転生の場2
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二人は、黙々と歩き始めた。
昇って行くにつれて明るい空が少し近づいてきた。300段以上は昇った気はするが、不思議と息は上がらず足元もしっかりしていた。
男は先程のアイリスの感情が落ち着いたのを見計らって声を掛けた。
「だいぶ高く昇りましたけど、何故か身体が疲れませんね?」
アイリスは横顔を向けて答えた。
「そうですわね。人の形を取っていますが、魂の存在にとっては階段昇りなど疲労にはなりません。しかし生前と同じ姿でこの階段を上がっていくには理由があります。ここに転生の場の秘密の一つがありますわ。」
「転生の場の秘密?」
「そうです。元いた世界から"次なる世界"への移行は、大天使様達によって厳しく管理されています。許可のない魂が"次なる世界"へ行けば、その世界に混乱をもたらす可能性があるからです。そこで、二つの世界の間には数千もの封印が掛けられていて、使命を受けた一定階級以上の天使だけが解除できます。ワタクシのように!!」
最後の言葉はどこか自慢気だった。
「いつそんな多くの封印を解くんですか?」
「封印の解除は今現在進行形にて進められていますよ。お気づきになりませんか?ワタクシの足元をよく見てみてください。」
言われて男は彼女の白い素足が履くサンダルを見てみた。階段自体は変哲も無い岩の塊だが、アイリスが踏み出すと淡い光を帯びて白い光沢が生まれた。そして着いた足を離すと、足跡には円と三角形の紋章が描かれていた。男の右掌についた紋章とは少し形が違っていたが、これにも大きな意味があるのだろう。
「こうして封印の解除をします。大昔はいちいち封印の部屋を用意して解錠して進んでいたそうですよ。その前は梯子を使っていたとか………。とても不便で非効率ですよね。今は改善されて、すべての封印を解除するには階段を踏破することが求められます。封印の解除に集中するために、ワタクシの力の半分くらいはこの解除に当てられています。ですので、『空を飛んで"次なる世界"の扉までひとっ飛び』とかは不可能です。申し訳ないのですが、ここは時間をかけて共に昇りましょう。」
「そうですね、疲れがないのなら扉までノンビリ昇るのもいいですね。」
"次なる世界"への移行という目的が一致している二人は意気揚々と昇り始めた。
しかし、男には一番最初に階段を昇り始めてから気になっている出来事があった。
【……オ……ガイ………ス………!?】
(まただよ、空耳かな………?)
どうも小さな雑音が耳に入るようになった。人の声の囁きにも聞こえるが、辺りを見回しても広い空間には二人しかいなかった。下方を見てみると暗い空間が見えたが、よく見ると赤や青、黃などの光点が星々のように散らばっていた。
(んん?)
更に目を凝らすと光点は大きくなったり小さくなったり収縮していた。
「仮名:平田ジュリアスさん、どうかしましたか?」
男がふと足を止めたことに気付いたアイリスは、振り返って声をかけてきた。
「いえ、何でもありません。」
男は耳に届く音は気のせいだと考えて、再び昇り始めた。
【…タ………テ…。ィ………ガ……。】
アイリスと男は階段を昇っていた。行く先は緩やかな螺旋を描く階段に沿い、天上に達しようとしていた。見上げる空は青く澄み見ていて心地が良い。"次なる世界"への両扉も大きく見えてきた。
正に上位へのステップアップ。しかし、男には新たな疑問が湧いていた。
先程下方を見た時に、目に入った幾つもの光点。まるで生命があるように収縮していた。あの光の明滅は何だろうか?小さいながらも力強く輝く光点は何だろうか?疑問が高ぶり、アイリスに尋ねてみた。
「あのー、踊り場には下へ降りる階段があったと思うのですが、下には何があるんですか?」
アイリスは立ち止まり、つと俯いた。彼女は何から話すか考えていたが、昇る速さを落して話し始めた。
