜と赤い鎧を纏った武将が乗っていた。男は武将の切れ長の目とチラリと目線が合ったように感じた。しかし、それもほんの一瞬。その武将が青い兵士に向けて手にした剣を掬い上げると、その首が撥ねられた。兵士の身体は他の馬に弾き飛ばされ、馬蹄で踏み潰された。

 夜を駆け抜ける騎馬隊は男の目の前を駆け、燃え盛る大樹の脇を通り抜けて、漆黒の闇へと走り去って行った。

(何だったんだ?一体………!)

 嵐は変わらず荒れ狂っていたが、騎馬隊が去った後はまるで無音の静寂になったように感じた。

(人が二人死んだ。あっと言う間に。これって戦争なのか?)

 地を這う蟻が踏み潰されるように、人の生命が軽々しく消されてしまう状況。余りにも大き過ぎる溢れる暴力の前に、男は無力感を感じた。

 最早自分がどうこうできるものではない。刺された腕が不意に痛み出した。身体の疲れも急にドッと出てきた。

(ここは危険だから去ろう。確か、本隊がどうとか言っていたな………。)

 男は傷ついた腕を抱えながら、本隊があると言われた森の方向へと歩き始めた。

 すると、

「………あぁ、た、助けてくれ………。」

 足元で呻き声が聞こえた。泥まみれの赤い衣服を着て、手甲と脚甲を身に着けた男が地を這っていた。さっきの青い兵士の言動から察するに、同じ赤い軍の仲間らしい。

 少し迷ったが、意識がある人間を無碍にはできない。無事な方の腕を何とか使い、肩を貸して立ち上がらせた。

「す、すまねえな兄弟、同じ奴隷同士、本隊まで逃げようゼ………。」

「………あぁ。」

 助け出した男に礼を言われたが、男は疲れのあまり無愛想な返答しかできなかった。

 その時、騎馬隊が去った方向から人々の怒声と悲鳴が聞こえた。男はチラリと肩越しに顔を向けたが、その先は真っ暗なままだった。

 ほんの僅かの間足を止めていたが、頭を森の方へと向き直して歩き出した。


 これが男にとって初めての戦場だった。

 嵐は夜が明けても吹き荒れ、男達が本隊に辿り着いた頃にようやく収まったのだった。

 ーーーーーー

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