嵐の戦場1
この作品を選んでいただきありがとうございます。
漸く主人公が転生します。自分でも「ここまで長いなぁー。」と思っています。
前置きが長かったのですが、まだまだ話しは続きます。
ご意見やご感想がありましたら是非とも教えてください。
宜しくお願いします。
体に叩きつけられる雨粒が痛い。耳元ではゴーッゴーッと風の音が暴れる。時折、激しい雷が鳴り響く。激しい嵐で辺りは真夜中だ。すぐ側の大樹が燃えており、それが唯一の光源だった。荒れ狂う風に炎は大きく光と影の揺らめきを描いていた。
あまりの変転に男は驚くしかできなかった。
あの時、男は転生の場から足を踏み外した。奈落ヘ落ちて、魂の表裏全てを削ってくる強力な力から何とか抜け出せたのを覚えている。
叩き落とされた先はしかし、実体を持った人体のようだった。魂の時に感じることの無かった息苦しさと疲労を覚え、身体中に痛みが駆け抜けていた。口内にも傷があるようだ。初めに呼吸した時に吸い込んだ泥水のせいで口の中は泥と血の味がした。
大樹の炎は男の周囲一帯を照らしていた。
荒れ狂う天候に晒されながら周囲を必死で見回してみると、すぐに奇妙なことに気付いた。
(……あれっ?何だかここだけ妙に明るいぞ?)
自分の影が真下の地面に黒くハッキリ写っているのが分かった。大きく上を見上げると、自分が頭上から強い白い光を浴びていることに気付いた。
腰を地面に着けて座りながら上半身を立てつつ、更に真上まで顔を上げると、頭上の雨雲に不思議なことに円形の穴が一つ開いていた。見える範囲で判断すると、穴からは「2つの満月」が覗かせていた。
雲の穴から届く月光は、炎を吹き上げる大樹と、その脇で座り込みながら口を開けて空を見上げている男を円く照らしていた。
暴風渦巻く嵐の中を空から降り注ぐ白光は、雨粒を光の宝石のように輝かせ、燃え盛る大樹を聖火を掲げた神木のように見せた。
また男本人には自覚はなかったが、光の輪にいる男自身も月光に白く染め上げられ、その身体は古代聖人の彫刻ような聖なる光沢を帯びていた。
男は目に映る光の美しさに瞬間、心を奪われた。
しかし荒ぶる嵐雲が徐々にその雲の穴を塞いでいくと、月光は見る見るうちに細くなり、最後に穴が閉じると共に消えていった。月光が消えてしまうと、灯りの頼りは大樹からの炎だけになった。
その途端に男は肌を叩く雨粒の痛みや、耳そばで吹き荒れる暴風の叫びによって我を取り戻した。
月光が美しく地上を照らしていたのは、ほんの数瞬であった。雨雲に穴があった理由は不明だったが、少なくとも男にとっては、先ほどの月光は混乱を治める効果があったようだった。
荒れ狂う風雨の中を呼吸が自然と整う。
(ここが何処なのか?さっぱり分からないけど、落ち着いて周囲を見よう。とにかく雨風を凌げる場所を探そう)
男は情報を集めるべく、強風の中立ち上がった。瞼に突き刺さる大粒の雨を片手で躱しつつ、数歩をゆっくり歩きながら周囲を改めて見回した。
目を凝らして見回していくと、闇の大地に青白い塊が多く転がっているのがボンヤリ見えた。大樹の炎を頼りに目を凝らしながら慎重に近づく。頭を突き出して覗き込むと、それは横たわった人間の身体であった。
「ひっ!」
思わず悲鳴が漏れる。男と木を中心にして同心円状に散らばる数十体の表情は、目を見開き驚いたまま固まっていた。他にも手足があり得ない方向にネジ曲がっている体も幾つか目についた。
雷音で耳鳴りする頭の中で、安全な場所を何とかして探すように意識をまとめながら、こう思った。
(カオスだ。直感で分かる。ここは正に、その通りなんだ。言われるまでもない)
そして荒れ狂う暴風雨の中に消えゆく小声でサラリとつぶやく。
「ここは地獄なんだな。」
暗闇が増す中、男は「堕ちた」世界に対して改めて向き合うこととなった。
暴風雨は止むことがない。ずぶぬれの男が身にまとっている衣服は、簡易な麻に似た生地で赤く染められていた。足元は革でできた靴を履いており、泥に足を取られないように慎重に歩いた。雨を避ける為に目の上に手をかざして見ると、地面に転がる人体は数十人ほどとわかった。しかし、二足で起き上がれるのは自分だけらしい。
「うー、あー……」
すぐ後方で仰向けで倒れている人間に気づいた。こちらへ手を差し出して助けを請うていた。男はその側に寄り添い、恐る恐る両手を相手にかけて上半身を起こしてやった。
「大丈夫ですか?しっかりしてください!」
男は手にかかる重さに少し驚いた。感触からして、金属製の鎧を纏っているようだった。鎧は赤色に塗られており、大きくひしゃげた赤いヘルメットを被っていた。そのヘルメットは兜にも見てとれ、戦闘兵を連想させた。男は顔色を見るために兵士から兜を外すと、髭のあるまだ若い青年だった。顔つきは前世で言えば西洋系の風貌だった。
「あぁ、………そ、その服の色は我が軍の奴隷だな?私を立たせるのだッ。」
兵士は男を見ると居丈高に命令してきた。
男は奴隷と呼ばれても状況を飲み込めなかったが、素直に求めに応じて足元の覚束ない兵士に肩を貸して立ち上がらせた。
「しっかり私を支えろ!………ッ痛たた!しかし大きな雷だった。そこの大木に落ちたようだったが………。敵の大魔法か?私の部隊は全滅か?」
兵士は男に支えられながら、辺りを見回していた。倒れている男達は兵士の部下のようだった。
「こうなったら本隊に戻らねば………、手を貸せ!奴隷!」
「………本隊?どこへ?」
「貴様はバカか?あちらの森の近くだ!」
兵士は暗闇の一角を指差した。目線をそちらに向けると、微かに木々の影が確認できた。そこに行けば安全なのだろうか?ひとまず兵士の言う通りにそちらへ向けて歩き始めた。
「早く私を運べ!このウスノロが!」
兵士は自分だけでは歩くのもままならなかったが、男を急き立てた。
兵士は歩きながら悪態をつくことしかしなかった。
「この嵐で奇襲など掛けるものではないのだ!愚か者の将軍めが!ばがはっ!」
だが十歩も進まないうちに急に全体重を預けてきた。男は支えきれずに膝をついた。どういうことか分からず横の兵士を見た。
すると兵士の口から大きな突起物が突き出ていた。目は白目を向き、血が絶え間なく流れていた。
「うわわっ!」
男は驚いて兵士の体を投げ出して、尻餅をついた。男が兵士から離れて見ると、兵士の頭に後ろから長い棒が突き刺さっていた。棒が槍であると判別するのに数瞬かかったが、兵士が絶命しているのはすぐ分かった。
槍を目で追うと、青い兜と鎧を纏った別の兵士がいた。青い兵士は槍の穂先を手元に引き戻し、座り込んだ男に向けて武器を構え直すのだった。
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