「下方の世界は、貴方がいた世界よりも若くて雑然とした世界と言えます。文明レベルや歴史的水準が低いとも言えますが、何よりも、幾つものエネルギー源が割拠していて、一つに収束していません。」
「エネルギー源が沢山あると何か問題が?」
「エネルギー源が一つだと、世界が一つにまとまりやすいのです。例えば、貴方の前世ではエネルギーは火が中心でした。火で物を焼き、火と熱で加工し、火と水蒸気でタービンを回して電力を得ていました。資源不足が懸念されていたエネルギーでしたが、世界共通の動力として各地に供給されていました。ですが、仮に水や風、土から同程度のエネルギーを生み出していたら、それぞれのエネルギー源が互いの効果を打ち消し合い、世界には混乱と争いが起きるのです。その混沌を貴方の前世で例えるならば『地獄』みたいかもしれませんね。」
少し顔を伏せながらも、横顔を向けて彼女は話し続けた。
「貴方がこれから進む"次なる世界"は、前世よりも千年単位で安定した供給力を持ったエネルギー源に支えられています。世界の動力たるエネルギーが安定すれば、その世界の向くところは、より安定した世界社会の構築へとなります。」
「それで貧困問題が解消されたと言うわけですか………。」
先程アイリスが話した内容を思い出して男は納得した。
「その問題の解消は一筋縄ではなかったのですが、世界全体で一つになった成果です。」
アイリスは話しながら微笑んだ。
「そうですか。貧困が無いなんて、まるで楽園みたいですもんね………。ちなみに下の方で光が膨らんだり縮んだりして見えるのは何故ですか?」
アイリスは男の質問を受けて下方に視線を送った。
「あれは、そうですね。出来たばかりの世界が有り余るエネルギーを放出しているのです。新しい世界の産声、とでも思ってもらえれば。」
「新しい世界の産声ですか………。」
そう言われてずっと下の方に目線をやれば、多くの光点が大きく瞬いていた。
(綺麗だな………。)
産まれたての世界の明滅を眺めた。どれも誕生した喜びに打ち震えているようだった。
ふと、その生きた光の揺らめきと視線が合った気がした。
途端に、
【タス…テ!…ネガ…!】
男の耳に届いていた囁きは、多くの男女の叫び声に変わって耳を打った。急な音量の変化に驚いて両手で耳を塞いだ。
突然の男の異変に気づきアイリスは振り返って声を掛けた。
「どうしましたか?具合が悪いのですか?!」
男は鼓膜に痛みを覚えながら、アイリスに訴えた。
「何か聞こえませんか?この、人の声のような…!!」
「声ですか?ワタクシには何も。この空間には二人しかいませんし………。」
予想外のことなのだろう、男の変調にアイリスは狼狽えた。
「で、でも誰かが!叫んでいますヨ!」
【タ………テ!オ……ガイ!!】
まるで数万もの人間からの声が男の一身に響いてきた。男の足元のもっと下、まるで奈落からの絶叫だった。
【…スケテ!…ネ…イ!!】
男はそんな大音量を聞くのは始めてだった。何故、自分なのか?何故、今なのか?
訳も分からず男は後ずさった。
【タ…ケテ!オネガ…!!】
アイリスは姿勢を崩した男に手を差し伸べるが、男の両手は大音量に潰れそうな耳を塞ぐ為に必死だった。
そして多くの声は一つの意思に変わった。
【タスケテ!オネガイ!!】
音の大きさに圧倒されてしまい、二、三歩ほど退いて前屈みになった。自分の声も判別出来ない音の奔流に耐えられず男は叫んだ。
「アーーー!!」
正にその時、不意に男はツルリと足を滑らせてしまった。
「あわわわ!」
"次なる世界"への階段から足を踏み外したみたいだ。バランスを崩しながらも、階段に手を差し伸べるが届かなかった。
「ダメェーーー!!!」
アイリスの絶叫が聞こえたが、下方へ真っ逆さまに落ちていくと、見る見る内に彼女は豆粒のように小さくなった。
そして、男は光になった。
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