転落から流転へ
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男は足を踏み外し階段から落ちた。数瞬を数えればほんの一瞬のことだった。
【タスケテ!オネガイ!!】
奈落からの鼓膜を破るような絶叫に意識が囚われ、バランスを崩した男は何が起きたか把握できなかった。
自分に向けて手を差し伸ばしたアイリスが見える。しかし手は届かず、足から身体全体が下方に落ちていった。
「うわぁぁああぁー!」
落下と共に天上に輝く青い空も遠く離れていった。
下方に見えていた暗闇の中を凄い速度で落ちいって、視界は暗闇に閉ざされた。
男はパニックになった。アイリスに大声で助けを求めたり、何かに引っ掛からないか手足をばたつかせていた。しかし何の反応も手応えもなかった。そのまま虚空を落ちていくと、落ちゆく視界の先に白い光点が大きくなっているのが見えた。
(いや、オレが近づいているから、こう見えるんだ!新しい世界に落ちているんだ!)
産まれたての世界が発する眩い光に落ちそうになった途端に、男の魂は白い光とは逆に垂直に跳ね上げられた。
「!!………?!」
逆方向の強い力に揉まれるがままに飛べば、白い光からは離れていき、赤い光点に近づいた。真っ赤な光点はその熱を帯びて男の魂を焼き切るように迫ってきた。
(あ、熱い!熱々熱いー!)
あまりの熱量に耐えきれないと思った瞬間、今度は魂の側面から引き離す力が働き、赤い光から引き剥がされた。
「!?!……ッ!?」
引っ張られる力の進む方向へ頭を向けると、男の魂は青白い光点に向かっていた。
青白い光点は意思を持つように、男の魂を柔らかく粘りのある冷気で包み込もうとしてきた。
(こ、凍えるッ!意識が固まりそうだッ!)
正に青白い光点に完全に固まり捉えられる時に、次は頭から全てを吸引されるように魂が別の光点へと吸い出された。
吸い上げられた先は、一際まばゆい虹色の光点だった。決して一色にはならず、細に入りては交わらず微に際しては滲んで見える光だった。
そして男の魂は光点と接触した。
光は川の濁流のように魂に纏わりつき、男は己の魂が摩滅されるような感覚を覚えた。
(魂が削られて無くなりそうだ!消えたくない!!!)
魂を削ってくる光の奔流に負けるかと、己の存在と過去の記憶を意識した。何よりも、自分の魂を壊す外圧に対抗すべく、自我を懸命に守った。
幼少時の思い出、家族を愛する気持ち、他者への思いやり、恋人を慕う一途さ、弱者を守る勇気、悪に立ち向かう決断、全てを変えるための始めの一歩。
これらの意識を一つにまとめると、突如、男の魂から白金色の光が発した。
しかし、周囲は全てを洗い落とすような光の濁流。目にするのは七色の光が混ざりあった白い視界。男の魂は自らの白金光を帯びながら、巨大な全色の光の渦に巻き込まれ流されていった。
流されながら男の魂は形を変え続ける。丸められたかと思えば、シャープな角を持つ立体に形成された。平たくペシャンコにされたかと思うと、細く引き伸ばされたりもした。更には人ならぬ8足個体に姿をとったり、別であれば顎下にエラが押し出され、同時に肩から翼が生えたりした。魂が様々なモノに目まぐるしく変えられていく。もはや、自分が落下しているのか、はたまた高く飛んでいるのかさえ区別がつかなくなった。
突然に輝く何かの全てが身体中を突き刺していき、声にならない声をあげるような痛みが走った。
その直後、魂が粉々に砕け散るくらい激しく何かに叩きつけられた刹那、光は完全に消えて、一気に暗闇に陥った。
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